第20回 迫田 恵子(さこだ けいこ)さん
第20回 迫田 恵子(さこだ けいこ)さん
(1) インターン機関 :国連開発計画(UNDP)インドネシア、パプア事務所
インターン期間:2006年11月より2007年2月(3.5ヶ月)
(2)インターン機関:国連開発計画(UNDP)インドネシア、ジャカルタ事務所
インターン期間:2007年2月より2007年3月(1.5ヶ月)
第1部:パプア編【インターン記】
私の二つ目の国連でのインターンシップは、アチェのような災害被災地とは異なり、ミレニアム開発目標(MDGs)を指標に、中・長期的な計画の元、開発支援を行い始めたパプア州での活動となりました。(開発の遅れている東インドネシアの中でもパプアはその豊かな天然資源に恵まれながらも、多くの人々が今も伝統的な生活をしている地域です。)元々、このような長期的開発に興味があったので、始まったばかりのこのパプアでのプロジェクトに関われたことで、本当に短い間でしたが、主に、長期支援と緊急支援の違い、また宗教・文化による支援環境上の違いなど興味深い違いを経験することができました。
■インターンの応募と獲得まで■
アチェで半年間のインターン生活を終えた後、立ち寄ったジャカルタオフィスで偶然当時UNDPインドネシア事務所駐在代表補佐中村俊裕さんにお会いしたのがきっかけで、UNDPインドネシアのいくつかの部署で履歴書を見て頂き、その日のうちにパプア事務所でのインターンシップのお話をいただくことができました。
パプアでのプロジェクトではたまたますぐにでも人手が欲しい状況で、数日中にでも出発できるかと言われましたが、ちょうどビザの関係で、2日後に日本へ帰国することが決まっていたため、インターン採用の手続きが済み次第インドネシアに戻るということで合意してから、私は日本へ一時帰国しました。
今回も、前回のアチェに引き続き、パプアが特殊な地域であるため、ビザの申請など手続きが困難ではありましたが、中村さんやプロジェクト担当のスタッフ、ジャカルタ事務所のロジスティックのスタッフ、またUNDP東京事務所の方にまでお世話になり、無事手続きを済ませ、1ヶ月半後にインドネシアに戻ってくることができました。この場をお借りして、お世話になりましたUNDPジャカルタ事務所・東京事務所の皆さまに心からお礼申し上げます。
■インターンの内容■
国連開発計画(UNDP)パプア事務所では、ミレニアム開発目標サポートユニットの下、パプア州でのミレニアム開発目標(MDGs) を指標に地域生活環境を向上させるプロジェクト"People-centered Development Programme (PDP)" において、4つあるコンポーネントのうちの一つである"ドナーコーディネーション"に携わりました。具体的には、BAPPEDA(地方政府組織の一つでplanning agencyとしての役割を担う組織)の下にドナーコーディネーションのために設立されたばかりのプロジェクト理事会の活動をアシストするというものでした。
今回は、自分のバックグラウンドとは離れ、もう少し大きな視点で開発分野の仕事を見つめる機会となりましたが、それと同時に、アチェのフィールドで大きな問題であると感じていた"組織間の連携"という問題に携わる機会が与えられ、短いフィールド生活の中においてですが、非常に恵まれた学びの環境を与えられたと実感しています。
大きな意味での"ドナーコーディネーショ?"というものは世界中どこにおいても非常にチャレンジングで大きなインパクトを期待されるものであると思いますが、私が担当した具体的な活動としては、以下のようないくつかの細かい作業でありました。
1) ブックレットの更新:
どの団体がどの地域でどのようなプロジェクトを行っているかを把握し、情報を共有するためのブックレットの情報を更新し、と掲載データを再構築した上で出版・配布。
2) 新たなアクティビティの提案:
発足後1年未満で活動内容が充分に確立されていないプロジェクト理事会の下、各援助団体へのニーズに関するアンケート調査とそれを基にした新規アクティビティの企画書提出並びに、具体的な実現に向けた調整。
3) 新スタッフ採用の業務指示書(Terms of Reference)の作成:
新規アクティビティやオフィス本格的確立のためのスタッフ採用に関する業務指示書(Terms of Reference: TOR)作成。
今回のインターンシップ中、大半の時間を割いて完成させた2冊のブックレットは、現在UNDPインドネシアのホームページからダウンロードできます。(手続き上の理由で2つの州それぞれ別々に今年の2月と5月に発行されました。)
- May 2007 - Harmonization of Human Development Programme and Donors in West Papua Province
- February 2007 - Harmonization of Human Development Programme and Donor Contribution in Papua
- http://www.undp.or.id/papua/reports.asp
このように、この3ヶ月半という短い期間のうち、私が託され、成し遂げられたこととして設定した活動は、一見、地味なオフィスワークメインの仕事のように思えましたが、これまで交流のなかった組織とコンタクトを取り、新たに関係を築き、協力を得たり、実際に他団体・組織のオフィスを訪れ、違った組織の人々の話を聞くことで、コーディネーション役に期待されているニーズを把握し、BAPPEDAへのプロポーザルに繋げたり、個々の組織からUNDPへのプロポーザルを託され、ジョイントミッションへの可能性に繋げるなど、調整役として、様々な立場の人や組織と交わり、特に様々な機関や組織、立場の人々がまとまって物事を進める上で、考慮すべき様々な問題点に遭遇すると共に、毎日が貴重な学びの場でした。
■インターンの感想■
今回インターンシップを行ったPDPでは、ちょうどプロジェクト移行期間だったため、直接受益者の反応やプロジェクトのインパクトなどを目にする機会には恵まれませんでしたが、地方行政などのカウンターパートとの付き合い方を間近で見ることができ、新規事業への準備作業の大切さや、これまで当然のように横行していた汚職体質・政府スタッフの勤務状況改善ともリンクしたキャパシティビルディングの重要性を実感しました。また、前述の通り、ドナーコーディネーションの仕事からは様々な立場の視点を持って物事に取り組むことの重要さ、特に物事を逆の観点から見つめることの必要性を実感しました。
■生活■
パプアではローカルファミリーの家にホームステイさせてもらい、様々な生活状況を抱えた家族が共に暮らすコンプレックスで生活しました。この経験はコミュニティ内の様々な問題点を知るきっかけになったと同時にコミュニティ内での助け合い制度などコミュニティの強さを実感するきっかけになりました。
また私がパプアにいた時には治安上特に問題はなかったものの、国連スタッフの仕事上・生活上の安全を管理するUNDSSのスタッフも駐在しておらず、UNクリニックなどもなかったため、マラリア・HIV/AIDSの感染率が国内第一位のパプアで働く国連スタッフに対するケアが不十分であったように感じました。実際、私はアチェでもパプアでもマラリアにかかったのですが、パプアでは適切な薬を処方してもらうルートを探すのがとても大変でした。
第2部:ジャカルタ編【インターン記】
■インターンの応募と獲得まで■
パプアでのインターン終了間際、中村さんに電話にて進路相談にのって頂いた際に、ちょうどジャカルタ事務所で日本語のできるインターンを探しているとお聞きし、関わらせていただけるプロジェクトも自分がちょうど興味を持っていた民間企業と連携した開発モデルということだったため、1ヶ月半、ジャカルタ事務所にてインターンシップをさせていただくことになりました。
■インターンの内容■
私の関わったGrowing Sustainable Business (GSB) -貧困削減に貢献するビジネスモデル - というイニシアティブは民間企業が企業市民として、自らのサービスをグローバル化に伴う挑戦の解決策に結びつけ、官民の垣根を超えて、より持続可能で包括的な経済活動を実現しようとするグローバル・コンパクトにに端を発し、2003年にラウンチされたUNDP内でもまだ新しい取り組みでした。これまでGSBは特にこれから経済の発展が必要とされているアフリカの国々を中心にプロジェクトを増やしてきていましたが、今年2月にアジアではカンボジアに続き2カ国目となるインドネシアでの活動をラウンチしました。またこのインドネシアでのGSBに関しては日本政府から資金を得ているため、最初のパイロットフェーズの6ヶ月間は主にインドネシアに進出している日本企業とのパートナーシップ構築を想定しています。こうした経緯もあり、私は2月初旬にジャカルタに入り、月末に迫ったワークショップの準備のお手伝いをさせていただき、ワークショップ後は、民間コンサルティング会社からボランティアで来て下さっていたコンサルタントの方とともに個別企業やその他関連機関とのパートナーシップ構築に向けたフォローアップを行ないました。
■インターンの感想■
この民間コンサルティング会社から来て下さっていたコンサルタントの方と働かせて頂いた1ヶ月は大変実りの多い日々でした。公的機関のアプローチとは違った民間企業の進め方は勿論新鮮でしたし、何よりも論理的な思考やミーティングの進め方など社会人としての基本的な仕事の進め方を色々と教わる機会になりました。そしてまたこのイニシアティブに関わることで様々な民間企業が行なっているCSR活動(企業が社会への経済的インパクトだけでなく、企業市民として、社会全体にどのような責任を果たしているかを示す活動)やその他の社会貢献活動を知ることができ、様々な異なった立場からのアプローチがもつそれぞれの特徴について考える機会になりました。
またその後、インドネシアにてこのイニシアティブを推進するための短期契約コンサルタントとして働かせていただいておりますが、ニューヨーク本部、東京事務所、ジャカルタ事務所とUNDPの中でもそれぞれ違った役割を担う事務所同士で連携しながらイニシアティブを進めているため、それぞれのオフィスの違った立場の方々と仕事をすることで、今まで考えの及ばなかった新しい視点をいくつか自分の中に追加することができたように思います。
■お金■
ここからは1年間のインターンシップ全体を通じたお話になりますが、私はインターンシップにかかった費用は全て日本学生支援機構による奨学金にてカバーしました。その間、大学への学費も納付していたため、金銭的にはとても厳しい状況でしたが、この1年間を通して得られた経験は何物にも代えられないものとなりました。
■その後と将来の展望■
現在はUNDPジャカルタ事務所にてインターン後、引き続き、短期契約コンサルタントとして、同プロジェクトを担当しておりますが、秋からは大学に戻り、修士号を終了させる予定でおります。またこの1年間、自分なりの目線で開発業界の様々な側面を垣間見、キャリアとしても様々な可能性を考えた結果、大学院修了後はしばらく民間企業にて経験を積み、自分のスキルを磨いた上で数年後にまたこの開発業界に戻ってきたいと考えています。
■これからインターンを希望する方へのメッセージ■
このように2回に渡り、私の1年間に及ぶ国連でのインターンシップについて書かせていただきました。
正直なところ、最初の半年間が終わった時点では自分の中にまだまだ不完全燃焼感があり、"まだ帰れない"という気持ちが強かったのを覚えています。その後、パプア、ジャカルタと移動しながら、異なった役割を持つ事務所で異なった分野に携わらせて頂いたことで、様々な関わり方で開発の現場を見つめることができ、今、ようやくインターンシップという経験に自分でピリオドを打てる気持ちになりました。勿論、プロとして活躍できるようになるにはまだまだこれから長い道が待ち受けていますが、こうして1年間、開発の現場に様々な立場から関わらせていただいたことで、今後の自分の開発への関わり方やそこに至るための課題などを見出すことができたように思います。
- 2005年秋、UN Dayのシンポジウムに足を運んだ日、まさか半年も経たないうちに自分がインドネシアに行くとは思ってもいませんでした。
- 2006年春、日本を出発した時、まさかこんなに自分の人生観を変えるような出会いに恵まれるとは思ってもいませんでした。
- 2006年夏、アチェを去った時、まさか自分がその後更に1年間インドネシアにいることになるとは思ってもいませんでした。
- 2006年冬、まさか自分がインターンシップ後もこうして開発の現場で働かせて頂けるとは思ってもいませんでした。
私のインターンシップ経験から言えることはただ一つ "大きな夢は小さな一歩から。"ということです。
大変長いインターン記でしたが、最後まで読んで下さった皆様、ありがとうございます。また、最後になりましたが、佐藤摩利子さん始めとする国連ハビタット福岡事務所の皆様、Mr. Binod Shrestha始めとする国連ハビタットインドネシア・ANSSPの皆様、中村俊裕さん始めとする国連開発計画パプア事務所・ジャカルタ事務所・東京事務所・ニューヨーク本部の皆様にこの場をお借りして、心からの感謝を申し上げます。
またこのインターン記が今後、国連でインターンを希望していらっしゃる方にとって少しでもお役に立てれば幸いです。
■関連URL:
- UNDP Indonesia People-centered Development Programme (Papua): http://www.undp.or.id/papua/
- UNDP Growing Sustainable Business:http://www.undp.org/partners/business/gsb/index.shtml
- UNDP Tokyo office - GSB workshop in Jakarta report: http://www.undp.or.jp/aboutundp/gsb
2007年10月15日掲載