「援助協調促進のための新興ドナーとの情報共有を実現させよう」
JICAシエラレオネフィールドオフィス企画調査員
久下 勝也(くげ かつや)さん
略歴:2002年4月:JICAへ入団、2002年4月〜2005年4月:JICA無償資金協力部、2005年5月〜2007年2月:JICAガーナ事務所、2007年2月〜:JICAシエラレオネ・フィールドオフィス
「援助効果向上に関するパリ宣言」に代表される援助協調への取り組みが、援助の潮流となり数年が経過した。限られた人員・予算の中、貧困削減および持続的成長を実現させるため、援助協調による援助効果・効率の向上が必要なことは論を待たない。しかしながら、その手段として主流となりつつある財政支援や援助手続きの調和化等への考え方・取り組み方には各ドナー間で相違があり、各種ドナー会合を時に緊迫させている。特に、参入する新興ドナーが増加しつつある中、援助協調の進め方にはさらなる配慮が必要になっている。
「私の提言」では、筆者が現場で携わっているシエラレオネのエネルギーセクターに焦点をあて、参入ドナーが多角化する中での新興ドナーとの援助協調、特に、情報共有のあり方について考察を行う。なお、ここで述べられる考えは、筆者個人のものであり、組織の意見を代表するものではないことを予め断っておきたい。
シエラレオネでは、いわゆる新興ドナーの参加が、経済開発セクター、特に、インフラ整備分野を中心に増加しつつある。例えば、エネルギーセクターでは、日本や世銀、DFID、EC、AfDBの他、表1のとおり、中国やイスラム開発銀行、モロッコ、OPECが支援を開始している。この内、シエラレオネの援助調整機関の1つであるDACO(Development Assistance Coordination Office)で援助内容や援助額を把握しているのは、表2のとおり、イスラム開発銀行のみである。また、実施機関であるエネルギー省では計画・調整ユニットが、新興ドナーのおおよその援助内容を理解しているが、正確な実施期間を含めた詳細までは把握していない。このような情報共有の不足は、エネルギー省による効果的・効率的なセクタープランを通したドナー援助の活用計画の立案を困難にしているだけではなく、ドナー同士の援助動向の確認を極めて煩雑なプロセスにしており、セクター援助方針の形成を妨げている。
表1. シエラレオネのエネルギーセクターにおける新興ドナーの活動
表2. シエラレオネの全セクターにおける各ドナーの援助額(2006年、DACO調べによる)
情報共有を難しくしているシエラレオネ側の要因として、エネルギー省に各ドナーの活動をセクタープランとの整合性を確保しつつ、調整・モニタリングできる人員が1名しか配置されていないことがあげられる。
一方、新興ドナー側の要因として、そのほとんどが現地に支部を設置していないことが考えられる。エネルギー省側が新興ドナーと援助計画・内容について話し合える手段は、本部にいる担当との電話・メールか本部からの調査団訪問時の協議に限定されるが、この内、電話・メールによる通信は、エネルギー省側の話によると、通信費コストや言語の問題でほとんど行われていない。また、現地に支部を設置している新興ドナーもあるが、セクター会合に出席していない。これについては、そもそもパリ宣言等に参加しておらず、援助協調に関心がないためとも考えられるが、支部に案件を把握しているスタッフが配置されていないことが大きく影響している。
以上のように、新興ドナーとの情報共有を図る上では、実施機関であるエネルギー省の調整能力強化と新興ドナーの案件担当者との情報共有体制の構築が必要と考える。
i)短期的な視点
(1) 実施機関であるエネルギー省の調整能力強化
各ドナーの活動をセクタープランとの整合性を確保しつつ、調整・モニタリングするカウンターパートの能力強化を目的としたアドバイザーの派遣が先行ドナーに求められる。また、先方実施機関側でもカウンターパートの数を増やす必要がある。この際、増員のための人件費を実施機関側で確保する必要が生じるが、できない場合は、財政支援等の枠組みを利用するか、人件費支援を行えるドナーを探す必要がある。
また、上記アドバイザーがセクター内の援助調整を実質的にリードすることになるため、実施機関は派遣を依頼するドナーを選択する際、依頼先ドナーと新興ドナーの関係に配慮する必要がある。なぜなら、新興ドナーの多くは被援助国であり、本国支援において、ドナーとの関係が必ずしもよくない場合、情報共有への協力を躊躇する可能性があるからである。
(2) 新興ドナーの案件担当者との情報共有体制の構築
まず、実施機関は、新興ドナーの援助概要を把握するため、調査票を作成し、各ドナー担当者に送付する必要がある。上記のとおり、メールによる交信が困難な場合は、新興ドナー本国に支部を持つ、先行ドナーに本部担当者への聞き取り調査を依頼することも可能と考える。また、セクター会合に、このような調査機能を付与することも考えられる。
ii)長期的な視点
援助を卒業した(しつつある)新興ドナーの援助や宗教を等しくする国同士の援助は、今後ともなくなることはないと考えられる。一方で、パリ宣言等に参加していない新興ドナーを財政支援や援助手続きの調和化等の援助協調の枠組みに乗せるのは難しい。先行ドナーは、このような状況を踏まえ、援助協調の枠組みを新興ドナーに強要するのではなく、情報共有体制の構築を図り、緩やかな連携体制を確保すべきと考える。また同時に、自己の援助規模が大きいことの責任を踏まえつつ、援助国側の手続き軽減等、パリ宣言を促進していくべきと考える。
以上
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2007年10月25日掲載
担当:中村、菅野、宮口、藤澤、迫田