第127回 ブレーズデン千映美さん 国連広報局ツアーガイド

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プロフィール

ブレーズデン千映美(ブレーズデン・ちえみ):日本大学卒業後、スペインにわたりバレンシア州政府の広報業務に携わる。またその後、日本で世界各国に免税店を展開する企業の沖縄店立ち上げなどに関わる。結婚後ニューヨークに在住し、2006年より国連広報局ツアーガイドとして国連に勤務。

Q. 国連にご勤務前は、スペインで広報の仕事をされていたのですね。

はい。最初にスペインに興味をもったのは、小さいころから絵を描くことが好きで、好きな画家が全員スペイン人だったことが発端かもしれません。ピカソやベラスケス、ダリ・・・特にピカソの絵は、彼のどんな時代のものも大好きです。なぜ同じ国からこんな天才画家が生まれるんだろうって子供ながらに思っていました。そしていつしかスペインにいってみたいと考え始め、大学卒業後、短い期間でしたがスペインに滞在しました。

私は人を相手にする仕事が好きなんです。スペイン・バレンシア州政府の仕事をしていたときは、主に投資先としてのバレンシア州の魅力を伝えるため企業訪問をしたり、広報誌を作っていました。また、バレンシア州産品を売り出すためには、製品の魅力を伝えると同時にお客様の興味を引き出す必要がありました。取り扱った製品のひとつに、リサイクルガラスを使った雑貨がありましたが、当時は「環境にやさしい」というコンセプトだけでは売れませんでしたから、デザイン重視で商品を選ぼうとするお客様に対しても、「廃棄されたガラスから出来ている」と素材の特徴を強調しました。このように、一つの商品のいろんな魅力を引き出して、お客様と商品をつなげることがとても面白いと感じていました。

Q. そのほかに広報の仕事でやりがいのあったものはなんでしょう?

スペイン州政府の仕事から離れた後に、世界各国に免税店を展開する企業の日本支社で働いていたことがあり、初めて沖縄に免税店を出すというプロジェクトに参加したことです。

まったくゼロの状態から始めました。免税店を開店するために市場調査を行い、直接沖縄県行政と交渉しながらすすめていきました。残念ながら、開店前に日本を離れてしまいましたので最後までプロジェクトに関わることができず、最後までやり遂げたという実感をあじわうことはできなかったのですが、自分が関わっているプロジェクトが日本の一つの地域を動かしていくのを感じて、とてもやりがいを感じました。いろんな人と関わり合って一つのものをつくり上げていくというチームワークも楽しかったですね。ひとつひとつの小さな仕事が相互につながり、次第に大きなものができ上がっていく。広報はそのプロセスを手助けする手段になりますから、非常に興味がありましたし、やりがいのある仕事だと思いました。

Q. いままでの経験は今のガイドの仕事にどう影響していますか?

ガイドという仕事は、一般の人に対して国連に「関心・興味」を持っていただき「理解」していただくためのプレゼンテーションを行うことです。いままでも、企業を訪問したり展示会などで商品のよさをアピールする仕事をしていましたので、ガイドの仕事をする前から大勢の前で話すことに慣れていました。このように今までの経験はいまの仕事にとても生かされています。

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Q. 国連で勤務することになったきっかけを教えてください。

夫の仕事の関係でニューヨークに住むことになりましたが、国連を意識したことはありませんでしたし、国連のビルに近づくこともありませんでした(笑)。ところがある日、観光でニューヨークに来た友人の誘いで国連のツアーに参加したんですね。そのツアーガイドをされていた日本人の方がすごく印象的でした。国際情勢についてよく知っていて、とても輝いて見えたんです。広報の仕事をしてきた私にとって、国連でのガイドの仕事がとても魅力的に感じました。もちろんその時は、将来自分自身がその仕事に就くとは思ってもみなかったんですけどね。

その後、そろそろ働こうかなと考えたときに、国連のツアーガイドのことが頭に浮かびました。この職には世界中から相当数の応募があると聞いていたので、書類選考に通って面接で言いたいことが言えれば、たとえ最終的にダメでも十分だという気持ちで応募しました。

採用審査は書類選考と4回の面接でした。実はお恥ずかしいことに、第4回目の面接で泣いてしまうという失態をおかしてしまったんです。面接官に「アフリカの現状であなたが関心のあることを言って下さい」と言われました。国連の面接を受けるために用意していたわけではないのですが、数か月前にダルフールに関する記事を読んでいましたので、その話をしたんです。話をしているうちに、現地の悲惨さに感極まって泣いてしまい、今考えても何を話したのか全く覚えていません。面接で泣くなんてとんでもないことをしたと、すごく落ち込んで家に帰ったのを覚えています。ですから、数週間後「採用です。いまでもこの仕事をする気持ちはありますか?」という電話を受けたときは、本当に信じられませんでした。

今でも、総会ホールに入るときに「私、本当にここにいるんだな」と実感することがあります。この仕事に就けて本当に感謝しています。

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Q. 現在携わっていらっしゃる仕事について教えてください。

いまの仕事は、国連のツアーに参加される一般の方に国連の役割を伝えることです。お客様は世界中からいらっしゃいます。ツアーは基本的に英語ですが、スペイン語、日本語も担当します。約1時間の間に、総会や安全保障理事会の役割、人道支援に関することなど、様々な分野の話をします。ですが、ただ一方的に話をするだけでは面白くありませんから、参加者により興味をもってもらうために、最近の時事問題を付け加えたり、お客様に質問をふるなど、自分なりにいろいろな工夫をしています。

また、国連に批判的な意見をする方がいらしても、ガイドは常に中立な立場で受け答えをすることが重要です。この仕事を始めて4年になりますが、今でも日々仕事の中から学ぶことがたくさんあります。

ツアーガイドというと、毎回同じ話を繰り返しているのだろうと想像する方もいらっしゃると思いますが、実はアドリブの連続なんです。例えば5歳、10歳、中高校生、大学生と年代によって知識レベルがぜんぜん違いますよね。どんな人にも自分が伝えたいことを分かってもらうには、聞いている人のレベルに合わせなくてはなりませんが、ネイティブではない私には非常にたいへんなことです。小さい子供のグループを担当するときには、この単語はこの年齢の子にわかるのだろうかというところから考えます。5歳の子でも理解できる例え話をしながら、国連の役割を伝えるんです。

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また、日々の国連の動きについてもツアーに盛り込むようにしています。毎朝会議があり、そこで国連の最新ニュースを知りますので、すぐその情報をツアーに盛り込みます。例えば、「事務総長がロンドンの会議で誰々と会合し、このような話をした」という情報を得れば、当日はその話題をツアーに盛り込みます。昨日も「ノルウェーのオスロで採択されたクラスター爆弾禁止条約に、29番目と30番目の国が批准をした」というニュースを聞いた直後、ノルウェーからのグループを担当しましたので、この件について早速話をしました。

このように、日々新しい情報を加えつつオリジナルで内容を考え、試行錯誤しながらツアーを行うようにしています。ツアーが終わった後にお客様から「楽しかった」「勉強になりました」などといっていただけると本当に嬉しいですし、やりがいを感じます。

Q.これまでで一番思い出に残ったご経験や、大変だったことは何でしょうか?

「大変だった」という過去形ではなく、「大変な」ことは日々進行形であります(笑)!お客様の参加態度が悪い場合はいつも苦労しますね。ツアー中に大声でおしゃべりしたり、ツアールートから外れて勝手に別の場所へ行ってしまったり、そんなことは日常茶飯事です。ですからガイドの仕事は、ただ国連についてしゃべっていればいいということではなく、グループをまとめることも大きな仕事のひとつです。私の受け持つグループが騒がしくて、他のガイドやグループに迷惑をかけるようなことがあれば、それは私の責任です。基本的には、うまく質問を振ったりしながら最終的にまとまっていくものですが、それでも対応不可能なこともあります。たとえば、明らかに暴言を吐いたり個人を侮辱したりするお客様にはツアーから抜けていただくようにしています。

逆に、ツアーをやっている最中に、「あっ、いまこの人たちが私の話を聞いてくれている」と分かって、グループと私の間の空気がピタッと一緒になることを感じることがあります。その瞬間はいつも実に気分爽快です。

Q. 印象的だったエピソードはありますか?

ときどき体の不自由な方もツアーに参加されます。以前、英語のツアーで、耳が不自由なお二方のプライベート・ツアーを担当したことがあります。当然、目で見て理解できる資料は使いましたが、私に務まるだろうかと最初はとても緊張しました。しかし、お二人は耳が完全に聞こえないわけでないと伺っていましたので、資料を使いながら、ひとつひとつゆっくりと説明をしました。初めはお二人の質問をうまく聞き取れなかったのですが、「こういうことですか」と復唱したり、質問にお答えするときは紙に書くようにし、理解していただけたときの感動は大きかったですね。そこでも空気がピタッと一緒になる瞬間を感じて感動しました。最後には、お客様にもとても感謝していただくことができ、思い出に残るいい経験でした。

Q. 国連で働く魅力は何でしょうか?

国連ほどいろいろな人が集まっている職場はないと思います。異なる国籍の人たちと一緒に仕事をしながら、この地球に住む一人の人間として国籍を超えてものをみることをできることが、国連で働く魅力だと思います。

Q. 週末は何をなさっているのですか?

パンを作ったり、ヨガをしたりしています。パン作りは好きが高じて、以前はご近所の方に教えていたこともあります。絵もたまに描いていますが、基本的に創作することに時間を費やすのが好きなんですね。何かをつくることは、目に見えて結果が出ますし、パンは食べられますしね(笑)。ヨガは運動不足解消にもなりますし、精神的に自分を見つめ直すことができるので、いまや私の生活には不可欠です。

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Q. 国連などの職場で活躍し、グローバル・イシューに取り組むことを考えている人たちに、メッセージをお願いできますか?

この国連フォーラムのインタビューを受けてらっしゃる方々がそれぞれ素晴らしいことをおっしゃっているので、その方々のコメントを読んで、心に響くものがあればメモしてでも心に刻んでほしいというのが一つです。

それと、自戒を込めて言いますが、外のことを知るにはまず自分の国のことを知るべきだと考えています。例えば、私は日常会話の中で英語と日本語が一緒になるのが基本的に嫌なんです。それなのに、恥ずかしいことですが、日本語のツアー中に、的確な言葉や表現が日本語で出てこないことがあります。どんな時でも、まず日本語を正しく使うことができ、日本の政治・歴史・文化について理解していることが基本ではないでしょうか。その上で、世界の様々な知識を身に付けていくと良いと思います。

2010年2月18日、ニューヨーク
プロジェクト・マネージャ:堤敦朗
聞き手:徳永恵美香
写真:田瀬和夫
ウェブ掲載:斉藤亮