勉強会・キャリアパネル
第1部 勉強会
Eco2 Cities: Ecological Cities as Economic Cities
〜環境改善と経済発展の両立を図る持続可能な都市開発〜
鈴木博明氏
世界銀行 財務・経済・都市開発局 都市開発主任専門員
丸山比奈子氏
世界銀行 財務、経済、都市開発部 都市開発専門家
2010年4月24日開催
於: アメリカン大学 Kogod School of Business、 KBS 118号室
国連フォーラム・DC開発フォーラム・アメリカン大学座論共催
■1■ 世界の都市化の傾向と世界銀行の対応(鈴木さん)
■2■ ケーススタディ(丸山さん)
■3■ Eco2の4原則(鈴木さん)
■質疑応答■
地球の人口の50%以上が都市部に集中し、都市化と経済成長が相関関係を示しながら拡大する中、中国やインド(世界で都市居住人口が特に多い国)の更なる都市化・経済成長が環境へ及ぼす影響が懸念される。たとえば東アジア地域では、2030年までに大気汚染は50%増すと言われており、また2030年における二酸化炭素排出量の85%を中国が占めると予想されている。新たに築かれる都市圏の90%が発展途上国と見込まれており、それらの国々が西欧諸国や日本と同じようにエネルギーを使用するとすれば、地球資源は現在の4倍必要になる計算であり、持続可能な水準でないことは明らかである。
世界銀行(以下、世銀)は、Eco2 Cities(Ecological Cities as Economic Cities)イニシアティブを通じて、環境政策と経済成長政策の両方をバランスよく実現する都市のあり方を提唱している。クロスセクターアプローチを基本とした原則に基づく方法論の確立を図り、さらに成功事例から得られる知識を体系化し、発展途上国へ伝播するのと同時に金融的支援も行う必要がある。
■2■ ケーススタディ(丸山さん)
スウェーデン:ストックホルム市, Hammarby Sjoestad地区
2004年のオリンピックを契機に汚染された旧工業地区の再開発を進め、土壌の改善、居住地への変換に成功した事例で、この地区での統合的な資源の循環利用はHammarbyモデルとして知られている。
※Hammarbyモデル: 水・廃棄物・エネルギーを一つのシステムに統合し、排水からの発電、下水から取り出した汚物を肥料に使用する等の資源の循環を実現。同モデルによりHammarby Sjoestad初期開発地区において、従来のセクター別のインフラ・システムと比較すると、例えば温暖化効果ガスの排出量が29〜37%減少するなど、環境負荷が軽減する効率的な資源活用が実現している。
ブラジル:クリチバ市
クリチバ市内に5つの都市基軸を作り、都市の開発を都市軸に集中させることで、効率の良い都市作りに成功。バス路線(BRT)を開発の集中している都市軸に沿って整備したことで、BRT利用率が全交通利用の45%を占めるようになった。公共交通の利用が増大したことで、交通渋滞やそれに伴う環境負荷が軽減された。同地域で懸念されていた洪水対策として、公園に貯水池を作り、洪水の影響を緩衝する機能を持たせた。また公園は市民のレクリエーションの場となり、また公園周辺の土地の価値が上がったことで不動産税でスラムの移転費用を賄うこともできた。公園維持費の削減として、芝生に羊を飼い、芝刈りを不要としたり、糞を肥料として再利用もしている。
日本:横浜市
2001年から2007年の6年間で、38.7%のごみ排出量削減に成功。3R (Reduce, Reuse, Recycle) を実践する市民活動を推進。ごみの削減により、2つのごみ焼却場の再建費用1100億円を削減することができた。
シンガポール
下水の再利用や、国土面積の約3分の2を雨水回収の地域として限られた水資源を最大限に確保するなど、統合的な水管理によって水資源を循環活用するシステムを構築。
交通渋滞課金制の導入(ロンドン、ストックホルム、ミラノ、シンガポール)、 いわゆるCongestion charge(渋滞課金)の導入。都市中心部に車を乗り入れる際に課金されるシステムで、ロンドンでは21%の交通渋滞削減に成功。
■3■ Eco2の4原則(鈴木さん)
温室効果ガスの削減には一般的にはエネルギー効率を上げることが大切と言われているが、都市計画の観点からは、都市の形状は非常に大切な要素である。アトランタ市とバルセロナ市を比較した場合、両都市とも人口はほぼ同じであるものの、面積を比較した場合、アトランタ市はバルセロナ市の6倍である。都市の構造が拡散していると、移動に自動車を利用することが増え、インフラ整備やエネルギーの効率性を達成することが難しい上に、公共交通機関の導入も採算が合わない。Eco2では、必ずしも自動車に移動を頼らないコンパクトな都市を構築することを目指している。
原則1:都市ベースのアプローチ
地元の環境や経済の状況は、都市・地方のレベルで認識されやすく、市民の意見も取り入れやすいため、都市単位のマネジメントが国家や世界にとっても重要である。地方政府への権限委譲を図り、都市ベースでのイニシアティブを高める。国家よりも比較的柔軟性の高い都市のリーダーシップを尊重することが重要。
原則2:協同計画と政策決定のための拡大基盤
市役所の内部や市役所が提供する公共サービスのみならず、近郊都市(地域)との協調、相互依存も重視する。市民や民間をはじめとする他のセクターとの協調を奨励し、公共・民間・市民、各セクター、都市・地域を巻き込んで、それぞれが意見をだしあって協調できるような都市計画・意思決定の基盤を作る。
原則3:ワンシステムアプローチ
セクター横断的な統括的アプローチ、都市のグルーピング、資源の再利用、異なる時間軸の利用(同一施設の時間ごとの多目的利用)等によって都市経営の効率化を図る。
原則4:都市の持続可能性とレジリアンスを評価する投資枠組み
都市の設備やシステム投資のコストの大半は維持管理にかかる(全体の80−90%)ため、短期的な初期投資のコストでプロジェクト実施を判断するのではなく、長期的に設備・システムのライフサイクル全体のコストを考慮した計画や、効率の良い施設を導入するための評価・投資枠組みを設定する。
■質疑応答■
■Q■ UrbanとRuralの定義とは?
■A■ インフラ、就業率、教育、産業構造等が考慮されている。
■Q■ 世銀として、地方都市を説得し、プロジェクトを実行するインセンティブをどのように構築するのか。
■A■ 都市が急拡大する中、金融面で世銀がすべて負担することは不可能。政策や知識面でのアウトプットにフォーカスするようにしている。
■Q■ 世銀としての途上国に対するソフト面での対応は?
■A■ 統合的アプローチはとても手間がかかり、いろいろな専門化が必要。リーダーシップがない都市では実行不可能。まず、都市自身が必要性を認識し、リーダーシップを持つことが最低条件。
■Q■ 公共交通を推奨する場合に、既存の自動車メーカーとの連携は視野に入っているのか。
■A■ 政策側としては、タクシー等の車種でインセンティブ与えるなどの対応はあるが限られている。
■Q■ 途上国の都市計画では、都市部の貧困層が無視されてしまうことがあると思うが、世銀としてはどう対応しているか。
■A■ Eco2がどれだけ貧困削減に貢献できるかは、出来るだけ盛り込むようにしているものの、あまりにも問題が複雑なため、次のリサーチの課題として挙げている。
■Q■ Housing rights(住宅に関する権利)について、世銀のアプローチを教えてほしい。
■A■ 計画の段階で無理なことをしてしまったため、居住地を持たない市民が発生してしまっている。計画の段階でしっかりとしたものを構築する必要がある。
第2部 キャリアパネルへ
議事録担当:菅野(弘)
ウェブ掲載:陳穎