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第5回
国レベルでの国連調整問題
三浦 順子さん
国連中国常駐代表室
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第6回 2005年7月1日開催

「新たな援助潮流への日本の貢献を目指してーJICAの課題と挑戦」

小島 誠二さん
独立行政法人 国際協力機構(JICA) 理事


 はじめに
■1■ JICAとは何か?
■2■ JICAは何をするところか?
■3■ 独立行政法人化した後JICAはどう変わったか?
■4■ JICA改革とは何か?
■5■ JICAは日本のODA全体の中でどのような位置を占めるか?
■6■ 新しい援助潮流の中でJICAはどうしようとしているか?
 質疑応答


■ はじめに

20年近く前、アジア開発銀行で働いていた。その後、外務省経済協力局において、開発調査、年次協議、国別援助計画等を担当した。私が担当したODA大綱は1992年に策定されたが、その改訂の過程を見ると国民のODAへの関与の仕方が変わり、広がったと感じる。1999年から再び経済協力局でLLDC向けODAのアンタイド化問題等を担当し、今回、JICAにおいて総務、人事、企画・調整、援助協調等を担当することとなった。NYやDCの開発フォーラムでJICAが何をしているかについてお話ししたい。特に、日本政府関係者以外の外部の方々に話を聞いていただいて、ご意見を伺いたい。

本日の話では、重要であるが、応えることが難しい課題を取り上げたい。アメリカで勉強したり、仕事をしておられる皆さんから、こんな風に考え、直していけばいいのではないかというようなご意見をいただきたい。ODAに対しては批判が多いが、最近は日本のODAのことをよく理解して発言し、また、調査結果・データを示してくれている人もいる。例えば、小泉総理はアジア・アフリカ会議に出席された際、アナン事務総長と会談された。その際同席していた(と思われる)ジェフリー・サックス教授は、日本のODAが最も効果的に実施されている(best followed)と評価した。メディアではあまり取り上げられ なかったが、こういう評価をしてくれる人もいることを嬉しく思った。

■1■ JICAとは何か?

(1)1954年の社団法人アジア会から、1962年に海外技術協力事業団及び1974年に国際協力事業団を経て、2003年に独立行政法人化された。法的には二つの側面を指摘できる。すなわち、JICAは独立行政法人としての共通性(他の独立行政法人と一律の取扱い)とODA(技術協力)の実施機関としての独自性を有する。

(2)事業実施は、まず5ヵ年の中期目標・中期計画を立て、年度計画をもち、各部署別の計画を作って、外務省に提示して、実施の上、自ら評価を受けるという体制になっている。いい意味で緊張感を求められている。仕事の仕方は、独立行政法人化によって劇的に変わっている。

■2■ JICAは何をするところか?

(1)JICAの仕事は幅広い。技術協力を中心として、その他の仕事も多い。新たな内容としては国民参加型の事業。NGOや大学との連携などが対象。従来から行っていたが、法律に書き込まれた点で新しい。

(2)それでは、技術協力とは何か。DACの定義(開発途上国の人々の技能、知識、技術ノウハウ及び生産的な素質の水準を向上させることを目的とする全般的な支援活動)が一般的だが、JICAの定義は文面上これより若干狭いかも知れない。Investment Related Technical Cooperationも重要な仕事。

(3)JICAの行っている技術協力は、以前は技術移転が中心であったが、現在では制度構築やcapacity developmentへと広がってきている。今日では、人々が自ら設定した目標を達成できるよう支援すること、自らの課題の解決能力を向上させることができるよう助けること、そういった能力を外からもたらすのでなく、人々に備わっているものが内発的に発展できるよう援助すること、そういった活動全般が含まれる。その課程で、個人、組織及び社会を総体的に捉える取り組みが求められる。

(4)資金協力との連携、資金協力と技術協力との一体的実施も拡大している。例えば、農村に住む人々自身が道路を作ったりすることを支援すること等。OECD/DAC(開発援助委員会)への報告をどうするかは別として、実際には、資金協力と技術協力とを分けることが難しいことも多い。

■3■ 独立行政法人化した後JICAはどう変わったか?

(1)業績が評価されることが大きな変化。弾力的な財務管理。自立的な組織、すなわち組織の改革が行いやすくなった。管理職ポストを1割削減した結果もあって、決裁の効率化(所要時間の4割減)等のポジティブな結果も得られている。

(2)「復興」という形で、平和構築支援が法律上明記された。イラク、アフガニスタン、チャド、ガザ、ジェリコ等アフリカを中心として活動を広げている。

(3)7月より、ファースト・トラック制度を導入。最短で45日でプロジェクトを始める。自然災害や紛争後の支援を念頭においている。緒方理事長の強いイニシアチブのもとで成立した。

(4)業績評価。中期目標や計画には具体的な数値目標が掲げられている。具体的な投入、たとえば長期専門家,コンサルタントを1割減らす等の目標。数値目標の7割は既に達成できている。多くが前倒しで達成できているということである。

(5)質の向上も重要。例えばプロジェクト単位でなく、プログラム単位での取組みを行っている。現場主義実現の結果、リソースが足りなくなり質が落ちてはいけないので、優先順位の低い仕事を減らすという取り組み、また、優先順位の高い仕事を効率的に実施するという取り組み、すなわち業務軽量化を進めている。私見では10%くらいは減量しないと業務がうまく遂行されないと考えている。

■4■ JICA改革とは何か?

(1)第一弾として16年度は、まず現場主義の促進。中期計画では本部から在外へ200人を異動する予定。56の在外事務所から、30の重点事務所を指定して、プロジェクトの形成から評価までを在外主導で行い(在外主管案件)、本部はこれの支援に徹するという方式を導入した。また6つの地域支援事務所を設立して、プロジェクト形成支援や会計等の管理業務支援を行うようにしている。

(2)その他、1994年に出された人間の安全保障の概念を現場に適応できるようにする。7つの視点を導入し、案件を人間の安全保障の視点からチェックする。モデル案件を導入する。典型的な人間の安全保障案件を形成し、共有する。

(3)効果・効率性。ODAでは何十年も言われてきたことだが、数値化して評価することが新しい。また、迅速性はこれまであまり言われていなかったこと。ウォルフェンソン前世銀総裁が世銀に来て最初に言ったことが「スピード」だったのは興味深い。津波等の自然災害への対応や紛争後の開発への切れ目のない支援に当たって要請される。通常業務でも、ローリングプランを作ること等によって、迅速性を高めることは重要。変化が早い国際社会への迅速な対応を重視する体制を目指している。

(4)17年度については、研修員受け入れ体制の強化。DAC等の様々な場で、特に技術協力はサプライドリブンだと言われ続けている。日本の技術協力についてはそのような批判はあまり当たらないのではないかと思うが、研修員受け入れについて、途上国のニーズに一層合致したものにしていく必要がある。途上国のニーズと受け入れ体制のマッチングを向上させたい。JICAのその他の活動、典型的には技術協力プロジェクトへの統合、もっと言えば、プログラムへの統合を進めたい。

(5)もう一つ、NGO、大学等の市民団体との連携を図る。先ほどUNDPとの幹部と話していたが、UNDPとの競合があるとすればCivil Society Organizations (CSO)だと言っていた。JICAとしては、むしろこれらの組織との一層の連携を進めたい。

(6)調査研究、人材育成の強化。JICAの強みは現場を持っていること。1954年以来の主としてアジアでの知識・経験の蓄積がある。今も積み重ねられている。それがエピソードとしては語られても、十分、概念化・体系化・理論化されてこなかった。現場から帰ってくる職員、専門家、その他の援助関係者から情報を得て、調査研究の中で蓄積することを目指している。国際協力総合研修所を中心にやっていこうとしている。

■5■ JICAは日本のODA全体の中でどのような位置を占めるか?

(1)JICAは「技術協力をするところ。ODAの実施機関」と言われる。それはその通りであるが、実際には、技術協力と資金協力、さらには政策と実施とはなかなか区別することが難しい。現場からのフィードバックがないと政策の立案・改訂はできない。政策は政府、実施はJICAという仕分けになっているが、一緒に考え、実施していかないと、うまくいかないのではないかと個人的には感じている。

(2)一般会計ODA予算の20%くらいがJICA予算。技術協力は外務省(JICA)以外にも多くの府省が担当。大雑把に言って外務省(JICA)が半分を、その他府省が残り半分を担当。

(3)開発調査は、その結果が無償資金協力や円借款に繋がる技術協力。資金協力との典型的な連携の例。

(4)二国間ODAの地域別実績。アジア重視だが、その割合は下がっている。JICAの場合もそうである。JICAの場合はアフリカの割合が増えている。ただし、円借款が出にくいので政府全体ではそうとも言えない。2005年度でJICA予算の20%がアフリカ向け。政府は今後3年でアフリカ向け援助倍増を明らかにしたが、JICAがどの程度増やしていくかについて、まだ結論は出されていない。

(5)特徴的なのは、中南米、大洋州の割合が高いこと。大洋州ではJOCV、中南米は日系移民とのつながりによると思われる。中長期的には、その割合は減少するのではないかと予想される。

(6)ODA関係者の数。政府その他の関係者のうち、半数以上をJICA職員が占めているのではないか。アフリカに行くと、その比率はもっと高くなる。約8割がJICA関係者と聞いたことがある。JICAは人の面で重要な位置を占める。

■6■ 新しい援助潮流の中でJICAはどうしようとしているか?

(1)率直に言うと、技術協力というのは一番対応しにくい部分があるのではないかと思う。戦略、基本方針を持って、事業を進めることが大事。国別事業実施方針、地域戦略というものを作りながら事業を行うこと。また、アフリカの重視。それに応じた予算配分・人員配分を行うこと。

(2)二番目として、各ドナーが個々別々の目標・戦略をもって援助するのではなく、共通の目標をもって、その達成に努力することが大切。ミレニアム開発目標(MDGs)については、JICAとして何をすべきであるかを検討し、そのための努力を行ってきた。お手元のパンフレットには、MDGsの実現と人間の安全保障、capacity development及びインフラ整備とがどのような関係にあるかが説明してある。なお、JICAとしても、インフラを重視しており、ガバナンス、貧困、インフラを総合的に捉えたアプローチをとっていきたい。この点については、UNDPとも議論をしている。

(3)Poverty Reduction Strategy (PRS)体制への参加。第二世代が始まりつつある。UNDPは色々な考えをもっている。PRSPの作成及びその評価・モニタリングの課程にJICAとしてできるだけ関与していきたい。アフリカでは、まだまだ手薄だが、大使館と比べれば多くのJICA関係者が在勤しており、援助調整の専門家もいるので、セクター別ドナー会合などの場にできるだけ出ていって、意見を発信していきたい。

(4)新しい援助モダリティへの対応。効果的な援助の実施に向けてJICAとして何ができるか。一般財政支援についての政府方針とは別に、例えば、公共財政管理のための技術協力は行っていきたい。

(5)ローカル・リソースの活用、すなわち現地調達や現地コンサルタントの活用を進める。

(6)その他、プログラム化を推進して、プロジェクトが総体として効果が発揮でき、持続可能な結果が得られるようしていきたい。

(7)専門家には、省庁推薦の専門家と公募による専門家とがあるが、最近では公募による者が約1700人のうち約700人を占めている。

(8)JICAが国際援助コミュニティに対して何が貢献できるか。バーグ報告(1993年。UNDPが外部委託により作成)には技術援助に対する問題点の指摘と解答が書かれている。自分も、読んでみて、違和感を覚えた。一番違和感を覚えた点は「専門家・カウンターパート・モデル」は破綻していると批判されていた点。少なくともアジアにおける日本の技術協力では、破綻していないのではないかと思った。途上国のオーナーシップ尊重による共同案件形成、利害関係者間での合意形成、専門家・カウンターパートによる信頼関係、既存の組織の活用、そういったことが日本の技術協力では行われてきたと考える。アジアでの経験がそのまま使えるわけではないにしても、アフリカ支援にも活かせるのではないか。また、南南協力はそのための手段を提供することができるのではないか。

(9)近年、重要とされるイシューに対し、いっせいにドナーが走っていく傾向が見られる。日本として、重要と考えるセクター・課題に対して一貫した支援を行い、援助コミュニティ全体としてバランスが保たれるようにすることも必要なのではないか。


(担当:長島)

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