第11回 山岸 千恵(やまぎし ちえ)さん

縁談を断り、酸性液体をかけられた女性

第11回 山岸 千恵(やまぎし ちえ)さん

コロンビア大学大学院
インターン先:UNICEFバングラデシュ事務所

<バングラデシュ滞在記2>

ユニセフ・バングラデシュ事務所でインターンを始めて1 ヶ月が過ぎた。今月に入り、日本関係のプロジェクトの現地視察が軌道に乗ってきた。一昨日9日までチッタゴン丘陵地帯に出張し、先住民族への幼児教育等のプログラムを見学した。製塩工場ではヨウ素欠乏症対策を、ダッカ近郊の小学校では JICA と技術協力している初等教育プロジェクトを視察した。

6 月はこれらの視察の準備のため、各プロジェクトの担当事務官と打ち合わせをし、資金調達戦略書や各種プロジェクトの要約、ドナー向けのレポート等を読んだ。そのほか、同僚の広報官の仕事の見習いをした。働いていて正規の学校に行けないHard-to-reach children と呼ばれる子供たちに、読み書き・算数の基礎教育を施している NGO等を訪れ、事務所の広報誌に原稿を書いた。そのほか、ユニセフや支援団体の広報イベントにも出かけた。その中で、特に印象に残った出来事があった。

● 酸性液体を掛けられた女性たち●

生まれて始めて、塩酸や硝酸を掛けられて顔の一部が溶けてしまった女性たちに出会った。 6月に開かれた NGO・Acid Survivors Foundation (ASF)の広報イベントでのことだ。写真を撮りに前方に移動すると、隣が被害者だった。優しい目をした美しい女性。だが、顔の右半分に痛々しい火傷の痕が残っている。見回すと、鼻や目、耳など主要器官までもが溶けてしまった女性らが所々にいた。

隣の女性はASFの職員。自らの経験を話して新たな被害者の心のケアに当たり、劇に出演して酸性液体を人間に掛けることの犯罪性を訴えている。パンフレットに掲載された写真を指しながら、「これは私だ」と嬉しそうに話した。 彼女は何歳なのか、なぜ酸を掛けられてしまったのか。聞きたくなった。「おいくつなのですか?」と聞いても笑って答えてくれない。大体の年齢を図ろうと、「もう結婚しています?」と質問してしまった。彼女は下を向いて沈黙した。「縁談でもめて酸を掛けられたのだ」と彼女の友人から後で聞いた。

ASF によると、25 ~34歳の女性が最も被害を受けやすい。土地・財産がらみの揉め事や夫婦間のこじれ、交際や性交、縁談の拒絶が酸を掛けられる主な理由だ。 ASFが把握しているだけで、 2005 年はダッカを中心に268 名が被害を受けた。ピークだった2002 年の487 名からは減少しているが、ASF に通報できることを知らずに泣き寝入りしている被害者は、まだ大勢いるはずだという。「被害者の大半は貧しく、読み書きできないことが多い。一方の加害者はコミュニティーの権力者、または男性の親戚などより優位な立場にあることが多く、被害女性はなかなか名乗りを上げられない」と ASF 幹事の Khairul Hafiz氏。

女性に生まれたという理由で、生後7ヶ月の時に父親から酸性液体を口の中に注がれたBably。6歳になった今も発声が不自由だ。

2002 年に、酸の輸出入と使用を制限し、捜査・裁判の時間を短縮するために二つの法律が施行された。しかし、化学工場や家具店などで酸は依然として簡単に入手できる。人々の意識や司法制度の隅々が変わるまで、時間がかかりそうだという。2005 年には、ASF が把握している212 件の犯罪のうち、24 件42名のみが裁定を受け、有罪となった。

ASF は1999 年に設立。職員約80 名のうち約半数が医療スタッフだ。ダッカの40 床の病院で顔の再建手術や火傷のリハビリ等を無料で提供し、2006年6月までに約1200 名が手当てを受けた。ダッカ以外の7地域でも計1400 名の医者や看護婦を研修。被害者同士のグループ・カウンセリングを実施している。酸を掛けられた後にすぐに水で洗浄するよう広報し、テレビやラジオ、劇等を通じて酸投下犯罪の撲滅を訴えている。

Hafiz 氏によると、被害者に対する偏見はまだ根強く、社会復帰の支援が課題だ。ASF では雑貨、洋裁店の経営など小型ビジネスを立ち上げる支援等をしているが、財源が限られているのが悩み。

ASF についての詳細・問い合わせは、下記まで。

Acid Survivors Foundation (ASF):
ASF Head Office:
Telephone: +88(02) 9891314, 9862774, 9880142, 9886383,
E-mail: asf@acidsurvivors.org
URL: www.acidsurvivors.org

2006年7月4日掲載