第15回 子どもの人権問題~カンボジアの児童を取り巻く現状と取り組み~ 甲斐田万智子さん

甲斐田 万智子さん

「国際仕事人に聞く」第15回では、子どもの人権問題に取り組む国際子ども権利センター(略称:C-rights、シーライツ)の代表理事であり、文京学院大学でも教鞭をとっておられる甲斐田万智子氏にお話を伺いました。甲斐田氏は、カンボジアにおける子どもの人権問題に取り組んでおられます。児童労働・人身取引・性的搾取が複雑に絡み合った表面化しにくい実状や、「ライツベースアプローチ」に則った現地での実践および継続した取り組みについて伺いました。(2013年6月 於東京)

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甲斐田 万智子(かいだ まちこ)
認定NPO法人国際子ども権利センター(C-Rightsシーライツ)代表理事。文京学院大学准教授。
大学卒業後、日本ユニセフ協会に勤務。その後イギリス・サセックス大学大学院(IDS)に留学。ブータン滞在を経て、1992年からインドに4年間滞在し、児童労働問題に関わる。1996年に国際子ども権利センター(C-Rightsシーライツ)に入職。2003年からカンボジアに4年滞在し、子どもの人身売買、性的搾取、児童労働の防止活動に携わる。タイに3年滞在後、2010年に帰国。共著『児童労働撤廃に向けて―今、私たちにできること―』、アジア経済研究所(2013年)、共著『国際協力のレッスン: 地域市民の国際協力論入門』、学陽書房(2013年)、共著『開発教育 持続可能な世界のために』、学文社(2008年)など。

子どもの人権問題、とりわけカンボジアの子どもの人権に携わるようになったきっかけを教えてください。

最初のきっかけは、大学時代に犬養道子(※語句説明1)さんの講演で、インドシナ難民(※語句説明2)の少女がボート・ピープル(※語句説明3)として国外に脱出しようとする中で、海賊から襲われ、親を殺害される被害にあったという話を聞いたことです。その後、大学内にユニセフクラブを立ち上げ、ボランティア活動を経て、卒業後、日本ユニセフ協会の学校募金に関わる部署で働きました。四年間の仕事を通じて、貧困や飢餓は天災という面だけではなく、私達のライフスタイルや日本と途上国のあり方に関わっているということや、貧しい子どもたちが援助を待つのみならず、自分たちで解決に努めているということを、日本の子どもたちに伝えました。その後、開発教育が長年行われているイギリスの大学院に進学し、修士論文では「開発教育におけるイギリスのNGOとメディアの役割」をテーマとしました。

子どもの権利条約に興味を持ったのは、帰国直前の1989年に出会った「未来を奪われた子どもたち」(※語句説明4)という本を翻訳したことがきっかけです。その本で「子どもの権利条約」(※語句説明5)は、当時11年もの歳月をかけて、国連で制定され採択されるところだということを知り翻訳したいと思いました。

その頃に夫と共にブータンやインドへ行く機会があり、インドのガンディーナガルという町で働いている子どもたちのために識字教室をつくることになりました。その際、配偶者から暴力を受けた女性が、さらに弱い立場にある子どもたちをも殴り、働かせてお金を稼がせようとしているのを見て、先進国と途上国の間においても男女の間においても力関係があるように、大人と子どもの間においても力関係による暴力や搾取がなされていると感じ、一番弱い立場に置かれている子どもたちに関わりたいと思いました。

日本に帰国後、国際子ども権利センター(略称:C-Rights、シーライツ)(※語句説明6)に入職しました。当時から主な活動は最も困難な状況にある子どもたちへの支援と啓発でした。フィリピン人女性と日本人男性との間に生まれた子どもが日本人の父親に出産前に認知されなかったために、無国籍の状態にある日比国際児の子どもたちの権利を守るために法律改正を求める活動をしていたのですが、それに加え、インドの児童労働に関しての取り組みも始めました。その後、数年、最も困難な状況に置かれている子どもの問題として児童労働に力を入れていたのですが、性的搾取の問題に深く関わるようになったのは、2001年に横浜で開催された「子どもの商業的性的搾取に反対する世界会議」に関わってからです。1999年の国際労働機関(ILO)(※語句説明7)の総会で、「最悪の形態の児童労働(183号)条約」(※語句説明8)が採択され、子ども買春、子どもポルノも最悪の形態の児童労働と定義されるようになったことからシーライツでこの問題にも取り組むようになりました。なかでも、法整備が遅れ法執行力も弱く、貧困の度合いが大きいカンボジアの子どもたちがごく少額で簡単に性的搾取されている現状や、トラウマに苦しんでいる子どもたちの精神的な回復の大変さを世界会議で知り、カンボジアの子どもたちの性的搾取の問題に取り組むことになりました。あまりにも悲惨な状況なので知りたくないという人も多いですが、そんなひどいことだからこそ、子どもがその被害に遭ってはならないという思いで行動してきました。

カンボジアの児童労働の現状はどのようなものなのでしょうか。

児童労働には国内で働く場合と国外へ出て働く場合があります。まずカンボジア国内では、貧しい子どもが働くのは問題ではないという社会的認識があるため、カンボジアにおける児童労働の割合は37%(2013年の世界子供白書)となっています。中でもゴムのプランテーション、塩田、家事使用人、エビ等の海産物の加工、レンガ工場等最悪の形態の児童労働と呼ばれる危険で有害な労働に多くの子どもたちが従事しています。たとえば、レンガ工場での労働では、誤って機械に腕を巻き込まれて切断される子どももいます。近年の経済成長による建設ラッシュで、プノンペンに高層ビルが立ち並ぶようになりましたが、その背景には子どもたちが安い賃金でレンガ作りに従事させられていた事実があります。建設現場を含め、ほとんどの労働の場は取り締まりにくく、監査もほとんど機能していません。少しずつ社会の認識も変化してきていますが、まだまだ貧しい子どもを社会で守るという意識が低いのが現状です。さらに年齢を詐称して働いている子どもたちは数値に現れないだけで、かなり多くいると思われます。

国外へ出て働くカンボジアの子どもたちの現状はどのようなものなのでしょうか。

就業は仲介業者を通じて行われますが、経済的理由から自発的に国外へ働きに行く場合と、誘拐など明らかに人身取引とわかる行為が行われる場合、そして、搾取のために子どもが国外に連れていかれるわかりにくい人身取引の場合があります。子どもの場合、就労後も元締めとして子どもを働かせるブローカーなどによって、経済的に搾取される場合は人身取引と定義されているのですが(国際組織犯罪防止条約の人身取引議定書の定義)、子どもたち自身は人身取引の被害者と気づかないことも多くあります。

建設作業でいうと、子どもたちの行き先としては隣国タイが多いです。タイでは3K(汚い・きつい・危険)の仕事は外国人労働者の仕事とされており、ミャンマーやラオス、カンボジアの子ども・若者たちが3Kの環境の中で働いています。タイの漁船で働く子どもたちの中には、騙されて連れて行かれ、船上で奴隷状態に置かれ、覚せい剤を打たれ、一晩中働かされる子どももいます。反抗すれば、暴力を受けたり、海に放り出されたりするので、子どもたちは従わざるを得ません。また、パスポートや労働許可なしで働いているため、雇用主からは警察に訴えても違法な身分では殴られるだけだと脅かされており、逃げようとしません。勇気を出して逃げ出して証言を行ったカンボジアの少年が何者かに殺害されたという事件もあります。

また、最近では多くの少女や女性たちがマレーシアへ家事使用人として働きに行くようになり、雇用主から虐待を受けるという問題が深刻化しています。子どもたちの親は、実家で貧しい暮らしをするより、都会や外国に出て使用人として働くほうが豊かな暮らしができると思っているようです。しかし現実には、多くの場合、搾取されるだけでなく、身体的暴力や性的暴力を受けます。実際、働き先のマレーシアから重い精神疾患を患って戻ってきた少女のケースがありますが、雇用先でひどい虐待を受けていたことが想像されます。その他にも、タイ、およびベトナムで多くの子どもたちが物乞いとして働かされていますが、そうした子どもたちは絶えず暴力や人身取引の危険にさらされています。

児童労働についてまわる、性的搾取についての実態はどのようなものなのでしょうか。

カンボジアでは以前よりは強化されているものの、法律の取り締まりがまだ弱く、インターネット上などで情報を得た外国人が子どもを性的搾取することを目的にカンボジアに訪れることも後を絶ちません。近年、子ども買春の対象年齢が下がってきているということと、子どもポルノに関してはデジタル化による匿名性が問題になっています。個人で簡単にデータを管理することが出来るため、摘発が難しくなっています。性的犯罪は日本人を含む外国人だけでなくカンボジア人によって行われていることも判明しています。買春される、すなわち性的に搾取される子どもたちは、客を取らないと食事や飲み物を与えられず、被害を受けたことのある女性によると客を取らないと主張すると、三日間食事を与えられなかったそうです。空腹状態に追い込まれ、ときには麻薬を打たれコントロールされてしまうようです。それを子どもに対して行うというのは本当にひどいことです。

最近、そのような子どもの性的搾取の犯罪に対して実刑判決が出るようになってきましたが、子どもの性的搾取は許さないという明確な態度がまだ政府には欠けていると思われます。例えば、加害者がカンボジアにおける海外からの投資家などである場合、加害者に恩赦が出されるなど、国が釈放することが起こっています。しかし、以前との違いは、子どもに対する性的搾取の加害者を目にした地域住民が通報するようになったことで、これにより日本人も逮捕され、実刑判決を受けています。

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児童労働、性的搾取などの問題に対する有効な取り組み、事例を教えてください。

これらの問題への取り組みは、国内と海外双方の意識改革が大切です。

カンボジア国内では、これまで子どもを性的搾取する外国旅行者に対して仕方がないと見過ごしていましたが、ユニセフ(※語句説明9)や国際NGOでは見た人は通報すべきという啓発活動を行い、地元の人たちも児童労働や性的搾取が疑われる場合には通報するようになりました。

そうした変化へのはたらきかけを行っている代表的なNGOが、フレンズ・インターナショナル(以下FI ※語句説明10)という団体です。FIは外国人観光客に接する機会の多い人たちを対象にトレーニングを行っています。具体的にはトゥクトゥク(※語句説明11)のドライバー、ホテル、ゲストハウスの従業員、レストランやインターネットカフェのオーナー等に、性的搾取の可能性がある客に対し乗車や宿泊の拒否をし、通報するように促しています。トレーニング修了後は、チャイルド・セーフ・メンバーとして認証し、ステッカーやシャツを配布しています。また地域住民に対しても、一人ひとりが子どもの権利を守っていくことを呼びかけており、これがまさに子どもの権利に基づくアプローチとなっています。子どもは働いて家庭を助けることが当たり前というカンボジア社会に根強い考えをなくしていこうとするNGOのネットワーク(Civil Society Network against Child labor (CSNACL))もつくられました。カンボジア現地のNGOであるHealthCare Centre for Children(HCC)(※語句説明12)は、こうした運動の中心となって意識を変える活動を進めてきました。

国外に向けては、観光省とFIなど国際NGOが連携し、チャイルド・セーフ・ツーリズム(child safe tourism)(※語句説明13)の方針を打ち出し、子どもへの性犯罪を行う海外からの観光客に対しては国内外で厳しく罰するというメッセージを看板や空港内のビデオ放映を通して大々的に訴えてきました。

また、FIは、チャイルドセーフ事業において、物乞いや物売りの子どもに現金を与えたり物品を購入したりすると、路上で子どもたちが働くのを継続させてしまうことを海外からの旅行者に知ってもらうキャンペーンを実施しています。物売りの子どもから買うことによって学校に行ってほしいと願う人もいるかと思いますが、調査結果によると、それらの売上が子どもの教育費に使われたということはまずありません。誰かが現金を与える限り、自分より子どもの方が稼ぐということで両親は働かなくなり、児童労働は無くならなくなってしまうのです。そうした行動をやめ、親が働いてつくる「チャイルドセーフ認定品」を買うことにより、旅行者であっても子どもの権利を守れるとFIでは訴えています。これもあらゆる人を巻き込んでいくライツベースアプローチの手法です。

シーライツでの子どもの権利ベースアプローチ(ライツベースアプローチ)による取り組み(※語句説明14)を教えてください。

最初に子どもの権利に基づくアプローチを提唱したのはユニセフやセーブ・ザ・チルドレン(※語句説明15)で、その後、ケア・インターナショナル(※語句説明16)やプラン(※語句説明17)等の国際NGOもライツベースアプローチを採用しています。シーライツは小規模なNGOなので、できる範囲で取り組んでいます。

シーライツには子どもの権利条約に基づいた三つの活動方針があります。 一つ目は子ども自身が権利を持っていることを理解し、その権利を使って子どもが権利を侵害された場合に主張できるように支援すること。
二つ目は子どもに対する責務履行者であることを大人が認識して行動ができるようにはたらきかけること。
三つ目は、社会全体にこの方針を広げ、子どもにやさしい地域社会をつくることです。

シーライツは、これまで学校の課外活動で、子どもに権利を教え、子ども自身がほかの子どもたちに子どもの権利を伝え、子どもの権利の視点から問題を分析できるようにする取り組みを行ってきました。具体的には、なぜ学校に行かない子どもがいるのかといった問題分析、物乞いとして働く子どもがお金を盗まれたり外国人や警官にぶたれたりする場面を演じて話し合うロールプレイ、子どもたち自身が演じる人身取引に関する寸劇、などを通して啓発する活動です。現在は、子どもが物乞いとして出稼ぎに行かされる割合の高い地域に集中して活動を行っており、学校に通えない子どもたちにも子どもの権利を伝えています。

大人への働きかけ、支援の内容を教えてください。

シーライツの事業地において子どもが出稼ぎに出される主な理由は、食糧不足や借金です。この地域では、教育レベルが低いため貧しい農民が騙され、必要以上の農薬や化学肥料を大量に買わされ、借金に陥っているのです。このため、農民の育成、野菜の栽培を通して貧困から脱出し、子どもを物乞いに出さないようにするという観点で対策を進めています。

農民の育成については、お金をかけない農法や収穫を増やす幼苗一本法などのスキルを身につけることにより、農民が借金をせずに一年間分の食糧が収穫できるような力をつけ、農民自身が支援なしでもやっていけるという自信や意欲を持てるように、意識改革を行っています。身近にあるカタツムリと葉っぱを使って有機肥料を作ったり、米だけでなく野菜も栽培し、家庭内で摂取する栄養価を高めたり、家庭内での余剰作物を市場に売ったりという取り組みも行っています。やる気のある農民を選出し、リーダーの「キーファーマー」として育成し、そのキーファーマーが他の農民にこのようなスキルを浸透させていくという方法をとっています。

野菜の栽培に関しては、ベトナムとの国境沿いにできたバベット経済特区に進出している工場やカジノに野菜が卸せるようになることを目指しています。これらが実現されれば農家にとっては大きな収入になると考えています。化学肥料の販売業者は、ベトナム人やタイ人が多く、規制が厳しくなったタイなどの国では農薬が売れなくなってきたので、カンボジアの知識が浸透していない農村地域を選んで売りつけているようです。

こうした業者に騙されて借金をする貧困の悪循環に陥らないようにすることで、親たちが子どもの稼ぎに頼らなくてもすむようにしています。

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そうした親たちの能力強化の一つとして、Saving Group、いわゆる貯蓄組合を設立しています。このことにより、貧困から抜け出すため貯蓄する習慣を身につけ、各メンバーがビジネスをする際の資金としてローンを受けられるようになります。現在プロジェクト進行中の地域で、この貯蓄組合のリーダーに女性が選出されました。カンボジアの農村部では男尊女卑の考えが根強いですが、本当に大事なポジションは性別に関係なく有能な人を選ぼうということになったようです。

また、地域住民が学校の質を良くすることが出来る体制づくりもおこなっています。カンボジアは、学校の先生の給与が非常に低いため副業する人も多く、子どもたちに質の高い教育が与えられていません。児童労働をなくすためには、教育の改善が非常に重要であるため、地域住民が教員の給与をサポートするという流れをつくりました。政府に働きかけたり、NGOが支払の支援をするという従来の方法ではなく、住民自身が教育改善の問題解決の主体となるようにはたらきかけました。話し合いを持った際に、村の人たちが、先生の給与に追加する補助金を払うことに同意をした村がいくつかありました。これは非常に画期的なことで、子どもには良い教育を受ける権利があると住民が主張できるようになったことから子どもの権利に基づくアプローチと言えます。

このように、大人へはたらきかけ、住民が口コミで情報を伝え合うことで、地域を基盤としたネットワークができます。これが、人身取引や児童労働の水際で誰かが止めに入れるような仕組みづくりにつながるので、非常に大切だと思っていますし、プロジェクトとして取り組んでいるところです。

今後、取り組んでいきたいテーマ、展望についてお話いただけますか。

現在、活動を行っているスバイリエン州にあるタナオコミューンでは、児童労働とそうでない子どもの働き方を子どもたち自身が見分けられるようになり、変化が目に見えるようになってきました。タナオコミューンを成功例として他の地域にも活動を広げていきたいです。そして、成果の出た地域の子どもたち同士が互いに情報共有できるような仕組みを作りたいです。

また、ジェンダー問題に関しては、娘だから働きに出なければならないという考えを持った少女が働きに出て様々な被害に遭っているため、ジェンダー意識をはじめ出稼ぎや国外で働くリスク認識の低さなどを変えるようなキャンペーンをもっと効果的に行うことができたらと思っています。出稼ぎを止めることはできませんが、最低限自分自身を守る情報と認識を持つことが大切です。仲介業者が人身取引ブローカーの協力者ではないかどうかを考える意識づけ、さらに子どもには、困ったときの電話のかけ方・自身のパスポートの管理、子どもの両親には、どこに電話をかけたらよいか・その番号は確かなのかを確認する等、具体的な知識が必要です。社会が児童労働を容認するのではなく、子どもにとって危険で有害な児童労働を許さないよう、社会の意識変化も重要です。

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将来的には、ユニセフ制作の女の子が主人公のアニメーション「MEENA」のように効果的にジェンダーに関する意識を啓発する活動や、児童労働や人身取引を防止する活動にかかわっている子ども同士の交流を実施できたらと考えています。子ども向けの貯蓄組合も設立できたらとも思っています。

そして、限られた資源しかないときに子どもの権利に基づくアプローチをどのように採用すればより効果を発揮するのかといったテーマも引き続き研究していきたいです。資金やマンパワーが豊富にある大きな国際NGOではこのアプローチがうまく機能しているようですが、小規模のNGOでは行政の能力強化のためのはたらきかけなど困難なことも多いです。小規模のNGOにとっての効果的なアプローチ方法や、大きなNGOと連携してできることなどを具体的に模索していきたいです。

【語句説明】

  1. 犬養道子
    1921年4月20日生まれ。東京出身、日本元首相・犬養毅の孫。津田英学塾(現津田塾大)を中退し、欧米の大学で学び、各国を歴訪する。1958年「お嬢さん放浪記」を発表。世界の飢餓、難民問題、女性など幅広いテーマで評論活動を続ける。1986年に難民のための奨学基金「犬養道子基金」を設立。「犬養道子基金」はイエズス会の難民支援組織「JRS」と連携しながら、難民支援事業をインドシナ、アフリカ、ボスニア、クロアチア、中東などの世界各地で展開している。1989年「国境線上で考える」で毎日出版文化賞。著書は他に「あなたに今できること」「こころの座標軸」などがある。
    参考: http://kotobank.jp/word/%E7%8A%AC%E9%A4%8A%E9%81%93%E5%AD%90/(日本語)
    参考: http://www.inukai-kikin.jp/(日本語)
  2. インドシナ難民
    1975年のベトナム戦争終結に相前後し、インドシナ3国(ベトナム・ラオス・カンボジア)では新しい社会主義体制が発足した。新しい体制の下で迫害を受けるおそれのある人々や新体制になじめない多くの人々がその後数年に亘り、国外へ脱出した。これらベトナム難民、ラオス難民、カンボジア難民を総称して、「インドシナ難民」と呼んでおり、その総数は約144万人に達した。
    参考: http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/nanmin/main3.html(日本語)
    参考: http://www.rhq.gr.jp/japanese/know/i-nanmin.htm#(日本語)
  3. ボート・ピープル
    ベトナムから漁船などの小型船に乗って脱出したベトナム難民のことで、小型船で直接周辺諸国にたどり着いたり、南シナ海を漂流中に航行中のタンカーや貨物船に救助されて寄港地の港に上陸した。
    参考: http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/nanmin/main3.html(日本語)
  4. 未来を奪われた子どもたち
    『未来を奪われた子どもたち-地球の子どもに権利をとりもどす-』 1990年12月明石書店より出版。アニー・アルスブルック、アンソニー・スウィフト〔著〕 甲斐田万智子〔訳〕。
    参考: http://www.akashi.co.jp/book/b63374.html(日本語)
  5. 子どもの権利条約
    「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」は、子どもの基本的人権を国際的に保障するために定められた条約である。18歳未満を「児童(子ども)」と定義し、国際人権規約(第21回国連総会で採択・1976年発効)が定める基本的人権を、その生存、成長、発達の過程で特別な保護と援助を必要とする子どもの視点から詳説。前文と本文54条から成り、子どもの生存、発達、保護、参加という包括的な権利を実現・確保するために必要となる具体的な事項を規定している。1989年の第44回国連総会において採択され、1990年に発効。日本は1994年に批准した。
    参考: http://www.unicef.or.jp/about_unicef/about_rig.html(日本語)
  6. 認定NPO法人国際子ども権利センター(C-Rights、シーライツ)
    子どもの権利を実現するために「子どもの権利条約」「南のこども支援」「開発教育」の3つの柱を中心に市民参加による活動を行うNGO(民間の国際協力団体)。国連「子どもの権利条約」の理念に基づき、主にカンボジアで児童労働、子どもの人身売買、性的搾取を防止する活動を行っている。子ども主体の活動と子どものエンパワーメント、および、大人の能力強化を通じて「子どもにやさしい社会づくり」を進めている。
    参考: http://www.c-rights.org/about/index.html(日本語)
  7. 国際労働機関(International Labour Organization)
    労働条件の改善を通じて、社会正義を基礎とする世界の恒久平和の確立に寄与すること、完全雇用、労使協調、社会保障等の推進を目的とする国際機関(本部はスイス・ジュネーブ)で、唯一の政、労、使の三者構成機関である。
    参考: http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hokabunya/kokusai/ilo/index.html(日本語)
  8. 「最悪の形態の児童労働条約」
    「最悪の形態の児童労働の禁止及び撤廃のための即時の行動に関する条約(最悪の形態児童労働)」は、1973年に採択された最低年齢条約(第138号)及び同勧告(第146号)を補足するものとして、18歳未満の児童による最悪の形態の児童労働の禁止及び撤廃を確保するための即時の効果的な措置を求める条約である。批准国は刑罰を含み、条約の効果的な実施を確保するための措置を定めた。児童労働撤廃における教育の重要性に配慮しながら、定められた期限までに、防止、働く児童の児童労働からの引き離し、社会統合、影響からの回復、無償の基礎教育や職業訓練を受ける機会の確保、特別な危険にさらされている児童への援助、女児の特別な事情の考慮といった目的を達成するための効果的な措置を講じるよう求められている。
    参考: http://www.ilo.org/public/japanese/region/asro/tokyo/standards/st_c182.htm(日本語)
    参考: http://www.ilo.org/dyn/normlex/en/f?p=1000:12100:0::NO::P12100_ILO_CODE:C182(英語)
  9. ユニセフ
    国際連合児童基金(UNICEF)は、子どもたちの権利の実現を世界的に推進する機関で、150以上の国・地域におけるプログラムと36カ国でのユニセフ協会のアドボカシー及び資金調達を通じ、世界190カ国以上で活動を展開する。子どもの保健・栄養、安全な水・衛生、すべての男子・女子のための質の高い基礎教育、暴力・搾取・エイズからの保護活動を支援している。活動資金はすべて、個人、ビジネス、基金、政府からの任意拠出金である。
    参考: http://www.unicef.org/tokyo/jp/(日本語)
    参考: http://www.unicef.org/(英語)
  10. フレンズ・インターナショナル
    世界12カ国で事業を展開するNGO。ストリート・チルドレンを支援するともに、地域社会への啓発活動を実施している。シーライツのパートナー団体でもある。
    参考: http://krorma.com/main/friends-international/(日本語)
    参考: http://friends-international.org/(英語)
  11. トゥクトゥク
    東南アジアから南アジアにかけて普及している三輪タクシー。手軽な交通手段として地元の人や観光客に活用されている。
  12. HealthCare Centre for Children(HCC)
    1998年にカンボジアで設立されたNGO。カンボジア国内の人身売買や子どもの商業的性的搾取及び、劣悪な児童労働から子どもを守るために活動に従事する。
    参考: http://www.c-rights.org/shiryou/komukome/komukome45_3.html(日本語)
  13. チャイルド・セーフ・ツーリズム(child safe tourism)
    旅行や観光における子どもの性的搾取を根絶することを目的としたユニセフのキャンペーン。子どもたちが性的搾取の犠牲者とならないようにするために、政府、観光業界、地域社会が一体となって取り組んでおり、一般向けキャンペーン、研修やチャイルド・ヘルプラインの利用を通じ、観光における性的搾取のリスクにさらされている子どもたちの脆弱性についての政府、地域社会、観光業界の意識を高め、子どもたち保護のツールを身に付けることを目的とする。
    参考: http://www.tourismcambodia.org/mot/index.php?view=child_safe(英語)
  14. ライツ・ベース・アプローチ
    子どもの権利基盤型アプローチ、人権アプローチなどとも訳される。 参考文献:「子どもの権利実現における人権基盤型アプローチの有効性~カンボジアの事例から~」『アジア・太平洋人権レビュー2008-特集:新たな国際開発の潮流-人権基盤型開発の射程-』編著:アジア太平洋人権センター、発行:現代人文社 2008年。 「児童労働と子どもの権利ベース・アプローチ」『児童労働撤廃に向けて―今、私たちにできること―』アジ研選書33、アジア経済研究所(共著)2013年。
  15. セーブ・ザ・チルドレン
    1919年にイギリスで設立されたNGO。国連経済社会理事会の総合協議資格(General Consultative Status)を持ち、「子どもの権利条約」を理念とし、子どもの権利の保護を目標とした活動を実施する。
    参考: http://www.savechildren.or.jp/(日本語)
    参考: http://www.savethechildren.net/(英語)
  16. ケア・インターナショナル
    1945年米国にて設立、発展途上国に対する援助活動を行う国際NGO。12ヶ国に支援団体があり、援助対象地域は70カ国を超える。収入向上、教育、自立支援、保健、水と衛生、環境、コミュニティ開発など多岐にわたる分野からの包括的アプローチを強みとして、長期的視野に立った支援活動を展開するとともに、紛争や災害が生じた際には、世界中にはりめぐらされた国際ネットワークを生かし、世界各地の被災地で瞬時に緊急支援活動を行っている。
    参考: http://www.careintjp.org/(日本語)
    参考: http://www.careintjp.org/(英語)
  17. プラン
    1973年設立、途上国50カ国で活動する国際NGO。国連経済社会理事会の総合協議資格を持ち、「すべての子どもたちが能力を最大限に発揮できる世界の実現」を団体のビジョンとして、途上国の子どもたちとともに、生活環境改善のための地域開発プロジェクトの実施及び職業訓練や出生登録の推進なども行う。
    参考: http://www.plan-japan.org/girl/plan/(日本語)
    参考: http://plan-international.org/(英語)

2013年6月22日、東京にて収録。聞き手:木曽美由紀・慶應義塾大学法学部、瀧澤菜美子・社会福祉協議会、写真:甲斐田先生提供、瀧澤菜美子
ウェブ掲載:羅佳宝
担当:瀧澤、木曽、串田、志村、鳩野、羅
2013年11月14日掲載