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第28回 大宮 航時さん

JICAアフガニスタン事務所所員(保健医療担当)


おおみやこうた: 埼玉県生まれ。JICAアフガニスタン事務所所員(保健医療担当)。東京大学教養学部アジア地域研究学科学士。2003年、JICA入職。調達部、人間開発部(高等教育担当)を経て、2007年11月から現職。

 

  1. 私の仕事

 私は現在、JICA(独立行政法人国際協力機構)アフガニスタン事務所に保健医療担当として勤務しています。保健医療分野における全体総括として、具体的には、アフガニスタンのニーズに沿った案件の形成、既存案件の進捗管理、事業から得た経験や教訓のアフガニスタン側との協議への反映等を行っています。

日本政府・JICAは、内戦以前のアフガニスタンに対して、結核対策の研究所の建設や農業分野の技術指導等の様々な支援を行っていました。長きにわたる内戦の間は支援を中断していましたが、2001年のアフガン戦争後に復興支援が開始されるに伴って、日本政府・JICAも支援を開始しました。JICAは、保健医療分野に加え、教育、ガバナンス、インフラ、農業・農村開発を重点分野に位置づけて、技術協力や開発調査を実施しています。

保健医療分野では、結核対策、母子保健、医学教育の分野で技術協力を行うとともに、アフガニスタン国公衆衛生省にアドバイザーを派遣し、政策立案能力の強化も支援を行っています。世界銀行やUSAID等が緊急期の支援として、NGOと業務委託する形で保健サービスを人々に届けるための資金協力に注力しているのに対して、JICAは日本のODAの哲学といえる「先方政府のオーナーシップの尊重」「自立発展性の重視」という観点から、中長期的な開発のために不可欠な人材育成や制度構築を上記の分野で行っています。

私の仕事は最初に述べたものですが、多額の資金を投入している他ドナーと比べて、一見すると地味な技術協力の成果や経験を最大限活用するために、先方政府の政策への提言に取り組むことを心がけています。資金協力でも技術協力でも、すべての事業の根幹となる政策の改善に貢献しなくては、いつまでたってもその国は自立に向けた一歩を踏み出すことはできないと考えるからです。(そうはいっても、世界の注目が集まるアフガニスタンには他ドナーの職員も優秀な人材が集まっており、その中で伍して働いていくのにまだまだ苦労しているところですが。。。。)

アフガニスタンのような復興期にある国では、緊急的な資金協力に支援が集中する中で、その国の将来を指し示し、国の資源の有効活用を図る政策がなくては、その国の発展はなしえないと思います。支援を行うドナーは短期的な成果のみならず、支援をする国の発展段階と能力を見極め、将来の発展に向けた政策をともに考えていく必要があるとアフガニスタンで働いて痛感します。短期的な成果も、例えば、日々病に倒れていく人々を救うためには重要ですが、その成果のためにドナーが強引に政策決定を行ってしまっては「占領統治」に等しいもので、あくまで先方政府のオーナーシップを尊重していかなくては、短期的な成果は積み上がらず、中長期的な発展にはつながっていかないと考えます。これはすべてのドナーが真剣に考えていかなくてはならないことと思います。復興支援では成果を焦るばかりに、ともするとその国に住み、政府を運営している人々を忘れがちになりますが、支援はあくまで支援であって、主役の先方政府を引き立てていく姿勢を忘れてはならないと現場での業務を通じて感じています。

 

 


  1. パートナーとしての国連

 私の担当している保健医療分野では、国連とはカブール都市部の保健システムの改善においてUNFPAと連携をしていますが、分野全体としては残念ながら、多額の資金協力を行う世界銀行・EC・USAIDの3ドナーと比べて、国連の存在感は低いと言わざるを得ない状況です。これは、上述したNGOへの業務委託型による保健サービス提供への資金協力を3ドナー主導で開始・運営されており、これがこの分野の主流となっていることに起因しています。国連に期待される利害の調整や中立的な立場からの政策提言は、残念ながら保健医療の分野ではなされていないのが現状です。

 一方、アフガニスタン支援全体を俯瞰すると、UNAMA(UNアフガニスタン支援ミッション)が全体調整にイニシアチブを持ち、ドナー会合の調整・運営やハイレベルでの開発の方向性に係る協議を主導しています。先日、アフガン支援強化の文脈で、UNAMAの人員倍増が発表される等、アフガン支援全体における国連の役割・存在感は強まっているといえます。

 保健医療分野では国連の存在感が薄いと書きましたが、すべての分野で必ずしも国連が中心となって調整を行う必要はなく、UNAMAのように、ハイレベルにおける各ドナーと先方政府との調整を行うことが求められていると思います。国連の強みの一つ「中立性」を最大限生かして、まずは国全体の観点で利害調整を行い、そのうえで、各分野で各国連機関の強みが活かされるのであれば、当該分野でも利害調整を担ってほしいと考えます。

 


  1. 国連及び日本の役割への期待

 国連の強みは、崇高な理念、中立性、全世界の国・地域がほぼ参加している国際社会の意見調整機能等と思っていますが、私は更にこれらの強みに加えて、崇高な理念を達成するための意思決定、世界の将来像を力強く語る機関になってほしいと思っています。常日頃思うのは、国連、そして各国の公的機関は、その公的な位置づけ故に、崇高な理念を堂々と語り、その実現に向けて活動をしていく必要があると思います。他の職業と比べて、国連は、その存在意義に基づき、理念や理想を語るべき存在であると思います。公的機関ゆえに、理念を語り、その理念に基づく活動を進め、世界の人々の善意を引き出し、促進していかなくてはなりません。「結局は各国の利害の交通整理をしているだけだ」「米国の意向には逆らえない」等の国連への批判はありますが、国連は、その存在意義である理念を語り続けなくてはならないと思います。

 特にアフガンのような長い内戦で疲弊した国では、未来への希望を待てず悩む人々が多くいます。その人々に対して、国連は具体的な支援を実施しつつ、明るい未来を発信し続ける存在でいてほしいと思います。バイのドナーは各国の国益と国際益の調整をしつつ、支援を実施しているのが現状であり、国連には中立性等の上述した強みの活用した活動を期待したいです。

 国連への期待に加えて、日本の役割への期待を示して、この稿を終えたいと思います。日本は唯一の被爆国で戦争放棄を明記した憲法を持つ国です。戦後の「平和国家・日本」の内実は複雑な国際関係や歴史を含むものですが、曲がりなりにも「平和主義」を掲げ、60年以上も平和的な発展を続けてきた国、それが日本です。私は、金融危機をきっかけとして米国一極から多国間協調になりつつある世界において、日本の「平和国家」としての役割に強く期待しています。平和はだれしもが望むものであり、被爆経験と平和憲法を有する日本の言葉ほど説得力のある平和へのメッセージはないと考えるからです。

「平和」という理想において国連と日本は強くつながると思います。その国連において、日本は資金拠出だけでなく、平和を実現するための具体的な行動・提言を発信していくことを一層強化してほしいと思います。日本が平和な世界の具体像を描いて発信し、その実現のための具体的な活動を率先して行うことができれば、それは国連の目指す方向性と合致していくものと思います。私自身もこのような考えに基づいて、日々の仕事に邁進していかなくてはと考えています。

未だ不安定なアフガニスタンで働きながら色々と悩んでいるせいか、やや感情的で理想的なエッセイになってしまいました。しかし、人は、現実主義と理想主義のどちらかを選ぶのではなく、現実を見据えて常に理想を掲げて生きていくべき、と考えています。理想を語りすぎても空虚ですが、常に悲観的な現実主義では世の中は改善されず、「開発=Better Change」の場の働く者として、理想を忘れず、かつ具体的な論拠をもって理想を達成するために、これからもカブールでこつこつと働いていこうと思います。

 


(4)おまけ

 アフガニスタンで日本文化も伝えようと2008年末にアフガン人を交えた餅つき大会をしました。いつか餅つきがアフガンに広まり、アフガン人が銃を杵に持ち替え、平和意を祈りつつ餅をこねる、そんな日々が来ることを祈りつつ。ご興味ある方は以下のURLをご覧ください。

http://www.jica.go.jp/afghanistan/office/about_afghan/machi/19.html



 

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(2009年4月3日掲載 担当高浜 ウェブ掲載:津田)

 


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