第77回 国連機関会議と政府間会議の交渉、駆け引きの現場から

日時:2013年4月20日(土)15時00分~16時30分
場所:コロンビア大学ティーチャーズカレッジ会議室
スピーカー:村田敏彦氏 (国連食糧農業機関(FAO)対国連連絡事務所 連絡調整行政官)

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講師紹介:村田 敏彦(むらたとしひこ)東京生まれ。上智大学大学院コミュニケーション修士。米国スタンフォード大学大学院コミュニケーションと発展途上国開発修士。上智大学大学院コミュニケーション学専攻博士後期課程修了。マーケティングコンサルティングファーム、Pacific Consulting Group 勤務を経て、1982年よりJPOとしてUNICEF本部勤務。1986年より国連食糧農業機関(FAO)対国連ニューヨーク連絡事務所にて、連絡調整行政官として事務所の運営ならびに、FAOを代表して国連機関会議と国連政府間会議に出席。日本マスコミュニケーション学会会員。主な著書に、”Competition for Shaping the New Utopia" 「Wired Cities: Shaping the Future of Communications」Edited by W.H.Dutton(G.K.Hall&Co.)、"MDGsがまとめられるまでの経緯”「プテンカラム監修:先進国と途上国の開発への取り組み」(上智大学)がある。

■1■ はじめに

国連フォーラムでは、国連食糧農業機関(FAO)対国連連絡事務所にて連絡調整行政官としてお勤めの村田 敏彦氏を講師にお迎えし、「国連機関会議と政府間会議の交渉、駆け引きの現場から」のテーマで勉強会を開催しました。参加者は、食糧問題や、国連が果たす役割・課題などについて、FAOを代表して国連内の政府間及び国連機関会議などの様々な会議に出席している村田氏と、質疑応答形式で議論を交わしました。なお、以下の議事録の内容については、所属組織の公式見解ではなく、発表者の個人的な見解である旨、ご了承ください。

■2■ 国連での政府間会議・国連機関間会議

勉強会が開催された週では、村田氏は1週間の3日間、ポスト2015年開発アジェンダに関する国連機関間会議と政府間会議に出席していた。このことが示すように、村田氏は、FAOを代表して国連機関間会議、そしてオブザーバーとして政府間会議に参加するという珍しい立場にいる。

政府間会議と国連機関間会議の違いは、紛争地域の安全保障に関わるテーマに関して言うと、下記のようになる。政府間会議では政治的対処の方針を決めるための決議案を国連加盟国が議論し、決議が国連安全保障理事会で採択される。国連機関間会議では、決議が採択された後、どのような人道支援が必要か国連諸機関の対処を議論する。また、国連の会議で話し合う際、近年のメディアやインターネットの発達により、 NGOや市民組織など様々な団体や人々の意見が重視されてきている。

国連機関は各国政府の意向を反映しているべきなので、政府間会議と国連機関会議で全く相反する提案が出されることはないが、国連事務局と国連加盟国の見解が多少異なることはある。また、国連が取り組む課題は、国連加盟国だけでは解決が困難であったり、また解決に向けて取り組みたくない課題であることが多いため、往々にして解決までには時間がかかることが多い。

各国連機関のマンデートの重複の調整に関しては、国連はDelivering as One(一貫性を持った支援)を掲げており、一つの国連として業務の重なりをできるだけなくそうという取り組みを行なっている。例えば、国連事務局は各国外務省、FAOは主に各国の農林水産省の管轄にあるので、整合性を取りづらいこともあるが、限られた予算の中で無駄をなくしていくために、コフィ・アナン前事務総長の在任時よりOne UN(一つの国連)という目標をかかげ取り組んできた。一つ例を挙げると、人間の安全保障基金は、単独の国連機関だけではその基金に応募することはできず、複数の国連機関で提案したものでないと基金の審査には通らないとするなど、国連ではOne UNのために様々な努力がなされてきた。

各国間の交渉を見てきた村田氏に、国連決議についての質問が挙がった。国連加盟国は決議案の合意に至るまで、各国がそれぞれの立場を表明し、それをもとに決議案の文案をまとめ、それが議長提案として参加した国々にまわり、そこから審議、駆け引きが始まる。決議案をまとめる際は、時期によっては、徹夜同然の時もある。各国それぞれの多様な意見がある中で、合意に至るのには至難の業だ。しかし、合意に至る秘訣は、多数の交渉参加国が討議を重ねる中で、どの交渉参加国も同じ程度の満足と不満を抱える内容に落ち着かせることだろう。 

世界的不況下での国連加盟国からの国連分担金率の低下の話題も挙がった。ある国からの分担金率が減れば、それに伴い、その国の国連内での影響力も低下する傾向にあるが、このような場合、限られたお金をある特定の分野に重点的に配分することは大切である。例えば、スカンジナビア諸国は人道分野、カナダは国連平和維持活動に重点を置いている。

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■3■ 「飢餓と飽食の共存」とFAOの取り組み

世界の人口が増加するにあたり、世界の食糧生産量も増やさなければならないが、ある統計では、世界の食糧生産量は全人口の需要を賄えることが証明されている。つまり、食糧が適切に配分されれば飢餓に苦しむ人はいなくなるはずである。食糧不足の原因は食糧生産量の不足ではなく、食糧の保存・輸送技術が未発達であることや、分配方法や輸送費用に課題があることにある。ただし、仮にこれらの障壁が技術革新などによって解決されたとしても、各国の政治的な利害関係により、効率的な生産・分配が妨げられることもありうる。

また、先進国・途上国に関わらず、偏った栄養摂取によって引き起こされる肥満の急増も問題視されている。FAOでは世界中の国の穀物状況の統計をウェブサイト上で提供したり、ポスト2015年の開発アジェンダを通じ、特定地域ではなく、世界中を視野に入れた食の安全保障に取り組んだりしている。これらのデータを使いどう活かすかは、各国や個人次第である。

■4■  国連における日本人職員の動向と活躍の鍵

日本人の国連職員志願者が減少しているが、その原因として、JPOを受験する際に職務経験が必要である点、国連に入ることは非常に難しいという印象を漠然と持っている人が多い点、などが挙げられた。国連職員への通り道の一つであるJPOを受験する際に、最低2年以上の職務経験が必要であったり、ボランティアや途上国経験があると国連就職に望ましいといった条件や、不安定な社会を見据えた若者がリスクを負えなくなっている点などを指摘した。一方で、国連で活躍するためには、自ら勤務ポストに応募していくことが求められるため、ある意味、自分次第で柔軟に対応できる職場であるとも言える。

国連での就職は上記で述べたように日本の一般的な就職のシステムとは違うが、大事なことは、自分に合った仕事を見つけ、自分自身がどう生きていったらいいのかを見出すことである。国連で働くことの一番の良さは、日本にいれば出会えなかったであろう、背景も国籍も異なる人たちと出会い、文化を越えて学べる経験である。リスクは当然ついてくるが、それを覚悟で望めば、失望することも少なくなる。リスクばかりに目を向けるのでなく、自分にとってプラスとなる経験を積み重ねることで、国連での仕事はさらに魅力的になっていくであろう。

■5■ さらに深く知りたい方へ

このトピックについてさらに深く知りたい方は、以下のサイトなどをご参照下さい。国連フォーラムの担当幹事が、下記のリンク先を選定しました。

  • FAO (英語) http://www.fao.org/index_en.htm
  • FAO(日本語) http://www.fao.or.jp/

議事録担当:志村 洋子
ウェブ掲載:羅 佳宝