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大谷美紀子弁護士は、2005年(第60会期)及び2006年(第61会期)、日本政府代表代理として国連総会第三委員会に参加されました。国際人権法の専門家である大谷弁護士は、コロンビア大学国際公共政策大学院修士課程(人権人道問題専攻)在学中に国連人権高等弁務官事務所のインターンとして研修、その後日本弁護士連合会などNGOとして国連の諸会議に参加。そしてこの度、日本政府代表代理として2年にわたり国連総会第三委員会に参加されました。つまり、国連というフォーラムを、国連内部、NGO、そして加盟国政府として、三者の立場から経験されています。そうした多角的な視点をお持ちの大谷弁護士が国連総会第三委員会出席のためにニューヨークに滞在中の機会を捉え、国連フォーラム幹事の土井香苗がお話をお伺いしました。(2006年11月6日、於ニューヨーク)

土井: 人権問題を取り扱っている国連機関としては、現在七つある条約機関や人権理事会及びその前身の人権委員会のことは比較的日本国内でも知られていますが、総会第三委員会のことはあまり知られていません。総会第三委員会とはどのような権能役割を持つ委員会なのでしょうか。

大谷: 第三委員会は、国連総会の六つの主要委員会の一つで、人権が議題の中心を占めています。人権以外の議題としては、文化、社会開発、高齢者、青年、障害者、薬物、犯罪防止、刑事司法、子ども、女性、人権、人種差別、先住民族、難民の問題があります。この第三委員会で国連の全加盟国により実質的に討議し採択された決議が、総会の本会議に送付され、最終的に採決に付されることになります。

大谷美紀子(おおたに・みきこ)
1964年生まれ。上智大学法学部国際関係法学科卒業、コロンビア大学国際公共政策大学院修士課程修了(人権人道問題専攻)、東京大学法学政治学研究科修士課程専修コース修了(公法専攻)、青山学院大学法学研究科博士後期課程在学中(公法専攻)。創価大学法科大学院、大宮法科大学院非常勤講師(国際人権法)。弁護士。日本弁護士連合会国際人権問題委員会委員。同連合会国際室室長。国際人権法学会理事。国際法学会、日本国際連合学会会員。日本女性法律家協会前副会長。国連フォーラム幹事。
主な著書・論文に、「人権人道問題−国際人権保障と日本の課題」『コロンビア大学院で考えた世界と日本』(はる書房、2001年)、「日本における拷問等禁止条約の実施における分野ごとの課題」(「女性−女性の被拘禁者の保護に関する措置」及び「個人通報に関する紹介−主要な個人通報事例の紹介」の項)『自由と正義』(日本弁護士連合会、2001年)、「緊急事態における人権保障(実務)」『国際人権』第14号(信山社出版、2003年)、「国際組織犯罪としての人身売買の取締り」『アジア・太平洋人権レビュー2006 人身売買の撤廃と被害者支援に向けた取組み』(現代人文社、2006年)、「子どもに対する暴力(体罰)」『講座国際人権法』(信山社、2006年)等がある。

土井: 大谷さんはすでに2年続けてこの国連総会第三委員会出席されていますが、第三委員会の機能についてどのような評価をされていますか。

大谷: たとえば国連人権理事会は人権に関する多数国間フォーラムとして重要ですが、構成国は47カ国に過ぎません。第三委員会は全加盟国192カ国が参加して討議を行うのが特徴であり、そこでの決定には重みがあります。

また、いい意味でも悪い意味でも全加盟国間の関係性のダイナミズムを見ることができる点で興味深いフォーラムです。たとえば第三委員会では、特定国の人権状況に関する「国別決議」の是非について意見が対立しています。先進国の多くは人権状況の深刻な国に関しては人権を侵害している政府を名指しで非難し、改善を求める国別決議が必要であるという立場ですが、途上国の多くは、国別決議に対し、ダブルスタンダード(二重の基準:ある国の人権問題を非難しながら、別の国の人権問題は非難しない)、セレクティヴィティ(選択:特定国の人権問題を取り上げ非難する)、ポリティサイゼーション(政治化:人権以外の他の政治的目的のために人権問題を非難したり、政治的な考慮からある国の人権問題を非難したりしなかったりする。ただし、人権問題の政治化の意味内容はこの言葉を使う論者によって異なり、一義的ではない)などの批判を強めています。第三委員会での討議では、議題やイシュー(問題)毎にこうした途上国グループ対先進国グループという構図だけではなく、五つの地域グループ、さらには非同盟諸国やイスラム諸国会議も加わり、政治・経済・地理・宗教、また歴史的背景等の諸要素が複合的に影響して議論を左右する様相が現れ、世界各国政府が人権という課題に対しいかなる姿勢をとり協力や対立するのか、そうしたダイナミズムを垣間見ることができます。

土井: 大谷さんは元来国家公務員ではないわけですが、日本政府の代表代理として第三委員会に出席するにいたった経緯を教えてください。

大谷: 50年前に日本が国連に加盟した際、市川房枝さんなど女性運動のリーダーが、外務大臣に対し国連総会の政府代表団に民間人女性を含めてほしいと要請し、これが受け入れられたという経緯があります。そこで例年、国際的な女性団体で経済社会理事会の協議資格を有するNGOの日本支部10団体及び個人会員から構成される国連NGO国内婦人委員会からの推薦に基づき、政府から任命された民間人女性が日本政府の代表団の一員として国連総会第三委員会に出席しているのです。私は、同10団体の一つである女性法律家協会、及び国連NGO国内婦人委員会の推薦を受け、政府代表代理の任命を受けました。

土井: 国連総会第三委員会の会期は約2ヶ月あります。長期間日本をあけることは仕事を持っている人には簡単なことではないと思います。どうしてこの役割を受け入れることにされたのですか。

大谷: 三つの理由があります。一つは、民間人女性を代表団に含める、つまりNGO・市民社会の参加、という日本政府の方針に賛同し積極的に評価しているからです。NGO・市民社会にとっても国連の活動や多数国間フォーラムである国連における意思決定の特徴や難しさ、日本政府の国連での立場や意思決定について学ぶ貴重な機会となります。二番目は、一点目とも関連しますが、こうした機会を通してNGO・市民社会が日本政府との間の対話や相互理解を促進し、将来的には国連外交全般や、私の分野でいえば人権など特定の問題について、日本の政策の形成にNGO・市民社会の持つ専門性や経験が良い形で反映されることを期待しているからです。三番目には、私は以前から国連について、特に国連とNGOの関係・役割に関心があり研究を続けています。国連人権高等弁務官事務所のインターンとして国連内部から国連を学び、NGOとして国連の会議に参加してきましたが、それに加えて加盟国政府として国連に参加するという第三のアングルを得られることは、大変に貴重な経験と考えたからです。


土井: 今会期、日本政府はこの第三委員会にどういったアジェンダ・目標を持って臨んでいるのでしょうか。たとえば、私は先日第三委員会の審理を傍聴した際、大谷さんが日本政府代表代理として強制的失踪防止条約の迅速かつ全会一致での採択を求める旨発言をされたのを拝見いたしましたが、これは日本政府のどういった立場の反映なのでしょうか。

大谷: 今回の会期についていえば、日本は北朝鮮人権状況決議案の共同提案国となっており、昨年の会期に引き続きできるだけ多くの加盟国の賛成を得てこの決議案を採択することが最大の関心事であると思います。

土井: 今会期、北朝鮮人権状況決議以外に日本政府が共同提案国となっている決議案はありますか。ないとすると、より積極的な関与がないのはなぜでしょうか。

大谷:日本政府が共同提案国となっている決議案は他にもありますが、主提案国になっているのは北朝鮮人権状況決議案だけです。そこには、むやみに決議案を出せばいいというものではないという考え方があるようです。なお過去においては、日本政府はフランスとともにカンボジアに関してイニシアチブを取ったこともあります。

土井香苗(どい・かなえ)
1975年、神奈川県生まれ。1997年5月から、NGOピースボートの一員として、アフリカにある独立したばかりの国・エリトリアで司法ボランティアとして赴き、調査員としてエリトリア法務省で働く。1998年東京大学法学部卒。2000年に弁護士登録。2006年6月米国ニューヨーク大学ロースクール修士課程終了。2006年9月から、米国ヒューマン・ライツ・ウォッチのフェロー。国連フォーラム幹事。
主な著書に、「福祉国家における人権確立へ向けた取り組み-スウェーデンのオンブズマン-」『国内人権機関の国際比較』(2001年)、「強制収容施設と『難民』との面会 - 難民処遇の今」(『法学セミナー』583号、2003年7月)、「国際社会と人権」『テキストブック現代の人権 第三版』(日本評論社、2004年)、「難民受入れに向けて-在日難民事件から見えてくるもの」『憲法問題[15]』(三省堂、2004年5月)、「"ようこそ"と言える日本へ」(岩波書店、2005年)。

土井: 一方、日本政府は人間の安全保障に力を入れていますが、人権の観点から見て何か期待する点はありますか。

大谷: 第三委員会でも、日本政府は人間の安全保障の視点からの財政的支援などにしばしば言及します。今後は、人間の安全保障という概念を人権の分野で展開すると様々な人権問題の議論にどう活かされてくるのか、どのような人権外交の政策が出てくるのかを、もう一歩掘り下げていくことができれば望ましいと思います。第三委員会における日本の発言においても、人間の安全保障の概念に基礎を置いた人権政策というものが具体的に示せれば、そしてそれが良いものであれば、説得力が増し国際社会からの評価につながっていくのではないでしょうか。そのためには、人間の安全保障の概念と具体的な人権分野での政策との関連性について、政府・NGO・市民社会・研究者による研究の努力が進むことを期待します。日本が人権の考え方の面からも国連での議論や活動に貢献する国となるよう、期待しています。


土井: 大谷さんは、様々なお立場から国連に関わり、研究のテーマにもされているわけですが、最近は特にどのような点に注目していますか。

大谷: 最近は、特に国連の人権機構改革、たとえば2006年3月に人権委員会に替わって新たに設立された人権理事会や条約機関の改革の議論などに興味を持って追っています。なかでも人権理事会設立の議論の中で、批判的アプローチよりも対話的アプローチを基本にすべきであるということが繰り返し強調され、対話と協力が人権理事会の活動の原則とされました。今後、人権理事会が、真に建設的な対話と協力に基づくアプローチを取ることができるのか、そして、それにより本当に世界の人権状況を改善していくことができるのか、人権理事会が試されていると思って注目しています。人権状況の改善には、批判的アプローチと協力・対話的のアプローチのどちらがより有効なのか、二者択一ではないと思いますし、難しい問題ですがこの二つのアプローチの線引きや基準、組み合わせやバランスについては、私が国際人権について勉強を始めたばかりのころから興味を持っている点です。


土井: 人権委員会はダブルスタンダードだったと批判する声があります。さらに新たに設立された人権理事会は、これまでにヒズボラやパレスチナ武装グループの人権侵害は不問に付した上でイスラエルによる人権侵害だけを非難する決議を出しただけであり、まさにダブルスタンダードとの批判をされています。大谷さんは人権理事会の現状をどのように評価しますか。

大谷: 人権理事会はようやく動き出したばかりで、特に今年1年は人権委員会から引き継いだ権限や機構の見直し、普遍的定期的審査という新しい機能を具体的にどのように形作り実施するかを議論しているところですから、人権理事会に対する評価を現段階で行うことは困難であり、適切でもないと思います。人権委員会が人権理事会になったからといって、人権委員会に対する批判として言われたダブルスタンダードなどの人権委員会の弊害が一挙になくなると期待するのは現実的ではありません。国連は60年の歴史を持つ人権委員会を廃止し、新たに人権理事会を設立するという大決断をして後戻りはできない訳ですから、動き出したばかりの人権理事会に対し早い段階から否定的な判定をしてしまうよりも、この大改革をどう成功させるのかに政府もNGO・市民社会も一緒になって真剣に取り組むべきことが今まさに求められていることであり、大切なことであると考えます。

土井: 批判だけで人権状況の改善を実現するのは困難かもしれませんが、対話だけでも人権状況が改善するとは思えません。仮に対話的アプローチを取るにしても、最終的には批判がありえるというプレッシャーがあってこそ対話が実効的になされるという面もあるように思います。

大谷: 批判を続けても実際の人権状況の改善に結びつかないという状況では、国際社会も人権侵害の被害者も疲労感を持ってしまいます。先ほども述べましたが、批判か協力・対話かという二者択一的な議論を抽象的にしても、あまり意味はないのではないでしょうか。人権理事会が目指すように、対話と協力を基本にしながらもどのような場合には批判的アプローチが必要なのか、この二つをどう効果的に組み合わせていくのか、対話と協力の中身はどうあるべきか、抽象的な議論ではなく具体的事例の研究・分析に基づいた議論と政策が必要であると思います。

土井: 私自身は、人権理事会の現状に照らすと、これを設置したことを評価できるかどうかの試金石となるのは、今後導入・実施が予定されているUniversal Periodic Review(UPR:普遍的定期的審査)を、実質的な人権改善のための議論を行うフォーラムにできるかどうかというところにあると思いますが、大谷さんはどのようにお考えでしょうか。

大谷: 確かに、UPRは人権委員会にはなかった新しいものなので、これに対する期待感があるようです。また、国連全加盟国が審査の対象となるという点で人権委員会に対して言われていたダブルスタンダードやセレクティヴィティという批判を乗り越えることができるのではないかという期待がありました。条約機関による審査との重複に対する懸念なども聞かれましたが、私自身はむしろ、UPRが条約機関が出した勧告を各国政府が履行することを促すような仕組みとなる可能性に期待を持っています。

しかし、今年6月、日本弁護士連合会の代表として第一回人権理事会に参加し、政府もNGOもUPRについてまだ混沌としたイメージしかなく、既存の審査制度との重複の回避や、実効性、実現可能性等の観点から議論を詰めていく必要があることを実感しました。たとえば、既に条約機関に対する定期報告書の作成が各国の負担になっている現状も踏まえながら、効果的で実質的な審査を行うには審査の基礎資料をどのようなものにすべきかといった問題や、審査に独立の専門家が関与するかといった問題に一つ一つ答えを出していかなければなりません。NGOの中では政府から独立した専門家が審査に関与することを求める声が強いのですが、他方、加盟国の間にはUPRは加盟国政府同士の相互審査(peer review)であり、専門家が関与すべきではないとう考え方もあります。私は、人権理事会が新たに取り入れたUPRは、アナン事務総長(注:インタビュー当時)が最初に提唱した時から相互審査的なものと考えられ、加盟国が相互に全ての国の人権状況を審査し改善を促すことが期待されていたことから、専門家が関与するとしても、そのあり方はOECDやILOその他の相互審査を実施している機関の経験を参考にしながら、議論していく必要があると考えています。


土井: 外務省は、2007年度の重点外交政策の一つを人権外交の積極的展開としています。日本政府は具体的に何を行おうとしていると思われますか。また、どのような期待を持っておられますか。

大谷: 日本は人権理事会の初代理事国としてその活動に積極的に関わり、貢献したいと考えていると思います。日本は、最近では障害者権利条約や強制的失踪防止条約など、国連で起草採択された新しい人権条約の起草作業に積極的に関わってきました。日本が、日本にとって関心の強い人権問題について取り組むだけでなく、真に普遍的な立場から、国連を含む国際社会での人権の議論と活動に実質的かつ積極的な貢献を行う国になること、そして国内においても国際人権基準を満たすことを期待しております。

また、私個人が特に期待・注目していることがあります。それは、日本が自らの経験をもとに、国連が直面している人権問題についてのアプローチに関する悩みとジレンマの解決に向けた議論に積極的に関わり貢献してほしいということです。国連では現在、批判的アプローチよりも協力・対話的アプローチによるべきという議論がなされていますが、それを実効的に行い人権状況の改善の結果を出すにはどうすれば良いか、また、両者の線引きの基準やバランスの取り方について悩んでいる状態です。日本はこれまで、ミャンマーやカンボジアなどアジア諸国について欧米諸国から批判的アプローチがなされてきたときにアジアの一員として独自の立場をとり、対話を行う窓口を確保する方向性で対応してきました。このような日本の姿勢に対しては、欧米諸国、日本の市民社会、そしてミャンマーの人々からも弱腰であり軍事政権に対する支援であるとの批判がありました。確かに、日本政府はミャンマーに対し対話と支援のアプローチを続けてきましたが、人権状況の改善に結びつくような対話や支援・協力に取り組んできたのか、人権状況の改善という点で効果があったかというと疑問といわざるをえません。一方、日本は近年、北朝鮮に対しては批判的アプローチを展開しています。こうした経験とアジア外交における変化を踏まえ、ダブルスタンダードではない一貫した外交に帰納するにはどうしたらよいのか、日本の人権外交も岐路に立たされています。

国際社会においては人権問題について途上国対先進国という図式になることも多い中で、日本は人権問題に対し批判的アプローチをとることの多い先進国グループの一員でありながら、地域的には途上国が大多数を占めるアジアグループの一員であり、双方との関係性から批判的アプローチと協力・対話的アプローチのバランスの取り方に悩んできたと思います。

日本の問題意識と世界の問題意識は共通しているといえます。日本に対しては、その経験や悩みに基づき対話・協力と批判の組み合わせやバランスについて独自の立場を確立し、人権理事会の理事国として、人権理事会ではもちろんのこと、人権問題を扱う普遍的なフォーラムである総会第三委員会での議論に積極的に参加し、真に実効的かつ深みのある人権外交と活動を展開してほしいと期待しています。

土井: 先進国とアジア諸国両方の顔を見て、両方と仲良くするためにどうしたらいいかという視点ではなく、日本が、人々のかけがえのない人権を第一のプライオリティーとする積極的人権外交を展開するためには、官僚組織内部での議論にとどまらず日本の人権外交のあり方に対する国民的議論が必要なように思います。深みのある外交を行うためには日本の市民自身が深まる必要があるのではないでしょうか。

大谷: 現状は、政府のみならずNGO・市民社会にとっても挑戦であると考えます。日本はもっと人権状況について問題のある国に対し批判すべきだというNGOからの意見がありますが、国連での議論を聞いているとそれほど単純ではありません。国連における特定国の人権状況についての批判は、国際社会のメッセージとして重要ですが、究極的な課題は人権状況の改善です。人権状況の改善はどうしたらもたらされるのか、それはNGO、政府、そして国際社会に突きつけられた課題であると思います。

新たに人権理事会ができた今、そこでも失敗することは許されません。政府も市民社会・NGOも議論をして、お互いに叡智を絞るしかありません。NGOは、時に政府に対する批判に終始していると見られることがありますが、国連の人権機構改革においては、建設的で実現可能な意見やアイディアを提示できるか、NGOもその力量が試されています。

土井: いろいろと興味深いご意見をいただきありがとうございました。最後になりましたが、大谷さんは、NGO・政府・国連という三者の立場から国連での議論に参加されるという貴重なご経験をされています。三者の目的は共通であり、それは、現地の人々がかけがえのない人権を享受できる社会を実現するということです。そのひとつの目的の実現のため、将来、三者の積極的・建設的な協力関係がどうあるべきか、お考えをお聞かせいただければ幸いです。

大谷: 将来の三者の協力関係がどうあるべきかという質問への直接の回答ではありませんが、建設的な協力関係の構築のための課題について、二つの点を問題提起したいと思います。一点目は、政府とNGOの関係についてです。開発の分野などでは、政府とNGOが協力関係に立つことが多いのに対し、人権の分野では、政府とNGOは対立や緊張関係に立つことが多くなります。この基本的な構造の中で、NGOが政府からの独立や政府に対する批判の自由、一定の距離を保ちながら、政府とどのように協力していけるのかというのは簡単なことではありません。両者がそれぞれ意見や立場の相違や対立を理解し尊重しながらも、より良い人権外交政策を生み出したいという目的において一致し、オープンな議論を重ねていくことが重要だと思います。そのためには、相互に一定の信頼関係が必要になります。政府からNGOに対し積極的に情報提供や説明を行い問題意識を共有すること、NGOから政府に対しては当事者性・専門性に基づく有用な知識・情報と経験を効果的に提供していくことが信頼関係の構築に役立つのではないかと考えます。
二点目は、国連とNGOの関係です。日本のNGOは、国連に対して期待が大きすぎるのはないかと思うことがあります。国連から何かしてもらうのではなく、国連をどう動かしていくか、どうすれば国連がより良くなり私たちにとって役立つ機関になるかは、最終的に加盟国政府が決めることになるとしてもNGOの役割に担うところも大きいということ、国連の現実や限界について認識・理解し、これを踏まえたうえで関わっていくことが大切ではないかと思います。


【語句説明】 
人権理事会
国連総会第三委員会
強制的失踪防止条約

2007年3月3日掲載


担当:朝居・横山



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