「日本とアジアから世界の平和構築に如何に貢献すべきか
-現場での取組、知的貢献、そして人材育成-」
紀谷 昌彦さん
外務省総合外交政策局国際平和協力室長
2007年11月15日開催
於:ニューヨーク日本政府国連代表部会議室
国連日本政府代表部/国連フォーラム共催 合同勉強会
質疑応答
■Q■ 日本が7月に国際刑事裁判所への加入書を寄託した時は、ネパールでも、日本が今後アジアにおいてICC加盟を推進してくのでは、と日本の指導的な役割を歓迎・期待する雰囲気があったが、今後具体的に、法整備支援をどう進めて行く方針か。
■A■ 我が国は、本年7月、「国際刑事裁判所に関するローマ規程」の加入書を国連事務総長に寄託し、10月から正式にこの規程国の加盟国となった。ICCをより普遍的なものとするために、他のアジア諸国等の加盟を促していきたい。我が国は、最大の分担金拠出国として、同機関の効率的・効果的運営を推進するとともに、刑事法・今後の法整備支援の分野においても、「侵略犯罪」の定義を巡る議論等、国際人道法に関する規範作りへの積極的参画や、裁判官をはじめとする日本人職員の輩出等を通じて、同分野について積極的に貢献していきたいと考えている。
■ Q ■ ネパールのマオイストの軍は、素人軍団に武器を持たせたようなレベルの要員もおり、武器管理が始まった段階での国連からの質問内容はあまりにハイレベルであったという問題があったとも聞いている。日本から派遣されているミッションには、文民による派遣も含まれているのか。
■A■ 自分もネパールの現場を見てきた。PKOや政治ミッションにおける文民の役割は、非常に重要である。ネパールの場合も日本人は数人いるが、まだまだ少ない。一般論ではあるが、アジアを対象とする活動に関わるポストでも、積極的に応募してくるのは欧米の人が多く、アジアの人は少ない状況との話を聞いた。このようなギャップを正していきたい。また、紛争直後に支援が立ち上がる際には、国連職員の中から、個別の行政分野については十分な経験を持っていない文民が統治、アドバイスに関わる場合もある。専門的な経験・知見を有する実務者が活躍できる余地は大きい。
■ Q ■ JPOの予算、規模が減少している中で、 人材育成事業が立ち上げられるのは望ましいことであり、今後の発展を期待している。研修員のバックグラウンドとしては、JPOと比べてどのような職務経験を持っている人が参加しているのか。 6ヶ月の研修機関で、実際に一人当たりどれくらい投資しているのか。また、派遣先の選定はどのようにして決めているのか。
■A■ 日本人は92名が応募し(応募者は女性が多い)、女性13名、男性2名が合格した。職務経験については、例えば、(a)メディア等での勤務経験のある人が、仕事を辞めて欧米の大学院に留学し、卒業直後に応募した人、(b)開発分野での長年の経験がある方々で、平和構築関連の活動の幅を広げようとしている人、(c)NGOで現場での経験があり、キャリアアップを目指して応募してきた人等のケースがある。本事業の費用は1億8千万円で、日本人研修員は、約10万円を各自負担している。派遣先とのマッチングについては、本人の関心分野を踏まえ、UNDP、UNICEF、UNHCR等の国際機関の現地事務所や、選挙・憲法支援などに取り組むNGOの現地事務所等を選定した。
■ Q ■ 平和構築において民間企業が果たせる役割にはどういったものがあるのか。
■A■ 持続可能かつインパクトが大きいという意味において、企業には本業を通じて貢献をしてもらうというのが一番である。リスクを見越してヘッジをかけつつ、平和を促進するような形で投資を行ってもらうのが最も有益である。また、最近では、日本の衣料メーカーのネパール難民へのフリース素材提供等、本業を生かしつつブランド価値を高めるという観点から平和構築に貢献するという事例も見られる。このように、ウィン・ウィン関係を育てていきたい。
■ Q ■ 平和構築に関しては、欧米諸国でも人材育成が既に行われていると思うが、日本の本事業の研修内容の欧米との違いは何か。
■A■ 欧米の研修機関には、紛争解決やDDRに重点を置いたコースも多いが、今回の事業の研修員の中は人道、復興、国づくり関係に関心をもっている人が多く、日本における各種の経験や事例も豊富なので、そこを手厚くしていくことも大切ではないかと感じている。いずれにせよ、今後、本事業独自の付加価値を付けていくことが重要であり、今後研修内容を一層強化していきたい。
■ Q ■ 平和構築と一言で言っても、紛争直後の治安安定前の状態から、開発への移行など様々な局面があるが、人材育成をするときに、どこの局面の平和構築を目指しているのか。また、日本やアジアからの発信を打ち出すのであれば、研修後は各機関に散らばるのではなく、それらの育成した人材を集めた一機関を作るというアイディアの方がよいのではないか。
■A■ 平和構築のどこの局面に絞るかについては、今回は初めてのパイロット事業ということもあり、比較的幅広く設定した。どのような局面で活躍する上でも核となるような「一般教養科目」を履修してもらい、様々な分野の人との繋がりを持てるような人材の育成を目指した。全般を理解し、平和構築の局面全般における相場感がわかるような研修内容という点で付加価値があったのではないかと思う。また、研修員には、それぞれの研修先から「現地レポート」をもらうとともに、現地の実務研修を踏まえた論文を執筆してもらい、将来履歴書にも記載できるようにすることも検討中である。これは、日本とアジアの視点を集約するという観点からも有用と考えている。
■ Q ■ 人材育成事業に応募時の年齢制限はあるか。
■A■ 本年度については特に設けなかった。本年度の研修員の日本人の最高年齢は30歳代、アジア人の最高年齢は40歳代であった。パイロットということで、幅を持たせるため、職務経験が少ない人も選考した。来年度以降については、平和構築の現場で将来的に働く可能性があるということに重点を置きつつ、本年度の結果を踏まえて、今後検討したい。
■ Q ■ 既に英国や米国では平和構築の修士課程はたくさんある。その中で、わざわざお金をかけて日本で新たに人材育成事業を行うというメリットは、日本から発信するという以外に何があるのか。
■A■ 海外の大学院で勉強したい人のニーズと重複しないように配慮している。例えば、修士号は取ったものの、現場に行くために更なる経験や人脈等のステップアップが必要な人を後押しする役割を果たしたいと考えている。
■ Q ■ アフリカ等で干ばつや環境問題等による紛争も増えているが、どういう要因で紛争が起っているのか、学術研究成果を現場での援助に生かす仕組みはあるのか。
■A■ 学術的な研究成果は、必ずしも現場で即座に活用できるわけではない。対象範囲を絞り、学術的に突き詰めた研究は、実務から見て費用対効果が少ない場合もある。他方、学者による各種の概念・事例の整理は実務者にとって有益であり、例えば「実務者用ガイド」といった本やペーパーを書いて頂ければ、多くの人に活用されるのではないかと思う。実践的な政策研究に向けて、研究者の知見と実務者のニーズを突き合わせながら協力することが求められている。
■ Q ■ アフリカに焦点を当てたいということだが、日本の国益を考えると、なぜアフリカかという疑問はある。その点に関する国民の理解はあるのか。
■A■ 2001年の森総理(当時)の演説で、アフリカは日本外交の試金石である、というくだりがあった。日本はアジアを中心とした地域国家なのか、グローバルな大国なのかという議論もある。日本が世界の中でどういう役割を担っていくことが日本の国益に資するのか、長い歴史を見据えて、戦略的に考える必要がある。今の日本は、世界の平和と安定の確保に積極的、主体的に関わって行く存在なのか、それともそのようなことは他国に任せて、自国とアジアに関心を持つだけで生き延びられる国なのかを考える必要がある。GDPで見た時、日本は世界の大国であって、世の中の公平感を踏まえれば、日本が世界に貢献しないという選択肢は、世界の多くの国との関係で、持続可能なものではない。日本国内で社会政策をやっているのと同じように、国際社会においても社会政策が必要である。日本の生存を確保する観点だけから見ても、国際社会における弱者に対して相応の貢献をしていくことは不可欠である。
■ Q ■ キャリア支援を大きな目標にしているのであれば、国がやる必要性は何なのか。ニーズを分析した上で、どこかのセグメントに戦略に特化してやる方がいいのではないか。
■A■ どのような事業内容とするのが日本の国益・役割にかなうかという観点から考える必要がある。応募者の研修ニーズを見極め、それに特化するというのは極めて困難な作業である。また、この事業には国内啓発効果もあり、平和構築に関する幅広い分野・ニーズを対象に研修事業を立ち上げれば、平和構築に対する国民レベルでの関心と理解が深まり、議論が進むことも期待される。研修事業、キャリア支援、知的貢献の組み合わせによるレバレッジ効果も狙っている。対象とする部面を絞ってしまうとそういう効果が少なくなる。以上のようなことも含め検討した結果、初年度は現在のような形となっている。今後、多くの皆様のご意見・ご示唆を踏まえて、一層効果的な事業になるよう工夫していきたい。
議事録担当:石塚