第68回 中島 泰子(なかじま やすこ)さん

 (キズロルダの伝統工芸職人から、クラウドファンディングのお礼商品に使う作品を頂きました)

第68回 中島 泰子(なかじま やすこ)さん(インターン)

コロンビア大学大学院 国際公共政策大学院 国際関係専攻修士課程2年
インターン先:国連開発計画(UNDP)カザフスタン事務所
インターン期間:2016年6月から8月末まで

■インターンシップの応募と獲得まで■

現在アメリカで大学院に通っており、私がいるプログラムでは多くの人が1年目と2年目の間の長い夏休みを利用してインターンシップを行います。インターンは卒業要件の一つですが、職務経験が3年以上ある人や会社から派遣されている人は免除されます。ただし私の場合は、大学院入学前に民間企業で5年間働いたものの、将来目指している開発分野での職務経験がない為、この夏をどう過ごすかは一大事でした。入学した当初からインターン獲得のことは意識していましたし、年が明けた1月からは、様々なポストにWebで応募しました。

具体的には、学校のキャリアセンターから得る情報のほかに、国際機関それぞれのWebサイトで公示されているポジションをこまめにチェックしたりしました。同時に、学校のイベントや自ら主催した国連フォーラムの勉強会などでお会いする方々に、インターンを探している旨を伝え、アドバイスを頂いたり、紹介頂けるポストがないか伺ったりしました。国際機関におけるポジション獲得は、特にアメリカではネットワーキングが重要であると学校でも口を酸っぱくして言われます。その為に、CVを普段から持ち歩いて何かあれば渡せるようにしたり、様々なネットワーキングイベントに参加したりといった日頃の努力が重要になります。最終的に私の場合は、この国連フォーラムの活動(NYにて勉強会班の幹事をしています)を通して知り合うことができた大先輩へご相談したことをきっかけに、カザフスタンのUNDPのインターンを紹介して頂くことができました。その後、現地とSkype面談をし、関心分野などのマッチングをし、配属部署が決まりました。ビザが必要だったので、ニューヨークのカザフスタン領事館で必要な手続した後、カザフスタン事務所の人事部の方に現地側で受入れビザ発給の手続きをして頂き、それが完了次第その受付番号を持ってまたニューヨークでカザフスタン領事館に出向き、(システムダウンと重なってしまい再度出向く羽目にはなりましたが)無事ビザを取得しました。

■インターンシップの内容■

首都アスタナにあるUNDPのカザフスタン事務所で、私はGovernance and Local Development Unit という部署に配属されました。この部署は、政府のガバナンス強化に関わる業務(法の支配、女性のエンパワーメント、公的サービスの改善、障碍者の社会への参加促進等)と、地方の発展による国内の不平等解消について取り組んでいます。カザフスタンは中央アジアの5つの「~スタン」の国々の中では一番発展している中所得国で、首都は綺麗で新しい(とっても派手な)ビルが立ち並んでいます。しかし、一歩中の道に入ると舗装されていない道路の脇にレンガ作りの家が立ち並んでいたり、道がデコボコで雨の日は驚くほどの大きな水たまりができたりと、いろいろと課題は残っている様子でした。 そしてカザフスタンは中所得国であるがゆえ、UNDP本部から得られる予算が非常に少ないため(本部の予算はより開発が必要な低所得国へ多く充てられる)、プロジェクト遂行の資金の大部分を事務所自ら集めなければなりません。私の上司は政府や時には外国のファンドへプロジェクト提案書を送り、資金を集めるという業務を担っており、私は、一つ目の仕事として、その提案書を書くためのリサーチや草稿を作るサポートをしました。この業務では、UNDPの視点からカザフスタンにとってどのようなプロジェクトが必要かをUNDPの文書やニュースから分析したり、資金源、特にカザフスタン政府からどのような取り組みが求められているかを的確に認識し、政府と協働してできることを模索するプロセスを経験することができました。政府からファンドの許可を得るには直接やりとりする役人の方々の協力が不可欠で、そういった意味で国連職員には高い外交スキルやプレゼン力・説得力が求められるということもよく理解できました。

もう一つの仕事として、UNDPのカザフスタン事務所にとって初の試みである、クラウドファンディングを用いて地方の手工芸発展を通して女性のエンパワーメントを行うプロジェクトに携わりました。ここでは、キャンペーンの内容から、関係者とのやり取り、クラウドファンディング用のウェブサイトの制作、支援者へのお礼の品の選定まで、プロジェクトの初期から深く関わる機会に恵まれました。実は最初はなぜUNがクラウドファンディングをしなければならないほどお金がないのかと疑問に思ったのですが、前述の通り本部からの予算が少ないため、有意義なプロジェクトでも当初の予定期間が終わってしまうと次は新たな資金源を探さなければいけないということでした。これを通して、実際にプロジェクトが行われるキズロルダという地方(宇宙ロケットが発射されたバイコヌールの近く)まで行き、現地の人と話しビデオ撮影などを行ったり、人生初のシュバット(ラクダのミルク)も体験したり、首都アスタナとは全く違うカザフスタンを知ることもできました。このプロジェクトでは、これまで民間企業で築いてきた自分のスキル、特に関係者との対話の進め方・質問の仕方や、報告書作り、事務処理能力などを国連の仕事に適用することができ、職員の方に一人の戦力として頼りにして頂けたことを通して、国連の中で働くイメージをより明確にすることができたのが大きな収穫でした。

 (インターン最終日、送別会で事務所のみなさんと)

尚、仕事以外では、三か月の滞在期間、カザフ語と共にカザフスタンの公用語であるロシア語を勉強しました。個人指導の先生を見つけて週1~2回のレッスンを受けました。最初の導入部分は非常に苦労しましたが、馴染みのないアルファベットを読めるようになり、少しずつわかる単語が増えてきてからは、同僚の助けもあって楽しく順調に学習できました。

また、インターン後にはキルギスに一週間旅行して帰ってきました。同じ中央アジアの国とはいえ、カザフスタンとはだいぶ発展具合が異なり、観光業もそこまで整備されておらず、まだまだ貧しい国であるとよくわかりました。特に、イシククル湖やソンクル湖の美しい大自然の残る地域で、ユルト(移動型テント式住居)に泊まり、伝統的な遊牧民生活を大切にする人々と触れ合う経験は、貴重な思い出となりました。とても多様で美しいアジアの国々への興味は今後も尽きません。

 (フェルトを用いたアートを制作する職人のお宅にて)

 (キルギスで泊まったユルト。標高3,000mなので夏でもとても寒かったです)

■その後と将来の展望■

インターンシップ後は、再びニューヨークに戻り二年目の大学院生活を送っています。私のプログラムでは個人の修論ではなく、グループワークで外部の機関(国際機関、NGO、民間企業など)のコンサルティングを行う卒業プロジェクトが課せられています。今はその為のスキル、特に開発分野での実務家としてのスキルを身に着ける授業を取っている他、統計等の計量的リサーチに必要な授業も取っています。これらの知識を土台とし、将来は国際的な開発機関で働けるよう、引き続き就職活動と学業を並行して励む一年になりそうです。

■資金確保、生活、準備等■

ほかの人も書かれているように国連のインターンシップは基本無給ですが、私の大学院では夏休み中にインターンで海外に行く人は助成金を申請できる仕組みがあるので、多くの人がそれを利用します。

住居に関しては、私は同じ大学院に通うカザフスタン人の友人がたまたま同時期に同じ都市でインターンすることがわかっていたので、アパートをシェアすることができ、家賃をだいぶ抑えられました。基本的に生活するには、ロシア語が必要なカザフスタン、私一人では困ったことが沢山あったと思うので、彼女には本当にお世話になり大感謝です。 それ以外にも、事務所の人も皆さんフレンドリーで大変助けてもらいました。カントリー事務所代表と副代表以外は全員カザフスタン人という事務所ですが、私を事務所の一員として、また国際スタッフの一員として尊重してくれると共に、仕事後や週末に一緒に過ごすなど、得難い関係が築けました。

カザフスタンでは最近急激にテンゲ(現地通貨)高になったこともあり、物価がとても安く、毎日使っていたバスも30円弱、タクシーに乗っても200円くらい、外食もリーズナブルでとても助かりました。

治安については、事務所のあるアスタナにいて不安になるようなことはなかったのですが、もう一つの大きい都市であるアルマトイにて滞在中にテロが起こり、現地の人にとって馴染みの深い都市でのテロなだけにショッキングな空気が流れました。また安全面では、毎日渋滞がひどくバスの運転も荒っぽいのでヒヤッとしたことが沢山ありました。実際事故も多いそうです。

 (アスタナのランドマークタワー、バイチェレク)

■最後に■

これまで開発分野での職務経験が無かった為、働き方に関する具体的なイメージがつきにくかったのですが、今回のインターンシップでは、「これまで自分が社会人経験を通して培ったスキル」と「新たに学ぶスキル」が非常に良いバランスで存在していたことがよかったです。前者については、自分が国際機関で貢献できることがあるというイメージがなんとなくでも掴めたのが収穫ですし、後者で学んだことは、あと一年の学生生活でさらに増強し、就職活動に役立てたいと思います。

2016年11月15日掲載
ウェブ掲載:三浦舟樹