第74回 森 貴志(もり たかし)さん
UNHCR事務所にて
第74回 森 貴志(もり たかし)さん
インターン先: UNHCRマレーシア(クアラルンプール)Livelihood Unit
インターン期間: 2015年11月から同年12月(1か月)
■はじめに■
フィリピンとコスタリカの大学院でそれぞれ国際政治学と国際法の修士号を取得したのち、進路に迷っていたこともあり、まずは興味のあった国連機関を内部からみてみたいと考え、UNHCRマレーシアのLivelihood Unit(難民の生計向上を担う部署)にて1か月のインターンシップをしました。1か月という短い期間でしたが、UNHCRでのインターンを検討されている方々の一助となれば幸いです。
■インターンシップ応募から採用まで■
大学在学中に参加したNGOにおいて、世界中を実際に周りながら、武力紛争、大量破壊兵器、そして国際人権法などに関わる著名なゲストによる講義の英語通訳をしました。その際、一般市民がいかに武力紛争下において脆弱であるかということを知りました。また、息子をイスラエル兵に殺されたパレスチナ人ゲストと、同じ講義を行っていたイスラエル人ゲストの両者から武力紛争下での生活というものを深く教えてもらいました。そのことをきっかけに、特に紛争被害にあっている市民保護の分野で貢献したいと希望するようになりました。大学時代は、国際法を通して武力紛争への理解を深め、卒業後は、また別のNGOの職員としてパレスチナのガザ地区に勤務しました。さらに援助規模の大きな国連に興味を抱き、国連におけるポジション獲得のため、大学院に進学し、卒業後にはインターンをしてみたいと考えました。
ガザ地区においてパレスチナ難民の方々と共に働き、大学院においては国際難民法を勉強していたこともあり、UNHCRやUNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)でインターンをしようと決めました。2015年3月に、まずは情報収集を始めました。同じ大学院の先輩のうちのひとりがUNHCRマレーシアでインターンを行い、やりがいのある仕事を任せてもらえたとの情報を得たので、2015年4月16日にUNHCRマレーシアへ直接履歴書を送り、その4日後にはLivelihood Unitがインターンとして3カ月ほど受け入れて下さるとの返信を頂きました。インタビューはありませんでした。推測でしかありませんが、事務所によっては慢性的に人が足りておらず、インタビューなしで受け入れまで進むこともあるのではないでしょうか。
インターン開始とともに渡されたIDに気持ちが引き締まりました。
■インターンシップの業務内容■
(1)メインの業務内容
到着後すぐにやってほしいことをいくつか説明され、その中からひとつを選ぶという展開になりました。過去にも経験があったので、2016年に行う新規プロジェクトのモニタリング・評価の枠組みづくりを選びました。難民の生計向上を担うLivelihood Unitは、2015年1月にできたばかりの部署ということもあり、これまで行っていたプロジェクトに加えて、新たに難民間でのSavings Group(共同貯蓄グループ)設立と難民のFinancial Literacy(貯蓄や損益の計算などお金の使い方全般、財務管理能力)向上を目指すふたつのプロジェクトを想定していました。そこで、それらふたつの新規プロジェクトがそもそも必要なのかというベースラインデータの収集を主に行いました。具体的には、難民のFinancial Literacyを測るための質問票の作成から始まりました。この業務の中で、ユニットにおいてそれまでになかった財務関連の専門家とのネットワークを国内外(大学や他国UNHCR事務所)において構築することができました。次に、短いインターン期間中のハイライトでもある、専門家と作り上げた質問票を使った実際のアセスメントを実施しました。ユニット全体の指揮を任せてもらい、対象となる難民から無作為に抽出した約80名を対象に1日でアセスメントを行いました。結果を全て数値化できるような質問票をデザインできたこともあり、有用なベースラインデータの収集を行えたとの評価を頂きました。この時点で、私自身の次の進路が決まり、予定より2カ月以上早く引き継ぎ作業に入ることになりました。もともと進捗の共有をユニット内で行っていたのが功を奏し、アセスメント結果のとりまとめ、結果をもとにした新規プロジェクト評価指標の策定、指標計測手法とスケジュールの立案などを引き継ぎ相手とともに行い、その後のプロポーザル執筆とプロジェクト運営の土台となる部分を上司であるユニット長のもと引き継ぎました。
部署での昼食会にて
(2)チームの雰囲気
インターンを行ったLivelihood Unitは、インターンも含め12名の部署でした。インターナショナルスタッフ1名とインターン2名を除いた全員がマレーシアの方々でした。新しくできた部署ということもあり、部署内は非常に活気がありコミュニケーションが非常に取りやすかったです。また、部署内だけでなく、休憩時間中、外に煙草を吸いに行ったり、お茶を飲んだり、昼食をとりに行ったりと、なにかと一緒に行動することが多かったです。社交性に富んだ方が多いチームだったというのもコミュニケーションが取りやすいチームの雰囲気に一役買っていたのだと思います。一時的にしか所属しないインターンにとってこれ以上ありがたいことはありません。業務上においても、例えば、上記の通り自分が作った質問票とデータ収集フォームを使用して、ユニット全体を率いて難民にインタビューを行うなど、インターンだからと関係なく責任ある仕事を任せてくれる上司とチームでした。これは運が良かったというほかないかもしれません。また、スーパーバイザーとして上司はいますが、「基本的にはモニタリング・評価の経験はないから是非教えてほしい」というスタンスで(これにはかなりやる気が上がったので将来もし部下を持つようなったら真似したいです)、まわりに相談しつつもひとりで仕事を行っていくというのが基本でした。
(3)その他の業務
上述のように自由に動ける雰囲気だったということに加え、上司が「せっかくインターンしに来ているのだから勉強していけ」というタイプだったので、シャドーイング(仕事しているひとの後ろにぴったり影のように張り付いて仕事を覚える)というものを名目に、全体の業務時間の2割ほどは他部署にもお邪魔していました。一番長くお世話になったRegistration Unit(庇護申請者や難民などの個人情報をデータベースに登録する部署)では、庇護申請者の受付、庇護申請者の認定インタビュー予約管理と整理券の発行、難民の虹彩登録、難民カードの更新と発行、難民認定インタビューの一部への同行(ロヒンギャの民族確認:難民に認定されやすいため隣国出身者がロヒンギャであると偽ることがあるため)など、UNHCRの窓口といっても過言ではない多岐にわたる業務を行っており、全体の流れをつかむにはもってこいの部署でした。シャドーイングというのは名目だけであり、実際にはざっと流れをつかんだら一人で業務を任されるので(文字通りオフィス内ひとりだけになったこともあります)、こちらもやりがいのある経験となりました。全体の流れを理解するという他にも、庇護申請者や難民への接し方やインタビューのやり方、第三国定住におけるIOM(国際移住機関)との協働、UNHCRから雇われている通訳者との関係構築、ProGres(庇護申請者や難民の個人情報が一括で管理されてあるUNHCRのデータベースで、企業の顧客管理システムのようなもの)の操作方法など、関連する細かな経験も積むことができました。これらの経験は全て現職においても日々の業務の基礎となっており、大変役に立っています。
インターン最終日に上司と部署スタッフと
■その後と将来の展望■
上記の通り、インターン期間は2015年11月から3か月ということで合意したものの、2016年1月から広島平和構築人材育成センターのプライマリーコースに参加するということがインターン途中で決まったので、上司と相談の上、1か月でインターンを終えるということになりました。インターンを行った部署での、2016年に行う新規プロジェクトのモニタリング・評価の枠組みづくりは、区切りとなるところまで進めることができました。周囲はインターン(無給)から国連ボランティア(有給)への昇進と捉えてくれ、上司含めチーム全体が快く送り出してくれました。
その後、予定通りに広島平和構築人材育成センターのプライマリーコースにある国内研修(広島・静岡・東京)に参加しました。(UNVとして国連機関に派遣される)海外研修開始までの期間はNGOの臨時職員として熊本での復興支援に従事し、その間にUNHCRセルビア事務所にアソシエート保護官として派遣されることが決まりました。
■準備など■
上述の通り、インターンが決まったのが2015年4月で、インターン開始が同年11月でしたので、これを準備期間ととらえ、大学院の卒業プロジェクトを利用して準備を行うことにしました。大学院の卒業プロジェクトでは、奨学金に加えて支給される一程度の予算を使用して、プロジェクトを立案・計画・実施するというものでした。そこで、スリランカ北部の元内戦地域における国内避難民の帰還支援を行っているNGOのモニタリング・評価業務のサポートと改善を行い、UNHCRがドナーとなっている支援にNGO側から携わりました。裨益者にとってより良い支援を行うためのサポートができたことはもちろんですが、モニタリング・評価の経験をさらに積めたこと、そしてNGO側からUNHCRを見ることができたこと、特にこれら2点において、その後のインターンでも有用なものであったと思います。
部署スタッフが全員事務所に揃った際に行われた送別会での絵
■終わりに■
(1) CVをインターン希望事務所に直接送付する方法もある
UNHCRのインターンの正規ルートは、おそらくUNHCRのウェブサイトにインターン希望として登録して返事を待つということになりますが、ウェブサイトでも書かれている通り、希望事務所への直接のコンタクトが推奨されています。しかしながら、何をどうしていいのか分からないというのが正直な感想でした。私の場合、分からないながらも希望事務所(UNHCRマレーシア)を検索すると、連絡先としてメールアドレスが載っていたので、そこにカバーレターと履歴書を送ったところすぐに返信があったので、事務所によってはこのやり方のほうが早く決まるのかもしれません。
(2) 正当な理由がある場合は1か月という期間でもインターンを行うことができる可能性がある
UNHCRインターン合意書には、「やむをえない事情からインターンを合意期間より短く終了する場合は書面にて通達する」と書かれています。この表現にはかなり語弊があると思いますが、就職までのあいだにインターンを利用でき、さらに短期間でも国連内部で経験をつめるということは、選択肢のひとつとして考えておくといいかもしれません。事務所規模、部署の方針、上司や同僚との関係性、インターンに任される仕事の量、そしてインターンを通して何を得たいのかなど、併せて慎重に考えるべきことは多々ありますが、やむをえない事情が生じる際もあるので、国連のインターンは絶対に3か月以上やらなければと頑なに捉える必要はないと思います。
2018年2月16日掲載
ウェブ掲載:三浦舟樹