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「気候変動への適応」

隈元美穂子さん
国連開発計画(UNDP)エネルギー・環境グループテクニカルアドバイザー

2010年2月23日開催 

於:国連人道問題調整部会議室
国連フォーラム主催勉強会



■1■ はじめに
■2■ 地球温暖化の実際と将来予想
■3■ UNDPの取り組み
■4■ まとめ
■質疑応答■  

 

■1■ はじめに

現在のポストに至るまで、九州電力で勤務後、コロンビア大学公共政策大学院(SIPA)を修了、国連に入ったのち、2年ベトナムで勤務し、本部(UNDP)に移って7年になる。
 UNDPは、民主的統治(Democratic Governance)、貧困削減(Poverty Reduction)、紛争予防・復興(Crisis Prevention & Recovery)、環境・エネルギー(Environment & Energy)の4つの柱がある。環境・エネルギー分野の内部は、生物多様性や気候変動(緩和・適応)、水、有害物質管理等のセクターに分かれているが、(講師は)気候変動・適応グループで勤務している。
 UNDPは、166カ国の事務所、各地域事務所、本部の三層構造をしているが、(講師は)本部で主にアフリカをサポートしている。

■2■ 地球温暖化の実際と将来予想

(図1)


 

上記図1のとおり、地球に届く太陽光は、大気に反射される部分と地上に届く部分に分かれ、地上に届いた太陽光も、地表や海に吸収されるものと反射されるものがある。しかし、その地表に反射された太陽光も一部は温室効果ガスによって再反射され、結局地球に吸収されてしまう。このようにして、温室効果ガスは本来であれば吸収されなかった太陽光まで地球に吸収させてしまうことによって、地球温暖化をもたらす。

(図2)

温室効果ガスは、主に二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素(N2O)等があるが、図2のとおり、産業革命以降、大気中の温室効果ガスの割合は急激に増加してきている。 また、図2と図3を比べれば、温室効果ガスの増加と気温の上昇は、同じような動きをしていることが分かる。

 

 

 

 

 

(図3)


 地球温暖化/気候変動を考えるにあたって、気をつけるべきポイントは以下の3点。
@ 気候自体は常に変動
過去にも氷河期等があったとおり、気候自体は常に変動してきている。現在の問題は、過去と比べて大きなトレンドとして急激に気温が上昇していること。「今年の冬は寒かった」等の短期的視点ではなく、中長期の視点(大きなトレンド、平均気温の上昇)等が重要。
A 多くのパラメーターを観察する必要性
気候変動を考えるにあたっては、気温のみならず降水量の変化、水面上昇、異常気象の発生度・規模の大きさ・発生するまでに要する時間等、様々な専門家の知見を集める必要がある。

(図4)

 例えば、図4左の2つの図からは、気温上昇に関する予測は、冬の高緯度地域で顕著であることがわかる。  一方で、図4右の降水量については、一定程度の予測はなされているが、様々なモデルで出される想定の不一致がみられ、予測が難しい。又、異常気象に関する将来予測は現時点ではまだ難しいとされている。

 

 

 

 

 

B 過去のトレンドと将来予測
気候変動に関するグラフは、過去のデータから抽出した動向と、それに基づく将来予測の二つからなる。将来予測の部分は、様々な想定が置かれており様々な不確定要因が含まれているために、注意が必要 (将来の経済の動向、人口動向、気候メカニズムの不確定部分等)。例えば、現状の状況を維持した場合には最高で6℃ほど上昇するという予測もでている。COP15(コペンハーゲン)での目標は2℃に抑えるであった。

C将来気候予測のダウンスケール
現時点で、様々な気候の将来予測のシミュレーションが行われているが、地域規模でみると非常に大きな範囲に対する情報しか得ることができない。よって、これからの課題としては、シミュレーションの解析度を高めていき、国レベルではなく、地域レベル、コミュニティースケールで、将来気候予測情報が実在し、それを地域の人々が使用することができるようにする事が重要である。
例:日本の専門家が「猛暑がどれぐらい増えるか」というシュミレーションについての研究成果(図5参照))

(図5)Projected number of hot days for Japan (from Hasumi & Emori 2004)

 

 

 

 

 



■3■ UNDPの取り組み

 UNDPは貧困撲滅が中心的テーマであるが、その視点からは特に、農業、防災、衛生、水資源、環境等といった分野が気候変動に脆弱といえる。
 例えば農業分野でいうと、徐々に気候が高まり、降水パターン、異常気象傾向が変化していくなかで、従来の方法ではリスク管理が十分ではなくなってくる。また、衛生面でも生じる疫病が変化するといった悪影響が生じる(ブータンでのマラリア)。
 特にUNDPでは以下の5つの要素に注目して、発展途上国に対する支援を進めている。途上国は、先進国に比べ気候変動に対し脆弱であることから、支援は不可欠。
 @ 農業生産性の減少 (Reduced Agricultural Productivity)
 A 水の安全保障上の脅威の増加 (Heightened Water Insecurity)
 B 異常気象の脅威の増加 (Increased Exposure to Extreme Weather Events)
 C 生態系の崩壊 (Collapse of Ecosystem)
 D 保健衛生のリスクの増加 (Increased Health Risks)
 E海岸線の管理(coastal zone management)

 そして、UNDPは緩和(mitigation)と適応(adaptation) を二つの柱としている。緩和は、気候変動の原因を元から断つ措置であり、先進国、もしくは急速に発展を遂げている国(中国、インド等)が行う措置が中心である。適応は、変化していく気候に対して適応していく支援であり、発展途上国に対する措置が中心であり、UNDPは100カ国程度に支援している。

(図6)

何を持って「適応」支援というのか、というのは定義が難しいところがある。基本的には、図6のとおり、現在の適応能力を、将来予測(図6赤線)まで高めることが適応支援となる。但し、多くの国が既存のリスクに対しての対応も十分でない場合が多く、適応をサポートする際には、現時点でのリスクと共に将来気候変動によって追加されるリスクに対応することができるようになるように支援をおこなっている。

 

 

 

農業分野における具体的な適応支援の数例は以下のとおりである。
(図7)

 短期・長期視点からの適応対策というのは変化し、例えば、農業支援に関して、気候変動の影響が小さい間は、三毛作にしたり、農業以外の経済活動に参加することによりリスクを分散される等の対応が考えられるが、それが長期的に見て影響が大きくなると、栽培する作物を変更したり耕作地を拡張するような支援も考えられる。


■4■ まとめ

 気候変動の将来予測は不確定要因が多い。確実な予測が存在するわけではないので、国がそのような不確定要因がある中どのように対応していくかということが今後の重要課題である。  また、各国は既に様々なリスク要因と対応してきており(経済リスク、災害リスク、環境リスク、政治的リスク等)、気候変動は、そのような既存のリスクに更に新しくリスクが追加される訳で、国としては、これらの多様なリスクにどのように効果的、効率的に対応していくかをみる総括的なアプローチが重要となる。




■ 質疑応答

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議事録担当:錦織
ウェブ掲載:斉藤亮



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