第24回 2006年8月24日開催
於・国連代表部会議室
国連邦人職員会/国連日本政府代表部/国連フォーラム 合同勉強会
「安保理における政治力学−P5(常任理事国)とE10(非常任理事国)」
松浦 博司さん
国際連合日本政府代表部 参事官
■Q■ 安保理の議論は外部、または国連内部の他の機関にどこまで公開されているのか。
■A■ 公式会合と呼ばれる会合は全て公開されており、他の国連機関や全国連加盟国が傍聴できるようになっている。しかし、公式会合で行われるのは決議の採択行為そのものだけであり、非公式会合と呼ばれる決議の文言を交渉するための実質的な議論には、安保理のメンバー国以外は参加することはできない。
■Q■ 国連憲章第39条、第40条、第41条、第42条に関係する過去の決議をみると、4種類に大別できる。即ち、(1)第39条に基づく脅威の認定に言及したうえでの第41条・第42条による強制措置が取られる、(2)第39条にも第7章にも言及せず、強制措置も取られない、(3)第39条への言及がないまま、第7章に基づく強制措置が取られる(ルワンダの例)、そして(4)第39条に基づく法的認定への言及があるにもかかわらず、第7章による強制措置が取られない、というものである。レバノンに関する決議はこのうち4番目に該当すると思われるが、決議の中で第7章に関する明示的な言及がなくても拘束力があるとみなされるのか。
■A■ レバノンに関する決議の文言は確かに曖昧だが、曖昧だからこそ、対立する利害関係者の間でようやく折り合いがついたともいえる。先にも述べたように、この決議では、第39条に基づく脅威の認定が行われているにもかかわらず、第7章への直接の言及はない。そこで第12パラグラフの強制性につき議論が惹起されている。他方で、第15パラグラフはいずれにせよ明らかに強制措置であるとの観点から、第15パラグラフを導き出すために第39条に基づく脅威の認定を決議の中に盛り込んだ、という考え方もできる。
■Q■ 1990年代以降、ジェンダー、Security Sector Reform、人権等をはじめとする複合的なPKO活動が行われるようになった。平和構築委員会との関係においても、国連PKO局は今後どのような役割を果たすべきかという議論がPKO局内で行われている。決議の中では、PKO活動を「誰が」行うのかということが明文化されていないことが多いが、安保理、特にP5はPKO局にどのような役割を求めているのか。その役割の中にはJusticeや人権といった分野も含まれるのか。
■A■ 安保理のメンバー国は、安保理が要請した国連ミッションが確実に実施され、効果を出しているかをモニターする必要があるため、PKO局にミッションを丸投げしてしまうのではなく、コストに見合った最善の効果が得られているのかを厳密に審議しなければならない。そのうえで、他の部局や機関が活動を担当した方がよいという判断が下されれば、決議を通じてその旨を国連事務局に要求していくことになるだろう。但し、現時点ではミッションの成果とコスト分析に基づいてメンバー国がそうした勧告を行うよう担保するメカニズムは存在しないので、今後そういうメカニズムを導入するよう提唱していく必要があろう。
■Q■ 安保理決議を議論するにあたり、国連の関連部局等、外部の関係者はアドホックに招かれているのが現状だが、安保理のメンバー国以外の関係者が常に議論に参加し、インプットを行えるよう何らかの制度化を行うべきか、それとも現状のままで適切といえるか。
■A■ 紛争解決のために最適な行動とは何か、ということを安保理が判断するにあたり、適切な情報を入手する必要がある。国連事務総長が安保理に注意喚起を行うという制度もあり、安保理が特にそれを拒否しない限りは、国連事務局が安保理への情報提供を行うことは可能である。国連事務局が安保理へのインプットを行いたい場合には、そうしたチャンネルを活用することも手段の一つであろう。
■Q■ ネパールやスリランカのような国々では、平和構築支援が進んではいるものの、安保理にはその支援が付託されていない。特にスリランカのように、難しい状況にある国に対して、安保理としてどのように取り組んでいくべきか。また、平和構築委員会との関係において、安保理が扱う平和構築支援はどうあるべきか。
■A■ 紛争と一口に言っても、内戦の場合は、内政不干渉の原則に照らし、どこまで国際社会が関与するのが適切か、また効果的か、ということを考えていかなければならないが、紛争当事者が国際社会の関与を望んでいない場合、一律に答えは出せない。外部からみれば、人道的な被害が大きければ大きいほどその内戦への関心は高まる。人道的被害はもちろん看過できないが、それだけでは安保理による関与の是非を決定することはできない。平和構築委員会の活動内容はまだ明確になってはいず、流動的であるが、紛争当事者が国際社会からの過剰な介入を拒否する場合、安保理よりも平和構築委員会の方が当事者にとっては受け入れやすいという状況があるかもしれない。そうであれば、紛争解決のための選択肢を増やすという意味で好ましいことだといえる。
■Q■ 昨年来の国連改革に関する議論の仲で、人道介入の原則について、総論では意見の一致がみられたと聞いている。それを受けて、実際にダルフール等現場での活動にどのような影響があったのか、あるいはなかったのか。
■A■ ダルフールでは、安保理による介入を受け入れるか受け入れないかのせめぎ合いが日々行われている。人道介入の原則が安保理での議論に全く取り入れられていないということはなく、実際に決議の文言に反映されるかどうかは別としても、重要な問題として意識されていることは確かである。
■Q■ レバノンに関する決議案交渉をみていて、安保理のメンバー国が拡大した場合に意見を収斂することは極めて難しいのではないかと痛感した。日本の提出した安保理改革案では、地域代表を増やすことでメンバー国を拡大することになっているが、この案が現実化すると、議論がまとまりにくくなり、効率性が損なわれるのではないか。安保理のメンバー国を拡大するにあたり、効率性と透明性の折り合いをどうつけるかというのは難しい課題だと思うが、安保理改革の方向性についてはどう思うか。
■A■ 効率性と透明性のバランスは非常に重要な問題である。実際に安保理改革がどのように進むかとは別に、個人的な見解としては、安保理が実効性のある決議を採択し、適切な介入を行うためには、紛争の解決に最もコミットできるメンバー国が、いわゆる「コア国」として議論をリードすることが必要だと考えている。また、メンバー国の中に、「コア国」と政策的立場は異なるがある程度コミットを行える国々があれば、それらの国々も「準コア国」として議論に関わっていくことが求められる。しかし当然のことながら、全ての紛争に共通のコア国・準コア国が存在するわけではない。個別の紛争ごとに、コア国2〜3カ国、準コア国5〜6カ国が中核となって議論を行い、そのフィードバックを受けたうえで、安保理が決議を採択するということは理論的には可能である。コア国・準コア国がP5に固定されているという現状によって安保理の効率性が阻害されていることに対する問題意識の提起が本日の中心テーマであり、この点については真剣に取り組んでいく必要があろう。
以上
<松浦参事官からのコメント>
勉強会当日は、大勢の方に熱心に聞いて頂き、ありがとうございました。また、提起された質問もいずれも議論の進展にとり有益な、鋭い、よい質問でした。また皆さんと一緒に安保理の平和活動につき考える機会があれば、と思っています。
担当:大槻、大仲、藤澤