サイト内検索



第18回
石川 雅恵さん
国連人口基金

第17回
玉村 美保子さん
国連世界食糧計画

第16回
渡部 真由美さん

国連事務局

第15回
石井 香織さん
国連開発計画
第14回
高井 明子さん
国連人口基金
技術協力局HIV・エイズ部
全タイトルを見る⇒
HOME国連職員NOW! > 第19回


伊東 孝一さん
国連政務局 アジア太平洋部

伊東 孝一(いとう たかかず):1975年、富山県生まれ。東京外国語大学卒、ロングアイランド大学大学院社会学修士。富士銀行、国連日本政府代表部勤務を経て、2002年度JPOに合格。2003年、国連開発計画(UNDP)コソボ事務所にて治安・安全保障部門改革を担当後、2004年5月より現職。2006年12月より国連東ティモール統合ミッション(UNMIT)政務部で勤務予定。

Q. 国連で勤務することになったきっかけを教えてください。

日本政府の国連代表部で派遣職員をしていた時に、人間の安全保障基金の立ち上げに関わったり、安全保障理事会や総会の審議の記録取りをしたり、ロジをやったりと、国連関係のいろいろな仕事に触れる機会がありました。そういった仕事をしていく中で、自分が一番興味があるのは国際の平和と安全に直接関わる仕事だと思い、国連の政務官になろうと決めました。

自分が恵まれていたなと思うのは、国連の政務官になろうと決めた時に、周りに政務官になる方法等について説明してくれる人がいたり、夜間大学院に通うことを許可してくれた上司や理解を示してくれた同僚がいたことでした。その当時、ある人がアドバイスしてくれた際にキャリアプランまで書いてくれたのですが、それは今でも大事に持っています。

結局、国連職員になるためのいくつかの選択肢の中からは、JPOを受験することと、実際に紛争地の現状を自分の目で見るため、コソボでキャリアをスタートさせることを決めました。

Q. 現在のお仕事について教えてください。

政務局のアジア太平洋部で北東アジアを担当し、東ティモールの仕事にも関わっています。主な仕事は、担当地域の情勢をモニターし、情報を分析して、必要な時には事務局として取るべき行動について提言をするというものです。具体的には、事務総長等が、各国首脳や外相と会談をする際の北東アジアについての発言要領作りや、北東アジアで重大な事件や事故が起こった際には、事務総長声明案を作成したり、また事務総長の見解を公にするよりは静かな外交(quiet diplomacy)に徹した方が良いと判断される場合には、事務総長と関係国首脳・外相との電話会談用の発言要領を作成したりします。最終的な決定は事務総長に委ねられるのですが、さまざまな選択肢を迅速に提示する、ということが重要になってきます。

朝鮮半島の核問題に関しては、交渉は六者協議参加国や安保理理事国の関心国が中心になっているので、事務局の出てくる場面ではなくなっています。政治レベルで関係国とやり取りの出来る事務総長特使が現在空席のままであることも、関係しています。それでも事務総長に常に最新の情報を提供するため、核実験後の安保理決議の交渉が行なわれてたいた時は、安保理の公式・非公式協議に出席し、事務局が出席できない安保理理事国の専門家会合やP5+1会合(安保理常任理事国+日本)に関しては、各国の代表部と連絡を取って、情報収集していました。

報道等で出ているとおり、次期事務総長は、朝鮮半島の問題に積極的に取り組んでいく意向や、朝鮮半島担当の事務総長特使を任命する考え等を公言しています。現在、政務局では、軍縮局等とも協議しながら、次期事務総長用に、これまでの事務局の朝鮮半島問題への取組みに関する資料のとりまとめを行なっています。

Q. 国連で働くことの魅力を教えてください。

国連で働くことの魅力は、なんといっても現場にあると思います。先月は1か月間東ティモールに、新ミッション移行チーム(Transition Team)の一員として出張に行きましたが、そこでは直接紛争当事者と会合を持ち、実際の現場で紛争予防に関わることの醍醐味を感じました。10月中旬に、今年4月・5月に起こった暴動の真相究明を目的とした国連の報告書が出る予定だったので、ちょうどその直前というタイミングでした。予防外交として、報告書の中で名前が出る可能性の高い政治指導者や軍のトップのところに出向いて行って、報告書がどんな内容になろうとも冷静に受け止めて、支配下の勢力を統制するよう説得して回りました。

実際に出された報告書の中には、やはり自分達が会いに行った政治指導者らの名前が出ていて、捜査や訴追するべき等との勧告があったのですが、ほとんどの指導者の反応は落ち着いたもので、報告書を冷静に受け止めていました。東ティモールの政治・治安情勢は未だに予断を許さない状態ではありますが、今のところ報告書の影響による治安情勢の悪化はみられません。これは、チームの出張後も、現場の事務総長特使代理、政務官らが軍や政治のトップの人達に何度も会いに行って説得を続けた積み重ねによる成果だと思います。

これからも、現場のミッションの仕事を積極的にやっていきたいと思っていますし、本部のみ、現場のみと偏らずに、その両方をバランスよくやっていけたらと思っています。

Q. 今のお仕事で、どのような点にたいへんさを感じますか。

国連、特に政務局では、第一に中立性が要求されるので、政務局で働きはじめた当初は、北東アジアの諸問題について、中立的な国連として対応を考える、という点に難しさを感じることがありました。自分では、バランスの取れた資料が作成できたと思っても、上司に、日本の視点に偏りすぎていると注意されることもありました。

中立性の問題は、自分の努力で克服出来るものが多いのですが、どうにもならない国籍の問題もあります。昨年、日本と近隣諸国との政治関係があまり良くなかった時期に、政務局次長(事務次長補)に同行して北東アジアに出張に行ったのですが、某国の外務省で、地域課の課長レベルの会議から外務大臣との会談の時まで、日本人の私が同席することに違和感を持たれ、自分は国連職員として中立な立場にあると説明して理解を求めなければならない場面が何度もありました。

また今はそれほど問題ではないですが、将来的には体力的なきつさを感じる時が来るのかもしれません。東ティモール出張も、8月25日に新ミッションの設立を決めた安保理決議が採択された直後に、一週間以内に東ティモールに入るよう出張を命じられ、急いで準備して1か月ほど現地で仕事をしました。そして、10月2日にNYに帰ってきたら、その直後に北朝鮮の核実験宣言、続けて核実験と、すぐにその対応に追われるというようなことがありました。

Q. 国連で働いていて、国連組織の課題はどのようなところにあると思いますか。

国連事務局の縦割りの問題、事務局内で十分意思疎通ができていない点は、変えていく必要があると思います。例えば、東ティモールは、政務局、PKO局の双方の局に関係があるのですが、なかなか情報が共有されなかったり、双方の部局で協議した上で提言を練るのというのが十分行われてないのが現状です。

縦割りの問題は局レベルだけでなくて職員間のレベルでもあるのですが、職員同士の意識で改善できる点もあります。朝鮮半島に関しては、まだ十分ではないですが、核問題に関しての事務総長声明案については、政務局だけで作成するのではなく軍縮局とも協議するプラクティスが定着しつつありますし、拉致問題関連の会談の準備、資料作りには、人権高等弁務官事務所に協力してもらうようにしています。

あとは人員の不足、人員の配置の問題もあると思います。世界全体を所掌する政務局の職員数が、世界銀行でインドネシア一国を担当している部署の職員数よりも少ない、というのはよく指摘される例です。

Q. 国連で日本ができる貢献についてはどうお考えですか。

よくある議論として、日本はこれだけ国連にお金を出しているのに人的貢献が足りないのではないか、ということが言われますが、事務局から見ていると、必ずしもそれだけではないな、ということを感じます。数や量だけではなくて、質の問題も重要です。

例えば、日本と安保理常任理事国でもある中国を比較すると、日本の人的貢献はもうちょっと評価されても良いのではという気がします。日本の分担金の割合からして望ましい国連職員の数は200人台後半から300人台後半ですが、実際に地理的配分のポストについている職員の数は110人のみで、いろいろな契約形態の職員を合わせても200人位しかいません。これに対し、中国の分担金割合による望ましい職員数は50人台後半から80人くらいで、実際に地理的配分ポストについている職員数は60人なので、目安を満たしていますし、いろいろな契約形態の職員を合わせると300人以上になります。

でも、実際に職員がどこに配置されているかというと、国際の平和と安全を担う上で国連の中でも鍵となる政務局の地域部のポストには、日本人は何人もついています。片や中国人は、つい最近まで政務局に一人も職員はいませんでしたし、今も政務局の地域部には一人もいません。国連本部において、日本人が国連の要となる局のポストについて活躍しているということは、人的貢献として大きなことだと思います。

逆に、いくら質が重要とはいっても、現場のミッションで活躍する日本人の数が20人程度にとどまっているのは、少なすぎると思います。平和構築の分野を担う国連職員を増やしていくことが今後の課題ではないでしょうか。

Q.これから国連を目指す人へのアドバイスをお願いします。

国連で働こう、ではなくて、何をしたいのかが重要だと思います。自分がやりたいのが安全保障なのか、平和構築なのか、それとも開発なのか、ということを窮めて、それから国連も数ある職場の選択肢の一つに入れてみるというのでも良いのではないかと思います。

(2006年11月1日、聞き手:石塚恵、コロンビア大学にて国際関係学を専攻。写真:田瀬和夫、国連事務局OCHAで人間の安全保障を担当。幹事会・コーディネーター。)


HOME国連職員NOW! > 第19回