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「平和構築分野の人材育成構想」

坂田奈津子さん
外務省総合外交政策局国際平和協力室 首席事務官

2006年12月15日開催
於:国際交流基金ニューヨーク日米センター



■ はじめに
   1.平和構築の概念
   2.我が国のアプローチ
   3.人材育成構想
   4.具体的な研修事例
   5.「寺子屋」プロジェクトの特色と課題
■ 質疑応答

<パワーポイントスライド資料>

■ はじめに
平和構築は、国内でも言葉として定着しつつあるが、昨年来国連に平和構築委員会が創設されたことにも示されるように、平和構築が国際的にも明確にアジェンダとなる中で、日本として何ができるのか、何をしなければならないのか、という問題意識が出てきており、政府内でも検討が続けられてきた。

これは、日本が(平和への取り組みという)国際的課題に対してどのようにアプローチできるのか、という問題。一つには、日本はこれまでもPKOへの参加を通じ国際平和協力を推進してきた。世論調査を見ても、最近ではイラク派遣の影響もあってかPKOへの支持が増加してきており、一般国民の間でも国際平和協力が肯定的に受け止められるようになってきている。またODAを通じて「平和構築」分野に傾注してきている。紛争に関与することに対してはまだまだ国民の意識の中にハードルがあるが、平和を確保するために何が出来るのかを中立的、科学的に検証して、官民含めて日本全体として「平和構築」に対する理解を深めていく必要がある。その際、日本の文民を海外に派遣することについては、国内的な受け皿をどうするかという問題があり、また、92年に制定された国際平和協力法(PKO法)は平和構築の現場から相当乖離してきているため、いわゆる一般法の議論であるが、どのように改定していくかが課題である。

平和構築分野へのODAの活用については、平和構築はODA大綱上も重点分野の一つであり、日本の最大の平和貢献ツールであることに間違いない。ただ、ODAにはカテゴリカルな限界があり、何にでも効く万能薬ではない点に留意する必要がある。また、日本は平和構築委員会のメンバーにもなったが、これまで積み上げてきた経験をどう活かして、知的貢献を行うかという点が重要である。

ではなぜ今、人材育成が問題になっているかというと、そもそも、「平和構築」自体が息の長い取組みであり、プロセスの途中でぶちっと切れる貢献は好ましくなく、現場のインパクトを柔軟に取り込み効果的な貢献を行っていく必要がある。その意味で、平和構築では「切れ目のない支援」が必要とされる。他方、日本の平和貢献の特色を見ると、関わるツールやアクターが入れ替わるのはよいとして、現場のプロセスにどのように連続して関わっていくかという点に弱点がある。それが(日本の取組みが最も手薄い)、紛争後の煙がにおうフェーズに貢献できる人材を育成していくべき、という問題意識につながっている。実際に紛争後の現場で働くPKO・政治ミッションの文民職員数を見ても、日本人の数は米国等他の先進国より一桁少なく、20人程度しかいない。また、国連事務局における邦人職員数も極端に少ない。求められるニーズや働く前提に沿った能力、技術とは何か、ということを見た上で、それらを強化するための支援を行うことが必要になってきている。

1.平和構築の概念

もともと「国際の平和と安全」は国連が中心となって取り組んできたものであり、「平和構築」の概念についても、国連におけるアプローチの検討が出発点となる。92年のガリ事務総長による「平和への課題」で概念整理がなされたのが最初で、この中で「紛争予防」、「平和創造」、「平和維持」、「紛争後の平和構築」と平和への関わり方が時系列的に整理された。「平和構築」はある種、「平和維持」とは違うものとして時系列としてはその後に位置づけられているが、実際には、停戦監視や治安維持をやるようなPKO(多国籍軍)展開中に国家再構築のための支援が始まるなど、同時並行的に進むものと見るべきである。

日本国内における「平和構築」の議論は、国連のアプローチとほぼ同じ方向性で整理がなされた。国際平和協力懇談会の報告書では、日本独自の言葉である「平和の定着」と「国づくり」が盛り込まれた。

9.11は紛争の世界と平時の開発の世界をダイレクトに結びつけたという点で、平和構築の分野にも大きな影響を与え、ODAを取り仕切るOECD/DACの中でも議論が顕著に変化した。それまでは97年頃からヨーロッパで社民主義的な風潮が吹き荒れており、それが開発協力においても極端な貧困削減、社会セクター開発への重視という形で、北欧諸国、イギリス、ドイツ等の一部の諸国の間で声高に唱えられ、日本型インフラ整備支援に対する風当たりは強いものであった。EUでは当時、「貧困削減」と名がつけば世論の支持が得られやすく、予算がつきやすいという背景もあったのであろう、ちなみに現在EUでは「法の支配」が重点分野とされていて、「法の支配」と言えば予算がつきやすいのか、国連決議にも、「rule of law」を入れたがる傾向が散見される。これまでは開発と平和・安定との関わりについての考察も弱く、これは、外務省と開発援助庁が他の諸国では(日本と異なり)別組織であることとも関連しているのであろう。さらに顕著な変容として、イギリスでは、国務省、国防省、開発援助庁(及び財務省)の三省庁で管理する「conflict pool」を創設し、平和構築に取り組むため、ODAの限界事例にも対応しやすい仕組みをつくりつつある。

2.我が国のアプローチ

日本国内では、2001年にテロ対策特別措置法が成立した後、2002年に川口元外務大臣がアフガニスタンを訪問した際に「平和の構築構想」を発表し、その後小泉前総理大臣がシドニーで演説を行った。また、同年後半には、国際平和協力懇談会の提言の中で、一般法や人材育成等日本の平和構築支援に関する様々な提案がなされ、続いて人材育成に関する実務家の検討が行われた。同委員会の報告書の中では、育成・訓練とミッションへの実際の派遣が有機的な連携でなされるべき、すなわち有効なキャリアアップにつながる必要性が指摘されたが、現実的なもの、できるところからパッチワーク的に各省庁の提言が行動計画に盛り込まれた。この結果、例えば内閣府PKO本部事務局では、国際平和協力研究員というポストが設けられ、外務省の中でも、当室に国際平和協力調査員制度が始まっている。また、実践経験を積むという点ではJPOを活用するという方法もあるが、JPOは現状では分野限定していない。

最近の動きとしては、山中元外務大臣政務官が国際平和協力懇談会のメンバーだったこともあり、麻生外務大臣の下でイニシアティブを発揮され、部内での議論が高まってきた。さらに、自民党・公明党が外交力強化に関する委員会を立ち上げ、その提言の中でも平和構築の人材育成の重要性が盛り込まれ、政治レベルの意識も高まっている。そして、先の日比首脳会談において安倍総理大臣がアジアに向けて「平和構築分野の人材育成構想」を表明し、この構想に沿って、外務省としてパイロット事業として2007年度より「寺子屋」事業を開始する予定である。この「寺子屋」の基本的コンセプトは、講師から受講者への一方向の知識の伝達ではなく、参加者同士が知識・経験を持ち寄り、教えあい学びあう双方向のコミュニケーションを重視したものである。さらに、アジア人と一緒に競争しながら研鑽に励んでもらうのがいいのではないか、という発想から、現在の構想ではアジアの人にも門戸を開くことを考えている。

紛争解決から復興、開発までの流れでいうと、日本はこれまで平和構築の後半局面であるODAによる復興開発に力を注いできた。その前段階のPKOへの貢献は、92年のPKO法成立以降ようやく本格化してきたが、それまでは紛争に関わる部分に距離を置いていた。そこに大きな問題意識が提起されたのが湾岸戦争であり、紛争に関わる部分での「人的貢献」の限界が露出されたのがきっかけであった。自衛隊についていえば、もともと国防のための組織であって、海外派遣はすなわち、国の防衛力を下げることになるため、海外派遣を認めるには国として政治的な判断がなされる必要がある。この点、PKOに自衛隊を派遣する際には、現在では安全保障会議にかけられることになっている。より根本的には、憲法9条との関連であり、武器をもった集団が海外で活動することを右規定との関係で法的にきちんとした形で整理する必要があった。92年のPKO法は憲法問題を担保したものであり、自衛隊の海外活動の根拠が与えられた。

文民については、PKO法の枠組みの中でも一応含まれてはいるものの、PKOで働く文民(文民警察を除く)は国際職員として採用されるため、選挙監視以外は事実上「空集合」となっている。PKO法はあくまで「日本の要員」を対象としているので、自衛隊ではない(文民警察以外の)文民は選挙監視活動以外で活動するためには、自前でプロジェクト資金を調達し、自ら組織を管理するしかないのが現状である。

また、国際機関やNGOへの支援については、例えばイラク支援においてもそうであったように、日本は安全基準が高く現場に出にくいため一工夫が必要であったが、初動段階ではどうしても国際機関やNGO等への支援が先行するため、日本の顔が見えにくくなってしまう。また次に述べるように、紛争直後の支援を検討する中で、ODAによる貢献にもカテゴリカルな限界があるということがはっきり意識されるようになった。

そもそもODAとは、OECD/DACの定義によれば、「開発途上国の経済開発や福祉の向上に寄与することが主目的」とされている。一例として、国づくりの主体となる公務員の給与が経済開発目的といえるかどうか。一度(ODAで)援助を始めてしまうと、援助打ち切り=解雇になかなか踏み切ることができず、かといって税制が整備されるまで支援するとなると、経費が青天井となってしまうという点がドナーにとっては難題である。また、紛争後の治安セクター改革が至上命題となっているところ、文民による支援がほとんどであって、警察支援はともかく軍事組織再編支援は範疇に入ってこない。他方、ODAには国際的な面と国内的な面があって、DAC上でODA認定されなくても、国内的にODAとみなすことは可能である。日本国内の議論としては、ODA大綱の援助実施の原則として「軍事的用途及び国際紛争助長への使用を回避する」こととされていることが判断指針となり、例えば軍民両用空港の滑走路整備支援は、軍の活動能力を増強するものではないかとの懸念につながる。平和へのリーダーシップを強めるという建前はいいが、ODAですべてできるかというと非常に困難であって、日本のODAが使える部分は限られてきてしまう。

さらに、PKOによる貢献にしても、PKOにそのまま派遣できるような経験者が文民に数多くいないという問題がある。PKO法上できる活動メニューの範囲自体にも制約があって、3条3項イ〜ヘに列挙される活動については、自衛隊員には可能だが、文民はできないことになっている。ただ、最近文民でも可能な活動の幅は増えていて、実績が法律に先行する形にはなっている。一般法の成立によって、派遣される文民の活動範囲がもっと広がる可能性がある。

以上のように見ていくと、現在日本が持っているツールで平和構築に貢献するには様々な限界がある中で、国際ミッションへの人的貢献を強化していく必要性が認められる。国際機関職員と現場ミッション職員の採用はおおまかに分かれていて、現場ミッションについては現地リクルートとなっている。但し、本部から派遣されることも排除されていないため、紛争後の現場で働く能力という意味では、育成対象は同じ範囲に入ってくる。


3.人材育成構想

現在政府内で検討されている人材育成構想の背景として、なぜ文民による取組みを強化する必要性が認識されてきたか。PKOの性格が変わってきていて、文民的な活動が求められるシーンが増えて世界的なニーズが急増しているということがある。また、平和構築委員会の設立に見られるように、紛争終結から復興までを切れ目なく取り組む支援が国際的にも主流になってきている。平和構築のために文民が活動できる状況には限界があるが、最終的に紛争後の社会を平時のそれにもっていくためには文民の貢献が不可欠である。

人材育成を巡る外交上の政策目標としては、第一に、平和国家日本として、これまでのような「見守る平和」ではなく、今後は「創る平和」を考えていかなければならないという点がある。日本が国際社会に対して行う貢献の内容は時代によって発展させていくべきであり、その意味で、今後は平和構築のいろいろな段階でプレゼンスを示していく必要がある。また、対アジア・アフリカ外交の推進という目標もある。人材育成は日本だけでやるのではなく、地域性、国際性の中で捉えるべきであり、アジア、アフリカを視野に入れて、他国と一緒になって平和構築の各局面をリレーしていくという観点から広く捉えられるべきである。さらに、国連外交の推進という点も目標であり、国連の主要関心事項である平和構築分野における貢献を、日本なりに受けとめて発信していくことが重要である。

平和構築のための人材育成で、具体的に重視しているのは、人材の能力向上と実際の派遣と有機的に連携して、持続的に行うという点である。国が関わって人材育成を行う以上、相応の付加価値をつける必要があって、意義のあるものにしていかなくてはならない。リソースの集約、動員という面で見ると、日本国内に経験者は圧倒的に少ないため、軍人も含めて多くのリソースは外に頼らざるを得ない。さらに、実践性が不可欠であって「寺子屋」では、国際競争・高水準を意識した講師と受講形態の必要性から、実際に最前線で働いている人達から知識のインプットを行うと同時に、英語環境の中で実際に国際ミッションの中で働くことをイメージできるような環境を念頭に置いている。その点、派遣部局(外務省)が事業を監督することには、派遣政策とニーズとが連携しやすいという意味で意義がある。受講生を確実に把握することによって、ポストに関連する情報や実際の派遣との連携が確保されやすいという利点がある。安倍総理が12月の日比首脳会談で「平和構築分野の人材育成構想」を表明したのを受けて、平成19年度にはプログラムを開始することを目指している。

4.具体的な研修事例

「寺子屋」事業の参考にした一例として、スウェーデンのSWEDINT(国防軍)の国連文民幹部コースがある。SWEDINTでは派遣は行っていないが、2〜3週間のコースを設けていて、お互いに学びあうという点では「寺子屋」とイメージは共通している。北欧4カ国のアレンジメントにより4カ国共同で軍を主体として定期的に共同研修を行っており、各国は得意とするリード分野を分担して、互いに出動経験を持ち寄っている。それによって知見を常にアップデートすることが可能となっている。文民のコースは少ないながら国際ミッション幹部コース、CIMIC/DDRがある。SWEDINTの特色は、軍・文民警察・文民が同時並行で研修(講習)を行い、最後に合同演習を行う。講習は最後の演習にいたるまでの要素を分解して教えるという形を採っていて、要員に必要とされる基本的な技術や知識を教えている。実技的なものでは例えば、通訳を使った交渉技術の実務研修というのがあって、通訳をコントロールして交渉するという課題が行われる。SWEDINTではリソースも上手くやりくりしていて、スウェーデン軍に雇用されている通訳(東欧圏言語)を活用している。

5.「寺子屋」プロジェクトの特色と課題

現在政府が構想している寺子屋プロジェクトの特色としては、第一に、紛争を直視し、安全性・実践性を意識したカリキュラム、第二に、講師と受講形態の点で、国際競争の高水準を意識して採り入れること、第三に、実際の派遣や採用を意識したものとすることを考えている。例えばドイツの研修機関(Zif)では、受講後の講習生の評価を行い、ミッション採用時の利用に供しているようであり、このようなプラクティスも参考にしている。最後に、アジアの人達と合同で行うことによって、地域の人脈・ネットワークを広げていくことを目標としていて、平和構築は隣人、相手がいて初めて成り立つものだということを意識している。

最後に、日本人応募者の弱点としては、情報が不足していて、そもそも応募が少ないこと、さらにネットワーキングの弱さ、将来的に自分の財産となりうる人脈を作れる能力が弱いということがある。その他にもいろいろあるが、決定的な要素として、語学力の問題もある。ここで言う語学力とは、高次元の「言語運用能力」とも言うべきもので、アングロ・サクソンが仕切る言語環境の中で、効果的なペーパーが作れるか、部下のペーパーを添削できるか、アングロ・サクソンと同レベルで効果的なプレゼンテーションやコミュニケーションができるか、ということは非常に重要なポイントである。

 

質疑応答へ

 

担当:石塚



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