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堀部伸子さん

国連人口基金(UNFPA)アジア・太平洋地域事務所所長

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堀部信子(ほりべ・のぶこ):一橋大学社会・経済学士。デンバー大学国際関係学修士。国連開発機構バルバドス事務所にJPOとして赴任後、1987年から国連人口基金(UNFPA)において、ラオス国事務所所長、ニューヨーク本部監査部(Division for Oversight Services)副部長等を歴任。2008年から、バンコクにおけるUNFPAアジア・太平洋地域事務所所長。

Q. 国連で勤務することになったきっかけを教えてください。

国連で働きたいと思ったのは、日本は狭いけれど世界は広いから、生きているうちにいろいろな所に行きたいなと思ったからです。小学生くらいの時から日本の外へ行きたいと思っていました。外国の場所の名前を聞くとどこにあるのか地図で調べたり、地球儀を見るのが好きでした。海外に行けるような仕事として、外交官も一時期考えたのですが、試験の教科が多いのでやめました(笑)。あと、外交官だと2、3年ごとに東京に戻らないといけません。そうではなくて、ある場所で現地の人のように暮らせる仕事をと考え、国連に行きつきました。

アメリカの大学院を出たあと日本で就職活動をしたのですが、当時は男性の求人が圧倒的に多かったのです。そこで、女性の求人の職はあきらめて男性の求人に応募しました。運良くお仕事をいただいたのが、イラクのバグダット市で、日本の会社のコンソーシアムが受注した都市計画のプロジェクトでした。このためバグダットへ赴任したのですが、当時ある国連機関にも応募していまして、その面接をバグダットのUNDPで受けました。その際それまで知らなかったJPO制度のお話を伺い、これに応募したところ採用されて、バルバドスのUNDP国事務所に赴任することになったのです。

JPO終了後は、もともとの興味が人の移動など人口関係でしたので、ニューヨークの国連人口基金(UNFPA)に移りました。以来、籍はずっとUNFPAに置いてきましたが、国連プロジェクトサービス機関(UNOPS)や国連薬物犯罪事務所(UNODC)なども経験しました。機関間の移動は一から学び直さないといけないのでたいへんですが、よい経験になりますね。国連の中でも違った文化があることを知る機会になりました。

 

Q. 今はどのようなお仕事をなさっているのでしょうか。

現在はUNFPAのアジア・太平洋地域事務所所長を務めています。分権化改革の一部として、2008年半ばにアジア・太平洋地域事務所がバンコクに設立されました。 UNFPAの主要任務である、カイロ人口会議行動計画 (ICPD)施行における地域レベルの能力開発のため、そして最前線の国事務所をよりうまくサポートするため、ニューヨークよりは現場の事情もよく分かり、意思疎通もしやすい地域の拠点に事務所を置くことにしたわけです。「UNFPAをより現場中心の組織にする」というのも、分権化改革の一部でしたので、職員も本部よりは地域または国事務所に多く配置されることになりました。さらに地域事務所には、地域のニーズにあった技術的、プログラム的な専門知識を持ち、他の機関の地域事務所との関係を強めるという目的もあります。


地域事務所所長としての毎日の仕事は、主としてICPDについての認識を広めることにあります。UNFPAは比較的小さい組織で、できることも限られていますが、他の組織の活動にICPDを採り入れてもらったり、さまざまな機会を通じてICPDの目的に関する認識の向上に努めるなどをしています。地域の能力開発、さまざまな会議での政策アドボカシーや評価を利用し、国事務所の仕事の効率および責任能力を高め、公共のお金から来ている予算を国の開発に還元するというのも大切な役割です。普段は平均すると、4割ぐらいの日数で国事務所を訪ねたり、地域会議に参加したりしています。

また、本部の理事会に出席するため年に3回はニューヨークに出張しています。私が不在の間は、副所長が代わりを務めてくれます。事務所にいる時の日々の仕事は、技術職員・プログラム職員の仕事の監督、他の機関との会議、人事等があります。本部との時差の関係で、夜は委員会や執行会議等の電話会議を事務所や家から行っています。このように夜シフトが長いこと、夕方がなかなか思いどおりには使えないことが、苦痛と言えば苦痛ですね。

Q. UNFPAの分権化改革について少しお話いただけますか。

2008年から2009年にかけての分権化改革によって、世界5か所に地域事務所が置かれました。これはUNFPAが設立されて以来、最大の改革だと思います。基本的には、国中心、フィールド中心の方針を実践するために行われました。地域に別れてしまうと、他の地域事務所が何をやっているのかが分かりにくくなり、競争的な雰囲気が出てきている部分はあります。例えば報告書に関しても、本部の職員から「この地域はニュースレターをやっている」と言われると、私達もやらないといけないのかしらと思ってしまったり。全地域を統合するような標準化が必要だと思います。

また、ニューヨークの本部に地域事務所がすべて置かれていた時代は、個人的に話しているなかでお互いが何をしているのかを学べたのですが、今の状況ではそれが難しくなりました。リーダーシップやマネージメント等の研修も各地域に分けようという動きもあったのですが、現在は本部でやるという方向になっています。個人的には私もその方がいいと思います。UNFPAの職員として同じようなトレーニングをした方が、地域間での職員の移動も促進できると思います。特定の部分は本部に集中させ、各国のニーズなどはそれぞれの地域でカバーすべきですね。

Q. 国連で働く魅力はなんでしょうか。また、これまで一番思い出に残った仕事は何ですか。

一番思い出に残った仕事というのは難しい質問で、いろいろな所でいろいろな思い出があります。魅力としては、やはりグローバルな仕事ですので、さまざまな国、異なる制度、文化や政治状況を経験できるということだと思います。日本の中だけで働くのとは違い、いろいろと学ぶことも多いです。職場でも、異なる背景を持つ人々と仕事をするというのは、難しいこともありますが面白いですね。退屈することがなく、日々発見があり、チャレンジがあります。

私は日本で働いたことはありませんし、正確な比較はできないのですが、国連は日本の制度などと比べると比較的自由で融通が効くように思えます。女性にとっても、まだまだ日本では社会的なしがらみがあると思いますが、国連ではそういうものがまったくありません。働いていて、いやだと思ったことはほとんどないですね。

Q. 国連に入って一番たいへんだったことは何ですか。

UNFPAのスタッフは本部とフィールドを行き来します。本部のよいところは仲間がたくさんいるということです。自分が何か壁に打ちあたった時や不満がある時でも、同僚に相談したり、話しあったりできます。反対に、フィールドの国事務所に、特に代表として行くと、話し相手がいません。相談相手もおらず、一人で決定を下さないといけない。噂になるといけないので、人事に関しても誰にも言えない。この一人で働く難しさというのは、特にたいへんなのではないかと思います。特に周りの人々の能力が低く、一人ですべてこなさないといけなくなると、責任が増えると同時に、フラストレーションも増えます。ラオスの国事務所代表として赴任した時に、事務所代表というのは孤独な仕事だということを感じました。

悩んでいることは特にありませんが、やはりもう少し予算がつけばいいなと思います(笑)。UNFPAの予算の多くは国事務所につき、地域事務所の予算は低いので。一日の間、職場の同僚とは8、9時間ともに過ごすわけですから、一番よい環境は、よい人々と巡り合えて働ける職場だと思います。そこに足を引っ張る人がいると、雰囲気も悪くなるのですが、今の事務所はそういったことはなく、よい人たちが集まったよい職場ですので、特に悩みはないですね。

Q. 現在取り組んでおられる分野で日本ができる貢献についてどうお考えでしょうか。

日本がもっと貢献できることがあると思います。人口の分野ですと、日本は統計などの技術で貢献できると思います。しかしながら、日本の企業でコンサルの登録をしている企業は少ないですね。国連の私企業との契約でも、欧米系の企業にいくことがほとんどです。統計等の数字を使う分野だと言語はそれほど必要ないと思うのですが。金銭的な貢献だけでなく、日本にも人的な貢献ができる人たちがいるのか、いないのか。もしいたら、どのようにしてそのような人々を国連に誘致するのか。企業での働き方も関係しているのかもしれませんね。少し外で働いて戻ることが可能な環境が整っていないと、国連への誘致も難しいですね。

Q. グローバルイシューに取り組むことを考えている人たちに贈る言葉をお願いします。

好きなように、積極的にどんどんやりたいことを追求して前向きに進んでいけばいいと思います。ごちゃごちゃ考えずに行動する(笑)。日本の人たちも変わってきているのでしょうけれど、日本人の典型のような、真面目で率先して仕事をするといったようなよい素質を持った人たちが、もっともっと積極的にいろいろなポストに応募してみれば、歓迎されるんじゃないかと思います。アジア・太平洋地域でも日本人職員が増えてきますけれど、やはり女性が多くて男性が少ないですね。

キャリアに関しては、自分で左右できることではないですが、よい上司にあたるというのは大切だと思います。JPOでもよい上司にあたった人は残る率が高いようですし、毎日会って指導してもらうわけですから、上司が誰かというのは大きい。大きい組織だと、上司でなくとも他の人々から刺激をもらえるのでリスク分散できますが、小さい組織だとそれが限られます。ですから、誰の下で働くか、という選択の方法もあり得るかと思います。

あとは、長いあいだ思い煩わない(笑)。今日のことは今日で忘れて、明日からはまたゼロでスタート。いやなことがあっても忘れるか、苦にしない。例えば、人生生まれてから死ぬまでメータータクシーに乗っていると考えると、ここで止まっても、メーターは上がっていますよね。ですから、いやなことを考えている時間というのは、無駄にメーターの料金を上げているわけです。また、頭のスペースを賃貸していると考えます。くよくよ考えている部分にも賃貸料を払っていることになりますよね。ですから無駄な賃貸料を払わないように、悪いことはすぐに追い出して、よいことを詰め込む。切り替えるのが難しくても、賃貸料を払っていると思えば(笑)。




2010年5月25日、バンコクにて収録
聞き手:彼末由羽
写真:宮口貴彰
プロジェクト・マネージャ:鹿島理紗
ウェブ掲載:斉藤亮

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