第9回ネットワーキングカンファレンス(2011年7月30日)
2011年7月30日 Club JPO・ワシントンDC開発フォーラム・国連フォーラム 3フォーラム合同・夏のオフ会in東京
ワシントンDC開発フォーラム、Club JPOと国連フォーラムは、海外からの一時帰国者が多い年末・年始と夏休みの時期に合わせ、1年に2回のペースで、東京で合同オフ会を開催しています。
7月30月(土)に広尾のJICA地球ひろば講堂で開催された第9回目のオフ会は、午後に勉強会、そして夕方に立食懇親会という二部構成で、延べ190名が集う大イベントとなりました。
第一部・勉強会「東日本大震災は日本の国際協力をどう変えるか ~中堅・若手実務者とともに考える」の隠れたテーマは、「3.11と国際協力と“私”」。勉強会の大部分の時間が全員参加型グループディスカッションに充てられ、参加者ひとりひとりが、被災地や日本の国際協力にどう関わっていくのかについて主体的に考えた上で、自分の価値観や想いを共有しあうイベントでした。
まず、このグループディスカッションに先立つパネルディスカッションでは、途上国援助と震災対応の両方に携わった経験を持つ国際協力の中堅・若手実務者が、それぞれの3.11の経験や、その後の東北での活動を通じて感じたこと・感じていることを語りました。通常パネリストが展開するような「こうあるべきだ」的な論議はなく、参加者と同じ目線に立ちながら、あくまで一人の人間としての意見や想いを共有するというセッションになりました。
パネルディスカッション「東日本大震災は日本の国際協力をどう変えるか ~ 中堅・若手実務者とともに考える」
<パネリスト>
- 中井恒二郎:国連世界食糧計画(WFP)スーダンサブオフィス所長、前WFP仙台オペレーション責任者
- 栃林直子:日本赤十字社国際部国際救援課プログラム・オフィサー(東日本大震災担当)(元ユニセフ東京事務所広報コンサルタント、元国連大学PR/メディア・コーディネーター)
- 椎名規之:ジャパン・プラットフォーム事務局長代行
- 杉山章子(モデレーター;国連フォーラム幹事):Music Securities (セキュリテ被災地応援ファンド)、Living in Peace、コペルニク日本普及窓口
<議事録>
モデレータの杉山章子さんによるパネルディスカッションの説明とパネリストの紹介およびパネリストの中井恒二郎さん(WFP)の自己紹介
- 杉山さん:ミュージックセキュリティーズ(株)という小口で投資するファンド事業の会社で、途上国のマイクロファイナンス機関を支援するマイクロファイナンス・ファンドを手掛けている。
- 杉山さん:また、セキュリテ被災地応援ファンドを通じて震災対応にも関わっている。
- 中井さん:震災発生後、直属の上司と喧嘩し大ボスに直談判した上で、スーダンから帰国。WFP東京事務所の押しかけボランティアから始めてから、仙台で物流支援に従事。
- 中井さん:組織の人間にしろ被災された方々にしろ、有事の際に肝心なのは、行動するかしないかの一点だと感じた。
- 中井さん:東北での支援活動では、ジャパニーズ・スタンダードに対応しなければいけなかった(例:配布する食べ物をポテトチップスやチョコにしてみる等して工夫)。
- 中井さん:自衛隊や行政、社協がしっかりしている先進国・日本で、国連の役割は何なのか考えさせられた。(中井さんのスライドはこちら(pdf))
パネリストの栃林直子さん(日本赤十字社)の自己紹介
震災発生の約1カ月後、知人から日本赤十字(日赤)でスタッフを探していると連絡を受け、以来、そこで救援金の取り扱いを担当している。
義援金は、被災者の方へと寄付や募金活動で集められたお金。日赤は義援金配分委員会にこれを配布するまでの役割を担っている(同委員会が被災地の人々に届ける)。
救援金は、赤十字の186の姉妹社から日赤に送られた資金で、日赤の活動資金として使われたり、仮設住宅や全国に避難している方々への配布する家電セット(洗濯機や冷蔵庫の6点)に使われたりする。
パネリストの椎名規之さん(ジャパン・プラットフォーム)の自己紹介
ジャパンプラットフォーム(JPF)は、35の日本のNGOと外務省と経団連から構成されるコンソーシアムで、それぞれが対等なパートナーシップを組んで支援活動をする組織。
- メンバーNGOに対して資金援助をしたり、企業などからの物資やサービス等を現場で活動しているNGOへ橋渡ししたりする。
- 日本のNGOによる震災対応の良かった点は、すぐに活動に出られたことと、調整・コーディネーションの意識があったこと。JPFのうち30団体が東北の支援に関わっており、それぞれがどこでどういう活動をしているのかという情報をできるだけ行政や社協と共有しながら活動を展開した。
- 支援することと支援を受け入れることとの違いが大きいことや、NGOの発信力強化の必要性を実感した。
- やっぱり大事なのは人材。目の前のことへの対応も大事だが、コーディネーションやその時その時に何が必要なのか中長期的な視野を持って活動できる人材が必要。
Q1「今までの活動の中で最も“共感”した経験/活動はどのようなものですか?」(杉山さんの説明と東北での活動を振り返った中井さんの答え)
- 杉山さん:自分の会社のファンドは「共感ファンド・共感投資」だと言われるように、顧客が共感する取組みに投資していて興味深い。人々の共感のポイントが聞きたい。
- 中井さん:国際的な活動していても、やっぱり祖国や自国民への想いが自分の活動の大前提にあることに気付いた。
- 中井さん:「絶対負けねえから、俺、津波に負けねえよ。もっといい街作ってやるから、将来また来てくれ」と言う組合長さん。普通は50代のベテラン行政職員が担当するような、500人以上の自衛隊を仕切る重要な仕事を頑張ってやっている、20代の男女2人。このような人々に出会い、「この人が好き」「頑張っている人を応援したい」という気持ちに突き動かされながら、テントを建てる仕事をした。
(続)Q1「今までの活動の中で最も“共感”した経験/活動はどのようなものですか?」(東北の現場を振り返った椎名さんと日赤の仕事を振り返った栃林さんの答え)
- 椎名さん:プライドやキャリア(自分の休暇・仕事・地位)を投げ打って、「何でもいいからやる」と言って被災地に世界中から駆けつけてくれた国際協力のプロフェッショナルたちの熱意に心打たれた。
- 椎名さん:炭坑労働者のように泥だらけになって疲れているけれど、顔には充実感を浮かべているボランティアたちが、夕暮れ時に帰ってくる姿を見て、かっこいいなと思い、感動した。
- 栃林さん:人としての共感。昨年父を亡くして深い悲しみを経験。そんな悲しみが2万件近く東北にあることを考えると涙が止まらない。
- 栃林さん:瓦礫を見て石巻の漁港の臭いをかいで涙を通り越してしまうような感情にも襲われるが、共感と言う気持ちはちょっとしまっておいて、プロフェッショナルとして自分がここで何をすべきか考えたいと日々思っている。
- 栃林さん:職場の人々は一人ひとりが本当にプロフェッショナルで、「泣きたきゃ家に帰って泣けばいい」と、感情的にならないようにお互いを奮い立たせながら、時には笑いながら働いている。
Q2「あらためて今、ご自身と国際協力との関係をどのようにとらえたいでしょうか?」に対する3人の答え
- 中井さん:国際協力は語るものではなくて、やるものだなと、しみじみ感じた
- 中井さん:WFPの緊急人道支援―インドネシアでは3年かかったところを、東北の場合は4カ月で終えた。自分が担当する支援フェーズの短さや、行政・民間・NGO等との住み分けを目の当たりにし、この自分が担当する支援フェーズの短さや行政・民間・NGO等との役割分担に直面し、自分は国際協力のどこの部分をやりたいのか改めて考えさせられた。
- 栃林さん:支援を受けることも国際協力である中で、日本は受け下手だと思った。受けるものは受け、かわすものはかわして、機転を利かせて動かないと島国がますます島国化して行ってしまうと危機感を感じている。
- 栃林さん:支援を受ける側の経験を踏まえ、視点を変えて国際協力に取り組めたらなと思う。
- 椎名さん:自分自身の国際協力に対するアプローチが本当に正しいものなのか(現地の方を本当に考えたアプローチなのか)突き付けられている気がする。
- 椎名さん:(今まで途上国で上手くいかないことがあるとその国の治安の悪さや行政能力キャパの欠如を言い訳にしてきたが、海外の方から日本の問題を指摘された時にカチンときた経験をして)自分の今までのアプローチが間違っていたのではないかと感じた。
- 椎名さん:グローバル・スタンダード、ジャパニーズ・スタンダードという言葉を浴びせられて感じる違和感・不安感が、自分自身のこれまでやこれからの国際協力へのアプローチに厳しい問いを与えてくれていると感じている。
Q3「途上国支援と東北支援の共通点は?」(杉山さんの導入コメントと、椎名さん・中井さんの答え)
- 杉山さん:途上国向けの適正テクノロジーと言われてきたソーラーランタンのようなものが、電気やガスもない被災地のニーズに合致したりして、途上国でやっていたことが被災地の状況と似ていると感じた。
- 杉山さん:半分寄付・半分出資の被災地への応援ファンドは、もともと、ある程度補助金などを足さないと事業性が回っていかないような“途上国向けの投資事業のスキーム”として考えていたものだった。それが日本で使われるとは…。
- 椎名さん:途上国も今回の震災も、現場に早く行かなくてはいけないし、現場の人と考えなくてはいけない、「現場ありき」という点で共通している。現場のニーズからオペレーションに落としていかなくてはいけない。
- 中井さん:社会的弱者は東北であろうとスーダンであろうと、助けないとどうしようもない状態にいるということでは同じ。
- 中井さん:エイドはある程度ディペンデンシーを生む。援助は依頼心みたいなものを育てる。
(続)Q3「途上国支援と東北支援の共通点は?」(椎名さんの答え)
- 椎名さん:(相違点だが)行政がキャパオーバーしているのに無理してしまったり、NGOも平時から活動や能力を認めてもらう努力を怠っていたりと、先進国ならではの問題があった。また同じ面もある、そこを学んでおくことが重要。
Q4「日本が、援助受け“上手”になれるとしたら?」(栃林さんと椎名さんの答え)
- 栃林さん:今の仕組み・体制の中では無理。阪神淡路大震災等の教訓を活かせていない。おそらく今の日本のストラクチャの中でできることをやっていくしかないと思う。
- 椎名さん:海外からの支援の申し出が殺到した時に備え、日本の状態や日本で必要・不必要なもの(例:日本では物資は豊富なので要らない;医療支援のオファーに対して日本の医師免許がなければ医療活動が出来ないこと等の説明が必要)について早く発信する仕組みや窓口機能は考えることができるはず。
- 栃林さん:受け入れられない支援の申し出やドナーの思惑(例:病院を建てて誰かの名前を付けたい)に対して、仕組み上どのような理由で無理なのかを説明し、代替案を提示するなど、プロアクティブな情報発信を強化し、準備体制を整えればいいと思う。
Q5「東日本大震災は日本の国際協力を変えるのか、変えるとしたらどう変えるのか?」に対する3人の答え。
- 中井さん:変えるのか変わるのか分からないが、変わらなくてはいけない。Lessons Learnedが国際協力では活かされていないことが多いが、日本もこれで変われなかったら変わらない。
- 中井さん:各々が個人個人で行動をおこして変えていくということではないか。
- 栃林さん:受け身じゃなくて一人ひとりが考えて行動に移す。
- 栃林さん:情報のプライマリーソースを疑う。自分の頭を使って考えて行動につなげる。「知ってる」だけで満足しない。
- 椎名さん:被災地にいなくてもできることはたくさんあり、国際協力においても日本国内でできることを本当にやりきった上で海外に出て支援しているのか考えるきっかけを得ている。被災地で支援を受ける立場になったからこそ、相手の気持ちやその国の体制を深く考えるきっかけを今与えてもらっていると思う。
- 椎名さん:日本の絆を世界の絆に結び付けて行ける・広がっていける。人として共感して、海外の被災地の人々の苦しみを引き寄せて考えることができるのではないかと思う。
その後2時間以上かけて行われた全員参加型グループディスカッションでは、「ワールドカフェ」という対話手法が使われ、パネリストや主催者をふくめた全ての人々が各テーブル4名に分かれて、パネリストに共感したポイントやその理由、「3.11を含む過去の体験や想いを、今後国際協力に自分がどう繋げていきたいか?」について考え、言葉にし、色々な人たちの考えに触れ、互いにフィードバックし合いました。
第一部の結びとして、「今日の対話で何を感じたか?」「これから自分は国際協力とどのようにかかわりたいか?」について、参加者それぞれがポストイットに書きしるして、壁に貼って共有しました。
- 「共感と賛同で世の中は進んでいく。いいと思うものを声に出していこう!」
- 「日本の強み・弱みを(英語日本語双方で)発信していく」
- 「世界をひとつの市場としてみている企業で働く」
- 「クリエイティブさを持った自治体職員になる」
- 「Sustainableな世界をつくるため国のインフラを整備する開発援助プロジェクトをいつかデザインしたい」
- 「若い人達に経験の機会を作っていきたい」
- 「メディアの情報を一方的にうのみにするのではなく、自分から主体的に情報をとりにいく」
- 「まずは現場へ自分の足をはこぶこと。次に自分なりのActionを考えたい」
- 「まずは自分の街で国際交流・協力を!日本語教育支援だったり、身近なところから関わっていきたい」
- 「“誰かのため”とか”誰かの笑顔のため”とかそういう気持ちでいいから、人の助けになって生きていきたい。」
参加者一人ひとりの熱い想いが伝わってくるこのような手書きのメモが会場の壁を彩り、第二部立食懇親会から参加した人たちも、この煌めきを放つ言葉たちに思わず引き込まれ、読みふけっていました。 (全てのポストイットはこちらからご覧になれます)
この日の出会い・共感・そしてアクションへの誓いが、被災地、そして“日本の国際協力”の未来を創っていく力になればと思います。
担当:Club JPO/二井矢、DC開発フォーラム/開・木村・紀谷・利根川・細谷、国連フォーラム/柴土・竹内・杉山・守屋・小谷(ウェブ掲載:柴土)
協力:伊藤利江子(ワールドカフェのデザイン・運営)、東京デザインテクノロジーセンター専門学校(Ustream・ツイッター配信およびビデオ制作)