第71回 国連総会の活性化と総会議長室の役割

日時:2011年11月23日(水)18時30分~20時
場所:国連日本政府代表部大会議室
講師:岡井朝子氏(第66会期国連総会議長室 上席政策調整官)

写真①

■1■  国際連合総会とは

国際連合総会(以下、総会)は、経済社会理事会(以下、ECOSOC)、国際司法裁判所(以下、ICJ)、安全保障理事会(以下、安保理)、信託統治理事会、事務局と並ぶ国連憲章下の6主要機関の1つであり、全193加盟国が1票を持つという点において、国際社会においても最も代表性の高い国連の政策決定機関であると言える。議長、21人の副議長、本会議、主要6委員会、運営委員会と資格審査委員会で構成され、議題は、軍縮と国際安全保障に関しては第1委員会、経済と金融に関しては第2委員会、社会、人権と文化に関しては第3委員会、特別政治問題と非植民地化に関しては第4委員会、行政と予算に関しては第5委員会、法律に関しては第6委員会で、本会議のみにかけられる議題もあるが、決議等はたいてい分野毎に各委員会で審議された上で、本会議に提出され、採択される。その他、安保理の決定に属するものを除き、国連憲章下の全ての事項、他主要機関又は下部機関から提出される全ての報告に関しての審議、予算の承認、ICJなどの主要機関メンバーの選出、安保理の提言に基づく事務総長の選出など広い権限を有している。
会期に関しては、通常会期が9月の第3火曜日から1年間行われ、安保理の要請又は国連加盟国の過半数の要請があった場合、事務総長の召集の下、特別会期が開催されることもある。この会期に合わせ、議長はアジア、東欧、中南米、アフリカ、西欧その他の5地域グループのローテンションで選出される。現在は、カタールとネパールの競合の後、選出されたカタール出身のアルナセル氏が議長として、第66会期を務めている。

■2■ 総会の活性化

1946年の国連設立当時に51加盟国で始まった総会は、加盟国増大 (約4倍)、討議事項の多様化・膨張に伴い、総会の整理・効率化の必要性が叫ばれる様になった。1991年以降、総会活性化の取り組みがはじまり、特に2005年以降は国連改革の中核のひとつと認識されるようになった。アドホック作業部会が結成され、例年審議、報告書作成、決議採択が行われている。この総会活性化の主たる項目として、総会と総会議長の役割の明確化と権威維持、作業方法の改善・効率化、事務総長の選出と任命、総会議長室の強化などが挙げられる。ただし、総論として総会活性化の重要性は加盟国間で共通に認識されているものの、実際の活性化・効率化には道半ばである。

■3■ 総会議長の役割

総会手続き規則に則った議長の役割に加え、総会活性化の流れの中で、議論の土台作り、政策の方向性の打ち出し、加盟国間の合意形成を目的として、1)テーマ別討論の企画、2)一般討論テーマの設定、を行うほか、3) 後任者のためのベストプラクティスと教訓の取りまとめ、4) 総会と総会議長の認知度の向上、5) 事務総長・安保理議長・ECOSOC議長との定期協議・役割の明確化、といったような新たな任務も付与されている。また、個別決議により付与されるものとして、1) 首脳レベル会合の開催、2) 成果文書の交渉、3) 特定テーマにかかる審議、4) 加盟国内でのファシリテーターの任命、などがある。その他には、メディア・市民社会との対話、国際・地域会議への参加、加盟国訪問なども行っている。 現総会議長はこれらの任務の中でも、特に認知度の向上に力を入れている。総会の権威強化を目的として、様々な会議への参加、メディアへの発信、市民社会との対話、学会・大学における討論など幅広いフロントで活動を行っている。

■4■ 第66会期における総会議長としての主要政策

総会では、様々なグルーピングがあるが、南北対立が意思決定を硬直化させる一つの原因となっている。右肩上がりで新興を遂げつつあるカタールは、様々な顔をもつ国である。その国際社会における位置づけを最大限アピールし、対立を乗り越え様々な立場の国々の橋渡しをする、という意味で、”Building Bridges for a United Global Partnership”というキャッチフレーズを中心に据えている。9月の一般討論テーマとしては「紛争の平和解決における仲介の役割」を掲げた。これを中核として、第66会期において焦点をあてる事項として、以下の4分野を特定し、会期開会時のステートメントで明らかにした。1) 紛争の平和的解決、2)国連の改革と活性化、3) 防災と災害時の危機対応能力の向上、4) 持続可能な開発と世界の繁栄、である。総会の議題は170くらいあり、総花なので、議長として焦点を当てる優先事項を明らかにして、メリハリをつけようとしている。4本柱以外議長はやらないというわけではなく、4本柱に入る事項については特に精力を注ぐという意味である。年明け以降、議長主導のテーマ別討論やリトリートなどを企画している。すでに、仲裁、ポストミレニアム開発目標(MDGs)等に関し、議長主導の会議を開催した。

■5■ 政策調整官の役割と日々の仕事

政策調整官としての最初の仕事は■4■にあげた主要政策の骨格作りである。様々な要素を考慮にいれながら、会期開始前の7月から準備を進めた。また、議長の職務の中核は、会議、行事への出席とステートメントの発出、加盟国間の合意形成を促進するための場の設定、あちこちから申し入れのある各種会談への対応にある。総会議長室には各分野の専門家が集められているが、政策調整官は、チームを取りまとめ、議長の職務を最大限効果的に行うのに必要な政策調整及び、段取りを行う役を担っている。認知度の向上に力を入れている議長が効率的により多くの行事に参加できるようにするためには、綿密な日程管理が重要だ。また、数多くの専門家が関与する分野横断的な対応が必要な事項も多々ある。様々な会談の資料も一貫性をもってとりまとめなければならない。日本では「段取り」を重視する組織が自然となりたっているが、様々な文化背景を持つ同僚が寄せ集まっている今の職場では、仕事の作法そのものから確認する作業が必要である。オフィスの中で円滑に皆が情報を共有し、統一感をもって仕事する仕組み作りもしなければならなかった。

■6■ 日本と国連-NYに勤務して思うこと/これから国際社会で働くことを目標にしている方々へ

日本人は調整能力と段取り能力を国民性として持ち合わせている。この日本人として自然と身につけている能力は、国連で大変重宝される非常に貴重な能力である。日本人はとかく謙虚になりがちだが、コミュニケーション力さえ向上させれば世界で通用する、ということを自覚すべきだ。コミュニケーション能力とは、語学力もさることながら、多国籍文化の中で、自分らしさを大切にし、自信をもって他人に接することである。もう少ししたたかさを身につけ、日本で当たり前に行われている調整・段取り能力を発揮すれば、国連の中でも十分生き残っていくことができる。ところでコミュニケーション能力を発揮するのに障害になるのが、語学コンプレックスである。完璧な英語でなくても内容のある発言をすればいいのである。どんどん世界に出て活躍してほしい。

■質疑応答■

■Q■ 人道援助、開発、安全保障と本来国連総会で話されていたことをテーマに分けたことで、どれだけ議論の効率化につながったか。
■A■ 4本柱の設定は、議長の視点を明確化しようという意図がある。200近くある議題の中で、どの分野で特に成果をあげたいのか、という意思表明である。

■Q■ 冷戦後、安保理が主体的な役割を果たしているために総会の存在意義が問われる様になった。また、国連決議を無視する国が出てきた中で、総会の活性化が安全保障においてどの程度意義があるのか。
■A■ 安保理との関係上、総会の存在意義が議論にのぼるのは至極自然なことである。国連憲章で安保理の役割と権限は決まっている。安保理の役割に立ち入るというよりは、政治力学上、安保理の議論に入れない加盟国が意見を表明する場として機能している。ただ、総会の規範形成能力が問われているのも事実である。

■Q■ 今会期の主要政策をみてると、1年間で解決していくことが難しいものばかりに思う。1年で何ができるのか、また誰がどの様な形でフォローアップし、また成果をどの様に評価するのか。
■A■ 掲げた課題はもちろん1年間で解決できるものではない。議長任期期間で、少しでも恒久的解決に向けた一歩を踏み出したいと思うものを選んでいる。国連決議は国際法の法源であり、これらの積み上げにより、国際慣習法が形成されていくのである。国際規範の強制力をどこまで強めるかは進行形の議論である。その中で、規範をつくるのは加盟国自身である。総会として、加盟国間で少しでも議論を進め、ルール作りに寄与できれば、それだけでも意義がある。ただ、議長は議論の方向性を打ち出す環境整備はできるが、一定の立場の表明をできない。中立性が求められるからだ。また、決定事項のフォローアップは加盟国が行う。加盟国の意志に基づいてコンセンサスを形成し、それを実現可能なものにしていくのは加盟国の使命である。国連はそれを前提とした規範形成の場なのである。

■Q■ 調停に関して国連総会の役割は重要であり、総会で意見の調整ができた場合は強い決議になると思う。しかし国連によるハイレベルな調停も必要だが、市民レベルの調停も大切だと思う。今のところ具体的成果の見通しは?
■A■ 重点事項である「調停mediation」分野で、具体的にどんな成果を出したいかはまだ議論中。現在様々な会議を仕込んでいて、11月には既にその第一弾として、国連の果たす調停機能について議論する会議を開催した。来年、加盟国主催のものも含め、ハイレベルの会議をいくつか予定しており、その議論の中で加盟国、関係者の知見をまとめ、具体的成果を見出していく予定である。市民社会からのインプットも重要なので、何かいい知恵があるのであれば、ぜひ提示して欲しい。

■Q■ 議長国を選出する基準は?
■A■  地域選出。地域内での選挙キャンペーンで決まる。

■Q■ 議長国の特色があまり出ていなかったケースがあったと聞くが、それはどうしてか?
■A■ 総会議長室の機能強化が進んだのは私のみるところ2005年以降であるが、経済危機への対処など、最も喫緊の課題が出てきた場合には、当然その対処に力を入れる必要があったであろう。また、リーダーシップをどの程度とれる議長だったか、とかスタッフの政策能力にもよったであろう。カタールは国際会議誘致を国是としており、大変意気込みのある国である。

■Q■ 議長室のスタッフの中立性は?
■A■ 官房長以下26名いるが、いろいろな雇用形態をとっている。自分も含めて各国政府からの出向者が半分位を占めている。国益を捨て193加盟国全ての代表として、中立性を保つことが求められている。

議事録担当:唐澤由佳、アジラニー佳代子
ウェブ掲載:斉藤亮