「国連グローバル・コンパクトの仕組みと参画企業・団体の事例」
第95回 国連フォーラム勉強会
日時:2015年6月20日(土) 20時20分〜22時00分
場所:ニューヨーク内会議室
スピーカー: 季村奈緒子氏 (国連グローバルコンパクト/アジア・オセアニア担当リレーションシップマネジャー)、小林涼氏 (同アジア・オセアニア担当ローカルネットワークマネジャー)、三浦聡氏 (名古屋大学教授、PRME事務局の元研究員)
■1■ はじめに
■2■ UNGCの発足と成長 (季村氏)
■3■ UNGCローカル・ネットワーク(小林氏)
■4■ UNGC参画企業・団体の事例(季村氏)
■5■ UNGC参画企業・団体の参画モティベーション(三浦氏)
■6■ 責任ある経営教育原則(Principles for Responsible Management Education、PRME)(三浦氏)
■7■ 勉強会へのコメント(田瀬氏)
■8■ 質疑応答
■9■ さらに深く知りたい方へ
講師経歴:季村 奈緒子(きむら なおこ)氏 |
季村氏からは、UNGC設立の経緯・概要、CSRの進化、最新動向とリーダー企業の取組についてお話しいただき、小林氏からはグローバルレベルのイニシアティブを、ローカルレベルでどう広めていくかという話をしていただきました。また三浦氏からは、UNGCの姉妹イニシアチブであるPrinciples for Responsible Management Education(PRME、責任ある経営教育原則)が、ビジネススクールを始めとする世界の高等教育機関(大学・大学院)で将来の経営者や企業人を対象に活動を行っていることをご説明いただき、UNGCが企業・団体に対して重層的にアプローチしている状況について理解を深めることができました。
なお、以下の議事録の内容については、所属組織の公式見解ではなく、発表者の個人的な見解である旨、ご了承ください。 UNGCの提唱は1999年に当時のコフィ・アナン国連事務総長が世界経済フォーラムでビジネスリーダーに向かい、国連と企業との間でグローバル・コンパクトを結成すべき、と提唱したことにはじまる。
UNGCという名前が付いた由来は、価値観を共有する協定を作ろうという目的で、使った言葉がそのままイニシアティブの名前になったことである。ビジネスリーダーが各自の企業で出来ることをなるべく責任を持ち遂行してほしいという呼びかけがあった。翌年2000年7月26日にニューヨークの国連本部で正式に発足し、当初は46社で始まった。現在は、約170カ国、非営利を含む1万2千を超える団体(そのうち企業は約8300、4000団体が署名)までに成長している。
UNGCの軸は人権、労働、環境、腐敗防止の10原則から成る。発足当時は、世界人権宣言、労働における基本的人権および権利に関するILO宣言、環境と開発に関するリオ宣言に沿った、人権・労働・環境の3分野にわたる9つの原則で、腐敗防止に関する項目が2003年に腐敗防止に関する条約が制定されたことで加わった。これらの原則に沿った企業活動を行い、また、開発目標を促進するよう企業に呼びかけている 。
分野別の取り組みとしては、10原則を分野別に整理を開始し、環境、ソーシャル、ガバナンス(それぞれの頭文字をとってESG)の3つの分野別の取り組み促進を求めている。(UNGCホームページ:https://www.unglobalcompact.org/libraryから、Issueをクリック。)
環境では、気候変動、水と衛生、食糧と農業、ソーシャルでは、人権、先住民族、労働、ジェンダー、子ども、教育、ガバナンスでは腐敗防止、平和、法の支配がテーマとして扱われており、それぞれ代表する国連、専門機関とパートナーシップを組んで、イベントや情報共有をする場を提供している。トピック別の取り組みでは、持続可能な開発、金融市場、サプライ・チェーン等のトピックでイニシアティブが立ち上がっている。
分野別の取り組みの他に、UNGCの様々なステークホルダーを取り込む姉妹イニシアティブが4つある。都市のサステイナビリティを促進するUNGC都市プログラム(UNGC Cities Programme)、機関投資家を対象とし、環境、ソーシャル、ガバナンスに配慮した責任投資を推奨する責任投資原則 (Principles for Responsible Investment or PRI)、証券取引所を対象とし、上場会社の環境、ソーシャル、ガバナンス情報開示を促進する持続可能な証券取引所イニシアティブ(Sustainable Stock Exchanges Initiative)、ビジネス・スクール、大学院等の教育機関が対象の、経営学を通じて、UNGCや社会的責任について学ぶ責任ある経営教育原則(Principles for Responsible Management Education or PRIME)だ。
さらにリーダー企業を活用したグローバル基準の構築を推進するUNGC LEADがあり、このイニシアティブには現在46社ほどが所属している。UNGC LEADに所属する企業が取り組むプロジェクトの代表例としては、企業戦略に携わる社長、経営者、取締役会向けの意識改革のためのトレーニング・プログラム、また、投資家向けのESG決算電話会議がある。こちらは、四半期報告を投資家におこなう際に、財務のみでなくESGも報告しようという動きである。
講師経歴:小林 涼(こばやし りょう)氏 |
ローカルネットワークとはUNGCの支部でなく、ローカルのパートナーである。ラテン・アメリカ、ヨーロッパを中心に始まった。様々な国の文化、背景等を考慮しながらUNGC活動を根付かせる重要なネットワーク、パートナーシップ構築と言える。UNGCの加盟企業主導による多くのステークホルダーから構成され、自国でUNGCの活動を広めていこうという自主的なプラットフォームである。目的は、UNGC原則およびUNGC分野別プログラムを実践するための支援をおこなうことと、セクターの垣根を越えたシナジー強化、官民、グローバル&ローカル、異業種間のパートナーシップ構築をおこない、企業レベルでUNGCの活動を実施していくことである。
主な活動は、(1)UNGCおよびUNGCイニシアティブの紹介・普及、促進活動、(2)国内外の署名企業・団体間での優秀事例の共有、(3)国を超えてリージョナル/グローバルレベルでの情報交換・イベント企画によるノウハウ共有、(4)マルチステークホルダー・プロセスを実現する「場」の提供がある。
(4) に関して具体的に言うと、国連ではグローバルアジェンダの策定をし、国レベルで各国にある政府、国際機関、民間企業、投資家、NGO、アカデミア、教育機関等による現状分析、課題の洗い出しをすることである。例えば、ポスト2015年開発アジェンダで、その国の優先したいゴールはどれかを様々なステークホルダーが話し合い、決めていくこと等が言える。そしてそれをグローバル・レベルに伝える。このように2方向のコミュニケーションをすることで、よりコミュニケーションの円滑化を促進し、UNGCとして、また企業としてどのようなことをしていくべきかという動きに繋がる。
88カ国のうちの一つとして、2003年12月に発足したグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンがある。会員数は、200の企業や団体に加えて6のアソシエイトから成る。主な活動としては、人権教育、報告書作成、環境経営等、14の個別テーマを扱う分科会の開催、若手経営層への勉強会「明日の経営を考える会」の開催、日中韓ラウンドテーブルの企画、開催等がある。日中韓ラウンドテーブルは6年前から年に一回の頻度で始まり、旬なトピックについて話し合う重要な場となっている。昨年は日本で行われ、持続可能な開発、気候変動等について話し合われ、各国、各企業の優良事例の共有もおこなわれた。
UNGCではCSRという言葉は使われなくなっている、また使わないようにしているというのが現状である。それは、CSRは、コア活動とは関係ない分野での寄付やボランティアという捉え方が多く、価値創造として捉えるコーポレート・サステイナビリティが目指すべきところであるためである。
最近のコーポレート・サステナビリティの動向としては、2013年にインドで、新会社法により一定基準以上の利益を上げている企業にCSRの義務化がされたことである。また、2014年に日本版スチュワードシップ「責任ある機関投資家の諸原則」の制定がされたこと、また2014年9月、欧州で「企業の非財務情報および多様性の開示」に関するEU指令が承認されたこと、2015年6月にG7首脳宣言で、「国連ビジネスと人権に関する指導原則」や「女性エンパワーメント原則」が支持され、責任あるサプライ・チェーンの促進が含まれてたことなどが挙げられる。
ESG運用の動向に関する例は、ステート・ストリートという運用会社がESGの考え方を取り入れた投資をしている。運用資産額を見ると、2011年から2014年の間に倍以上に増えている。企業だけでなく、預金をしている一般の人々の意識もコーポレート・サステナビリティへの意識が高まっているのかもしれない。
2014年に出版されたUNGCのレポートによると、持続可能な企業が実施している5つの取り組みは、原則に基づいたビジネス、社会の強化、経営層のコミットメント、報告の改善、地域に根ざした活動である。UNGCとしても企業がこれらの5つの取り組みを推進するよう、サポートをしている。
China Ocean Shipping Company (COSCO) は、2003年からグローバル・レポーティグ・イニシアティブに取り組み、6Sigma Strategyを導入した。しかしながら、計量的データ、計測可能な指標の欠陥に気付き壁に当たっていた。2004年に中国でアナン国連事務総長と対談を通して企業に求める活動に共感し、2005年にUNGCに署名をした。その後、社長を率いて、UNGC Leading Group、UNGC Sustainable management Systemを設置し、マネジメント改革の追及をおこなった。
2006年にCOSCOは初のSustainable Development Reportを出し、2007年にはSWOT分析を適用、2008年にはデータの自動収集できるレポート作成に成功、2009年には3つの管理システムを一つに統合、サステイナビリティ・トレーニングを1000名を超える従業員に実施、カーボン・フットプリントの開示もおこなった。2010年には、Global Reporting Initiativeの評価で4年連続A+を取得した。国内外のサステイナビリティ基準に準拠したレポート作成も可能になった。
集団で持続可能な活動に関しておこなわれた例としては、カーボン・プライシングがある。2014年に開催された国連気候サミットを機に、政府、市民セクター、民協企業から成るカーボン・プライシング・リーダーシップ同盟が結成された。気候変動の対応として、政府への呼びかけを民間から提案をし、活動をおこしている例である。
■5■ UNGC参画企業・団体の参画モティベーション(三浦氏)
日本企業でUNGCに加盟している35社にインタビューして、加盟の動機を分析した。その際、(1)加盟が社内外のどちらに主に向けたものか(Inward/SelfもしくはOutward/Other)、また(2)加盟が内外からの批判や要請に反応したものか、それともそのような動きを先取りしたものか(ReactiveもしくはProactive)、という2つの軸を組み合わせた枠組みを用いた。企業がUNGCへ加盟する大きな動機としては、とくに近年OutwardでReactiveが多いようにみえる。例えば、投資家、他のサプライヤーから要請されて入る企業が多い。また、InwardでProactiveなものも一定程度見られた。例えば、CSRに取り組むようになったので、ツールとしてUNGCを使いたい、あるいは、合併を機にCSRを旗印に社内をまとめるためにUNGCへ加盟したい等の事例があった。
調査をして気づいた点は、他の国の企業に比べ、日本企業はまじめであるということである。UNGCに入る前からしっかりCSR活動を実践し、UNGC加盟後も積極的にUNGCの活動を実施している企業も多く見られる。加盟前からしっかりCSR活動を行なっているので、加盟後に活動が劇的に変化することはそれほどないであろう。GCネットワーク・ジャパンは世界の中でも大変評価されており、数年間連続で表彰を受けた。年間100を超える活動をおこなっている。
講師経歴:三浦 聡(みうら さとし)氏 |
■6■ 責任ある経営教育原則(Principles for Responsible Management Education、PRME)(三浦氏)
UNGCのスピンオフ・イニシアティブの中にPRI(責任投資原則)と並んでPRMEがある。UNGCの目的は加盟企業の数を増やすこと、加盟企業のCSR活動の質を高めることにある。UNGCはステークホルダーに働きかけてそのレバレッジで加盟企業の数と質の両方を高めることを目指しており、その中で将来の経営者に早くからサステナビリティと社会的責任の概念を教育することを目的に作られたのが、PRMEである。当初は主にビジネススクールが対象だったが、現在は大学全体も対象になっている。UNGCは10原則だが、PRMEは6原則(purpose, values, method, research, partnership, dialogue)から成っている。下図のように、PRMEの6原則は、高等教育機関(Higher Education Institutions)、企業(Business)、市民(Society)の関係に関わる。
PRMEは2007年に潘基文国連事務総長の支援を得て設立されたものだが、いくつかの課題もある。例えば、署名校の片寄りが挙げられる。現在は半分以上の署名校が欧米で占められているので、欧米以外の地域の高等教育機関も取り込んでいくこと、またアメリカは90以上の高等教育機関が加盟しているが、著名なビジネススクールが少ないので、それらをいかに取り込んでいくかが課題であることが分かる。
また、署名校はSharing Information on Progress(SIP)の提出を少なくとも2年に1度行うことが義務化されているが、署名校のうち、約22%がそれを提出していない。提出しないとnon‐communicatingというステータスになり、それが1年続くと除名になる。現在までに53校が除名になっており、どのように署名校を脱退させずに保つのかも課題といえる。
PRMEの特徴として、ガバナンスの運営委員会(ステアリングコミッティ)の中に、ビジネススクールの認証機関が含まれていることが挙げられる。ビジネススクールの認証機関は色々とあるが、トリプルクラウンと呼ばれているのは、AACSB(The Association to Advance Collegiate Schools of Business)、EFMD(The International Network for Excellence in Management Development), Association of MBAsの3つ。これら機関がCSRやサステナビリティに関するものを認証基準に組み込み始めているので、この役割がさらなる参画校の増加に貢献することを期待している。
PRMEのもう1つの特徴として、地域ごとにチャプターを作っている。アジアではチャプターは作られていないけれど、PRMEの地域会議はもともとアジアから始まったので、今後はそれをより組織化していくことが必要である。
また、PRMEの中に様々なワーキンググループがあり、PRME署名校の個人が様々なテーマ(例えば人権や腐敗防止)などで活動している。これらのワーキンググループが作ったツールキットがPRMEのホームページ(リンク先:http://www.unprme.org)からアクセスできる。これらの課題は、作ったものがどれほど活用されているかや、利便性などはあまり考慮されていないことである。
PRMEでもやはり署名校の数と質をどう高めていくかが課題となっている。署名校の目標を2015年までに1000校としていたが、現在は620校弱なので、その目標を5年間伸ばした。またResponsible Management Education (RME) の考えをいかに浸透させていくか、そしてその教育の質をいかに高めていくかも課題となっている。ビジネススクールだと金儲けに考えがいきがちなところを、いかにソーシャルリスポンシビリティやサステイナビリティを教育に組み込むかが大切になる。そのために大学にとって重要なステークホルダーに働きかけることが重要である。例えば政府や企業がリクルート時に採用したい学生の基準、学生がビジネススクールを選択する際の基準、大学ランキングを作るメディアがランキングを作る際の指標に、サステナビリティや社会的責任を組み込んでもらうよう働きかけを行っている。
また、潘基文氏の主導で教育について初等教育から高等教育を対象とした様々なイニシアティブが立ち上がっており、PRMEもその中の1つである。このうち国連アカデミック・インパクトなどは知名度もあり、これらのイニシアティブとうまく提携していけるかが今後大切になってくると考えている。
日本で会社と対話して思うことはCSRと経営の連携が取れていない場合が多い。また、日本の企業、特に大企業ではそもそも社会に貢献することが会社の目的と考えており、Creating Shared Value(CSV)という言葉が響かない。これらの企業を見ると、CSVを戦略的に使っていくのではなく、結果として社会に貢献することが目的になっておりCSR、CSVが日本の企業に浸透していくのは少し時間がかかると感じた。さらにCSR、CSVが最終的にグローバルで勝てることにつながることを示すのが難しい。これを論理的に示すことができるようになれば、非常に説得力がある。現状ではCSR、CSVを取り入れないと勝てない、というのはやさしいが、取り入れると勝てるというのは難しいと感じている。
質問: 日本でのネットワークの課題は中小企業のメンバーをどう増やすか、だと考えているが、現状UNGCの基準は中小企業にとっては高いものだと感じる。中小企業のメンバーを増やすにはどうしたらいいか。
回答: GCとしても悩ましい課題で、中小企業のメンバーを増やすことを目的としたコミッティが昨年立ち上がった。GC加盟企業の中でも6割強が中小企業であり、GCにもPRMEと同じくレポートの提出義務があり、2年以上レポートを提出しないと除名されるが、このレポーの非提出による除名の大半が中小企業である。そのためリクルーティング自体よりも、いかに一度加盟した企業を維持していくかの方が課題である。様々な方法で中小企業をサポートしていこうとはしていて、レポートも簡易に作成するためのテンプレートなども用意しているが、やはり提出が難しい。経営層のコミットメントやビジョンがないと継続していくことが難しいかもしれない。
質問: 質と量の両方が必要とのことですが、質をどう計測していくのか。何か指標はあるのか。
回答: GCにコミットする際にLetter of Commitmentという最高経営者の署名と、年に一度Communication on Progress(COP)を提出する義務が発生する。これらは10原則に沿った形で作られているので、自社の取り組みに10原則を取り入れている証明にもなるし、自社の取り組みが向上していることを測る物差しにもなる。調査等でCOPを使って計測しようとする動きもあるが、COPが計測できる形で書かれていなかったり、それをどうスタンダード化していくのかという観点ではまだ難しいので、代わりにGRIや ISOなどの基準が使われたりもする。また、Financialレポート、Sustainabilityレポートの2つを作成している企業があるが、それらを統合したIntegratedレポートを作っていこうという動きもあり、様々な外部の評価者の目に届くよう、こちらから自発的に発信する仕組みも作っている。
また、量を計測する場合、プロセスとアウトプットの2つがある。プロセスの場合は上記のレポートが挙げられるが、アウトプットの場合は投資家がそれぞれ独自の基準で測って投資の基準にしようとしている。ただ個別の投資家の投資基準をオープンにして全体的な投資基準とする動きなどがあれば良いが、今はそこまで入っていないと思う。
■9■ さらに深く知りたい方へ
このトピックについてさらに深く知りたい方は、以下のサイトなどをご参照下さい。国連フォーラムの担当幹事が、下記のリンク先を選定しました。
グローバル・コンパクト
https://www.unglobalcompact.org
グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン
http://www.ungcjn.org
PRME
http://www.unprme.org
PRME(Twitter)
https://twitter.com/PRMESecretariat
PRME time(ブログ)
http://primetime.unprme.org
2016年2月19日掲載
企画リーダー:小田理代
企画運営:小田理代、上川路文哉、
志村洋子、高橋尚子、原口正彦
議事録担当:小田理代、志村洋子
ウェブ掲載:中村理香