三又 裕生さん
日本貿易振興機構(JETRO)ニューヨークセンター産業調査員
小紫 雅史さん
在米日本大使館一等書記官
2008年4月18日開催
於:ニューヨーク国連日本政府代表部会議室
国連日本政府代表部/国連フォーラム共催 合同勉強会
質疑応答
■Q■ 地球温暖化問題に取り組む上で日本が守るべき国益とはなにか。
■A■(三又さんの回答)
経済成長は日本にとって重要な国益の一つであり、経済成長と温室効果ガス排出削減との両立を図ることが重要である。ポスト京都議定書の交渉に当たっても、その枠組みのあり方次第では日本が不利となる可能性がある。例えば、現行の京都議定書のもとで日本の産業界は「自主行動計画」を掲げて排出削減に取り組んでいるが、昨年夏の地震により東京電力柏崎原子力発電所が操業を停止し、それを補う火力発電でCO2排出が一時的に増えるため、その分を相殺するべく他国に金を出して「クレジット」(排出枠)を獲得せざるを得なくなっている。こうした追加コストは結局一般消費者の負担増につながるものであり、ポスト京都の枠組みが日本にとって不利であれば、それだけ国益を損なうことになる。
■Q■ 温室効果ガス排出削減の国際的枠組みとして、国が削減義務を負うのではなく、セクターごとに削減のためのルールを国際的に合意し、産業界(企業)が義務を負うという方式は考えられないのか。
■A■(三又さんの回答)
セクターごとに国際的な削減ルールを設定し、国でなく企業が義務を負うというやり方は、国際競争条件を歪めることなく着実に排出削減を図る手法として、個人的には非常におもしろいと思うが、今行われている国際交渉の現実から言うと、早い時期にそうした方式を実現させることは難しいと考える。
■Q■ より適切な表現がされているのは、「気候変動問題」と「地球温暖化問題」のどちらであるか。
■A■(小紫さんの回答)
「気候変動問題」というほうがより正確である。温室効果ガスの濃度が高まることにより、気温の上昇のほか、海流の変化による寒冷化などの可能性もある。このような変化による植生や生態系の変化なども包括的に含めた概念として、より正確に言う必要がある場合は、「気候変動問題」ということにしている。
■Q■ 日本で排出量取引制度を管轄している省庁はどこか。
■A■(三又さん・小紫さんの回答)
国内排出量取引制度への取組みは、まだ制度ができていないのではっきりしたことはいえないが、国際的な排出枠の購入スキームについては環境省・経済産業省による共同所管であり、これが一つの参考になるのではないか。省庁以外の関係者としては、実際の取引段階においては東京証券取引所のような機関が関係してくるだろう。
なお、国以外にも、東京都が自主的な排出量取引について検討しており、将来的に国レベルで制度が設けられた時に、都と国から二重に負荷がかかるのではないか、という課題もある。これと同じ状況が、排出量取引に意欲的なカリフォルニア州などの諸州と米国の連邦政府との間で起こっている。カリフォルニア州は、EUの間で国際的に排出量取引市場をリンクすることも検討しており、今後の調整が必要となる。
■Q■ 1997年12月に京都議定書が発足した時点で、日本は米国が離脱することを予期していたか。
■A■(三又さんの回答)
議定書に関わった関係者の多くは予期していなかったと考える。当時米国政府(クリントン政権)で本件に携わっていた関係者たちの話では、まず京都議定書に署名し、国際的な圧力を利用して国内(議会)の支持を得、最終的に批准にこぎ着けるべく努力していたようであるが、結局失敗した。その失敗を繰り返さないために、今回(ポスト京都枠組み)は、まず国内での政策を先に固めようとしている。
議事録担当:鈴木