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櫻井真美氏
国連開発計画・国連南南協力室・パートナーシップ・資源動員課チーフ


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国連事務総長官房 エネルギーに関する上席政策アドバイザー


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「世界の貿易投資動向と日本・アジア企業のビジネス展開について− 2011年度ジェトロ世界貿易投資報告を中心に」
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ジェトロ・ニューヨーク事務所 調査担当次長


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星野裕志氏
九州大学大学院経済学研究員教授
コロンビア大学ビジネススクールVisiting Fellow


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「総会活性化と総会議長室の役割」
岡井朝子氏
第66会期国連総会議長室政策調整官


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国連の課題と展望

第76回 国連フォーラム勉強会

日時:2013年3月27日(水)18時30分〜20時00分
場所:国際交流基金ニューヨーク日本文化センター
スピーカー:植木 安弘氏 (国連事務局 広報官)

 




■1■ はじめに
■2■ 広報官の活動
■3■ 日々世界で起きていることに関わる広報部
■4■ 内戦国や災害国における国連の平和的解決と人道支援
■5■ 国連PKOの役割と紛争当事者の国連活動への支持
■6■ 国連への就職に関するアドバイス
■7■ 質疑応答
■8■ さらに深く知りたい方へ

経歴:1954年栃木県今市市(現日光市)に生まれる。1976年上智大学外国語学部露語科卒。国際関係論副専攻。米国のコロンビア大学大学院(SIA、現SIPA)で国際関係論修士号(MIA)、(GSAS、政治学部)で博士号(Ph.D.)取得。1982年より国連事務局広報局勤務。1992-94年日本政府国連代表部(政務班)。1994-99年国連事務総長報道官室。1999年より再度広報局。現在広報戦略部勤務。国連コミュニケーショングループ(UNCG)も担当。ナミビアと南アで選挙監視、東ティモールで政務官兼副報道官、イラクで国連大量破壊兵器査察団報道官、津波後のインドネシアのアチェで広報官なども勤める。ジンバブエ、東京、パキスタンの国連広報センターで所長代行。青山学院大学国際政治経済学部で国連研究(学部)、国連集団安全保障論(大学院)の夏期集中講義を担当。主な著書に「イシュー・リンケージ・デリンケージ」(英)、「日本の国連外交」(英)、「冷戦後の国連安保理と日本」(日)、「事務総長選と国連の将来」(日)、「イラクでの大量破壊兵器査察」(日、英)などがある。


■1■ はじめに

今年はTICAD(アフリカ開発会議)が6月に横浜にて開催される年であり、ポスト2015年を含め、今後の大きな国際的な潮流が議論される年だ。そのような流れの中で、国連フォーラム勉強会班は3月27日、米ニューヨークで勉強会を開催した。国連の現場と本部の両方で活躍してきた国連事務局広報局の植木安弘広報官を講師に迎え、「国連の課題と展望」というテーマで参加者らは熱い議論を交わした。

植木氏は、事務総長報道官室や国連事務局広報局・広報戦略部などで国連広報の最前線にて活躍し、フィールドではナミビアと南アフリカでの選挙監視、東ティモールと津波後のインドネシアのアチェにおける報道官及び広報官、イラクにおける国連大量破壊兵器査察団の報道官等を歴任してきた。世界各地で従事した国連の活動及び課題について、自身の経験や考察をはじめ、政府高官や国連関係者とのやり取り、そして当時の政治情勢等について、参加者とともに議論した。

なお、以下の議事録の内容については、所属組織の公式見解ではなく、発表者の個人的な見解である旨、ご了承ください。


■2■ 広報官の活動

植木氏は、全世界に63ある国連広報サービスセンターを統括している国連事務局広報局、広報戦略本部に勤務している。広報戦略本部は、国連が関与している世界規模の課題に常に関与している。毎朝の広報戦略会議では、日々起きている国連の活動に対してどのようなメッセージを出すか、また記者団の質問にどのように答えていくか等を情報交換をしながら議論している。 

各国の広報センターは、国連事務総長の訪問の際に、現地での受入口としての役割を担っている。植木氏は、2009年の国連事務総長の日本への公式訪問や洞爺湖サミットの際に代表団の一員として参加した。 国連事務総長の公式訪問に加えて、広報戦略本部は世界各国での広報についても現地の広報センターと協議している。例えばエジプト・カイロの国連広報センターの所長は国連アラブ連盟合同特使のメディア担当官を兼任し、シリア紛争における国連の調停活動を広報している。セネガル首都ダカールにある国連広報センター所長はマリに展開している国連マリ政治ミッションのメディア担当として派遣され、マリにその後展開する国連平和維持活動への広報支援を協議している。

1993年にエチオピアからエリトリアが独立したが、国境問題を巡り1998から2000年に戦争が勃発した。その後の停戦監視と国境確定促進のために国連PKOが展開したが、2000年6月、植木氏はPKO設立のための広報部門の立ち上げに携わった。それ以来、新たなPKOが立ち上がった際には広報部門設立のために広報局から人を派遣している。

以上の様に、広報部門は、国連の実質的な活動に深く関わっており、その活動に組み込まれなくてはならない。
■3■ 「日々世界で起きていることに関わる広報部

2013年3月26日、国連事務総長は、シリア・アレッポでの化学兵器使用疑惑に関して、化学兵器調査団を派遣することを決め、元イラク査察官でスウェーデン出身のオーケ・セルストロム氏をその国連調査団の団長に任命した。

国連事務総長が自らの権限で派遣を決めた今回のシリア化学兵器調査団は初めての例ではない。例えば1980年代に8年間にもおよんだイラン・イラク戦争では、1980年代なかばにイラクがイランに対して化学兵器を使用したという疑惑に対して、国連事務総長が自らの権限で調査団を派遣した。イラクにおける国連大量破壊兵器査察団は湾岸戦争停戦の条件としてイラクが大量破壊兵器を放棄することを条件として1991年に派遣されたが、イラクの非協力的な態度にしびれを切らした米国がイラクを空爆した後1998年から2002年までの間イラクから退去し、査察活動を停止した。

国連査察団は2002年にイラクに戻り査察を再開した。最終的にはイラクは大量破壊兵器を開発していないこと分かったが、イラク戦争が勃発する前の2003年2月に国連査察団はイラクが90年代に製造し残存していた極めて危険で強力なマスタード化学兵器を破壊した。このマスタード化学兵器は触れると死に至る程の非常に危険な兵器であり、破壊に関与した査察要員も破壊作業に相当の冷や汗をかいたというエピソードもあった。国連の仕事は危険を伴うことも多々あることがうかがえる。

なお、植木氏は、イラクで国連大量破壊兵器査察団報道官として2002年12月から翌年3月まで4ヶ月間、現地で活動し、大量破壊兵器査察活動を国際的に広報した。その時の模様は、松本一弥著の「55人が語るイラク戦争」にかなり詳細に書かれており、また、国連内部でのイラクへの武力行使を巡る議論も描かれている。

■4■  内戦国や災害国における国連の平和的解決と人道支援

勉強会当日は、内戦の続くシリアの平和的解決に関しても議論がなされた。シリアの内戦は、すでに百万人程の避難民が出ており、避難民は大変苦しい生活をしている。国連は全機関を挙げて人道支援をしてきているが、紛争から2年経った現在も解決の目途がたたないままだ。前国連事務総長のコフィ・アナン氏は国連アラブ連盟合同特使として平和的解決を目指したが功を奏さず、現在、ラクダール・ブラヒミ氏がアナン氏の後任として調停活動を展開している。一連のアラブの春の中でもきわめて厳しく複雑な問題を抱えるシリアの内戦にとって、解決策にはレバノンの例が参考になるかもしれない。なぜなら、イスラム教系、キリスト教系など多数の宗派が混ざっているレバノンでは、民主選挙は行うものの、各宗派がバランスよく議長・大統領・首相といった主要な役職に就く、いわゆるパワーシェアリングをすることで内戦が解決に向かったからだ。

では、このような状況の中で国連にできることは何なのか?国連の存在意義は主権国家のみでは解決できないグローバルな問題に取り組む点にある。たとえば世界各地で多発する紛争では、国連は話し合いの場を当事者に提供したり、第三者として平和維持活動を行い和平調停に寄与する。世界経済では、途上地域での経済開発を促進し、持続的な開発に向けた国際協調に貢献している。このほか、難民保護や食糧援助、災害対応、環境保全、薬物取引など、国連が解決に関わる課題を挙げれば枚挙にいとまがない。これらの活動を国連が推進するにあたって重要なのは、国連が「不偏性」を保ち、また同時に「グローバルなプレゼンス」を発揮していることだ。ただし、不偏性は大規模な人権侵害や戦争犯罪等には適用されず、国連はPKOなどでも一般市民の保護をその権限に加えている。プレゼンスでは、国連は世界各地に拠点があり、グローバルなネットワークをもっている。これによって、 開発をはじめとする諸問題に地球規模で取り組むことができる。

さらに、人道的支援、調整も国連の強みである。各地域、各国と協力しながら支援をし、何らかの解決策を見つけていく。また、NGOや民間が実施する人道的支援や資金調達の効率性向上のために協働することも国連にできることである。人道支援にあたっては、現地のニーズを正確に把握することが大事である。2004年12月にスマトラ沖大地震及びインド洋津波が発生した際には、国連人道問題調整事務所(OCHA)がすぐに現地に事務所を開設して支援調整活動を行った。植木氏も2005年1月から2ヶ月間、バンダ・アチェの現場で広報官として活躍した。植木氏が現場で学んだ点の一つには、人道支援は、国際社会の善意の観点だけからみるのではなく、受け入れ側からの視点で、現地のニーズを把握し行動することが大事であるということである。


■5■ 国連PKOの役割と紛争当事者の国連活動への支持

国連は世界各地で民主的選挙の実施を支援しているが、冷戦後、国連PKOの任務に選挙監視活動が組み込まれることが多くなった。国連の大規模な選挙支援のはじまりは、1989年のナミビア独立移行支援の国連PKO(UNTAG)からである。それまでのPKOは軍隊を中心としており、文民職員がPKOに大規模に参加するすることはほぼなかった。

アフリカ南西部に位置するナミビアは、「南西アフリカ」と呼ばれたかつてのドイツの植民地で、第一次大戦でドイツが敗戦して以来南アフリカの統治下にあった。国連PKOの協力をもとに、民主的選挙を経て、1990年に独立した。ナミビア独立の過程では、軍事、警察部門に加え、選挙支援、憲法制定支援、難民帰還、人権支援等が行なわれた。1989年6月、3名の日本人職員が国連からナミビアへ派遣され、植木氏も選挙監視要員として派遣された。この例は、国連が現地政府と協力して選挙を行うという明確な目的があった事例である。ナミビアの例が示すように、明確な目的を持った派遣団は成功する可能性が高い。

一方、国連PKOの派遣がうまくいかないこともある。現地の勢力争いや受入国の同意が得られない場合や、また大規模な戦闘が行われている場合には不向きである。内戦が続くソマリアでは、国連内部でも国連PKOの派遣には強い反対があり、アフリカ連合が派遣している戦うPKO部隊が派遣されているが、現地の勢力争いを解決できていない。スーダンからの難民保護の目的で派遣されたチャドの国連PKOは、チャド政府の一方的要請のもとに撤退した。エジプトからの要請により1967年にスエズから撤退した国連緊急軍(UNEF)の事例もある。また、コンゴ東部で3月23日運動(M23)という反政府武装勢力が2012年にコンゴの主要都市ゴマを占領した際には、国連は何もできず批判の対象になった。国連PKOは、大規模な戦闘を行う体制にはないので、このような場合のPKO支援はきわめて難しい。

歴史を振り返ると、国連の関与が成功した時は、現地政府のニーズと要望に基づく介入だったことが多い。国連による介入活動が成功するどうかは、紛争当事者の国連介入や活動への政治的支持があるかどうかが鍵なのである。

国連の仕事は、安保理、外交、政治等、華やかに見られることも多いが、一方で国家間では解決できない複雑な問題を扱っており、時に危険にも直面し、困難を伴うことも多い。

アフリカにおいて国連が国家主権の壁を乗り越えてきた事例を多方面から分析した植木氏の論文を収録した出版物「世界の中のアフリカ」が上智大学出版部より出版されている。


■6■ 国連への就職に関するアドバイス

国連で働くための一つの入り方としてYPP採用試験がある。YPP採用試験は、国連で空きのあるポストを対象とし、筆記試験に際しては各ポスト各国40人を上限とした受験人数の制限を設けている。YPP受験の応募に際しては、学歴・職歴を記載する必要があり、修士号を持たない者や、職歴のない者は、受験資格を手にすることは難しい。また、国連の専門職に就く専門知識を備えていることが必要であることを十分に理解しておく必要がある。試験は、一般部門と専門部門に分かれており、一般部門の試験で基準点を満たさないと、専門部門の試験は採点されない。(正確な受験資格等については、外務省国際機関人事センターのサイトを御覧ください。)

一般試験合格のために身につけておくべきスキルとして、Pre´cis-writing (サマリーライティング)がある。Pre´cis-writingは、例えば「10分の話を2行で要約する」というものであり、日本の教育では重視されていないが、欧米での教育ではカリキュラムの一部に組み込まれている。日本の教育しか受けたことがない人にとっては特別の訓練が欠かせない。国連のウェブサイトにPre´cis-writingの指導要領が掲載されているので、それを参考にしながらその能力を磨くことが必要である。

また、一般教養に関しては、国連のウェブサイトのNews Centerの中に、国連関連分野のニュース記事があるので、毎日30分ほど時間を作り読み続ける等の準備が必要である。

世界各国、多種多様な文化出身の職員と働く環境にある国連では、自分の考えを出さない、言いたい事があっても言わないという日本的な文化を前提として仕事をしていると、周囲の人間から認められないことも多い。いかに異文化の人達と上手く仕事をするか、いかに自分の価値を上げるか、ということを常に意識して行動するとよいだろう。


■7■ 質疑応答 

質問:国連が実施しているリーダーシップトレーニングとは?
回答:リーダーシップトレーニングは、ビジョンを持って人をどのように引っ張っていくか、というリーダーシップクオリティの向上を主眼としたトレーニング。自分の上司・同僚・部下の全員から評価をもらうという360度アセスメントをコンサルティング会社に依頼して実施するもの。対象は、これから更に昇進していくと思われる部長クラスの人物。尚、国連は職員のトレーニングに力を入れている。

質問:地元の支持を得るために国連がしていることは何ですか?
回答:様々な手段を用いた広報活動をしている。ラジオ放送、移動式芝居、ビデオ活動、地元の人をトレーニングして情報を流していくなど、その土地に応じて工夫した広報を行い、国連活動への理解促進に努めている。

質問:どのように情報を収集・分析・管理しているか?
回答:国連にはいろいろな情報収集、分析、管理の仕方がある。例えばPKO局にはSituation Centerという24時間体制の情報管理室がある。また、最近UNOCCという新たな情報収集機関が設立され、危機管理情報が一点に集まるように努力しており、UNOCCを通じ必要な情報が取得できるという体制を構築しつつある。


■8■ さらに深く知りたい方へ

このトピックについてさらに深く知りたい方は、以下のサイトなどをご参照下さい。国連フォーラムの担当幹事が、下記のリンク先を選定しました。

55人が語るイラク戦争 9.11後の世界を生きる (松本一弥著)
http://www.iwanami.co.jp/moreinfo/0229150/top.html

Department of Public Information, United Nations
http://www.un.org/en/hq/dpi/

Pre´cis-writing
http://www.unlanguage.org/Careers/Translators/Precis/default.aspx

国際連合広報センター
http://www.unic.or.jp/

国連平和維持活動の50年
http://www.unic.or.jp/recent/act50_b.htm#a17

内閣府 国際平和協力本部事務局
http://www.pko.go.jp/PKO_J/organization/researcher/atpkonow/article011.html

議事録担当:志村 洋子、辻之内和基
ウェブ掲載:羅 佳宝