「Political Economy of Africa in the Post-ICPD Era
1994年カイロでの国際人口開発会議(ICPD)後の
UNFPAを取り巻く環境の変化について」
大橋 慶太 さん
国連人口基金(UNFPA)アフリカディヴィジョン
■1■ 94年カイロ会議前後の変化
■2■ 戦後の人口問題の歴史
■3■ アフリカの政治状況
■4■ UNFPAの主要なオペレーション分野(94年以降)
■5■ 90年代以降の開発の枠組みとUNFPA
■6■ UNFPAのアフリカにおける優先順位
■7■ 結論
■8■ 将来の人口問題についての仮説
■ 質疑応答
1)人口問題へのアプローチの変化
カイロ会議以前は途上国の人口爆発が問題とされ、どうやって人口増加を抑えて一人あたり経済成長率を確保するかが課題だった。94年以降は、単に数を問題にするのではなく、女性の権利、特に自由に子供をつくる権利を保障することが重視されるようになった。
2)UNFPAのオペレーションの変化
よりフレキシブルなプログラム運営をすることが求められるようになった。
・家族計画の推進から、より幅広い概念であるリプロダクティヴ・ヘルスへのシフト
・人口政策とデータの収集から、貧困削減への重点のシフト
・女性の権利から、より幅広い概念であるジェンダー・エンパワーメントへのシフト
3)新しい開発の枠組みへの対応
MDG、PRSP、SWAPといった新しい開発の枠組みに対応するべく、オペレーションのあり方が見直された。
50年代−70年代
国際社会が開発途上国に対し、避妊や家族計画を推進した。(中国の一人っ子政策など。)このような政策は基本的人権に抵触するため、単純に数(人口)を下げるだけが重要なのではないという議論が起こる。
74年 ブカレスト会議
84年 メキシコシティー会議
80年代には大きな影響力を持つアメリカ政府のスタンスが変わったため、UNFPAのオペレーションにも影響が出てきた。レーガン政権、ブッシュ(父)政権時に、アメリカは、UNFPAが、中国において人工中絶が産児制限の手段となっていることを支持しているのではないか、という疑惑を持ち、IPPFとUNFPAに対する資金をストップした。クリントン政権はUNFPAへのファンディングを再開したが、現政権はまたファンドを凍結している。
1)共同体結成と団結強化の動きが活発になってきている。
・アフリカ連合;
アジスアベバをヘッドクォーターとしてさまざまな活動をしている。昨年アフリカン・パーラメントを発足させ、(HQ南ア)現在その議員を中心に法整備や政治的協調を進める動きが進んでいる。
・NEPAD;
AUを中心とし、長期的に政治・経済・および開発の枠組みを見直そうとしている。
2) HIV/AIDS問題
80年代から存在した問題だが、国際社会が真剣に取り組み始めたのは90年代に入ってから。南部アフリカの感染率が特に高く、10%から高い国では40%まである。アフリカ内でも地域差があり(西アフリカ、中央アフリカは低い)さらに国内でも居住地域、職業などによって感染率は大きく違う。現在最も予防に力を入れている感染 経路は、 母子感染および 10代・20代の若者の性行為による感染。
*94年以前は家族計画、開発と貧困が主要テーマだった。
1)Reproductive Health
2)Population & Development
貧困削減という枠組みにおける人口および開発政策
3)Gender
1)MDGs
2)PRSP;
PRSPpの中にUNFPAに関連する目標をも盛り込む事で国レベルの開発に貢献しようとしている。
3)SWAP(Sector Wide Approach) & DBS(Direct Budget Support);
従来の開発援助プロジェクトの進め方は、ドナー毎、プロジェクト単位での運営だったが、個別の運営をやめて各ドナーが提供した資金をまとめてプールし、政府が自由にその資金を計画、運用できるようにする枠組み。途上国側がオーナーシップをもってプロジェクトを運営していける。UNFPAの場合、保健・教育の分野で協調を強めている。
1)HIVの予防
HIVに関しては複数の国際機関が携わっているが、UNFPAは予防を中心にやっている。UNAIDSはHIV/AIDSに関連する10のUN機関のコーディネーションを中心にやっている。(最近は新しい試みとして技術協力部門の活動をはじめているが、UNAIDS自体は小さい組織であり、また、人的資源の不足のためカントリーレベルでの活動も比較的限られていたので、そのあたりは今後の課題といえる。)
・ネットワーキングの重要性;多国間および二国間でのよりよいドナー協調
・予防のためのコンドームの配布およびコンドーム使用の習慣化(需要喚起)が一番大きな課題
2)妊婦死亡率の低下
プロジェクトの規模拡大による、妊産婦死亡率低下の推進(特に瘻孔 、緊急出産、家族計画の分野)
3)人口と開発
UNFPAの強い分野;人口センサス、DHS(人口と保健のサーベイ)など。ただ、アフリカは政府レベルでのキャパシティと資金が不足しているので、政府・ドナー双方が、サーベイ開始前に十分な資金を確保できるかどうかが問題となっている。同様に、モニタリングのレベルが低いことも課題になっている。
4)Gender
女性の地位向上のためのアドボカシ−活動、ドメスティック・バイオレンスおよび性的 の予防、女性の現金収入機会の提供(女性の地位向上)など。
5)若者(青少年)
HIV予防のための教育、アドボカシ−活動、病院などにいきやすくするようなフレンドリーな社会環境 の設定、避妊に対する意識の変革の働きかけ難民への、緊急事態におけるReproductive Healthサービスの提供(生命救助・出産キットの支給、出産時の合併症に対応するための設備の充実など)やデータ収集など。
<パートナーシップの確立>
AUとの更なる協調・ADB(African Development Bank)とのより密接な結びつき(UNFPAはADBと共通の政策分野における協力に関する覚書を交わしている)・アフリカのサブ・リージョン組織および経済委員(ECOWAS、SADCなど) との密接な協調など。
*アメリカ政府との資金調達問題について
昨年 3400万ドルの資金がストップされたが、二人のアメリカ人が3400万人のアメリカ人から1ドルを募る運動をはじめ、現在約200万ドル集まっている。実際にはEUがアメリカの資金を補足したのでファンドは確保した。一方で、94年以降活動が多様化しているのに対し、総資金額は増えていない。
<資金調達の工夫>
HIVに特化すれば資金調達が可能など、政治的に表面上は難しい場合でも工夫の余地はある。
*セネガル時代の逸話;青少年のための VCT施設 の建設を全国にスケールアップするという課題があり、JICAは資金協力をOKしたが、USAIDからはまったく拒絶された。しかし、UNAIDがサポートしているNGO(Family Health International)との協力という形であれば、OKであった。
<人口爆発の問題>
今後本当に起こりうるのか?地球はどのくらいの人口をサポートできるのか?人口増加率はすでに中国・インドを含む途上国においても減少し始めている。このような状況を踏まえてもなお、地球が持続的にサポートできる人口規模についての議論は続くのか ?
<人種差別問題>
移民制限(ヨーロッパ各国など。急増するアフリカ人口をどのくらい吸収できるのか?)と頭脳流出の問題(特に医師、看護師などの医療関係者)
<文化(Cultural Relativism)の問題>
それ自体が多様なアフリカ文化の枠組み において、それぞれの価値観をどのくらい生かして開発を進められるか?