夕暮れのビーチにて遊ぶ子どもたち
第37回 田中 貴生 (たなか きせい)さん
アメリカン大学 国際関係学部、国際環境政策専攻
インターン先:国連環境計画(UNEP)カリブ地域事務所(キングストン、ジャマイカ)
http://www.cep.unep.org/
期間:2009年5月26日-8月8日
■インターンシップの応募と獲得まで■
現在、ワシントンD.C.にあるアメリカン大学、国際関係学部に在籍している田中貴生と申します。私は大学院では国際環境政策を専攻しており、個人的に現在の海洋保護事情に政策観点から興味がありましたので、国連環境計画(United Nations Environment Programme:UNEP)カリブ事務所にて、この夏二ヵ月半のインターンシップを経験させて頂きました。
UNEPのインターンを志望した動機は、大学院一年目に「カリブ海における海洋保護区の有効性」というテーマでの資料集めの過程において、UNEPが 「Regional Sea Programme(地域海計画)」というプログラムを通して世界の海洋資源の管理、及び海洋汚染状況の監視を目的として、世界中の海域で活動していることを知ったからです(地中海、カリブ海、黒海、東アジア海、南太平洋等)。
次に実際の応募までの流れですが、私は特に知り合いにインターン先を紹介して頂けるような国連職員の方はいなかったので、自ら早い段階で積極的にインターンの可能性を探し、コンタクトをとりました。具体的にはまず、各UNEP地域海事務所のHPを調べインターンシップの有無を確認し、不明な場合は直接現地事務所に電話して夏のインターンを応募しているかどうかを尋ねました。これと並行して、提出するための志望動機書(Statement of Purpose)、履歴書(Resume or CV)、さらに親しくしていた教授二人に、自分の動機と希望としているインターンシップの内容を述べ、推薦状を二通書いて頂きました。
これらの準備を2008年12月までに終え、12月上旬に下調べの段階で何らかのお返事を頂いた現地事務所全てに(20程)直接応募書類一式を送りました。年が明けて返事を頂いたのはその半分にも満たない程度でしたが、その後のメールでのやり取り、電話面接、そして最後にSkypeによる口答面接などを経て、無事2009年4月上旬に希望していたUNEPカリブ海域事務所に夏季インターンとして採用して頂けました。
このように私の場合は、希望するインターン先を自ら探し、積極的に自分を売り込んでいく様な流れでした。私のケースは恐らく一般的ではないと思いますが、私のように誰かの紹介を得られなくても何とかなる、といった程度に参考にして頂ければ幸いです。
■インターンシップの内容■
UNEP地域海計画カリブ海域事務所は、カリブ海のほぼ中心に位置するジャマイカの首都キングストンに位置し(以後UNEPカリブ事務所と表記します)、公式なUNEPの地域海計画内のカリブ海域を担うUNEP現地事務所として、カリブ海域の海洋汚染問題、また海洋資源の持続的な発展活用を目的として運営されています。私が所属したUNEPカリブ事務所は、基本的に三つの部門に分かれており、内訳としては;
1. 環境汚染の分析と管理
(Assessment and Management of Environment Pollution - AMEP)、
2. 保護区域の設置と管理
(Specially Protected Areas for Wildlife - SPAW)、
3. 教育、啓蒙、及びコミュニケーション
(Communication, Education, and Training Program)
となっておりました。UNEPカリブ事務所は全職員数20名ほどの小規模な事務所でしたが、ジャマイカに到着した翌日から、直接のスーパーバイザーに事務所の全員と話をする機会を与えられ、すぐに馴染むことができました。インターン開始後、私は主に上記の「環境汚染の分析と管理部門(AMEP)」で働くことになり、主にAMEP部門内の「陸上からの海洋汚染源(Land-based Sources of Marine Pollution - LBS)」ユニットへ配属され、二人の国連職員の方の指導の下、様々な会議やワークショップのための資料作りに関わらせて頂きました。
地元の漁師。漁獲量は年々減っていると言われてました。
私のインターン期間中には同事務所内で、「カリブ海域における石油流出」、「保護区域の設置と管理」、「陸上からの海洋汚染」に関するプログラムが同時並行で取り扱われておりました。中でも、UNEPカリブ事務所が特に大きく取り組んでいたのは、「陸上からの海洋汚染(内陸部での農薬過剰使用、工業廃水、更に農薬を含んだ土壌流出等)」に関する事柄でした。基本的には事務所の各ユニットは独立して活動しており、私を含めて前述のLBSユニットに所属するのは三人のみという非常に小さなプログラムでしたので、研修を始めてすぐに同ユニットの概要や活動内容を知ることができました。
また、私はそのUNEPカリブ事務所が事務局(Secretariat)として取り扱う、「Cartagena Convention(現地では「カタヘナ」と発音しますが、以後日本で一般的とされる「カルタヘナ」と表記します。)」に関わる様々な課題のお手伝いをさせて頂きました。カルタヘナ条約とは、カリブ海全域の海洋汚染の管理、及び海洋資源の管理を一括して執り行う唯一の法的効力をもった条約であり、同条約事務局として活動するUNEPカリブ事務所は、カリブ海諸国の賛同を得て初めてカルタヘナ条約を施行することが出来ます。カルタヘナ条約の中でも、既にカリブ海各国の賛同を得て締結されている「石油流出」や「保護区域」に関するプロトコルに比べ、LBS(Land-based source of pollution)プロトコルは締結までにあと三カ国からサインされなければならないため、私自身もLBS関連の資料作りにインターン期間の大部分を費やすことになりました。私がインターンとして過ごしていた2009年8月時点では、LBSプロトコル施行まであと三か国の賛同を取り付けるのみとなっており、施行実現まで後もう少しといった雰囲気でした。
ご存知の方も多いと思いますが、カリブ海諸国の中で天然地下資源に恵まれた国は珍しく、殆どの国々が外貨収入の大きな部分を美しいカリブ海を背景とした観光産業に頼っています。この様な状況下でカリブの国々を挙げた海洋資源の保護及び管理を行うことは非常に重要である、というのが現在の共通した認識です。こうした背景の中、UNEPが主体となり、カルタヘナ条約という法的な枠組みの中でカリブ海の海洋汚染・資源保護及び管理を一括して執り行おうという取り組みではありますが、未だにカリブ海諸国間に存在する経済格差等の問題から、協調した取り組みが出来ているとは言い難いのが現状です。
このため、UNEPカリブ事務所では、私がインターンとして働いていた当時、カリブ海域における陸地海洋汚染の規制の実現を積極的に推進したいという意向を示しており、そういった背景の下LBS実現のために必要なステップを明らかにするといった課題の他に、他のカリブ海諸国政府とのLBSプロトコル締結のための交渉用資料作りといった課題に、二ヶ月半のインターン期間を通して取り組ませて頂きました。
この間、キングストンで開催されたAMEP関連のワークショップに議事録係として出席させて頂いた他、UNEPカリブ事務所と協力関係にあるジャマイカ環境保護庁、Global Environment Fund等の国際金融機関、公営企業、WWFやConservation International 等のNGO、更にカリブ海諸国に点在するパートナー機関で活躍されている方々との連絡、また直接お会いする機会を通して、意見交換も頻繁にさせて頂きました。このような経験を通して現地に到着した当初は漠然としか見えてこなかった、カリブ海特有の海洋保護事情について理解を深めることができ、最終的に日本やアメリカのような先進国からは見落としがちな、発展途上国に特有の経済的・政治的事情を知ることができました。この様な現地でしか得られない知見を得たいというのがこのインターンでの一番の目的でしたので、本当に望み通りの貴重な経験ができました。
キングストンにある国連ビル概観(左側の建物)。
UNEPだけでなく、様々な国連関係のオフィスがあります。
ただ、当初インターンを始める前は、現場でのフィールドワーク等も期待していたのですが、実際はオフィス内でのデスクワークのみで、この点に関しては少し残念な気持ちでした。特に私の直接の上司は常に出張でカリブ海の他の国などに飛び回っていたので、少し羨ましい気持ちでした。また、これはカリブ文化に特有のことなのですが、メール・電話等の返事が全く返ってこないことが多く、私自身の業務が滞ることがしばしばあったので、その場合にはアドバイザーの方にお願いして、他の業務を割り当てて頂いていました。
■研修中の現地での生活、渡航前の準備等■
今回のUNEPでのインターンは、事前に無給ということを応募する段階で知らされていたので、現地で生活するに当たってインターン先から特に金銭面での補助などは受けていません。渡航前の段階では主に安全面での懸念がありました。意外と思われる方がおられるかも知れませんが、ジャマイカのキングストンは非常に治安の悪い土地であり(キングストンの人口当たり殺人事件発生率は日本の平均の90−110倍)、外務省のHPでも十分に注意するようにとの警告が出ていましたので、渡航前に現地で立ち入らない方が良い地区などの情報集めは入念に行いました。
治安の悪い発展途上国でインターンを経験される方を悩ます現地での住居問題ですが、私自身のケースも例外ではなく、キングストンの決してよくない住宅事情に渡航前は悩まされました。現地で生活するにあたっての第一条件は最低限の安全確保でしたが、私のような短期滞在の外国人が現地事務所から強く推奨されている「治安の良い地区」に住居を探そうとすると、どうしても家賃は日本の基準で考えても非常に高いものとなってしまいます。加えて短期契約などという条件で探すと、どうしてもホテル滞在といった、私のような金銭面で余裕の無い学生には難しい結果になりがちです。私は渡航前にこれらの事情を踏まえて、現地UNEPカリブ事務所の秘書の方に必死に交渉してみたところ、なんとか渡航直前に同事務所で働いておられる現地職員の方の家に格安で泊めて頂けることになりました(二ヵ月半で$1000朝夕食事つき)。この様に私の場合は、殆ど偶然ではありましたが、非常に良い条件で現地の生活を送ることができました。
国連ビルより望むキングストン市内
また発展途上国に渡航する際に必要な予防接種(黄熱病、B型肝炎、破傷風など)に関しても心配していたのですが、これに関してはワシントンD.C.のジャマイカ大使館に直接赴いて、ジャマイカ渡航の際においては特に必要無しと教わりました。ただマラリア対策のために市販の経口予防薬を持っていきました。私自身は幸いインターン期間をマラリアに罹ることなく終えることができましたが(蚊にはものすごく刺されましたが)、周りの非現地人の方とお話してみると、やはり一度か二度マラリアに罹ったという方がそれなりにおられたのも事実です。私達のように先進国の居住環境に慣れてしまうと、どうしても現地で体調を崩してしまう方も多いと思います。もし不安な方がいれば、渡航前に医者と相談し、安心のためにも、勧められた予防接種については全部受けるようにしたほうが良いと思います(ただ、安価ではなくアメリカの予防接種の中には$500を超えるものなどもあります)。予防接種の中には一定の間隔を空けて数回接種する必要があるものも有り、渡航直前に行うというのは無理なので、日程が決まり次第計画的に進めることをお勧めします。
今回、私がインターンとして過ごしたキングストンはカリブ海の島国ジャマイカの南東部に首都として位置しており、レゲエの発祥地としても知られています。街の背後にはブルーマウンテン・コーヒーの生産地で有名なブルーマウンテン山脈が聳え立ち、ジャマイカでは最も大きな都市です(人口は約80万人程)。キングストンはビジネス関連のホテルやビルが立ち並ぶ街で、それなりの都会であるということもあり、生活面で特に困ったことはありませんでした。
市内の路上にて
しかし、現地で暮らしてみると、想像していた以上に治安が悪かったというのが正直な感想です。現地到着後に街の中で感じる雰囲気の悪さは相当なもので、街の中心地のダウンタウン近辺でも、夕方には銃声が聞こえ、昼間でも土地勘の無い外国人は絶対に一人で歩き回るなと現地事務所から強く言われました。インターン期間中、現地事務所への通勤にはできるだけタクシー使用を推奨されましたが、金銭上の制約から私はバスで通勤していました。このバスでの通勤に関しても現地事務所から、乗る時間帯を小まめに変えるようにと教えられ、実際二度ほどバスを降りると数人に後をつけられたことや、ダウンタウンのバス停で顔を覚えられて絡まれる等のこともありました。他にも、朝起きると知らない男が部屋の窓をこじ開けて侵入しようとしていたり、車で移動中に銃撃戦直後の現場に出くわす等スリリングな出来事はありましたが、現地生活に慣れてくるとバスに乗って少し離れたポートロイヤル(Port Royal)まで出かけてみたり、インターン先で知り合った方々とブルーマウンテンに登山してみたりと、とても楽しい時間をすごせました。
明け方のブルーマウンテン。本当に青く染まります。
■感想と今後の展望 ■
国連環境計画でのインターンを終えて一番に残る感想といえば、やはり生まれ育った日本、そして住み慣れたアメリカからも、地理的・文化的に遠く離れたカリブ海ジャマイカという、非常に海洋保護への必要性が高い現場で海洋保護問題に取り組めた事です。これは非常に今後の学問的な参考になり、この二ヶ月半から得られた経験は、今後の進路を大きく変えうる程に重要なものです。具体的には、海洋保護の分野で今後自分の方向性を模索していく上で、発展途上国それも現場の海洋保護がそのままその地域の生命線につながるようなカリブ海域で今回インターンが出来たのは本当に貴重な体験でした。
インターン期間中一番印象に残ったのは、海洋汚染の現状や保護区の設定にせよ、元々外部から来た国連環境計画の職員の方々と、昔からジャマイカに住んでいる現地の方々との間に、取り組み方や意識面で相当な差ができているといった現実です。なぜなら発展途上国のような場所ではどうしても生活のレベルが低いものとなり、人々の関心がどうしても環境保護といったものから乖離してしまいがちになります。今回の様な地域規模の海洋保護・環境問題への取り組みというのは非常に重要な問題なのですが、短期間で現地に暮らす人々の生活改善に繋がる等の結果は望めないので、どうしても発展途上国では政策レベルと現場レベルでの取り組み方に差が出来てしまうと思いました。こういった発展途上国特有の問題については今後の課題と捉え、今回の国連環境計画インターンから得られた新しい視点を元に、大学院終了後の進路に反映させていきたいと思います。
■ これからインターンを希望する方へのメッセージ ■
私が出来る数少ないアドバイスなのですが、これから国連インターンに応募される方々には、ただ漠然とインターン先を探されるより、自分の興味がある分野を事前にしっかり絞り込んでおくと、とても効率よく自分の興味に沿ったインターンを見つけやすくなると思います(只、あまり絞り込みすぎると逆に大変ですが)。具体的に例を挙げると、自分は環境に興味があるけれど数ある環境保護の分野の中で何に一番興味があるか?そしてその分野において国連はどのような活動をしているのか?という風にリサーチを始めると成果が出やすくなると思います。また、この様に順序だてて行動していくと面接でも自分の動機等を判りやすく説明できると思います。
次に受け入れ先の状況にもよりますが、一般的に一介のインターンがその事務所の業績を左右するような重要な業務に携わるようなことは稀だと思います。よけいなプレッシャーを感じずに伸び伸びと与えられた課題に取り組んでみれば、逆に新鮮な発見があったりして現地でのインターンがより有意義なものになると思います。
最後に個人的な体験からのアドバイスなのですが、インターン期間中に私が特に注意していたことは、「周りとコミュニケーションを取りつつ、自分の業務をこなす」ということでした。もしインターン先が私の様な小さな事務所だと、そこで働く誰もが自分の仕事にかかりっきりになってしまうこともあるので、孤立化を防ぐためにもこのような姿勢は有効かと思われます。具体的には現地事務所で私は毎日自分のアドバイザーに「私は今この課題にこのような観点から取り組んでいます」といった簡単な業務報告のような物を自主的に提出していたので、インターン期間を終える際にアドバイザーから、「君が事細かに伝えてくれるので、こちらとしても進行具合を把握でき、アドバイスもしやすかったしとても信頼できた」と褒められ、最後には今後の進路のための推薦状まで書いて頂きました。
さらには漫然とインターン先で与えられた時間を過ごすだけではなく、自分から積極的にこんな仕事がしたいとリクエストしてみても面白いと思います。私の体験はあくまで一つのケースですが、今後国連でのインターンを目指す皆様の助けになればと思います。
(2010年5月31日掲載 担当:釜我 ウェブ掲載:柴土)