第86回 曾根 理紗(そね りさ)さん

中国国連コンパウンドの前で 

曾根 理紗(そね りさ)さん

北京大学大学院燕京学堂(Yenching Academy)中国学(政治学/国際関係学専攻)修士課程修了
インターン先:持続可能な農業機械化センター (CSAM)北京本部
インターン期間:2019年9月〜12月(3ヶ月)

■インターンの応募から採用までの経緯■

私は学部生の時から国連への憧れがあり、大学院へ進学する際には是非一度国際機関でインターンをしたいと思っていました。そういった経緯から、院生一年目の後期(3月頃)始めには、国連事務局採用ポータルサイト「Inspira」等のシステムを通じて、関心のあるポストに積極的に応募し始めました。しかし、その後中々連絡が来る気配がなかったので、以前ユネスコでインターンをしたことのあるクラスメートにアドバイスをお願いした所、彼はオフィスに直接連絡をしてインターンの機会を得たと教えてくれたので、その助言をもとに、関心のあるプロジェクトを担当する国連機関の部署複数の連絡先をオンライン上から探し出し、レジュメとカバーレターを添付したメールを送ってみました。そこで、唯一返事をくれたのが私のインターン先でした。その後、スカイプ面接を経て、その数週間後の5月中旬頃に正式なオファーを頂きました。

私のインターン先は、北京に本部を置く「持続可能な農業機械化センター(Center for Sustainable Agricultural Mechanization:以下、CSAM)」という機関です。CSAMは、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)の下部組織として2002年に設立されました。ESCAPは国連経済社会理事会の地域委員会の一つで、アジア太平洋地域の経済・社会開発を目的とした機関になりますが、CSAMは中でも持続的な農業機械化に特化した組織で、それに関する技術協力の促進や経済交流を推進するシステムの整備等を通じて、同地域のさらなる発展及び様々な社会課題(飢餓・貧困・環境・ジェンダー格差問題など)の解決を目指しています。私の専門は日中関係及び東アジアの国際関係であり、その中でも同地域内の多国間における国家間協力の促進事業に関心があったので、ESCAPという組織にはずっと関心がありました。また、中国における国際機関の業務のあり方にも関心があったので、中国・北京にあるESCAP機関で勤務するというのは私にとって非常に理想的な形となりました。

■インターンシップの業務内容■

私はCSAMで、およそ三ヶ月の間、フルタイムでインターンを務めました。CSAMは職員が10人弱の小さい機関ですので、インターンのオフィス内での配属先は特に決められておらず、助けを必要としている職員の業務をその都度手伝いながら、複数のプロジェクトに携わるという形でした。最初の頃は、誰に仕事をもらうべきなのか分からず困惑したこともありましたが、その分そういった状況から自ら主体的に行動して仕事を獲得していく術を学ぶことができました。
具体的な業務内容については多岐に渡りますが、主に3つのカテゴリーに分けられます。

   オフィス内でのミーティングの様子

① リサーチ

私が担当したリサーチ業務は、主にバックグラウンド調査になります。例えば、各プロジェクトの会議やスタディーツアーを開催する上で、コンセプトノート(草案)を作成するのですが、その際に必要となる、「その年の議論テーマ・トピックの背景」や、それに関連する「課題の現状」、またその課題に対処した「各国のこれまでの成功事例」などの要点をまとめたレポートを作成しました。他には、CSAMの代表や職員が対外的なイベントで登壇する際のスピーチ原稿の作成を助けるために、そのイベントの主催団体のバックグラウンドや、CSAMの事業との関連性などを、レポートにまとめたりしました。

② プロジェクト管理・運営の関連業務

各プロジェクトで催される会議やスタディーツアーの運営にあたり必要となる事前準備や手配に関連する業務を任されました。具体的には、会議を行う現地の会場探し、参加者のフライト・ホテル手配や個人情報管理、各参加者のプレゼン資料管理、会議資料作成などを行いました。直前まで、参加者の都合が変わったりするので、こういったイベントがある数週間前は非常に忙しくなりました。基本的に、交通費等も出ないインターンは現地の会議まで同行することはなく、主にオフィスで事前準備のみに携わることになります。ですが、私は実際に国際会議が開催される現場を自分の目で見てみたいと思ったので、私が比較的長く携わったプロジェクトのある重要な会議が韓国で開催された際には、上司に相談し、フライト代は自己負担でしたが、会議に同席して現場の運営業務も経験させて頂きました。 CSAM外の業務としては、国連の日(UN Day)に開催された「中国国連の40周年記念」を祝うイベントの運営スタッフを務めました。(会議とイベント詳細は文末を参照下さい)

中国国連40周年記念イベントに運営スタッフとして参加した際の様子

③ 報告書(参加者のレビューまとめ)・プレゼン資料作成業務
各会議やイベントを開催した際に、毎回参加者に感想アンケートを書いてもらうのですが、その結果を報告するレポートを数本作成しました。これまでは結果の集計をまとめただけの資料だったようなのですが、私はその集計結果をもとに統計グラフを作成し、色分けをするなどして、より一目瞭然に参加者の満足度や不満がわかるレポートを作成したところ、上司に非常に気に入って頂き、年度末のCSAMの成果報告のプレゼン資料としても活用して頂きました。その際のプレゼンスライド・資料の作成も任せて頂きました。

■その後と将来の展望■

CSAMでのインターン修了後は、修士論文の執筆に勤しみました。春節のタイミングで日本に一時帰国して以降、コロナの影響で中国に戻れなくなりましたが、リモートで6月までには論文の提出と口頭試問を終え、7月に無事学位を取得しました。10月からは、経営コンサルタントとして都内で働き始めます。(ただ海外拠点での採用になるので、コロナが落ち着きビザが降り次第、渡航する予定です。) この国連インターンでの経験は自身の自信に大きく繋がったほか、就職活動の際には面接官に興味を持っていただくきっかけになったと感じました。今後は、民間企業でコンサルタントとして課題解決スキルを身につけ、いつか将来は東アジア地域の国家間協力の促進に貢献できればと思っています。それを成し遂げる舞台が民間企業なのか、国際機関なのか、はたまた自分で新しい事業や組織を立ち上げるべきなのか等については未だ模索中ですが、今後キャリアを積んでいく中で見つけていきたいと思っています。

■資金確保、生活、準備等■

私のインターンシップは、通常の国連インターンと同様に無給のフルタイム勤務必須(※相談可)でしたが、私は幸運なことに大学から奨学金(家賃・生活費等を含む)を頂いていた上に、当時既に北京に住んでいたので、金銭面やビザ・住宅の準備に困ることはありませんでした。また私が所属していた修士プログラムの特質として、2年目は授業がなかったので、問題なくフルタイムで勤務することができました。国連インターンに参加する上で、こういった奨学金制度を上手く活用したり、インターン開始時期などを早い段階で計画することは非常に重要になってくると思います。 (北京大学の全額奨学金支給の英語修士プログラム詳細は文末を参照下さい) 

今回のインターンシップで大変だったことを強いてあげるとすれば、当時私が住んでいた寮からオフィスまでが比較的遠く、通勤におよそ1時間かかったことぐらいでしょうか。ただ個人的には、それも含めて、北京で働く人々の生活を味わえたのが非常に新鮮で良い経験になったと思っています。周囲の中国人通勤者たちの真似をして、オフィス近くの屋台で朝食を買ってみたり、そういった何気ないローカルな経験が非常に楽しかったです。

また、オフィスがあったところは、亮馬橋(Liang Ma Qiao)といって多くの大使館が集まるエリアなのですが、私が住んでいた中関村(学生の街もしくは中国のシリコンバレーと呼ばれるエリア)とはまた雰囲気が違い、北京という街の新たな一面を経験できたのが大きな収穫でした。その周辺は政府系機関や外資企業で働く外国人の方が多くいるため、非常に国際的な雰囲気で、ランチ先の店内の客7割以上が外国人ということもよくありました。本格的な多国籍料理店が多く、インターン期間中はそういった場所を散策し、楽しみました。

■その他感想・アドバイスなど■

3ヶ月という短い機関ではありましたが、このインターン経験を通じて多くのことを学ぶことができました。業務内容としてはほぼ単純作業ばかりでしたが、実際に中に入って働いてみないと見えない部分が見えたほか、多くの貴重な経験をさせてもらいました。それまで私は政治系シンクタンクや国際NGOを含む様々な組織ででインターン経験を積んできましたが、今回のCSAMでの経験の中で特に強く感じたのは、「国連」という名前の強みでした。国連の機関が主催するプロジェクトだからこそ、各メンバー国の政府機関が関わってきますし、会議を企画すれば毎回それなりの役職に就いた各国の政府代表が参加します。ただ一方でやはり、そういった会議の中で、一つの項目を決定する際に、各メンバー国の要求を公平に織り込んでいかなければならないため、各プロジェクトの進行スピードが遅いなと感じることは多々ありました。ほかには、メンバー国各国の分担金で成り立っているという国際政府機関の特質上、予算等のやりくりの手順が非常に複雑かつ手間がかかる印象を受けました。例えばオフィス利用のためのボールペンを数箱購入する際も、それにかかる資金の申請や報告のために、ESCAP本部のバンコクオフィスを通した多くの手続きが必要となります。

何よりも今回やってよかったと思うのは、上司に無理を言って、韓国で開催された会議に同席させて頂いたことです。インターンが海外で催される会議に、フライト自己負担で同席したというのは前例がないそうですが、現場での議論の様子や参加者同士の交流の場に同席することによって、オフィス業務だけでは分かりづらい、そのプロジェクトの意義などをより深く理解することができました。国連インターンの機会を存分に活用して、より多くのことを学ぶためには、こういった積極性が重要になると思います。

機関や部署にもよりますが、多くの人が抱く華々しい国連のイメージとは裏腹に、その業務内容は意外に地味で、地道な事務作業が多かったりします。ただその一方で、各プロジェクトの重要性を理解するにつれて、より良い世界のために大切な国際システムの形成に携われていると思うと、仕事に対して非常にやりがいを感じるものがありました。同僚や上司はどの方も優秀で、非常に多様な経歴を持った方が多く、何よりも各々が熱いパッションを持って働いているというのが、国連の職場としての魅力なのかなと感じました。

韓国で開催された会議に同席した際の集合写真
インターン最終日にCSAM職員とオフィス玄関にて

無給・フルタイム勤務を要求する国連インターンは、多くの学生にとって非常にハードルが高いかと思いますが、もし将来のキャリアとして国際機関に関心があるならば、是非一度経験してみることをお勧めします。これまで国連の仕組みや役割について十分に理解していたつもりでしたが、実際にインターンを経験して初めて、それは表面的な理解に過ぎなかったということに気づきました。また将来の国際機関でのキャリアを考える上で、そのイメージを具体化させるためにも重要な経験になると思います。

終わりに、CSAMの人事部長の方から、中国国内の国連組織におけるインターンを務めた日本人は少ないと聞きました。ですので、今回このように、私の国連インターンシップ体験談を寄稿させて頂くことで、これから国際機関でのインターンシップを目指す方や関心のある方のお役に少しでも立てる事ができれば幸いです。いわゆる国連といっても、実際には様々な組織があるので、インターン先を選ぶ際には是非視野を広く持って積極的に応募して頂ければと思います。

韓国で開催された会議について:CSAMサイトよりhttp://www.un-csam.org/news_detail.asp?id=548 (最終閲覧日 2020年9月12日)

中国国連40周年記念イベントについて:2019年10月29日CGTNの記事よりhttps://news.cgtn.com/news/2019-10-25/UN-40-Years-in-China-A-continuous-journey-to-sustainable-development-L5aP7tdDP2/index.html (最終閲覧日 2020年9月12日)

北京大学の全額奨学金支給の英語修士プログラム「燕京学堂(Yenching Academy)」について、公式ホームページはこちらから(最終閲覧日 2020年9月12日)。また、大学での経験についてまとめたブログ記事はこちらから(最終閲覧日 2020年9月12日)。国連インターンの経験についても少し触れています。

掲載日:2020年9月27日

インタビュー実施日:2019年1月13日