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第57回
平和構築-復興から開発への移行
山本 愛一郎さん
JICA米国事務所長
黒田 和秀さん
世界銀行脆弱・紛争影響国家ユニット
上級社会開発専門
児玉 千佳子さん
UNDPジェンダーチーム・プログラム・マネジャー

第56回
コソボ紛争10周年に考える −国際紛争と日本人
中村 恭一さん
文教大学教授、同大学院国際協力学研究科教授兼任
一学生が見たコソボ: 若い世代に知ってほしいこと
岡崎 詩織さん
コロンビア大学国際公共政策大学院


第55回
国際保健と人間の安全保障
〜ヘルス・システムの強化に関するグローバル・アクション〜

武見 敬三さん
ハーバード大学公衆衛生大学院客員研究員、
日本国際交流センターシニアー・フェロー 
マイケル・ライシュさん
ハーバード大学公衆衛生大学院国際保健政策教授、
武見プログラム担当教授


第54回
国連の前線から日本の国内に何を伝えるのか
〜日本が国連にできること、国連が日本にできること〜

紀谷昌彦さん
(外務省総合外交政策局国連企画調整課長)
玉内みちるさん
(ユニセフ本部人事部)
松下佳世さん
(朝日新聞社 ニューヨーク特派員)
第53回
平和構築人材育成事業の新たな展望
中込 正志さん(外務省総合外交政策局国際平和協力室長)

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「平和構築分野におけるキャリア形成」

篠田英朗さん
広島平和構築人材育成センター事務局長(広島大学平和科学研究センター准教授)

長瀬慎治さん
国連ボランティア計画(UNV)東京駐在事務所 駐在調整官

2009年7月7日開催
於:国連日本政府代表部3階大会議室
広島・平和構築人材育成センター(HPC)/国連日本人職員会/国連日本政府代表部/国連フォーラム共催 合同勉強会

■1■ 篠田さんの講演
1) 2年間のパイロット事業
2) 本格事業化に伴う変化
3) UNVとHPCとの関係
■2■ 長瀬さんの講演
1) はじめに
2) 国連ボランティア計画(UNV)とは
3) UNVによる派遣
4) UNVによるHPCの現地派遣
■3■ 質疑応答等

■1■ 篠田さんの講演
1) 2年間のパイロット事業
平和構築人材育成センター(HPC)では、パイロット事業と呼ばれていた最初の二年が成功裏に終わった。3年目から本格事業化することとなり、名称も「パイロット」から「平和構築人材育成事業」となった。事業の扱う規模も拡大し、仕組みも変わった。パイロット事業中には30人の研修員(15人日本人・15人アジア人(アジア15カ国))がおり、その柱は、第一に6週間の国内研修(平和構築の知識と技能を身につける)、第二に海外での現場研修(習った知識と技能を半年間で実践する)、第三に卒業生に対する就職支援(日本人に対してのみ)であった。96%の卒業生が、卒業後、また、現在もなお、何らかの形で平和構築に関わっている。

2) 本格事業化に伴う変化
3年目以降、このパイロット事業は「本コース」に引き継がれた。「本コース」は、25才以上の日本人に対する研修である。海外実務研修の期間が半年から一年に延長された。また、「シニア専門家向けコース」というものが新設された。これは40才から69才の方を対象としている。このシニアの方々には就職援助はあまり行わないが、継続的な派遣を行うことを検討している。既に専門的な知見をお持ちの方については1年ではなく、2年程度の派遣も考えている。研修後にもとの職場に戻ることも予定しているが、いざ緊急に派遣が必要なった場合にすぐ対応できるよう、参加者をリスト化することになった。さらには、新しく「平和構築基礎セミナー」という、夏休みに参加できるような短期間のコースも開設した。

40才以上の専門家に対し「人材育成」という概念が適用されるかという疑問はあるが、今まで平和構築の現場に従事する機会のない人に新しい機会を提供することは、広い意味でいえば人材育成に当たると考える。また、経験をさほど積んでいない若い方には、今後のキャリア構築の観点での事業を提供していきたいと思っている。

3) UNVとHPCとの関係
このプロジェクトではこれまでもUNVと協力し、UNVに派遣先の調整をお願いしてきた。さらに3年目からHPCとUNVは明確にパートナーとしての存在となり、外務省が、UNVに直接拠出金を提供することになった。人材育成を中心とするHPCとボランティア派遣を中心とするUNVの目的は、双方まったく同じというわけではないので、どのように両者にとって有意義な関係を作っていけるかが課題である。UNVが持つ世界中にある巨大なネットワークは私たちにとって最大の魅力である。世界中に人材を送ることができる。しかし、その多様な派遣先の中で、いかに平和構築の人材育成を活かすかという、その絞り込みが課題でもある。また、専門性の多様性もUNVの特徴であり、UNVはあらゆる分野の専門家を世界中のポストに送っている。平和構築も、政治学や開発学など多くの分野を含むものなので、この重なり合いは大変有意義である。ただ、平和構築の人材育成という視点を欠かさずに、研修員の専門性を活かした派遣をしていきたいと思っている。UNVが幅広い年齢を取り扱う点もHPCにとって魅力である。

■2■ 長瀬さんの講演
1) はじめに
この平和構築人材育成事業は、平和国家日本の旗印として認知されている事業で、関連国連機関としては、パートナーシップ構築の観点から非常に注目度の高い事業として認識している。従って、UNVが、これまでのパイロット事業での実績を認められ、本年度からHPCとの共同事業実施者として位置づけられたことは大変光栄である。海外実務研修の現地受け入れ先となる関連国連機関からの協力を得ながら、平和構築を国際支援の優先課題として位置づけている日本政府への、国連機関からの協力の一つとして認知されるよう取り組んでいきたい。

2) 国連ボランティア計画(UNV)とは
UNVの本部はドイツのボンにあり、ニューヨークの国連開発計画(UNDP)の本部内には連絡事務所がある。UNVは1971年の国連総会で創設され、UNDPの下部組織として活動を始めた組織である。当時は国際ボランティア派遣機関として活動を始めたが、2001年以降は「国連システムにおけるボランティアリズム推進の中心機関」として、世界の平和と開発のための市民参画の形態としてボランティアリズムを提唱し、国連ボランティアとして世界中の市民の皆様に国連の現場での活動に参加していただく機会を提供している。また同時に、国連ボランティア以外をも含む、「ボランティア」全体の認知の向上のためのアドボカシー活動、そしてボランティアが世界の平和と開発のための活動と有機的に融合し、実質的な効果と成果で貢献できるようなプログラミングを目指して活動をしている。64億の世界の人々の人生のほんの一部の時間とエネルギーがボランティア活動を通して世界の平和と開発の実現のために正しく利用されれば、確実に平和と開発のペースは変わるはずだという信念のもと、UNVは他の国連機関、政府、NGO等とパートナーシップを組んで活動している。

3) UNVによる派遣
UNVはその国際機関としての特徴を生かしてユニークかつ、多様なボランティア派遣を展開している。2008年には、世界159カ国出身の7,753人の国連ボランティアが132カ国で活動した。そのうち約80%が開発途上国出身の国連ボランティアとなっている。そしてそのうちの約30%が自国で国連ボランティアとして活動している。これはナショナルUNVボランティア・スキームと呼ばれるもので、例えば、スーダンの人がスーダンで国連ボランティアとして活動するというものである。国連ボランティアの平均年齢は37歳であり、職務経験が5年から10年あるその分野の専門家がボランティアとして活動している集団がUNVである。現在100以上の専門分野の専門家がUNV本部で管理するロースターに登録し、現地からの要請を待っている。このロースターには毎年7万人が応募し、そのうち選考基準を満たした7000人がロースター登録されている。活動分野は、ミレニアム開発目標の達成に関連する貧困削減やジェンダー、教育、HIV・AIDs、保健、環境の分野と防災、人道支援、平和構築などの危機予防や復興の分野、そして国連の平和維持活動などである。

これらの活動分野は、UNDP、UNICEF(国連児童基金)、UNHCR(国連人権理事会)、WFP(国連世界食糧計画)、UNFPA(国連人口基金)、そして国連本体などの活動分野と共通する。国連ボランティアはこれらの国連機関の現場での活動に派遣され、特に現場の最前線では、その活動の多くを国連ボランティアが担っている。途上国各国に対する国連機関の支援活動の中に実質的に統合され、目標達成のための成果を求められるという成果重視の姿勢は他の国際ボランティア派遣組織とは一線を画している。

さらにボランティア派遣の分野でのUNVのユニークさを顕著に示している活動は、国連PKOへの国連ボランティアの派遣である。これまでの実績として1992年から2007年までに43の国連ミッションに約9,000人のボランティアを派遣した。これは国連PKOの文民スタッフの約半分の数にあたる。国連PKOは国連ボランティアなしには活動できないといわれる程、その認知度が高くなっている。

4) UNVによるHPCの現地派遣
平和構築人材育成事業の海外実務研修部門をUNVが担当することになっている。HPCの参加者は海外実務研修の間は、HPC研修生であるのと同時にUNVと契約を結び、国連ボランティアとして、国連・国際機関の平和構築の現場での活動に従事することになる。従って、現場では世界中で活動している約7,500名の国連ボランティアと同等に国連並びにUNVの規定に従って活動することになる。本年度からは派遣期間が1年となり、今後はより国連機関の現場での活動計画に統合され、より結果を求められることになるだろう。

HPCの研修生の派遣にいたる流れとしては、現場からの要請と研修生の希望を考慮に入れながらマッチングの作業が行われる。最終的な派遣先の決定には、現地の要請機関の担当者とUNVの現地担当者とによる電話インタビューが必須となっている(電話インタビューで不合格になる可能性もある)。派遣先が決定するとUNV本部より通知があり、健康診断で問題がなければ、派遣決定である。航空券の予約、ビザの申請手続き、現地の当座の宿泊、出迎え等の手続きはUNV東京事務所と現地のUNV担当者がお手伝いすることになる。

UNVでは、派遣先への往復の飛行機のチケット、渡航準備費、現地到着後の着後手当、毎月の生活費の支給がなされる。派遣終了時には、帰国手当が支払われる。現地では、100%払い戻しの健康保険と生命保険に自動的に加入する。現地でのセキュリティーについては、国連の安全基準下で他の国連スタッフと同等の安全管理が保障されている。

HPCのプログラムには今年からシニアコースが加わることになったが、UNVのボランティア派遣には年齢による区別はない。下は25歳から上は80歳まで、さまざまなバックグラウンドを持った7500名の国連ボランティアが活動している。若い方々にとっては、現場での活動経験、そこで培ったネットワークが今後のキャリア形成に大きな貢献をするであろうし、シニアの方々は、これまで培ってきた職務経験によって世界の開発と平和という地球規模の問題解決に貢献できる機会が得られるだろう。そして、その機会のすべてに共通する「ボランティア」という価値を体現する、国連ボランティアとしての限られた時間の中での活動から、キャリア形成を含めて、新しい人生の可能性が必ずや広がっていくものと考えている。
                 

■ 質疑応答

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議事録担当:猿田
ウェブ掲載:由尾



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