「国連とビジネス」概論(2)環境セクターの一考察

宇野智之
2012年11月11日

民間セクターの社会開発貢献

ルールに従った健全な競争のもとでは、民間企業の活動そのものが社会開発にとって大きな効果があると認識されるようになった。例えば国連と民間の共同イニシアティブ「Global Compact」は、民間の社会開発における役割について主に次の5点を挙げている。

① 良き商品やサービスを提供 ②収入や投資をもたらす ③職を生む ④研究開発を行う ⑤社会インフラを構築する。 (http://www.un.org/millenniumgoals/2008highlevel/pdf/background/UN_Business%20Framework.pdf)

民間セクターと環境保全

確かに、民間の社会開発に対する役割は大きい。ただし、環境保全という観点からは、経済成長と企業活動の増大は必ずしも相容れず、乱獲、乱伐、非持続的な資源利用などの指摘を受けることもある(http://steadystate.org/wp-content/uploads/Trauger_et_al_Tech_Review_Economic_Growth.pdf)。

さらによりミクロな視点からは、経済学的に環境が守れない理由として市場の失敗(Market failure)、とくに外部性(externality)や公共財(public goods)といった理論が多数挙げられている。希少な生物や綺麗な空気といった公共財には値段や取引が無く、従ってそれらの扱いを市場に任せると効率的でない、ということである。

また民間企業は利益最大化が大原則であり、Triple bottom line(社会、環境、利益)を重視している企業もあるが(Ikeaなど)、結局基金でもNPOでもない企業は出来ることに限界がある。例えば、他社よりも環境にやさしいが値段の高いものを無理に提供し続ければ、競争に負け、いずれマーケットから追い出される、と考えられる。収益性を重視する株式会社である場合は尚更である。

ここまで書くと、民間企業は環境に対して無力のように思えるが、実際は様々なポジティブな役割を担っているのである。例えば、エコカー、省エネ関連品などの環境に優しい商品を民間主導で開発し、消費者に提供している。民間企業は短期的な収益だけではなく、長期的なマーケット獲得も視野に入れているからである。下の表に民間(NPO含む)セクターの環境に関する取り組みをまとめてみた。

Table 1: Environmental Business Typology

InstitutionNGO/NPO/CSOSmall Business
TypeNon profitSocial entrepreneurs, quasi-fundsStandard CSRCSR+Core business
Activities, examplesGrant/donation based operations, including campaignsSocial forestry, REDD+ activities, Kopernik(?), Base of Pyramid, Payment for Environmental Services, microfinance etcEmployee tree planting, donating items to rural villages in developing countriesCoca-Cola building water harvesting devices, Honda hosting safe driving workshopsRenewable energy, energy efficiency (hybrid cars etc), CDM, derivatives
Driving principleImmediate need for intervention at local level, raise awarenessDeliver required goods/services in sustainable manner with sales and earningsBrand image, public relations, manoeuvring stock priceCSR leading to increased market exposure and salesMainly seeking immediate or future market share, associated with branding

ここで、Small businessには社会企業家やREDD+(森林伐採・劣化の減少による温暖化ガス抑制)の先駆的な活動を行う特別会社も含めた。環境保全をそのまま商売にするビジネスモデルで、Concessional financing(譲許的融資)やImpact investments(社会的責任投資)などに支えられていることもある。セクターは多少違うものの、KopernikやGrameen Bankもこの部類に入ると考えられる。Corporateの分類はいわゆる中・大企業が実施する環境関連活動のことで、通常のCSRに加え、最近流行り始めたコアビジネスに資するCSR(ここではCSR+とした)を含めた。賛否両論あるが、コカコーラがインドで飲み水確保のために雨水をためて地下水に流すシステムを設置したプロジェクトはこの部類に入るだろう。

環境ビジネスの推進

環境は貧困・ジェンダー・エイズ・教育などのセクターに比べると、例えば省エネ、ハイブリッド車、オーガニック食材、エコツーリズムなどのようにビジネスと親和性が高いと考えられる。また、排出権取引などハイファイナンス参入の余地も大きく、環境セクターにおいて民間企業が活躍できるケースが多い。

特に中進国では援助の形態が純粋なグラントから借款などに移行しており、借款系の案件は一般会計支援や大規模なエネルギー・インフラプロジェクトが多い。環境や気候変動への援助も同じようにグラント縮小傾向にあるので、民間を通じたより効率的な援助が重要になってきている。では民間と国連はどのように協力していくべきなのか?

ここで、途上国に振り分けられる環境関連資金フローは上で触れたimpact investmentや温暖化防止プロジェクトへの投資などに見られるように多様化しており、いろいろな参入の仕方やビジネスモデルが存在するため、環境関連援助もフレキシブルな対応が求められる。たとえば最近では国連がメザニンファイナンスやエクイティを通じたビジネス支援も聞かれるようになってきた。

これは、国連が従来の政策策定支援から一歩踏み出し、民間企業が環境関連サービスや商品を提供するための後押しをしなければいけないことを意味する。例えば日本の場合、省エネや排ガス浄化装置など高度な環境技術があるので、資金をそのまま出すだけでなく、民間企業と連携し、こういった技術をフルに活用、効率的に提供することが日本ならではの援助につながるのではないだろうか。

最近気候変動対策関連のグローバルファンドがいろいろと立ち上がり、ポスト京都議定書の議論が進むにつれ、先進国から途上国への資金援助増加が見込まれる。ここで、経済界・産業界の賛同を得るためにも、民間が海外で温暖化ガス排出削減プロジェクトを実施するにあたっての障壁(為替リスク、補助金がいつまで続くかわからない、クレジットリスクなど)を取り払うことが効果的な援助のあり方のひとつと考えられる。レバレッジという言葉があるが、開発援助の文脈では、グラントを例えば1億円拠出した場合に、ホスト国や民間が10億円出せば、レバレッジは10倍ということになる。理論的には、同じ額の援助資金でより多くの商品やサービスが提供されたことになる。ドナー側からすれば、国連がどれだけ効率的に資金を利用しているかの一つの指標になるため、今後はこういった議論も含め、国連やMDBは本気で民間セクターとの協働を図っていくことになるだろう。