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第32回 荒尾大介さん

UNICEFマラウイ事務所 建設担当官


荒尾大介(あらおだいすけ):神奈川県横浜市生まれ。日本大学理工学部卒。建設コンサルタント会社勤務の後2001年よりUNOPSコソボでのUNDP住宅復旧事業、UNICEFカンボジアでの小学校建設事業、UNOPSスリランカでのUNICEF津波被害による小学校再建事業を経て2007年より現職。

 

私は2007年3月末よりUNICEFマラウイ事務所にて建設担当官として事務所内の建設工事関連業務を担当しています。

一般にUNICEFが建設工事事業を独自に管理しているイメージはまだ薄いと思われます。しかし、UNICEFのSupply Divisionによると、過去五年間の間におよそ8億ドルがUNICEFの建設関連事業に費やされており、各地のUNICEF事務所が支援するいわゆるこどもに優しい(Child Friendly)政策の一環としての各種公共施設整備事業が、津波やパキスタンの地震後の緊急災害復旧支援の経験も踏まえ、教育分野のみならず水や保健衛生関連分野等様々な分野で今後も拡大していくと見られています。

老朽校舎

私は所属部署(オペレーション)において、直接建設案件を企画するプログラムの各部署から出てくる様々な案件に対して手続き上のアドバイスをしたり、実際に地元の建設コンサルタント会社との工事監理委託契約を通して地元建設会社に発注し、入札の書類の作成から、契約、施工を経て引渡しまでの工程が円滑に進む為の調整と各現場での工事進捗と品質のモニタリングを行っています。

仕事の中心となっているのは“Schools For Africa (SFA)”の小学校のインフラ建設ですが、そのほかにも就学前の児童を対象とした屋外遊具(ブランコ、滑り台など)の建設設置、病院施設等の改修工事から事務所内のメンテナンス工事まで様々です。

 簡易教室

アフリカ南部に位置するマラウイはWarm Heart of Africaと呼ばれ、穏やかで礼儀正しい人々と、大きな湖、起伏に富んだ国土の多くが標高1000m以上にある非常に過ごし易い風土を持つ美しく平和な国です。しかし、アフリカ有数の高い人口密度とそれを支える主要産業である天候依存型の農業、慢性的な栄養不良や高いHIV・AIDS感染率などで依然として世界最貧国の一つに数えられています。教育面においては1994年の初等教育無料化に伴い生徒の数が急増、その結果、慢性的な教員と学校施設不足の為に教育レベルが低下、また中途退学や留年の増加といった問題が大きく取りざたされています。

施設不足という点では国全体の約半数の行政地域で学校での対教室生徒率が100人/教室を超え、特に人口の多い首都リロングエ近郊を含む中部や南部では120人/教室を超えるなど、ほとんどの学校で授業の多くが木陰で行われている光景を見ることができます。国が現状で目指しているのは一教室あたり60人ですが、現存する老朽化しつつある校舎の修繕、需要を満たすために必要な教員育成とその住居等の整備も考えると、まだまだ先は長く世代を超えて根気強く取り組んで行く必要があります。

 混雑する教室

UNICEFマラウイ事務所はSchools for Africaキャンペーンを通してChild Friendly Schoolの普及と共に国内各地で小学校関連施設工事(校舎、教員住宅と井戸、トイレを含む)に07年より取り組んでいます。初年度は43校が完成、昨年度分50校が現在建設中、今年分は67校が建設予定と各国ドナーからの資金援助額の増加に伴ってその数は徐々に増えつつあります(一校舎につき2教室)。

完成間近

マラウイでは英国国際開発省(DfID)を筆頭に欧州連合(EU)やUNICEFを含むその他のドナー機関によって小学校建設に対する支援が行われていますが、その中でもDfIDは2005年より1500を超える新校舎建設に対する資金的、技術的支援を続けており、その規模と技術的なノウハウの蓄積においては郡を抜いています。現在UNICEFが用いている校舎のデザインから事業の手続きまでの様々な形式をDfIDの情報提供や協力によって取り入れており、小学校建設の特に技術的な面ではいわばDfIDモデルがマラウイ政府の標準モデルと言われる状況にあります。

そんな中でマラウイ国教育省の事業に対するオーナーシップを高め、また各ドナー機関毎に断片的に管理されてきた建設事業の標準化、合理化を掲げ昨年DfIDの支援により教育省の管理下にEducational Infrastructure Management Unit(EIMU)が発足、各機関に財政支援を求め始めました。UNICEFとしては、今のところEIMUの学校建設に対する資金支援を中長期的な視野に入れ彼らの事業管理能力と成果をモニターしつつも、現状のSFAの枠内では建設工事事業の透明性や品質/工程管理、説明責任確保等のUNICEF独自或いはドナーの要求基準を満たすことを優先に事業を直接管理しています。

学校建設はおよそ6ヶ月の建設工事期間を一年に一回サイクル、理想的には4月から10月の乾季の内の施工完了を目指していますが、様々な遅れなどでここ数年工事期間が雨季にずれ込み、道路が通行不可能になったり、豪雨による工事の中断などで工期の遅れを経験しています。

道路寸断

またマラウイ各地で一般的なレンガ作りは、気候変動を始め様々な問題の原因として挙げられる過剰な森林伐採の一端となるため、近年DfIDの小学校建設プロジェクトを始め様々な公共施設工事にケニアで開発された土壌安定化ブロック(Stabilized Soil Block:SSB)が用いられています。近年近隣諸国、特に南アフリカでの建設ラッシュを受けて値段の上がっているセメントを土壌安定剤として使用する為、必要な強度を得てなおかつ経済的な配合を行う事が重要ですが、現場の土を使った材料試験、他のコンクリート構造物同様、SSBの品質を左右する骨材や水の調達とその管理、ブロックの製造を含め多くの重要な工程が各現場のスタッフの手に完全に委ねられている現状があります。その為、品質、コストまた工程管理のためには各現場での建設コンサルタント会社による密着した施工監理が非常に重要となりますが、主要道路を外れた地方の道路状況を含め進捗状況が異なる多数の点在する現場の管理は人的にも費用的に決して容易ではありません。

ヌカルミ

またこの事業を通してUNICEFは他のドナー機関と共に経験を積んだ地元建設コンサルタントによるプロジェクトの管理を通して中小建設会社とその雇用者に対してより多くの機会提供と技術力の向上に寄与することを一つの目的にあげています。しかし、貴重な機会を得て工事を請け負う地元中小建設工事会社並びに建設コンサルタント会社の中には誠実さ、技術力また経営安定度の不足や、人手不足など問題がある場合も多々あり、建設業者やコンサルタント会社の成果、サービスの質に対する評価方法やその結果の選考時の建設業界に対する還元が今後の課題と言えます。

新規完成校舎

新校舎と子供たち

個人的には、この建設工事を通して残るものがはっきりしているという事と、またそれぞれの人生のスタート地点のような小学校の教室という場所が仕事の対象である事がこの仕事のやりがいであり、また常にその責任を感じて日々現場に目を向けています。

また関わった全ての校舎には愛着や思い入れもあるので、いつか何十年か後にその学校を訪れこの今の仕事の成果を誇れるように建設業者の尻を叩き続けなればなりません。

新校舎内

(2009年7月29日掲載 担当:猿田 ウェブ掲載:秋山)

 


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