第14回 児玉 千佳子さん UNDPパレスチナ人支援プログラム プログラム・アナリスト

児玉 千佳子さん

略歴: こだまちかこ 山口県光市出身。筑波大学第一学群社会学類(経済専攻)卒。カールトン大学Norman Paterson School of International Affairs国際関係修士号取得(2000)。1997年外務公務員専門職試験合格。1997年外務省入省。経済協力局国際機構課(97-98)、在マレイシア日本大使館(2000-2002)、在アフガニスタン日本大使館(2002-2004)、経済協力局開発計画課(2004)、アフガニスタン地雷対策センター(2005)を経て、JPO試験合格。2005年より現職。

*1本稿は、筆者の私的個人的な意見・考えをまとめたものであり、本稿のいかなる部分もUNDPの公式見解を代表するものではありません。

1. パレスチナ人支援プログラム

写真①

私が所属する事務所は、他のUNDP事務所と異なり、Country Officeではなく、パレスチナ人支援プログラム(Programme of Assistance to the Palestinian People)、UNDPの中では通称PAPPと呼ばれています。また、事務所の代表は、駐在代表(Resident Representative)ではなく総裁代表(Special Representative of Administrator)となり、事務所自体も、UNDPアラブ局に属するのではなく総裁直属になっています。これは、パレスチナがまだ国ではないことに由来します。この国ではない場所、パレスチナ占領地(the occupied Palestinian territory)が、ここにおける支援を特異なものにしています。私はこのPAPPで2005年10月より女性、若者を対象としたSocial Inclusion プログラム、HIV/AIDS、人権、ジェンダー・フォーカルポイント、および渉外(日本対応)を勤めています。

写真②

以下では、「占領」がもたらす開発支援上の難しさ、プログラム・アナリストという仕事、国連という職場環境について、限られた経験からですが紹介してみたいと思います。

2. パレスチナ占領地における支援

まずは地図で「占領地」の特徴を示してみたいと思います(全ての地図はOffice for the Coordination of Humanitarian Affairs, Occupied Palestinian Territory出典。さらにご関心のある方http://www.ochaopt.org/でいろいろな地図を入手できます)。

写真③

(1)チェックポイント、許可証

ご存知の通り、パレスチナとは左上の地図にある西岸(West Bank)とガザ(Gaza)を指します。右の地図には、西岸(いわゆるグリーンライン内)における「壁 (The Wall or The Barrier)」の建設および西岸の中の分断、移動制限、許可証が必要な地域が描かれています。たとえばラマラの住人は許可証がないと東エルサレムに入ることはできず、ジェリコからの農産物を運ぶトラックもチェックポイントでの列を成さなければなりません。PAPPエルサレム事務所にも西岸から通ってきている同僚が多くいますが、許可証で許可されている限られた時間しかエルサレムには滞在できません。

(2)A、B、C地区

写真④

パレスチナは、管轄権の帰属によっても区分(A、B、C地区)されています。A地区はパレスチナが民事、軍事のすべてをコントロールしている地域、B地区はパレスチナが民事のコントロール、軍事はパレスチナとイスラエルが共同でコントロールを及ぼす地域、C地区は民事軍事ともにイスラエルのコントロール下にある地域になります。C地区では、イスラエルの許可なしには井戸を作ることも、道路を作ることも、学校を建設することもできません。そのため、許可が下りないために事業ができなくなることもしばしばあります。

(3)ガザ

写真⑤

パレスチナの人口は約3.88百万人、うち面積365km2のガザには1.44百万人が集中しています。平均人口密度は3,680人/km2、ジャバリア難民キャンプでは人口密度は74,023人/km2(マンハッタンの人口密度25,850人/km2)にも及びます。いろいろな統計もガザと西岸では大きく異なります。パレスチナで大きな問題のひとつである貧困の度合いも、右の地図にあるとおり、西岸の中でも異なるとともに、西岸とガザでは大きく異なります。また、ガザとイスラエル、ガザとエジプトの出入りもイスラエルにより厳しくコントロールされ、人・物の移動が制限されています。そのため、ガザのインフラ案件は常に品不足、資材の高騰に悩まされます。去年11月にNYで開かれた国連若者リーダーシップサミットにガザから出席した青年も、ガザからの出入りにとても苦労した末、やっと出席することができました。たとえば、アメリカのビザ取得のために必要なアメリカ大使館でのインタビューも、そもそもエルサレムに入る許可がおりず、エルサレムのアメリカ領事館でインタビューを受けることはできませんでした。エジプトとの間のターミナルも閉鎖されているのが通常で、いつ開くかすら予測できません。彼の場合は何とかエジプトへ出国でき、在エジプト・アメリカ大使館でビザを取得することができました。もちろん、帰国したときにもガザへの入り口が閉鎖されているためエジプトでしばらく足止めされ、ガザにすぐに帰ることはできませんでした。

(4)開発への移行

写真⑥

これらの要素が難しくしているのは、人道支援をどう開発につなげていくかです。まだミレニアム開発目標(MDGs)の現地化(Localization)はされていませんが、パレスチナもミレニアム開発戦略に合意し、2005年にミレニアム開発戦略を採択する閣議決定を行っています。パレスチナ政府が作成する中期開発戦略もMDGsを達成することを目指して作成されています。しかし、こうした中期戦略も占領下にあるため、すべてがパレスチナ政府のコントロールできるものではありません。

また、隣の地区にも農産物を自由に移動できず、輸出・輸入もコントロールされ、独自の金融政策を持たない中、たとえば農業支援を市場化、貿易政策と連携して支援し、経済開発を計画することは、大変難しくなっています。

3. プログラム・アナリスト

写真⑦

話をパレスチナから方向転換します。JPOの長所短所はいろいろあります。長所のひとつとして個人的に思うのはプログラム・マネージメントの経験です。現地事務所は、現地のオーナーシップを促進するため現地採用スタッフが中心となります。PAPPも例外ではなく、プロジェクト・スタッフも入れると約300人といわれるスタッフのうち、インターナショナル・スタッフは代表、副代表、JPOの5名のみです。そのため、インターナショナル・スタッフがプロジェクト・スタッフではなくプログラム・スタッフとして地域事務所で働くことができる機会は限られています。

実は、現在の仕事を始めるまでプログラム・マネージメントとプロジェクト・マネージメントの違いが分かりませんでした。プログラム・アナリストの主な仕事のひとつはプログラム・マネージメントです。当初JPOとして赴任する際にあったTORには、ジェンダー、貧困担当といったプログラムエリアが明示されていました。それに対して肩書きはプログラム・アナリスト。しばらくはプログラム・アナリストとしてジェンダー、貧困のエリアで何をすることが期待されているのか分かりませんでした。UNDPでは、最近、プロジェクトをPRINCE IIというプロジェクト・マネージメントの方法を元に実施しています。そのトレーニングを受けて初めてプロジェクト・マネージメント、プログラム・マネージメントの違いがはっきりしました。プログラム・アナリストはプロジェクト・レベルにおいてはプロジェクトのモニタリングを通じたassuranceを担当します。そして、ひとつのプロジェクトのマネージメントだけではなく、たとえば女性のエンパワメントに貢献するプロジェクトを複数作成、実施監督し、プロジェクトを総合して女性のエンパワメントに本当に寄与しているか、プロジェクト実施による成果を担保する役割を担っています。それ以外にも、ドナー、他のUN機関とのパートナーシップ形成、政府への政策アドバイス、そのために必要なknowledge managementが期待されています。

4. 国連という職場

写真⑧

国連が掲げる理想とは別に職場としての魅力は国によっても、機関によっても様々だと思います。ここでは体験に基づいて3つほどご紹介したいと思います。

(1)Knowledge Management

UN(DP)の中で気に入っている点のひとつはいろいろなテーマ、分野におけるネットワークです。分野ごとにいろいろなe-discussionも繰り返されていますし、現場で直面する質問、問題も質問を投げかけるとほかの現地事務所、本部、地域事務所からいろいろな経験、アドバイスをもらえます。そしてそれは日々のプロジェクト形成、実施、提供する政策支援の質の向上に貢献しています。

(2)現場

国連の魅力のもうひとつは現地事務所の多さです。刑事ドラマではありませんが、支援も現場で動いていると思っています。現地の状況、ニーズに基づいて支援が決定されるべきで、現地事務所にかなり権限が委譲されている国連は現場で面白いことができる可能性があると思います。

(3)多様性

そもそもいろんな国で勤務・生活していると、仕事・生活を通じて、実は支援をしているというより、支援を受けていると感じることが多々あります。職場内部でも違った背景・文化・宗教を持った人が集まる国連はとても面白いことが学べます。組織のあり方、コミュニケーション、考え方が違う中、決して楽なことばかりではありませんが、だからこそ新たな見方ができるようになると思います。国連だけに限りませんが、問題に直面したときに信頼できる友達は厳しい環境で仕事を続けていく上でかけがえのないものです。

2007年3月16日掲載
担当:井筒