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石川 雅恵さん
国連人口基金 広報渉外局資金調達部

石川雅恵(いしかわかえ):神戸生まれ。関西学院大学社会学部卒。オレゴン大学国際学部学士。神戸大学大学院国際協力研究科法学修士。同大学院博士課程在籍中に外務省専門調査員試験に合格し、1998年より日本政府国連代表部専門調査員。UNICEF本部コンサルタントを経て、2003年よりUNFPAにて現職。

Q. いつ頃から、また、なぜ国連を目指されたのですか?

小さい頃から、国連に対する漠然とした憧れは抱いていましたが、具体的に国連で仕事をしたいと考えはじめたのは大学院に入学してからです。大学院では国際人権法を専攻とし、その中で国際社会における法の番人としての国連の役割に関心をもつようになりました。しかし、当時は、国連といってもメディアから得た知識に基づいたイメージしかありませんでしたので、未だ漠然とした考えではありました。

その後、博士課程在籍中に、外務省が国連代表部における人権分野担当の専門調査員を募集していることを知り、応募した結果、1998年よりニューヨークに着任することとなりました。専門調査員としては、主に国連総会第三委員会や婦人の地位委員会にて女性の人権に関する事案を担当しました。

第三委員会では、女性の人権と併せ、子どもの人権についても議論が行われるのですが、その関係もあり、専門調査員の任期を終えた後は、2001年12月に開かれた「第2回児童の商業的性的搾取に反対する世界会議」を担当するコンサルタントとして国連児童基金(UNICEF)で働くこととなりました。

コンサルタントとしての短期契約を数回延長しながらUNICEFで約2年間働いた後、国連人口基金(UNFPA)が日本などを担当する資金調達担当官を探しているという情報を知人を通して耳にし、2003年5月より現在のポストに着任しました。

UNFPAはリプロダクティブヘルス(性と生殖に関する健康)の観点から女性の人権保護を推進している国連機関ですので、現在の仕事は、専門調査員の頃に関わっていた仕事とも関連深いといえます。

Q. 国連におけるこれまでのお仕事について教えてください。

UNFPAでは、広報渉外局資金調達官として、拠出国からUNFPAの活動に必要な資金を調達する仕事をしています。資金調達部には数人の資金調達官がおり、各担当者がそれぞれ数か国を担当しています。現在、私は、日本、オーストラリア、ニュージーランド、韓国、中国を担当しています。

また、資金調達という任務に加え、各拠出国からの問い合わせなどに対するUNFPAの窓口として渉外業務も行ないます。拠出国からの質問を、UNFPA内の担当部署に照会し、拠出国に対して回答することなどを通して、日頃から拠出国との良好な信頼関係を築くことが円滑な資金調達にもつながります。

さらに、UNFPAではカントリーオフィスへの分権化が進んでおり、カントリーオフィスが独自に資金調達を行なう場合があります。このような際に、手続きや契約についての助言を行なうことも職務の一つです。拠出国からの資金調達においては、金銭を受理するための契約に関する法的な側面が重要な意味をもちますので、UNFPA本部各部署とカントリーオフィスの間にたち、契約書の文言に関する調整を行なうことも必要です。このカントリーオフィスによる資金調達と、それに対する本部からの側面支援は、より綿密な連携体制を築くなどして、これから発展させていかなくてはならない分野であると思います。

国連への拠出というと、国連分担金を思い浮かべる方が多いと思います。しかし、この国連分担金は、あくまで国連事務局の資金に対する拠出であり、UNFPAやUNICEFを含む「基金と計画」と呼ばれる国連機関は、各国の任意拠出によってなりたっています。つまり、国連加盟国としての定められた割合の義務的な拠出である国連事務局への国連分担金とは異なり、UNFPAに対する拠出はあくまで各加盟国の任意にまかされているのです。

言い換えれば、各加盟国はUNFPAに拠出する義務があるわけではないため、UNFPAが受身で待っていても拠出が自動的にUNFPAの口座に振り込まれるわけではありません。話し合いを重ね、拠出してもらえるように積極的に働きかけをする必要があるわけです。当然、拠出国の事情によって拠出額が変動することもありえますし、また、UNFPAの活動に対する評価が下がることがあれば拠出額が減らされてしまう可能性もあります。よって、拠出国から安定的に拠出をしてもらえるようにするための日常からのコミュニケーション、そして信頼関係の構築と維持が不可欠となります。

この信頼関係のためには、資金調達官個人として信頼を得ることも重要ですが、同時に機関全体として信頼を得られる機関であり続けるということも不可欠です。資金運用の方法や手続きをめぐる考えは各国異なるとともに、UNFPAにも独自の考えや方法論があります。この差異を乗り越えた上で、機関として拠出国の信頼を保つためには、組織全体としての取り組みが欠かせません。これについては、自分一人で取り組める問題ではないため、難しさを感じることもあります。

Q .これまでで一番印象に残ったのはどのようなお仕事ですか?

まず、担当している国の一つである韓国について、UNFPAは、これまで韓国から通常予算の拠出は得ていたものの、プロジェクト予算の拠出を得たことはありませんでした。しかし、私が担当となって以来、韓国の国連代表部とのコミュニケーションを多くもつようにした結果、パキスタン地震の際に、UNFPAにとって初めて韓国からプロジェクト予算の拠出を得ることができました。韓国国連代表部は、あなたが説明してくれるまでUNFPAが人道援助を行なっていることは知らなかった、あなたが連絡をしてくれてよかったと話してくれました。その際には、とてもうれしかったことを強く記憶しています。

また、資金調達官の仕事をしていると、書類上でプロジェクトを議論することが主となり、なかなかプロジェクトの現場を直接目で見る機会がありません。また、現場からも資金調達官の姿は見えにくいものです。そんな中、ある時、カントリーオフィスの資金調達支援を兼ねて、フィリピンを訪れる機会がありました。日本の人間の安全保障基金によって展開されているリプロダクティブヘルスに関するプロジェクトだったのですが、地域で行なわれた会議に出席した折、地域の人々から、あなたのお蔭で資金を得ることができ、その結果会議やプロジェクトを実施することができた、これからもがんばってほしいと握手を求められるということがありました。小さなフィリピンの離島で暮らす人々から直にこのような声をかけてもらうことができ、強く感動しました。今後は、より現場を訪れる機会が増え、地域の人々と直接接する機会が増えると良いと思っています。自分の目で直接見たものを伝えることができると、拠出国にも説得力をもって交渉することができると思います。

Q. 逆に、どのようなことがチャレンジだと思いますか?

UNFPAにとって日本は重要な拠出国であるにもかかわらず、日本からの資金調達を担当しているのは私一人であるため、物理的、精神的な負担は少なくありません。現在は、日本に関わる仕事が職務の約7割を占めています。自分が日本人であることで仕事を進めやすい面がある一方、国連職員としての中立性との間でバランスをとるのが難しいという側面もあります。いかに日本政府の要望に対応しつつ、UNFPAの内部からも理解と協力を得られるようコミュニケーションを行なうか。そして、UNFPAの各部局の希望をどのように整理して、いかに日本政府に効果的に伝達するか。日本政府の立場もUNFPAの立場も理解できるだけに、難しい課題は多くありますが、一方でやりがいがあります。

UNFPAの多くの職員にとって、まだまだ日本といえばイコール拠出国というイメージがあります。UNFPAの掲げる目標を実現していく中で、いかに日本と連携を進めていくかというところに考えが及んでいない。日本といえばお金という印象が支配的なのです。実際には、日本は二国間でも多国間でも様々な面でUNFPAの職務領域と関連する技術支援を行なっています。こういった点をUNFPA内に浸透させ、日本政府のもっている考えをより包括的に反映させていくための努力の必要性を強く感じます。

更に、UNFPAは、日本の顔の見える貢献を具現化すること、日本人職員を増強すること、日本のNGOとの連携を進めることなどの課題にどう取り組むのかを考え、日本政府とのより強固な信頼関係を築いていかなくてはなりません。

Q. 国連に対して日本ができる貢献についてはどうお考えですか?

日本は、国連のプログラム面に対してより多くの発言をしても良いのではないかと思います。現在、UNFPAのプログラムなどの方向性を決定する執行理事会における日本の発言力や存在感は大きく、このような形で日本の評価を上げていくことが重要であると考えます。

また、UNFPAは、日本では、「保健」と「女性の人権」という二つのテーマの狭間に置かれている感があります。UNFPAの取り組んでいる課題は、保健の視点と、女性の人権の視点の両方が不可欠です。そのため、二つのテーマ双方を包括するようなクロスカッティングな取り組みが必要であると思います。妊産婦死亡やジェンダーベイスト・バイオレンス(ジェンダーに基づく暴力)などに取り組む場合、予防や治療において保健が不可欠である一方、これらの問題を生じさせている根源的な原因に取り組むためには、女性のエンパワーメントが欠かせません。これは、日本政府だけではなく、国連においても開発問題を議論する第二委員会と女性などの人権、人道問題を議論する第三委員会の間の橋渡しが課題であるように、グローバルな課題でもあります。こういった視点を踏まえた上でUNFPAを議論することによって、より効果的な結果につなげることができるのではないかと思います。

Q. グローバルイシューに取り組むことを考えている若者への一言をお願いします。

コミュニケーション能力を磨くことが鍵であると考えます。このコミュニケーション能力とは、単に英語やフランス語といった言語能力だけではなく、自分の考えていることをいかに相手に伝えるかという能力です。自分がわかっているだけではなく、それをうまく噛み砕くことによって、初めて聞いた人にも効果的に伝えられる能力がとても大事だと思います。特に、渉外を担当していると、相手にわかりやすく伝えるということの難しさ、大切さを常に感じます。日本的な阿吽の呼吸ではなく、この人に理解してもらうためには、どのようなコミュニケーションをすれば良いのかということを考えられる能力を磨くことは大切です。国連の仕事も、結局は人と人との関係の上になりたっています。専門能力ももちろん重要ですが、より基本的な側面であるこのコミュニケーション能力が高いことは仕事の評価にも直接つながります。

そして健康でいることが欠かせません。何事も体が資本です。健康を保ちつつ、広い視野で効果的なコミュニケーションを行なう、こういった基本的な側面の積み重ねが、国連での仕事を支えてくれるものと考えます。


(2006年10月25日、聞き手:井筒節、UNFPA技術協力局専門分析官、写真:田瀬和夫、国連事務局OCHAにて人間の安全保障を担当。幹事会・コーディネーター。)

2006年11月13日掲載 


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