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「国際機関における人道支援の現場で働く」
第2回 国連フォーラムと東京大学KOMEX共催勉強会
日時:2016年2月19日(金)19時〜20時30分
場所:東京大学駒場キャンパス
スピーカー:澤田泰子氏
■1■ はじめに
■2■ 国連でのキャリア
■3■ OCHAについて
■4■ 国連の採用ステップ
■5■ 国連でのキャリア形成
■6■ 国連での仕事を楽しめる人
■7■ 質疑応答
■8■ さらに深く知りたい方へ
澤田 泰子 氏 国際連合人道問題調整事務所(OCHA)ニューヨーク本部 東京都出身。シラキュース大学大学院国際関係論学科卒業、オクスフォード大学難民研究プログラム修了1998年にJPO制度で国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)在グルジア事務所に派遣され、翌年、国連競争試験を通じて国連人道問題調整事務所(OCHA)欧州本部(ジュネーブ)へ人道問題担当官として異動。その後在インドネシア事務所勤務を経て、2005〜2008年OCHA欧州本部管理部フィールド支援担当官。2009年より現職。2014年5月から休職し、株式会社ウエイクアップ勤務後、2016年3月より復職。米国Coaches Training Institute認定プロフェッショナル・コーアクティブ・コーチ(CPCC)、米国Center for Right Relationship認定組織・関係性システム・コーチ(ORSCC),国際コーチ連盟認定アソシエート・コーチ(ACC)、ザ・リーダーシップ・サークル認定プラクティショナー。 |
今回は、国連人道問題調整事務所(OCHA)ニューヨーク本部等にて人事担当官として活躍してこられた澤田泰子さんを講師にお迎えしました。
国連機関の人道支援の現場で働き、また、その人事を担当してこられたご経験をもとに、「国際機関における人道支援の現場で働く」ことについて、また、人道分野における人事・採用について、また求められる能力やチャレンジなど「国際機関や開発分野でインターンシップを考えている人のための体験共有会」をテーマに、お話しいただきました。
なお、以下の議事録の内容については、所属組織の公式見解ではなく、発表者の個人的な見解である旨、ご了承ください。
東京大学教養学部のアメリカ科で勉強中、国際公務員になるか外交官か迷っていたが、もともと大学でアメリカ研究をしていた際に難民や移民に関心があったため、難民の支援に携わる仕事に就きたいと考え、国際公務員を目指すことにした。国際機関就職にあたっては修士号がほぼ必須であること、英語を磨くには留学する必要があると考え、アメリカとイギリスにてそれぞれ1年間勉強した。その間Junior Professional Officer(JPO)と国連競争試験に合格し、JPOとしてグルジアの国連難民高等弁務官事務所で1年半勤務し、その後競争試験の結果オファーされた国連人道問題調整事務所のジュネーブ欧州本部のポストに異動した。。キャリア前半は現在のような管理部門ではなく、プログラム作成、資金調達、レポート作成など現場の仕事を担当し、途中から管理部で人事の仕事をするようになった。国連には休職制度があり、家族の事情、勉強して学位を取りたい等の事情に応じて申請し、認可されればポストを最大2年留保できる。今回これを利用して休職して日本に滞在した。
人道援助や緊急援助等と聞くと、どのようなイメージを抱くだろうか。今であればシリアや中東の危機など、民族紛争、内戦や自然災害が起きたときに、人びとの援助をするのが緊急援助であり人道援助。開発と違うのは、中長期的というよりは、その場で起こっていることに対応する、いわば対症療法的な側面があるという点。難民が押し寄せたギリシャの海岸での支援現場をイメージする方がいるかもしないが、全員がそういう仕事をしているわけではない。現場のキャンプの設営場所を視察して、食料の管理計算やロジスティクスを担当する人、医師や看護師のように怪我をした人に対応するという関わり方もある。また、人道援助といっても様々な立場があり、国連だけをとっても、みんなが人道の場で働いているわけではなく、専門のNGOと契約してプロジェクトを運営するなど、後方支援に携わる人も多くいる。
この20年間で現場のルールも変わってきた。ルール作りの契機として一番大きかったのはユーゴスラビアの崩壊で、地続きのヨーロッパの国々が支援に参加する中、ある村では豪華なキャンプ、ある村では国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の配るテント代わりのプラスチックシートというように援助の内容に格差があり、こうした問題を是正するため基準が作られた。
OCHAは人道支援の場で、様々な利害関係のある関係機関を調整し、必要な人の所へ必要な物資を効率良く確実に届けらえるようにするために作られた組織。実際に食料を配るのではなく会議などを通じてコーディネーション(調整)をする。何百という支援団体が押し寄せてくるので、まず登録をして、分野ごとにどのような団体が活動していてどのようなリソースを持っていて、ということを把握しマッピングするという役割も担っている。例えば、OCHAには地理情報システム責任者や情報責任者達が活躍している。パレスチナ自治区にあるオフィスでは、イスラエルが作るロードブロックがどこにあるのかを毎日更新している一方、例えばハイチなどの震災発生時、人命救助に従事する人の人材登録の情報から、リソースをチェックした上で各国の支援を配分するという仕事をしている人もいる。テクノロジーの発展を活かしながら様々な仕事が行われている。
また、OCHAはニューヨークにある国連事務局の中に位置付けられるオフィスで、国連事務局にはUNICEFやUNCHRなどのようなローテーションの仕組みが存在しない。これらの機関では、勤務地のランクに応じて任期が決まっており、全員が異動することを前提としているが、国連事務局はそのような制度になっていない。2016年からパイロットプログラムとして、人道支援に関わるポジション(humanitarian occupation)、政務職などの特定の職務グループ内での異動を促すという計画があり、採用のルールが変わってきている。この中で、それまで人道支援の経験が少ない人が関連するポジションについた時に、業務を執行するに十分なスキルを持っているかどうかなどは、今後課題になる可能性がある。
空席情報は、United Nations Careers (https://careers.un.org/lbw/Home.aspx) で確認できる。大体どの空席情報もパターンは共通で、ポストのタイトル、赴任地、職務内容(responsibility)が書いてあり、資質(qualification)が書いてある。その下に求められる経験(experience)や必要とされる言語が書かれている。コンピテンシー(competency)についても明確に書かれており、これらの情報は募集の公平性を保つために必要となるものである。国連の人事制度は後で説明できないことがあってはならないので、基準が厳格になっている。そのため、履歴書を書くときも空席情報に記載されている基準に合致した書き方にする必要がある。行間からこのような経歴があるだろうということが読み取れたとしても、そのことが書かれていなければ、求める基準に合っていると判断するわけにはいかない。
例えばP3(中堅)やP4(初級管理職)のポストには通常300から400の応募があり、空席情報に記載していた基準に沿って選考していく。例えば条件に合っている人が50人いたとして、全員に会うのは現実的でないので筆記試験などで選抜する。最終的に多数決をとれるように奇数のパネル形式で面接を実施する。OCHAの空席情報は多く、国際採用のフィールドポストは年間200くらい募集があり、本部はフィールドポストとは別枠だが相当数の募集があった。
場合に応じて1次面接2次面接を実施していくが、中にはミスマッチも生じる。人間なので実際に働いてから初めて判断できることもあるように思える。
国連では、自分が希望するポストにつくことは難しく、予想しないキャリアになることも多々ある。私自身、最初はプログラムオフィサーとしてレポートの作成や資金調達をしていたが、休職を経て管理部になり、その後はこれまで一貫して人事を担当してきた。もともと人事をずっとやろうと思っていたわけではなく、一時的なつもりだったが、8年やる間に、人事を極めようと考えニューヨーク大学の人事のコースを履修するなどした。今では、人事部門はどのオフィスにもあり、キャリアを広げる一つの切り口になったと認識している。予想通りのキャリアが歩めないことや、上司やチームのメンバーがどんどん変わる職場にフラストレーションを感じるようでは、国連でのキャリア形成を楽しめないかもしれない。
OCHAや他の国連組織で楽しんで仕事をしている人を考えたときに、いくつかの特徴が考えられる。
まず1つめは、考える力がある、自頭のいい人。次々ルールが変わっていくので、常に勉強し、考え続けながら、変化に対応できる人は強い。
2つめは、体調管理をする力を含めた体力があること。自分が何に向いていて、何に向かないのかは仕事をしていればわかってくる。私自身、最初に人道支援をやりたいと思っていた時には、難民キャンプでの支援に取り組みたいと思っていたが、胃腸が弱く周りに迷惑をかけるので現場向きでないとわかった。さらに体調管理には、自分の心理状態の管理も含まれる。自分にストレスがかかっているときどのような症状があるか自覚があるだろうか。自分自身では、例えばチョコレートの消費量がすごく増えるなどの自覚がある。自分がストレスを抱えている時にどうしたら復活できるのかという対処療法(coping strategy)を持っておくことも重要なこと。
3つ目は、情熱を持っていることと同時に、公平で冷静な判断ができること。当然人道援助で働きたいという人には情熱がある。情熱は大事だが、国際機関のコアバリューにどれだけ共鳴できるかというのも大事。例えば国連事務局のintegrity、professionalism、respect for diversityというコアバリューが響くなと思うことが大事。一方で、冷静になることも必要。例えば難民認定では、情に流されてはならない。国際条約に合わせて判断すべきであって、自分の気持ち一つで決めてはならない。グルジアで仕事をしているときに、オセチアと北オセチアが独立すべく紛争が起きた。UNHCRは北オセチアやグルジアにいたが南オセチアに戻ってくるオセチア人の難民を支援していたが、国内避難民、難民でない人、つまり自宅から動いていない人はいくら家が隣でも支援できなかった。(UNHCRの支援対象ではなかったため)実際のコミュニティにおいて、隣の人が助けられないとなったら非合理であり、ルールだからと言ってしまっていいのか、どうしたら彼らを支援できるのかを考え具体化する力が非常に大事になる。
4つめは、多様性に寛容であること。自分の常識が試されることが多くあり、それを楽しめないと厳しい。多様性を受け入れることから人や組織と関係性を作って仕事ができる人が、一番のびのびと活躍している。
質問:採用にあたり、大学の専攻などの専門性はどう考慮されるのか。
質問:自分の常識を試されることが多いということだが、具体的にはどのような経験がありますか。
回答:例えば現地スタッフの働き方であったり、「国際公務員」という立場が自分自身と異なっていたり、それぞれの国やバックグラウンドが異なることによることが多い。
質問:多様性は採用でどのように考慮されているのか。例えば国連のインターンは、生活費や渡航費が本人負担であり、途上国出身者にはそもそも不利という側面も。
回答:母集団の数の差もあり、OCHAでも欧米出身の白人が多いのは事実。採用では応募要件を満たしていない人は採用できないというハードルもある。ただし、優秀な現地スタッフがインターナショナルスタッフに採用される、現地NGOのスタッフが現地事務所を経て、インターナショナルスタッフとして活躍しているケースもある。途上国ということでは、JPOをスポンサーしている先進国も過去にあった(現在のところは未確認)。
質問: 人道支援の現場ではストレスに対応する力(coping strategy)が必要ということだが、実際にはどのようなものか。また、国連組織内ではカウンセリングなどの体制はあるのでしょうか。
回答:人によって様々だが、例えば、現場の宿舎で小さな菜園をやったり、スポーツをやったり、定期的に取得できる休暇を利用して旅行するなど。国連内では、ストレスカウンセラーが配置されており、医療部門によるサービスもある。
質問: 募集要件では、途上国における経験や、政府との交渉経験といったものが挙げられているケースが多く、民間セクター出身者に不利という印象があるが、実際には?
回答:ITや経理部門、広報官ポストなどは民間セクター出身者が多数採用されており、また上位のポストほど外部経験が優遇されている面もある。また、職務経験の条件については、それがrequiredなのか、desirableなのかで採用の判断は異なる。
質問: 人事評価制度はどのようなものか。職員と短期契約ベースでは異なるのか。
質問: OCHAによる調整の付加価値とは?また、調整現場で活躍できる人のタイプとは?
回答:OCHAによる価値は一言では難しいが、CERF(Central Emergency Response Fund)による資金動員や、地図などの情報整備は評価されている。調整の資質とは、最後は人との信頼関係を構築できるかどうか。信頼関係や調整が上手くいっているチームは危機にも強い。OCHAの組織マンデートは微妙な側面もあり、高圧的にものごとを進める事は何も生み出さないと思う。国連事務局の一部として、何のためにやっているかを常に意識する必要があるのではないか。
質問:開発と人道援助の違いについて触れられたが、人道支援に対する思いは?
質問:ロースター制度はどのように運用されているのか。
回答:ロースター制度創設の背景には、国連の採用プロセスが長く、人道支援で必要な人材をタイムリーに確保できないという問題があった。OCHAでは2009年にパイロットとして開始され、以後他の部門に広がっていった。ただし、運用は簡単ではなく、例えばハイチの地震の際に、登録者を派遣しようとしたが、必ずしも本人の希望や都合にあうとは限らず、思うように確保できなかったという経験も。実際にはロースターと外部公募のミックスで確保していかないと適切な人材確保は難しい。
質問:日本人の国連職員の入り口としては、JPOがベストか?
回答:人によって違う。JPOが入り口の人材は多いが、それが唯一ではない。また、採用時にJPOだったかどうかというのは、考慮されない。
質問:国連で人事を担当している人のバックグラウンドとは?
回答:人事経験者というのは、P3-P4位のレベルに多い。一方、P5の課長以上というのは、国連経験者というよりも、タレントマネージメントを経験して来た外部人材、民間セクター経験者などが多く採用されているという印象。
このトピックについてさらに深く知りたい方は、以下のサイトなどをご参照下さい。国連フォーラムの担当幹事が、下記のリンク先を選定しました。
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国際連合人道問題調整事務所(OCHA)ニューヨーク本部 人事担当官 澤田 泰子さん(国際連合広報センター)
http://www.unic.or.jp/working_at_un/voices/voice11/ - 国連人道問題調整事務所(OCHA)
http://www.unocha.org/ - 国連空席情報United Nations Careers
https://careers.un.org/lbw/Home.aspx - 国連職員になるには(国際連合広報センター)
http://www.unic.or.jp/working_at_un/recruitment/ - 外務省国際関係人事センター
http://www.mofa-irc.go.jp/index.html
2016年10月29日掲載
企画リーダー:井筒節
企画運営:赤星聖、小田理代、亀井温子、高橋愛、山内ゆりか
議事録担当:高橋愛、小田理代、亀井温子
ウェブ掲載:佐藤曉浩