第12回 山下 恵理子さん 国連開発計画 資金戦略パートナーシップ局
プロフィール
山下恵理子(やましたえりこ):神奈川県横浜市生まれ。上智大学外国語学部卒業。英国バーミンガム大学都市地域政策学修士。日本・メキシコでの勤務経験を積んだ後、2004年度JPO試験に合格。UNDPの南米地域事務所でガバナンスオフィサーとして勤務した後2006年6月より現職。
Q.いつ頃から国連勤務を目指されたのですか
大学では外国語学部英語学科に入りましたが、副専攻で国際関係や経済開発に関する授業を聴講するうちに国連に興味を持つようになりました。また同級生に開発分野で働くことを目指している人が多くいたため、感化されたことも大きいと思います。大学卒業後は民間企業に勤務しましたが、そこで自分のやりたいことは営利目的のビジネスではなく、人に役立つことだということを再認識し、国際開発分野で働くことを考えるようになりました。
Q.国連以前にはどのようなお仕事をされたのですか?
IT企業で営業を3年勤めました。日本の企業でビジネスの基礎を学ばせていただいた経験は、特に今の本部の仕事で、ドナーとの取り決め調整を行う際にとても役に立っています。また、その当時の知識を活かしてイギリスの大学院では「ITと経済開発」をテーマとして、都市と地域計画に関する公共政策分野で修士号を取得しました。その後、国連をめざすためのプラスαの技能として大学時代に履修していたスペイン語をきちんと勉強しようとメキシコへ行き、そこで日系企業の現地事務所から、プロジェクトコーディネーションの仕事の機会を頂きました。
Q.国連で勤務することとなったきっかけを教えてください
メキシコの日系企業に勤務しているうちに、プロジェクトコーディネーションのアシスタントを探していた世界銀行から短期コンサルタントの仕事を頂きました。それが開発分野の実務へ足を踏み入れた第一歩でした。世銀では、メキシコの司法改革プロジェクトの立ち上げとその提案書の作成を担当しました。
しかし、その経験の中で、日本の経験や政策などに関して質問を受けながら完全に答えられないことが時々あり、国際協力に目を向けながらも、日本人として国際社会に貢献するにあたってまずは自国である日本の国の政策と経験をもっと理解したいと考えるようになりました。そこで日本へ戻り、日本の経済開発政策の経験と知識を基に国際社会へ政策提言をしている政府系金融機関の国際協力部で約1年間嘱託として働きました。その後JPO試験に合格し、現在に至ります。
Q.現在はどのようなお仕事をされているのですか?
去年約1年間はUNDP のラテンアメリカ SURF: Sub-Regional Resource Facilities で、ガバナンスを担当していました。UNDPのカントリーオフィスが司法強化、市民安全、地方分権化などのガバナンスプロジェクトを行う際に必要となる専門的な助言や、カントリーオフィスのスタッフがそれらの分野の知識を深めるための研修や教材作成の支援を各分野の専門アドバイザーと共に行いました。また、UNDPのガバナンス分野に関する中南米の経験や教訓を文書化し、地域内外での情報共有と知識の蓄積を行いました。中南米の多くの国ではインターナショナルスタッフにも現地用語のスペイン語が母国語の人がたくさんいて、私のオフィスでは常に会議はスペイン語で行われていました。
今年の6月からは、ニューヨーク本部の資金戦略パートナーシップ局のResource Mobilization部に勤務しており、ドナーが拠出するUNDPの活動の資金に関する取り決めやその運営に関する助言をカントリーオフィスに行っています。各ドナーもそれぞれ資金拠出をするにあたり各自の方針や規則があり、仕事には的確な分析と細かな調整が必要です。
Q.今のお仕事でどのようなことにやりがいを感じますか?
開発途上国に働きかけるにはNGOのようなボトムアップもありますが、国連はドナーや途上国政府と対話を行うことができるところにやりがいを感じます。
Q.逆にどのようなことがチャレンジだと思いますか?
近年、国際援助の調和性の重要性が再確認されているように、現在国連システム内でも各機関の間での調和化を目指したアプローチ方法がとられるようになってきています。その結果、開発の枠組みが変化していくことで開発援助そのものの施行の効率性・効果に影響が出ないようにしていくことが必要だと思います。例えば、援助の内容は決まっているのに、枠組みや体制の取り決めに時間がかかり、対象国での援助施行開始が遅れてしまうような事例がありました。
Q.国連に対して日本ができる貢献についてはどうお考えですか?
日本は経済政策以外の知的支援がまだ弱いのではないかと思います。例えば、中南米では市民やNGOがガバナンスの監査や評価を行うようなプロジェクトがあったときに国際ドナーの援助を必要としますが、積極的に援助を行っていくのは欧米ドナーが主流だと感じました。内政干渉になってはいけないという外交上の概念も存在するのかもしれませんが、UNDPでもガバナンス・人権などにおける援助がますます重要視されている中、それらの分野での積極的な活躍が増えると日本の存在感も高まるのではと思います。
Q.これから国連を目指す人へのアドバイスをお願いします。
JPOを目指している方のアドバイスとしては、私の場合はJPOを3回受験し、2年目は補欠合格で結局落選をし、3年目に合格しました。JPOも1年にわたる長い選考手続きがあるのですが、落選したときも、選考の間も自分の職務経験を着実に積み重ねていって、辛抱強く挑戦し続けることが必要だと思います。JPOは国連を目指しながら経験年数の少ない若い人たちに国連で勤務する機会を提供するとても良いプログラムですが、国連へ入る最善の道はそれだけではないです。国連・開発以外の様々な分野や機関での開発内外の経験を積んで35歳以降にP4レベルくらいで入られた方達が、過去の経験を活用して国連において非常にレベルの高い貢献をされているのをよく拝見します。また、国連の中では必ずしも多くのスタッフが開発学を学んでいるとは限らず、開発以外の専門性を持っている方がたくさん活躍されています。日本国内では開発関連の職の機会も限られていますし、経験年数が少ないうちには、開発関係以外のものでも専門性や現地の経験を積んでいくことが国連を目指す準備となるのではないでしょうか。
(2006年7月17日、聞き手:古澤智子、UNDP資金戦略パートナーシップ局でコンサルタント。幹事会勉強会担当。写真:田瀬和夫、国連事務局OCHAで人間の安全保障を担当。幹事会コーディネーター。)
2006年9月28日掲載