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HOME私の提言> 第5回


「国連の諸機関のバックオフィス機能を統合する

国連サービスセンターを創設しよう」


 

UNOPS ビジネスプロセス・スペシャリスト

山本 直人(やまもと なおと)さん

略歴:長野県出身。慶応大学文学部卒業後、コロンビア大学国際公共学大学院にて行政学修士を取得。1994年よりUNDPに勤務開始し、ペルー、ジャマイカ事務所において社会開発事業に従事し、その後のホンデュラス事務所では駐在副代表を経験。2002年より、UNDPを含めた複数の国連機関を対象としたプロジェクト管理の強化に向けたPeopleSoft ERPの導入に携わる。2006年9月より現職(UNDPより出向)。


1.背景
2.問題点
3.分析
4.提言


 

1.背景:国連改革とグローバリゼーション

国際連合という名前で、192カ国が参加する組織と聞くと、いかにも国際的で、グローバリゼーションの先鋒を切って走っているような気にさせられる。実際私自身も国際的な機関で開発に関わる仕事をしたいと思って十数年前に国連開発計画に就職した身である。確かに60年前に国連が設立されたときには、その様であったのであろうが、今では国連の人道開発事業を取り囲む状況がかなり違う。グローバリゼーションに伴って多くの民間企業の業務が多国籍化し、途上国への民間投資も増大してきた。そういった中で経済面ではODA、その中でも国連の開発援助の意味合いが問われている。最近では国連組織の中では資金の多い世界銀行そして地域開発銀行の役割まで問われるようになった。テクノロジーの面でも、私が仕事を始めたときとはかなり違う。


その様な外部環境の変化は、国連の開発援助の役割の見直しを迫っている。確かに、従来からの開発に要する資金と技術の提供と言った分野は民間や非営利団体の占める役割が大きくなっているものの、ミレニアム開発目標の進捗状況からも見られるように、開発援助の必要性は決して下がっているわけではない。国連として開発支援のためのどのようなサービスをメンバー国に提供していくのかという質問に答えると同時に、いかに国連のサービスの生産性をあげて行くのかというのが大事な課題である。そのような状況の中で昨年の11月にはハイレベルパネルのレポートが提出され、国連の開発援助に関する改革の方向性が示された*1。プログラムの面では、国連開発援助枠組み(UNDAF)の導入による国連機関の協調、国連常駐調整官(UNRC)の機能の強化などの改善が進められている。事務面でも、IPSASの導入など、スタンダードの共有が進められている。


2.問題点:バックオフィス生産性向上と組織間の壁

国連の開発援助の生産性の向上には上にも述べたような、機関同士の調整、マンデートの明晰化など、何かとプログラムに関する事項が多い。先のハイレベルパネルのレポートではそれに加えて、プランニングとモニタリング、そして情報共有化のためのスタンダードの導入に関しての言及もみられる。国連の各組織のフロントオフィスの活動は、マンデートの重複の改善の余地があるとは言え、各組織それぞれ違った専門性、方向性を持っている。例えば、UNICEF (国際連合児童基金)は子供の問題、UNFPA (国連人口基金)は人口の問題など、それぞれ互いの協調によって更に援助の効率化が図れるものの、各組織独自の専門性自体は必ずしも問題ではない。しかしそのフロントオフィスの裏で、調達、会計等の事業を支えるバックオフィスの機能に関しては単なる調整と協調に留まらず、テクノロジーの進歩を踏まえ、機関や国の枠組みを超えてその機能を再構築することによって、飛躍的な生産性の向上の可能性を秘めている。


確かにここ数年フィールドにおいてのUN House(現時点57カ国)の導入やケープベルデでのOne UN Office のパイロットなどバックオフィスの活動の効率化に向けての様々な試みが見られるが、本格的な生産性の向上のための改革の実現にはまだ時間が掛かりそうである。2005年時点で国連開発グループ (UNDG) Executive Committeeに属する機関の事務予算は、プログラム予算の約1割から2割を占めており、その総額は年額10億ドルを超える*2。プログラム予算は約80億ドルなので、バックオフィス作業の生産性を2割上げることができれば、15億ドル余計にプログラムをデリバーできる計算になる。その様なバックオフィスの生産性の向上は組織を超えた情報の共有化を必要とするので、フロントオフィスの違う組織間での調整と協調にも貢献すると思われる。その様な目に見える結果を出せるような分野であるにもかかわらず既存の組織の文化、システム、そしてバックオフィス業務に携わるスタッフの比較的低い流動性からも見られるように、改革を難しくする課題も多い。そういう意味で、ここではバックオフィスの改革の可能性について見てみたい。

3.分析:可能性と現実

交通や通信手段の進歩とそれに伴うグローバリゼーションの進展で、多国籍にまたがって業務を行う組織の形態がかなりのスピードで変化している。事務作業が本社からのオフショア、あるいはアウトソースといった形で出て行き、今では、インドやフィリピンなどの本部から離れたところで、支障なく処理ができるようになった。アウトソースを請け負う会社のほうも、会計部門の会社などは伝票整理などの単純作業から、複雑な財務状況の分析までこなせるような会社が出てきた*3。その様な会社は、事務作業に特化し、複数のクライアントの事務作業を状況に従って処理できるようになっている。他にも、もっと身近な例を挙げれば、海外への送金も、随分簡単になった。銀行口座があれば、インターネットで簡単に海外送金ができるようになり、口座がなくても、ウェスタンユニオンなどの会社に頼めば、200カ国以上の国や地域に簡単に送金できる。


多少遅れ気味ではあるが、国連でも最近ERP (Enterprise Resource Planning)の導入など、テクノロジーの導入によって、バックオフィスの作業の効率化の動きがある。UNDGの機関はすでに導入済みであり、国連本部を含め、かなりの数の機関でERP の導入が検討中あるいは導入中である。しかしながら、このようなテクノロジーの導入が、組織内の事務作業の再構築を通じた効率化に必ずしもつながっているとは今の段階では言えない状態である。例えば、私自身UNDP (国連開発計画), UNFPA、そしてUNOPS (国連プロジェクト・サービス機関)によるERPのジョイントインプリメンテーションに参加したわけだが、システムの導入後も、事務作業の国境、あるいはオフィスという壁を越えた形での、生産性の向上に向けた改革といった動きにはまだ至っていない。現時点では、各オフィスがプロジェクトの立案から支払い会計までの全作業をオフィス内で回す様な仕組みを持っており、SIDS (Small Islands Developing States)などの例外的業務を除いては、違うオフィス同士でのバックオフィス作業の共有化といった動きは少ない。 本部の事務処理機能も今のところは維持されたままである。違う機関同士でのバックオフィス機能に関しても、現地事務所がない機関が現地事務所を持つ機関に現地での取引を委託する、と言った互いの不足を補完するための協力だけではなく、生産性の向上に向けた改革の動きは未だ弱い。現段階では、各機関それぞれ各自のバックオフィス機能を維持しているのが現状である。


バックオフィスの機能がフロントオフィスの業務を支えるためのサービスであると言う意味で、そのサービスの提供者である人の問題が、その様な改革の実践のためには避けて通れない問題となってくる。先にも触れたように、国連と言う組織の特殊性、過去における国境を越えた形でのバックオフィスの構築の欠如などの理由により、国連のバックオフィススタッフのモビリティーはかならずしも高くない。しかし、バックオフィスの生産性向上の改革はモビリティーの低さの原因を覆す作業を伴う。つまり、国と機関の壁を越えて、国連の開発業務のために必要なサービスを常に確認し、その提供のためにテクノロジーを駆使して最適の場所で必要なら民間とのパートナーシップを組んで効率の高い工程を回らせる、といった新しい形のバックオフィスの仕事は、今とは違ったスキルとモビリティーを必要とする。それに対応するための人事の改革、トレーニングの強化など、人と新しいバックオフィスのモデルのアラインメントは、必須の課題である。

改革に向けての課題が多いのと同時に、それを可能にさせる条件が徐々にそろいつつあるのもまた事実である。先にも触れたテクノロジーの進化に加えて、国連内部での協調の努力の成果も見逃せない。パリ宣言の実践の一つの形としてのUNDG機関によるHACT (Harmonized Approach to Cash Transfer)の導入は、被援助国の報告負担の減少に加えて国連機関内での財務監督(Financial Monitoring)と支払い処理(Disbursement)のプロセスの簡素化と統一化を実現した。

加えて最近では会計スタンダードを国連固有のUNSAS から世界118カ国のメンバーによって維持されるIPSAS *4へと変更する動きがあり、更なる会計基準と手法の統一化による、会計業務統合のためのスタンダードを導入する機会がある。フィールド業務に関しては、アルバニア、ケープベルデ、モザンビーク、パキスタン、ルアンダ、タンザニア、ウルグアイ、そしてベトナムでOne UN パイロットがプログラムの調整とバックオフィスの効率化をフィールドレベルで模索実践するためにスタートした。それに加えてUNDPの調達部門であるIAPSOと調達とプロジェクト管理に特化しているUNOPSとの部分合併といった形での機関の壁を越えての機能の統合による効率化といった試みも始まっている。

 

4.提言:国連サービスセンター

これらの国連のバックオフィス業務の現状、国連改革に伴う業務効率化と生産性向上のための改革の可能性、そしてグローバリゼーションと言う背景を勘案しての私の提言は国連サービスセンターである。最終的なゴールとしては、国連の事業の遂行をサポートするための人事管理、会計処理と財務分析、そして購買とロジスティクを国、機関の別にとらわれずに最適の場所で最も効率よく回せるプロフェッショナルグループとしての国連サービスセンターの構築である。

まず最初の一歩としては、One UNパイロットプログラムを通しての、国レベルでのサービスセンターのモデル作りが考えられる。各国のプログラムの遂行のために必要なバックオフィスの機能は何か、どのような作業を通してそれらの機能が提供できるのか、そしてどのように違う組織の仕事を一つのモデルに統合していくのかといった点を洗い出し、国連サービスセンターのブループリントを描くというのが第一の作業だと思われる。

それと平行して、本部のレベルでの各組織をつなげるスタンダードの導入も必要となり、IPSASのうまくコーディネイトされた導入、プログラミングとモニタリングの手法の統一化、HACT の実施等が必要となる。それに加えてその様なスタンダードを維持するためのガバナンスの仕組みも強化する必要があろう。

ブループリントとスタンダードを手に入れることにより、誰がどの作業をどのように、どこで国連の開発事業のサポートのために行うのか、といった議論が可能になる。この作業が国連サービスセンターの構築のためのコア作業である。この作業にあたっては、新しい機関を作るのではなく、良く機能している既存の国連機関のバックオフィス機能をサービスセンターに統合していくことにより、いかにその機関のみでなく、国連組織全体のために活用されるようにし、それらをどのように組み合わせていくのかと言うのが鍵になる。例えば、WFP (世界食料機構)のロジスティック能力が良く機能している場合には、その機能を他の機関のためにも使えるようにできないかと言った議論である。先にもあげたIAPSOとUNOPSの例にもあるように、ここでの鍵はサービスセンターがその様な機能を自ら創り出して既にある機能と競合するのではなく、違う組織の元にある既存の効率的な機能をいかにしてサービスセンターの下に統合していくかと言う点である。もしある機能を支える能力が国連機関内にない場合は、民間とのパートナーシップも視野に入れるべきである。

最後に、その様なサービスセンターの創造と新しいバックオフィス機能の提供に必要な人材の確保のためのトレーニングプログラムの設定と施行、モビリティーを高めるための人事の改革も忘れてはならない。特にサービスセンターの創造に関しては、事務作業のスキルと言うよりも、戦略、事業の統合と合併、あるいは統合後の変革管理等の知識とそれを遂行できる能力が必須である。

昨今大きく注目されている国連のフロントオフィスの活動の調整と協調に加え、このような上記の作業を通しての国連の人道開発事業を支える効率的なバックオフィスの構築は国連改革に必要な大きな柱だとは思いませんか。


*1  Delivering as One. Report of the Secretary-General's High-Level Panel (2006) Download(PDF)
"Substantial change is required in governance, management and funding arrangements to realize the vision of a more effective and coherent UN" (Para53)
"To break down barriers to programmatic and administrative collaboration, enterprise resource planning standards, and data warehouses for reporting, should be harmonized across the system by 2010." (Para87)
*2  UNFPA 2005 Annual Report, UNDP 2005 Annual Report , UNICEF 2005 Annual Report , and WFP 2005 Annual Report
*3  Agrawal, V., et al (2003). Offshoring and beyond. The McKinsey Quarterly 2003 Special Edition: Global Directions. Download(PDF) and Bloch, M., et al (2007). Getting more out of offshoring the finance function. The McKinsey on Finance. no. 23. Download(PDF).
*4  国際会計士連盟(IFAC)において、政府および政府機関を適用対象とした国際公会計基準を指す。International Public Sector Accounting Standards (IPSAS).


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2007年6月28日掲載
担当:中村、菅野、宮口、藤澤、迫田

 



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