「日本のアフリカ開発へ向けた取り組みと国連外交」
森 美樹夫さん
国連代表部経済部公使
2008年2月21日開催
於:ニューヨーク日本政府国連代表部会議室
国連日本政府代表部・国連フォーラム共催 合同勉強会
■ はじめに
■1■ 2008年
■2■ なぜアフリカか
■3■ TICADプロセスとは
■4■ TICADW(第4回アフリカ開発会議)の課題
■5■ 国連外交における位置づけ
■ 質疑応答
■ はじめに
2004年より外務省アフリカ第二課長として、東部・南部アフリカ17カ国との二国間関係及びアフリカ開発会議(TICAD)プロセスを担当するまでは、アフリカには必ずしも縁がなく、また開発問題との関わりも希薄であった。今回は、そんな中でここ数年間アフリカ諸国と向き合ってきた自分の経験、また、国連での経験を通じて感じたことを皆さんと共有し、共に勉強していきたいと考えている。
今年2008年は、国連ミレニアム開発目標(MDGs)の中間年であり、国連にとってもアフリカ開発が特別な意義を持つ年である。バン・ギムン国連事務総長もオックスフォード大学アフリカ経済研究センター所長のポール・コリアー教授の言葉を引用し、今年が「ボトム・ビリオン(最貧の10億人)」の年だとして、アフリカ開発を含むMDGs達成への取り組みの重要性を強調している。また日本にとっても今年は、5月にTICADW(第4回アフリカ開発会議)が横浜で、また7月には北海道・洞爺湖でG8サミットが開催される予定であり、気候変動の問題と共にアフリカ開発が重要なテーマとなっている。
日本国内では、歴史的・地理的な理由から、また紛争や貧困などのネガティブなイメージから、日本がアフリカ開発に力を注ぐことに懐疑的な声が聞かれることもある。アフリカに対するアプローチとしては、有名人の活動に代表されるように人道的な慈善の観点から国民の情に訴えかけるアプローチ、またアフリカへの関与が日本の国益に叶うものとして戦略的にとらえるアプローチの双方が考えられる。しかし対アフリカ外交において重要なのは、取り組みの意味を一つの側面から捉えるのではなく、政治的・地政学的・経済的といった様々な側面から総合的に捉えることである。
最近特に存在感を増している中国やインド等のいわゆる新興援助国にとっての位置づけとは質的に異なろうが、日本にとっても国際社会、特に国連の場で加盟国の実に27.5%を占めるアフリカの政治的な重要性を無視することはできない。また、中国のアフリカ進出にあっては「資源外交」が主目的との見方もあるが、日本としても原油供給の多様化・安定化・自主開発促進等を含むエネルギー外交の観点からのアフリカの重要性の高まりは無視できない。特に、アフリカ諸国が産出の90%以上を占めるレアメタル(希少金属)等も多く存在し、アフリカとの安定した関係を築くことは経済戦略の上でも重要性も持つ。
さらには、国際社会全体にとっての大きな課題であるアフリカの諸問題への積極的な関与は、日本が国際社会において果たすべき責務でもある。9・11のテロ以降は、国際社会の平和と安定にとってアフリカの安定が不可欠であるという認識も広まってきている。国連安全保障理事会での議題の約7割がアフリカに関連しているとも言われており、多額のPKO分担金を負担する日本にとり、アフリカの紛争の解決は負担の減少にも繋がる。また、テロの温床となっているとされるソマリアや、経済的に破綻状態となったジンバブエに見られるように、アフリカの不安定地域は難民の流出源ともなっており、これらの点からもアフリカの安定は国際社会全体の安定に不可欠なものと言える。
近年、日本国内でもアフリカへの関心、貢献の必要性の認識が高まってきていることが、例えば毎年5月に日比谷公園で開かれる外務省主催の「アフリカン・フェスタ」への参加者数の増加等からも伺える。また、外務省を志望する人の中でもアフリカや開発問題に興味を持つ人の割合が高まってきている実感がある。今年は、TICADWの年でもあり、さらに国内でのアフリカへの関心が高まることが期待される。
アフリカが日本にとって上述のような意義を持つ中で、具体的な外交ツールとしてのTICADはどのように活用されてきたのか。日本の国民レベルではTICADの認知度はまだ低いが、アフリカの指導者等の間ではTICADプロセスは広く知られており、このギャップを埋める必要がある。
TICADとは、アフリカ開発をテーマとする政策フォーラムであり、1993年以降、日本が主導し、国連、国連開発計画(UNDP)、世界銀行等と共催して開催してきた。この中で1993年に第1回目が開催されたことは大きな意義を持つ。90年代前半は、ソ連が崩壊して東西冷戦が終結すると共に、国際社会は冷戦構造に立脚した従来の支援の枠組みを脱して東欧諸国等への支援により関心を深めていた時期であり、アフリカ諸国は国際社会の関心の低下に危機感を抱いていた。この時期に日本がイニシアティヴを取って新たな枠組みを打ち出したことは、今でもアフリカ各国から高く評価されている。
また、基本概念としてTICADは、アフリカの「オーナーシップ(自助努力)」と国際社会との「パートナーシップ」の重要性を提唱してきた。これを受けてアフリカ諸国も独自のイニシアティヴを育み、2001年にはアフリカ連合(AU)がNEPAD(アフリカ開発のための新パートナーシップ)を打ち出すに至った。また、2000年に日本が九州沖縄サミットを主催した際に、アフリカを含むG8以外の開発途上国の首脳を招待したことが、それ以後のG8サミットにおいてアフリカ開発の議論が活発化する契機となった。2003年のTICADVでは、経済成長を通じた貧困削減、人間中心の開発、平和の定着、という三本柱が打ち出された。以降、日本はTICAD閣僚会議を開催する等して、これら三本柱に基づいたアフリカ開発に関する国際的議論の主流化を図ってきており、一定の成果を上げてきた。2005年のバンドン会議50周年のアジア・アフリカ首脳会議の際には、日本は非同盟諸国を中心とするアジア、アフリカ諸国の中で唯一50年前から先進国に発展を遂げた国として出席し、経済復興の経験を持つドナー国であることを印象付けた。この際、小泉総理がアフリカに対するODAを3年間で倍増することを表明し、続く2006年には自らエチオピア、ガーナを訪問している。
TICADは当初から国際社会全体とアフリカを結ぶ政策フォーラムとして開催されてきており、この点でヨーロッパやインド、中国等が行っている各々の二国間の課題を中心に議論するフォーラムとは異なる独自の優位性を持っている。
今年行われるTICADWでは、紛争解決や経済成長の面でもオーナーシップを発揮しつつあるアフリカ諸国の最近の良い流れを後押しする形で、「元気なアフリカを目指して」をテーマとして掲げている。
TICADWの重点事項の1点目の「成長の加速化」は、貿易投資促進のための措置、地域レベルでのインフラ整備の支援、農業支援等を含み、アフリカの経済成長を持続可能なものにすることを目標としている。2点目として、平和の定着、MDGs達成を含む「人間の安全保障の確立」を掲げている。さらに3点目には、環境問題・気候変動問題への取り組みに国際社会の知識・ノウハウ及び資金を結集することを目標に置いている。アフリカは、砂漠化やエネルギー・アクセス等の影響で気候変動に脆弱な大陸であり、気候変動の影響を大きく受ける国々への適応支援も焦点になる。
TICADWに向けての流れとしては、アフリカ自身の声を取り入れるために、昨年10月にザンビアで東部・南部アフリカ地域の、また11月にはチュニジアで北部・西部・中部地域の準備会合を開催した。さらには、3月後半にはガボンにおいて閣僚級準備会合が開かれる予定である。今年の日本外交にとっては、G8とTICADの議論を効果的に連携させていくことできることが強みであり、TICADで得た成果をその2ヵ月後に開催されるサミットにどう反映させるかが、国連やアフリカ諸国の間でも期待・注目されている。
■5■ 国連外交における位置づけ
アフリカ開発の国連外交における位置づけを考える際には、国連が日本外交にとって何を達成すべき場であるのかという問題を考える必要がある。国連には、「国際社会の平和と安全の確保」「途上国の開発問題」「人権への対応」という三つの柱があるが、これら国連の目標の中で日本の責務としてふさわしい役割を果たすためには、アフリカ開発は避けて通ることのできない問題である。国威の発揚のためにも、国連におけるアジェンダをどのようにリードしていくかは各加盟国や国際機関が共通に掲げる目標であり、その意味でも、アフリカの開発問題において日本がどのように主導権を発揮していくかは日本外交にとっての主要課題の一つである。ODAの増加が見込めない現状がある中でTICADの価値は大きく、日本はアフリカ支援に関する議論の主導権をとるという形で、より存在感を発揮していく必要がある。
議事録担当:徳田