第75回 南南協力・三角協力とは − 開発におけるその役割
日時:2013年1月28日(月)18時30分~20時00分
場所:国連開発計画会議室
スピーカー:櫻井真美氏(国連開発計画・国連南南協力室・パートナーシップ・資源動員課チーフ)
■1■ はじめに
国連フォーラムでは、国連開発計画・国連南南協力室・パートナーシップ・資源動員課チーフの櫻井真美さんを講師にお迎えし、「南南協力・三角協力とは - 開発におけるその役割」をテーマにした勉強会を開催しました。
ブラジル、インド、ロシア、中国等、新興諸国の発展が著しい昨今、先進国から開発途上国への援助という従来の枠組みだけでなく、途上国間の協力、いわゆる「南南協力」、そして、二国間援助機関や国際機関によって支援される南南協力の一形態である「三角協力」が国際社会で注目を集めています。多くの国際会議で南南協力・三角協力の重要性が話し合われるようになった近年、途上国間の協力、プロジェクトも年々増加傾向にあります。
そうした背景の中、今回は以下の様な点に関して議論を行いました。南南協力の利点とは?途上国や先進国の南南協力・三角協力のアプローチとは?トップドナーとして貢献し続ける日本の取り組みとは?
なお、以下の議事録の内容については、所属組織の公式見解ではなく、発表者の個人的な見解である旨、ご了承ください。
講師紹介:櫻井 真美(さくらい まみ)氏(旧姓:山田)。民間セクター、JICAを経て、現在ニューヨークの国連開発計画本部勤務。開発現場では、JICA専門家として、チリと日本が協働で途上国を支援する三角協力の推進や、南米コロンビアの平和構築支援や国内避難民支援のプログラム形成に携わる。2008年10月より、国連開発計画、国連南南協力室、パートナーシップ・資源動員課チーフ。日本福祉大学大学院開発学修士。専門は、貧困対策・南南協力・平和構築。
■2■ 南南協力・三角協力とはなにか? -政治的意味と実質的意味-
南南協力とは、開発途上国同士の協力を指し、協力の中でも技術協力と経済協力を指す。三角協力とは、2つの途上国と先進国もしくは国際機関の3アクターで形成される、ドナーや国際機関など、途上国以外の協力機関から支援される南南協力を指す。
南南協力は、1960年代の冷戦時代には、アメリカにもソ連にも依存しない、Non Aligned Movement(NAM)から始まった動きで、開発の度合いに関らない途上国同士の協力(水平協力)という政治的意味合いを有していた。技術協力から始まり、のちに、経済協力が加わって、「南南協力」という言葉ができた。現在では、貿易、投資など、民間セクターの活動も含む場合がある。ちなみに、南南協力は南北協力の「代替」ではなく「補完」、また、南南協力は援助(Aid)ではなく連帯(Solidarity)である、という見解がなされる。これらの見解が指すことは、南はドナーではなく、南南協力が南北協力にとって代わることはないという論理から来ている。よって、パリ宣言のような援助効果拡大のためのルールは当てはまらない。その一方で、自国の協力を「援助」と呼び、パリ宣言を適用しようとする途上国もある。
他方、南南協力の実質的な意味合いは、開発度合いの進んだ途上国から開発度合いの遅れた途上国への協力である。技術協力が主体で、インフラ整備などの無償資金協力、借款などもある。最近の開発の経験や適正技術を他の途上国に移転することが売りである。先進国のODA予算が削減傾向の中、MDGなどの開発目標を達成するために、途上国の開発への貢献は不可欠という考え方もある。
■3■ 国連南南協力室とパートナーシップ・資源動員チーフ -その位置づけと役割-
以上のような南南協力を推進している、国連南南協力室とはどういった組織なのだろうか。その始まりは、1974年の国連決議により、UNDP内に技術協力(TCDC)促進のための「南南協力特別ユニット」が設立されたところまでさかのぼる。その後、1978年の国連TCDC会合にて採択されたブエノスアイレス行動計画(BAPA)により、南南協力ハイレベル委員会の事務局機能が南南協力特別ユニットに与えられ、UNDPにホストされ、地球規模及び国連システム内での南南協力及び三角協力に関する啓蒙、促進、支援の役割を担ってきた。さらに、2009年の国連南南協力ハイレベル会議で、開発経験の発信、展示、移転をサポートするプラットフォーム作成の役割が与えられ、2012年9月、国連決議により、名称が南南協力特別ユニットから国連南南協力室に変更となり、国連全体へサービスを提供するという使命がより明確になった。
櫻井氏が務める、国連南南協力室の中の、パートナーシップ・資源動員チーフの役割にも言及がなされた。その責務は、あらゆるアクターとのパートナーシップ関係の構築、資金・技術・サービス等といった資源の動員 (国連南南協力基金を通じて)、南南協力実務者間のネットワーク構築・Peer learning支援、南南協力管理能力強化、JICAとの連携推進を始めとした三角協力の推進などである。
役割 | 国名・組織名 |
被援助国 | LDC諸国、アフリカ諸国、紛争国 |
援助国(途上国側) | BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)、シンガポール、タイ、マレーシア、インドネシア、メキシコ、 キューバ、チリ、アルゼンチン、コロンビア、サウジアラビア、UAE、クエート、ヨルダン、カタール、ケニア |
援助国(先進国側) | 日本、ドイツ、スペイン、アメリカ合衆国、イギリス、ルクセンブルグ、スエーデン、デンマーク、オランダ |
国際機関 | UNDP, FAO, UNEP, UNCTAD, UNIDO, UNESCO |
■4■ 三角協力の代表的事例 -日本の事例-
日本はこの分野で30年という長い経験を有しており、二国間協力の成果を他の途上国に普及する三角協力に携わってきた。1975年には、第三国集団研修を、1994年には第三国専門家派遣を開始。パートナーシップ・プログラムを12カ国と締結し、中進国と共に途上国の開発を支援するための包括的な枠組みづくりに取り組んできた。国際機関を通じた南南協力支援は、1996年より、日本-UNDPパートナーシップ基金を通じて、多国間協力機関を通じた南南協力を支援してきた。
当日は3つの事例があげられた。1つ目は、日本とブラジルの20年以上にわたるセラード開発で蓄積された経験を活用した、モザンビークの持続可能な農業開発支援の取り組みである(通称、ProSAVANA)1。ブラジルに「緑の革命」を起こしたといわれるセラード農業開発2。それは、日本政府の支援を受け、ブラジル政府が国家プロジェクトとして着手し、わずか20年余りで不毛の大地を南半球最大の農業地帯に変えたという成功事例である。その成功事例をモザンビークにも活用しようという試みで、ブラジル側は技術協力を、日本は主に資金協力やインフラ整備を担当している。
2つ目は、太平洋ーカリブ島嶼国・防災及び気候変動対応のための南南協力である。目的は、ハリケーンや津波、気候変動の影響への対応策を、太平洋とカリブの島嶼国間で共有することである。3つ目は、南南協力を実施する途上国同士で、効果的な南南協力・三角協力を行うためのマネジメントについて学びあうという、人材育成の事例であった。 後者の2つの案件は、いずれも日本-UNDPパートナーシップ基金からの資金協力を受けて実施された。
人道的支援 | ・キューバ から医師団派遣 ・ハイチへの食糧安全支援(アルゼンチン、ブラジル) |
技術移転 | チリからペルー、エルサルバドルなどへの水産養殖技術移転 |
地域統合 | ・南部南米市場(メルコスール)加盟国(アルゼンチン、ウルグアイ、 パラグアイ、ブラジル、ベネズエラ)間の協力 ・ASEAN加盟国間の協力 |
■5■ 南南協力・三角協力の特徴 -メリットとデメリット-
南南協力のメリットについても議論された。通常の二国間協力と比較し、歴史的、文化的背景の類似した国同士の協力であれば、効率性の向上が見込まれる。また、途上国のオーナーシップの向上も期待できる。一方で、デメリットもある。例えば、途上国の援助ノウハウ・マネジメント能力の不足から、協力受け手側の意向が反映されにくいこともある。また、案件の規模が小さいために開発への効果が見えにくかったり、モニタリングや評価の重点が低いために、成果が見えにくいという批判も存在している。
メリット | デメリット |
援助資源の拡大 地域協力の活性化 途上国のオーナーシップの増大 適正技術へのアクセス拡大 歴史的、文化的バックグラウンドの類似した国同士の協力からくる効率性の向上 持続的開発への貢献 | 協力内容の調整メカニズムの弱さ 協力実施側の援助ノウハウ・マネジメント能力の不足 受け手側の意向が反映されにくい点 案件ごとの規模の小ささ |
三角協力のメリットは、南南協力と比較して、案件の規模の拡大、途上国の技術プラス先進国(国際機関)のノウハウ・技術の提供があげられる。一方で、南南協力と比較してのデメリットは、調整に時間と労力がかかるといったことがあげられる。
メリット | デメリット |
案件の規模の拡大 先進国の援助ノウハウからの学び 協力内容の調整がより可能 途上国の技術+先進国(国際機関)のノウハウ・技術の提供 先進国(国際機関)のネットワークを活用した普及が可能 途上国同士の政治的問題を乗り越えた協力が可能 認知度の増大 | 調整コストの高さ 統一的なモニタリング&評価手法の必要性 先進国とパートナー国の重点分野、重点地域に関する調整が必要な点 「顔が見えない」という批判が起きやすい点 |
■6■ 南南協力・三角協力のこれから -課題と方向性-
最後に南南協力・三角協力の課題と方向性について議論した。開発、特にMDG、ポストMDGの中での役割の明確化や、透明性や成果主義の導入が求められている。また、南南協力・三角協力は開発にどう有効なのか、その成果を分析し発信していく重要性もあげられた。さらには、南南協力・三角協力実務者の能力強化や、先進国とのパートナーシップ強化もあげられた。そういった中で、国連南南協力室の果たすべき役割にも焦点があてられた。南南協力の政治的な議論を、より開発にフォーカスした実質的な議論に進めること、途上国が自ら南南協力のルールを決められる場を提供していくこと、南南協力管理に必要なスキル構築や情報発信をサポートしていくこと等があげられた。
■7■ 質疑応答
質問:被援助国のニーズに、途上国の援助国はどのように応えているのか?
回答:UNDPは途上国の援助国が効果的に被援助国のニーズを把握できるように、研修を実施している。
質問:三角協力の資金の出処は?
回答:各国政府が支援している。例えば、アメリカはUSAIDや国務省が担当し、日本はJICAや外務省が拠出している。
質問:協力関係の健全な運営のために何が行われているのか?
回答:援助のルールづくりを支援していくことが大切。また、国連側も途上国の人材の能力開発に貢献できるようにしている。
質問:国連を通じての三角協力のメリットは?
回答:国連のノウハウや人材の活用。
質問:広報面で、現場で課題となっていることは?
回答:途上国側からの情報発信をどう支援していくか。途上国のメディアの役割にも注目していきたい。
■8■ さらに深く知りたい方へ
このトピックについてさらに深く知りたい方は、以下のサイトなどをご参照下さい。国連フォーラムの担当幹事が、下記のリンク先を選定しました。
- JICA: ブラジルの不毛の大地「セラード」開発の奇跡 http://www.jica.go.jp/topics/news/2012/20120712_01.html
- JICA: ナカラ回廊農業開発研究・技術移転能力向上プロジェクト http://www.jica.go.jp/project/mozambique/001/activities/index.html
- JICA:世界が抱える課題への取り組み-南南協力 http://www.jica.go.jp/activities/issues/ssc/index.html
- UNDP:UN Office for South-South Cooperation http://ssc.undp.org/content/ssc.html
- UNDP:What is South-South Cooperation http://ssc.undp.org/content/ssc/about/what_is_ssc.html
- UNDP駐日代表事務所:南南協力 http://www.undp.or.jp/undpandjapan/tcdc/
- アジア地域新興ドナーの南南・三角協力支援の現状と今後の方向性 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/chosa_kenkyu.html
- 国連フォーラム:国連職員Nowでの櫻井氏(旧姓山田)へのインタビュー記事 http://www.unforum.org/unstaff/115.html
議事録担当:原口 正彦
ウェブ掲載:羅 佳宝