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「障害者の権利条約--その意義、条約策定過程、今後の課題」
伊東 亜紀子さん

国連経済社会局(UN/DESA)
社会問題担当官 (障害担当)

2007年4月11日開催
於:ニューヨークUNFPA会議室
国連フォーラム勉強会


質疑応答

■Q■この条約策定においてはNGOの参加も活発であったが、この背景は?

■A■そもそも障害者に関しては、国際法、国内法を問わず知識が不足していた。だが、長年の障害者運動の実りとして、障害者に関するすべてにおいて障害者が関わっていくことに対する意識が高まり、障害者自身そして障害の専門家の団体が参加することは必然であった。障害者も、障害者以外の人が障害者の権利を決めるのではなく、当事者である自分達自身が策定過程に参加することの重要性を意識していた。
今世界には多くの障害者組織があるが、以前は障害者のための組織 (for persons with disabilities) と障害者による組織 (of persons with disabilities) に分かれていた。その間の壁を破り ”one voice (一つの声)” として障害者条約権利の策定過程に影響力を持つという意義もあったと思う。
当初加盟国の中には、NGOが条約策定過程に中心的に参加することを問題視する国もあったが、アドホック委員会の初代議長であったエクアドルのルイス・ガジェゴス・チリボガ国連大使が、全てのプロセスに障害者が参加するべきとの方針を支持した。NGOの活発な参加はガジェゴス大使の貢献するところも大きかった。

■Q■加盟国間の対立はあったのか?あったとすれば、争点は何だったのか?

■A■例えば国によっては障害者の自己決定に関する権利が制約されており、その場合障害者に法的能力を与える条項にやや消極的だったという例がある。また、経済社会文化権を市民政治権と同様即時実施すべき権利と捉えるか、漸進的な(progressive) 実現を目指すべき権利と捉えるかをめぐる議論もあった。国際協力に関する条項においては当初先進国と途上国の対立も見られた。

■Q■この条約によって具体的にはどのような効果が期待されるのか?

■A■日本をはじめとする先進国と途上国では、具体的な効果の現れ方は違うだろう。例えば、被差別を主眼としたアプローチがヨーロッパ諸国に顕著であるが、これらの国にはすでに様々な法律もあり、問題が起こった際の具体的な対応機関もある。しかし例えばアフリカでは障害に関する法や社会のシステム自体がないことが多いため、この条約そのものを基礎として国内法を制定していくというように使われる可能性がある。障害者の権利自体普遍的な人権保護の一部であり、この障害者権利条約をエントリーポイントとしてその他の人権の推進に貢献することも想定される。この包括的な条約をどう各国の状況に併せて実現していくのかが重要な点である。
日本が署名、批准するにあたっては、日本の法律が本条約と整合性をもつように、政府は法制度を整えることになる。また、国内法を補完する形での国際規範として使われることもあるだろう。また今後、新たな政策を作る中で、この国際規範を理論的根拠として数々の社会政策に提言していくこともできる。政府の審議会によっては障害者の方々が委員として参加している場合もあるので、そういった場で人権条約履行を推進することもできるのではないだろうか。

■Q■この条約ではそもそも障害者をどのように定義しているのか?たとえば障害には、身体障害・内部障害(内臓の疾患など)・感覚障害、神経障害(パーキンソン病など)・知的障害・精神障害などが一般的に含まれるが、さらに児童虐待をしてしまうなど自分自身のコントロールができない人なども場合によっては障害を抱えていると捉えられるかもしれない。

■A■たしかに、障害の幅は広く普遍的な答えはない。社会保障制度を実施するための障害者の定義なのか、今回のような条約の中での定義なのか、など、その都度何を目的としてどのような文脈で障害を定義するかは異なる。そこでこの条約ではなるべく広い層を想定し、例えば2020年になっても使えるように時間の経過にも対応できるような定義をした。
(参考:第1条:Persons with disabilities include those who have long-term physical, mental, intellectual or sensory impairments which in interaction with various barriers may hinder their full and effective participation in society on an equal basis with others.)

■Q■日本はどのような形でこの条約策定に参加したのか?日本の今後の課題は何か?

■A■日本は議員やNGOなど常に代表団を送り積極的に発言をしてきた。障害をもつ弁護士の方も日本代表団顧問としても参加していらした。
具体的な日本の発言はウェブサイト(http://www.un.org/esa/socdev/enable/rights/adhoccom.htm
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinken/shogaisha.html)から確認できる。

■Q■まず感想として、障害者の権利の発展において彼らが福祉の対象から権利の主体に変わるというバラダイムの変化が顕著であった。例えばスウェーデンは福祉国家として有名だが、以前スウェーデンに行った際、「障害者が欲しいのは福祉ではない、権利が欲しいのだ」と言っていたことを思い出した。
次に質問だが、障害者と開発、開発に障害者の人権アプローチを加えるという議論されたということだが、この二つを結びつけた視点は確かにあまり聞かない。具体的には例えばどのようなプロジェクトがあるのか?


■A■例えば世銀。開発のプロジェクトには、必ず障害者が参加するとか、プロジェクトのモニタリングで障害者への効果・影響を見るといった取り組みがなされている。今後はジェンダーのように、障害の問題を主流化する (with disability perspective, disability mainstreaming) が必要であろう。

参考
【障害者の権利と発展の問題を巡る経緯】 (2007年4月作成)

1950年 身体障害者の社会リハビリテーション決議(第11回国連経済社会理事会)
1969年  社会的発展と開発に関する宣言 採択
1971年  知的障害者の権利宣言 採択
1975年  障害者の権利宣言 採択
1976年 国連障害者年(1981年)決議採択
1981年 国連障害者年
1982年  障害者に関する世界行動計画 採択
1983-1992年 国連障害者の十年
1993年
 
障害者の機会均等に関する標準規則 採択
アジア太平洋障害者の十年開始年(-2002年)
1994年   標準規則特別報告者任命(ベンクト・リンクビスト氏スウエーデン)
1995年
 
国連社会開発サミット
国連北京女性会議
1997年  国連専門家会議"国際規範と障害者の人権"
1999年
 
OAS(米州機構)障害者差別撤廃条約 採択
"国際規範,障害者の人権と開発"国際会議(香港機会均等委員会)
2000年 "障害者の人権"に関する国連ブリーフィング
2001年 国連・人種主義、人種差別、外国人排斥およびそれに関連する世界会議(ダーバン南アフリカ)
同年12月 障害者の権利及び尊厳を保護、促進するための包括的、総合的な国際条約に関する決議案採択
2002年7月
  
障害者の権利及び尊厳を保護、促進するための包括的、総合的な国際条約に関する国連総会臨時委員会(障害者権利条約アドホック委員会第1回会合
2002年 アジア太平洋障害者の10年 第二期(新十年)
2003年7月 障害者権利条約アドホック委員会第2回会合
2004年1月 障害者権利条約起草作業部会
2004-2006年 障害者権利条約アドホック委員会第3−7回会合
2006年8月 障害者権利条約アドホック委員会第8回会合にて条約草案合意
2006年12月13日 第61回国連総会本会議にて障害者権利条約および選択議定書の採択
2007年3月30日 署名のための開放

 

以上

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議事録:朝居八穂子、国連フォーラム幹事。コロンビア大学Teachers College。井筒節、国連フォーラム幹事。UNFPA。
写真:堤敦朗、国立精神・神経センター。



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