「防災と途上国開発」
第83回 国連フォーラム勉強会
日時:2014年8月4日(月)19時00分〜21時00分
場所:国際交流基金ニューヨーク日本文化センター
スピーカー:由佐泰子氏(WFPペルー事務所 プログラムオフィサー)
■1■ はじめに
■2■ 国連ボランティア計画(UNV)とは
■3■ 世界食糧計画(WFP)ペルー事務所の活動
■4■ Food Securityとは
■5■ Emergency Preparedness and Response
■6■ 今後の課題
■7■ 質疑応答
■8■ さらに深く知りたい方へ
国連フォーラムでは、国連世界食糧計画(WFP)ペルー事務所 プログラム・オフィサーの由佐泰子さんを講師にお招きし、「防災と途上国開発」をテーマにした勉強会を開催しました。
2015 年3月14〜18日にかけて仙台市で開催される「第3回国連防災世界会議」まで、いよいよ一年を切りました。第3回国連防災世界会議では、「兵庫行動枠組」の後継枠組(ポスト兵庫行動枠組)を策定することを目的とし、各国の首脳・閣僚級を含む政府代表団、国際機関、NGOなど国内外から5千人以上が参加し、関連事業を含め延べ4万人以上の参加が見込まれています。
災害分野の節目の年となる2015年を目前に、今回はペルーでの災害対策及び東日本大震災の緊急復興援助と、国内外における災害の課題について議論が行われました。
なお、以下の議事録の内容については、所属組織の公式見解ではなく、発表者の個人的な見解である旨、ご了承ください。
講師経歴:由佐 泰子(ゆさ たいこ)。国連世界食糧計画(WFP)ペルー事務所 プログラム・オフィサー(防災・緊急援助担当)。仙台市出身。青山学院大学経済学部卒。宮城学院高等学校の教師を経て、青年海外協力隊に参加(ベネズエラ、青少年活動)。帰国後、宮城教育大学で環境教育支援プロジェクトに従事。その後、日本貿易振興機構(JETRO)アジア経済研究所開発スクール(IDEAS)、カリフォルニア大学ロサンゼルス校教育大学院で修士号を取得。2011年東日本大震災で仙台が被災したことにより、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの短期スタッフとして勤務したことから緊急援助分野で勤務するようになる。 |
国連ボランティア計画(UNV: United Nations Volunteer)は国連開発計画(UNDP:United Nations Development Programme)の下部組織で、開発途上国の開発支援や紛争地域での緊急援助、平和構築活動に従事するボランティアを現地に派遣している。
ボランティアには3つの形態があり、大学院生時のみに参加できるインターンシップ、18-29歳の青年男女を対象とした国連ユース・ボランティア、25歳以上のプロフェッショナルを対象とした国連ボランティアがある。ボランティアといっても無給ではなく、派遣先の現地で必要な生活費が支給される。
ボランティアへの登録はすべてオンラインで行われ、UNV本部にて現地のニーズと候補者とのマッチングが行われる。派遣要請を受け入れた際には3ヶ月以内に赴任し、約6ヶ月から2年間派遣先にて活動を行う。
国連で食料を専門とする機関には世界食糧計画(WFP: World Food Programme)と国連食糧農業機関(FAO:Food and Agriculture Organization)がある。それぞれの機関の大きな違いとして、WFPは緊急支援、FAOは農業開発の役割を担っている。
WEPのペルーでの活動は1964年から行われており、主な仕事はペルー政府に対する政策提言や能力開発、そして技術支援である。食料配布に関しては、ペルー政府が体制構築の努力をしており、ローカルレベルでの小さな緊急事態には対応できているので、WFPはモニタリングを行い、緊急時の食料配布の準備はしているが、現時点ではWFPからは行われていない。緊急時に備えて地方政府や政府機関内での調整の仕方を指導したり、政府関係者の能力強化を行ったりしている。しかし、政権が変わると人事も大きく変わるので、いざ有事の際に、トレーニングを受けた人が対応するポストに就いておらずその成果を発揮できないという可能性も懸念されている。これらの問題を解決するため、政府間で人的ネットワークを構築し、誰がトレーニングを受けたかを把握したり、他の教育プログラムに緊急時の食料配布に関するトレーニングを組み込んでもらったりすることで、常に人材を確保し、スムーズに緊急支援ができるようにする取り組みが行われている。
国連食糧農業機関(FAO)では食料安全保障(Food Security)を「全ての人が、常に活動的・健康的生活を営むために必要となる、必要十分で安全で栄養価に富む食料を得ることが出来る」と定めている。安定した栄養状態を保つためには、食料の可用性、食料へのアクセス、食料の利用性が必要とされている。WFPでも食料安全保障を改善するため、安全で十分な栄養価の高い食品への物理的、社会的、経済的なアクセス権を充実させる取り組みを行っている。
■5■ Emergency Preparedness and Response
国連では有事の際、国連内外のパートナーと協力して緊急救援活動の調整が行われる。各機関の強みを利用し、国レベルの緊急事態が起きたときにはどの機関がどの分野を担当するか、予め決まっている。例えば、WFPでは食糧分配に必要な「物流」、「緊急情報通信」、「食料安全保障」の3分野が支援担当であり、緊急時に食料が行き届くように調整する。「食料安全保障」に関しては、FAOと協力して支援を行う。また、「緊急情報通信」については、今後強化が必要な分野の1つで、2014年5月にペルー全国の緊急情報通信能力を調査するために、ドバイ事務所から緊急情報通信の専門家を呼び、評価を行った。
■6■ Emergency Preparedness and Response
ペルー政府が食料支援の体制を構築しようと努力しているので、WFPは現時点で直接食料支援を行っていない。一方で、食料支援体制の脆弱性、政府関係者の知識・能力不足、政府の資金不足のためにプロジェクトが進まなかったり、政権が変わる毎に緊急支援のトレーニングを受けた人材が他の部署・機関に流出してしまうなどの問題点も指摘されている。これらの問題を解決するため、WFPでは政府に対して能力強化を行ったり、災害早期警報システムの構築、ガイドライン作りに対する技術支援、緊急支援のトレーニングを多くの政府関係者が受けられるようなプログラムを作り、政府内のトレーニングプログラムに組み込むなど取り組みを行っている。しかしながら、まだまだ食料安全保障の確立と安定のための、食糧支援体制の構築までにはさまざまな課題が残されている。また、ペルーは地震国であり、大きな地震が近い将来に来る可能性が示唆されているので、防災・緊急援助の準備分野の能力強化は不可欠である。
質問:ペルーの災害頻度と緊急援助の回数は?
回答: 地域によって災害の種類は異なる。12〜4月ぐらいは洪水シーズンなので支援が必要な場合もあるが、ペルー政府は緊急用の食料倉庫を保有しているのでWFPは近年は援助を行っていない。緊急食料には米、缶詰、パウチタイプの食品などの食料があり、その食料のローテンションの課題もある。例えば、賞味期限が切れる前に学校給食プログラムと連携させて消費するという案があるが、学校給食プログラム自体がまだうまく実施されておらず、食中毒が起こるなどの問題がある。
質問:東日本大震災とペルーでの災害の相違点は?
回答:共通点は、どちらにおいてもドナー間、援助機関間での調整が大事ということである。調整が不十分な場合の二次災害として、情報を発信できてないところには支援が行き届かず、逆に情報を適切に発信しているところには支援が重複したりする。このような問題を改善するためには、各団体が各自の理念に沿うだけでなく、他の団体と協力して支援を行うことが必要である。
質問:日本は防災に対する知識の蓄積など、災害への対応力が高いが、ペルーで活かせる技術はあるか?
回答:日本とペルーでは災害の種類や特徴が似ているので、JICAなどがペールで技術支援を行っている。ハード面では、早期災害警報システムの普及やそれに伴う必要機材の導入があり、ソフト面ではペルーの研究者を日本に招聘し、災害シミュレーションを行ったり、会議を開催したりするなどして知識・経験の交換を行っている。
このトピックについてさらに深く知りたい方は、以下のサイトなどをご参照下さい。国連フォーラムの担当幹事が、下記のリンク先を選定しました。
http://unv.or.jp/
http://ja.wfp.org/
http://www.wfp.org/countries/peru/home
http://www.fao.or.jp/index.html
http://www.unocha.org/what-we-do/coordination-tools/cluster-coordination
企画リーダー:原口正彦
企画運営:小田理代、逢坂由貴、志村洋子、羅佳宝
議事録担当:羅佳宝
ウェブ掲載:羅佳宝