「日本における難民・移民の現状と課題」
土井 香苗 弁護士
北村 聡子 弁護士
■1■ 日本における外国人 ( 移民 ) ・民族的少数者・難民の統計 −土井
■2■ 日本における難民保護の現状:難民条約、拷問等禁止条約の施行状況
■3■ 日本における移民の人権状況 −北村
■ 質疑応答
■1■ 日本における外国人 ( 移民 ) ・民族的少数者・難民の統計 −土井
日本における外国人人口現在200万人超。米国等との比較では低いかもしれないが、10年前との比較では45%も増加。Ethnic Minority(民族的少数者)の公式統計は、国連の勧告にもかかわらずいまだないが、国際結婚は年間5%もあり、その間に生まれた子どもたちは増え続けている。また、Ethnic minorityという言葉自体すら市民権を受けていない。(資料 P5国連人種差別撤廃委員会の最終見解参照)
では、日本人のマジョリティの定義は?日本は何民族の国なのか?日本社会は未だこれを語るに熟していないのであろう。しかし、今後多民族社会化が進むにつれて、日本の民族的マジョリティそしてマイノリティを見定める冷静な議論が必要である。今回10月の国勢調査にも、日本人であるか否かの質問事項は含まれていなかったと聞いている。
■2■ 日本における難民保護の現状:難民条約、拷問等禁止条約の施行状況
土井弁護士は大学生の頃にアフリカに行き、難民キャンプで、難民が物理的、精神的に希望を絶たれている姿を目の当たりにした。当時はあまり報道されていなかったため、日本に難民がいることすら知らなかったが、アフリカから帰国してから、日本に逃れてきた難民たちから助けを求められ、日本にいる難民たちのことを知るようになった。毎年概ね300人ぐらいが難民申請をしており、2004年には450人程度が申請。9.11以降は、タリバンから迫害を受けたとして日本に逃れてきた少数民族を、日本政府が、タリバンとの関係を疑って強制的に収容したという事件もある。
日本は難民条約 (参考P3) に加入している。経済難民と難民条約が定める難民の根本的な違いは、自発的に国境を越えたのか、十分な恐怖があって逃げざるを得ない人びとなのかの違い。難民定義に相当する者に対しては、締約国は“庇護”しなければならないという義務があり、これをノン・ルフールマン原則という ( 迫害されるかもしれない地域に追放・送還しない原則 ) 。よって、十分な恐怖があったために逃げざるを得なかったアフガニスタン難民は、日本が庇護する義務があった。難民条約だけでなく、拷問禁止条約 (参考P4) 上も、日本が坊門されるかもしれない国に外国人を送還してはならないという義務がある。難民条約のノン・ルフールマンと拷問禁止条約のノン・ルフールマンは、重なる部分も多いが必ず重複するわけではない。
UNHCRによると(参考P3) 、2001年の難民認定数は日本では26人、アメリカでは2万8300人、そしてドイツでは2万2720人となっている。但し、ドイツの認定数は、2004年度に減少した。日本に対しての申請数は低い。それは、難民から、日本が難民を庇護する人道的な国と見なされていない証拠であり、非常に残念。
日本に来る難民は、その多くが、「不法滞在者」と呼ばれることになってしまい、強制収容所に入れられてしまう事も多い。今年入管法が改正されるまでは、難民申請したからといって合法的に滞在することはできなかったからだ。今年法改正がされ、難民申請者が、申請中に合法的に滞在できる可能性ができた。改正自体は大きな前進だが、この可能性は非常に厳しく扱われており、未だ状況は非常に厳しいまま。
特に1980年代以降、北の国々には、合法、非合法を含めた南からの移住者が増加し続けている。3K労働などにおける利害(需要と供給)は一致しているので、北の国々はback door政策をとり続け、それら移民に家族ができ、子どもが出来たときに問題が生じるのが現状。
これに対する対策として、一般アムネスティと在留特別許可がある。一般アムネスティとは、滞在年数等の基準に該当する人に一度に数万あるいは数十万の在留資格を与える方法で、アメリカ、フランス、スペインなど西欧諸国の他、アジアでは韓国、台湾が行っている。一方の日本とドイツは、個別判断を行っている。日本では法務大臣が個別判断して在留特別許可を与えるが基準は不明確(資料P4入管難民法参照) 。在留特別許可がなければ健康保険ももらえないので、このような状態で暮らす人々は、つねに病気などに怯えながら暮らさなければならない。1999年、ついに在留特別許可に対する需要が高まり、在留特別許可一斉行動とよばれる事件に発展。これは、長期オーバーステイの10家族と単身者2名が強制退去覚悟の上で入管に出頭し、既に日本に生活の基盤を形成していること、労災で治療中であることなどを理由に在留特別許可の申請をするという、捨て身の戦術。その結果、5家族(20人)に在留許可がでた。これにより、10年以上の滞在歴があり、かつ、中学生以上の子どもがいる家庭だったら法務大臣は在留特別許可を出すらしいという基準がやっと見えてきた。それ以外は不許可で退去強制命令。しかし子どもが当時小学校6年生だったイラン人家族が、在留特別許可を与えなかった処分は不当であるとして提訴。地裁では勝訴したが高裁で敗訴。現在最高裁に継続中。
一般的に退去強制命令が出ると強制収容される。裁判を起こしても同じ。入管が良くやるパターンとして、まず稼ぎ頭を収容する。経済的精神的に追いつめられた家族は、裁判もあきらめて帰ることがある。上記イラン人家族についてもお父さんが収容された。NGO、弁護士が奮闘して何とか1年後に仮放免が出た。
日本の司法の壁も厚い。1978 年のマクリーン事件最高裁判決で、「外国人の人権は在留資格制度の枠内でのみ保障される」と述べたことを未だに法務省も裁判所も言い続けており、この論法で原告が敗訴する事が多い。しかし1978年以降、日本は様々な人権条約に入っている以上、この判決は見直しが必要である。
移民と国際条約の関係について言えば、移住労働者のケースには、自由権規約の家族の部分(参考資料P5第17条)を良く使う。日本人と結婚している、あるいは日本人の子どもがいるのに親を強制送還してしまう時などには第23条(家族結合権)を使う。上記のイランのケースの時などには17条(恣意的な介入)を使った。
最近の日本は右傾化しており、外国人がスケープゴートになっているようだ。外国人犯罪減少という名目のために、不法滞在者の取り締まりが強化されている。交番などにも“怪しい外国人を見たら110番”の様な張り紙が出されている。関西大学の間宮教授ウェブサイトには、外国人犯罪は日本人犯罪に比べ5倍報道されやすく、特に韓国/朝鮮人の犯罪の場合には11倍報道されやすいとある。しかし、日本にいる外国人の総数自体が増えているにも拘らず、全犯罪に占める外国人犯罪の割合はここ10 年間1.7〜2.4%で横ばい。しかも不法滞在者の刑法犯は日本全体の0.4%しかない(2004年度)。
公人による差別発言も問題。石原知事だけが三国人と言うような外国人差別発言をしているのではなく、神奈川県知事も、中国から出稼ぎで来てるのは皆コソドロという発言をした事もある。私人間でも、家が借りられなかったり、温泉に入れないという差別もある。金正日が日本人拉致を認めた日以降、在日韓国人に対する差別や暴力は後を絶たない。小学校から高校生までの朝鮮学校学生の5人に一人がこのような被害に遭っており、女児及び年少児のほうが多く被害に遭っている傾向にある。
しかし、差別撤廃条約の国内法は未だ存在しない。条約を批准しながら国内法を持っていない国は、先進国でも日本だけと言われている。これに対し、国連も懸念を示している(参考P5)。「人権擁護法案」は人種差別の禁止を掲げており、国会に二度提出された。一度はマスコミ規制に対するマスコミの反対にあって廃案。二度目は、人種差別を扱う人権委員会には国籍要項がないために在日韓国人でも人権委員になれるのかと、右翼が反対して廃案。
アメリカでは、アメリカ国籍以外のものによる犯罪を ” 外国人犯罪 ” として取りあげる事はあるのだろうか?”外国人犯罪”という概念自体が不自然ではないか。例えば、関東大震災では多くの在日コリアンが日本人によって虐殺されたが、あまり報道はされていない。あるいはPearl harborの翌日には、日本国内の社会主義者と外国人が多数逮捕された。戦争中には、お互いが蔑視することが戦争の盛り上げに繋がるが、戦争中でもない現在にそれは必要ない。人権条約施行という視点から見ると、やはり日本は遅れているのでは。
では、日本は今後どのような態度を取っていくべきなのだろうか?180万人の外国人がおり、すでに多文化共生社会は始まっている。議論すら起こっていない今のままで良いのだろうか?国際社会に対する日本の責任は?これらを今後、当フォーラムでも議論し続けていただきたい。
(担当:長島)