第18回 2006年2月24日開催
於・世界銀行ニューヨークオフィス 26階
紛争と開発
黒田 和秀さん
世界銀行・社会開発局紛争予防復興ユニット 上級社会開発専門家
(写真右が黒田氏)
(略歴)くろだ・かずひで。カナダで物理学を修め、経営学修士号(MBA)取得後、オランダ、フランス留学等を経て国連競争試験に合格。前国連災害救済調整官事務所ジュネーブ本部、前国連人道問題局(DHA)ニューヨーク本部(いずれも現国連人道問題調整事務所[OCHA])を経て、98年より世界銀行に入行。社会開発局紛争予防復興ユニット(Conflict Prevention and Reconstruction Unit)(改称前・Post Conflict Reconstruction Unit)勤務。
■1■ はじめに
■2■ 世銀と紛争復興支援
■3■ 「紛争と開発」の概要と推移
■ 質疑応答
世銀は、本部をワシントンに置き、本部に約7000人、フィールドに約3000人のスタッフを抱える国際機関である。ここ、NYオフィスは主に国連の活動をフォローしている。
- 自己紹介の後、今月BBCで放映されたドキュメンタリービデオ 「21世紀の戦争と平和−貧困と内戦」("Nations Zero:
War and Peace in the 21st Century"、英語、45分)を上映。
- このビデオはオックスフォード大教授兼世銀アドバイザーのPaul Collier氏の著書『戦乱下の罠−紛争と開発政策』("Breaking
the Conflict Trap: Civil War and Development Policy," A World Bank
Publication, 2003)を基に、日本の信託基金を使用し、パデコに委託して作成された。
- ビデオでは、90年代に内戦を経験したボスニア・ヘルツェゴビナ、ルワンダ、その後内戦が続いたアフガニスタン,今でも内戦が続いているコロンビアの事例を紹介。紛争のために悪化した政治・経済・社会状況により、市民が犠牲になっている様子を伝えた。前述のPaul
Collier教授やコロンビア大のJeffery Sachs教授らが、貧困と紛争の悪循環を断ち切るために、持続可能な開発が必要だと説いている。
90年代までは、紛争「または」開発("Conflict OR Development")で、紛争中の開発("Conflict AND Development")は無理だという考え方が主流であった。90年代に内戦が急増し、その後和平交渉を結んだ国々に対し、世銀も紛争後の復興支援に積極的に関わり始めた。90年代後半には、紛争後の国々の開発に対応するPost Conflict Unit(紛争後ユニット)が設立され、のちにConflict Prevention and Reconstruction Unit(紛争予防・復興ユニット)に改称された。紛争地域でも開発支援機関が開発支援の可能性を探り、現在では、PKOが派遣されている地域でも世銀等は支援活動をしているケースも多くなってきた。
紛争の場合、難しいのは、人々の心の傷が長期にわたって癒えないことだ。ビデオで、ボスニア紛争を経験した市民が、周囲の人々が爆死していくことに慣れてしまったと話していたが、生きていかなくてはならないから慣れるのであって、傷がいえたということではない。
紛争はどの社会にでもおこりうる。ただし、それが大きな紛争になるか、早期の和解が可能かは社会によって違う。世銀では、どのような社会に紛争が定着しやすいのか、研究中である。そして、どのような社会にReconciliationのキャパシティーがあるのか。その答えを見出すことに、開発の可能性があるのではないか。
紛争は最も所得が低い国々、特にアフリカで頻発している。しかし、その影響は、特に9.11後、世界中で受けるため、先進国も紛争解決に力を入れ始めた。 低所得の一国の紛争予防に成功すれば、約540億ドルの費用を免れると推定されている。これは世界のODAの総額600億ドルと同程度だ。紛争予防が必要である。
世銀等開発機関では、Conflict Sensitive Developmentを心がけている。紛争の分析を先に行い、現地の状況に適したプロジェクトを用意している。ソマリア、ネパール、スリランカで試みが始められた。また、90年代から、国連でもPKO、開発援助、復興支援活動が拡大した。国際機関に蓄積された知識も増大し、復興支援に関わる国連と世銀、市民社会の間の協調関係も向上してきた。東ティモールから、アフガニスタン、イラク、リベリア、ハイチ、スーダンと、大規模な和平作業(peace operations)ごとに、教訓(lessons learned)を生かして業務改善してきている。紛争予防は政治関係と捉えられてきたが、作業紛争予防(Operational prevention)と構造紛争予防(Structural prevention)というカーネギー財団の提出した新しい概念により、後者は開発機関の課題になり、より開発問題として取り上げられるようになってきた。人間の安全保障という考え方も浸透してきている。
今後の課題は、若者の失業問題にどう対応するかだ。今年の世銀の年次レポートのテーマも、「Youth」を取り上げている。失業率50%というレベルになると、紛争との関係は大になる。また、平和構築、安全保障と開発支援が一体化していく中で、開発機関がどのように支援に関わっていくのか。平和構築委員会も、まだ設立されたばかりで動いてはいないが、今後どのように関われるのか。OECD(経済協力開発機構)のDAC(開発援助委員会)でも現在、安全保障と開発の関係や、例えばDDR(元兵士の武装解除・動員解除・コミュニティへの再統合)などの課題が審議されている。紛争予防の面からも、力を入れなくてはならない。
紛争を解決した国の50%以上が、5年以内にまた紛争に逆戻りしている。 また、開発援助プロジェクトが原因で、紛争が起こる可能性もあり、最低限、危害を加えてはならない("Do No Harm")という原理を守らなければならない。この点については、開発援助機関は合意している。
184加盟国の4分の1がなんらかの形で紛争に関わっている。それらの国々の紛争に対し、敏感な開発支援をどのようにしたらよいのか、世銀は問われている。 また、紛争後の支援では援助関係者が多くなり、国連とのやりとりも増える。世銀の作業履行を変えなければならず、これは新たなChallengeだ。
世銀が国連と異なるのは、内部が組織を変えていくところだと思う。紛争後、そして紛争予防に対応するためには、無償が必要だということで、97年には「紛争後基金」(Post Conflict Fund)ができ、それに合わせる形でPost Conflict Reconstruction Unitが設立された。9・11後は、破綻国家に対し、どう支援していくかという検討もなされ、新たなユニットを立ち上げた(脆弱国家ユニット)。 問題を分析し、世銀の貢献可能性を考え、実施していく。国連よりも、組織的に時代についていっているのでないかと思う。
詳細は、私が所属しているユニットのウェブサイト、
http://www.worldbank.org/conflict をご参照頂きたい。
担当:山岸、藤澤