第3回 国連改革~人々のための国連になりうるか~ 功刀達朗さん

「国際仕事人に聞く」第3回では、国連と市民社会の協力関係を研究されている功刀達朗・国際基督教大学21世紀COE(Center of Excellence)客員教授にお話をお伺いしました。同大のCOEプログラムと国際協力研究会(International Cooperation Research Association /ICRA)では「国連システムのリーダーシップと地球市民社会― グローバル公共政策の新領域」 という共同研究を行っており、功刀さんはそのコーディネーターを務めておられます(下記リンク参照)。一貫した援助を人々に届けるために自らを改革しようとしている国連は、市民社会と向き合うためにパラダイム・シフトをとげることができるのか。それとも従来どおりの国家中心的アプローチに終始してしまうのか。市民社会の視点から見た国連改革とその問題点について、国連フォーラム幹事でコーディネーターの久木田(UNICEF)、田瀬(OCHA)と議論していただきました(2007年6月12日於ニューヨーク)。

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功刀 達朗(くぬぎ・たつろう)
東京大学教養学科中退、コーネル大学MA、コロンビア大学PhD、ハーグ国際法アカデミーDiploma。国連法務部、中東PKOを経て、外務省ジュネーブ代表部公使、フランクフルト総領事等歴任。1984-90年国連事務次長補(カンボジア人道援助担当事務総長特別代表と国連人口基金事務局次長を各3年)。1990年から国際基督教大学教授。現在同大COE客員教授、国連大学高等研究所客員教授、国際協力研究会代表。編著書に「国際協力-国連新時代と日本の役割」(1995年)、「Codes of Conduct for Partnership in Governance」 (1999)、「グローバリゼーションと日本外交」(2000)、「国際NGOが世界を変える」(2006)、「国連と地球市民社会の新しい地平(2006)」など。

2000年のミレニアム・サミット及び、“ミレニアム・プラス・ファイブ”と呼ばれる第55回国連総会は、国際社会が直面する問題に対処するため、国連改革とそれによる国連の機能強化の重要性を確認した。これを受けてコフィ・アナン前国連事務総長が設置した「開発・人道支援・環境分野の国連システムの一貫性に関するハイレベル・パネル(正式名:High-level panel on UN System-wide Coherence in areas of Development, Humanitarian Assistance, Environment)(以下、一貫性パネル)」は、2006年11月に「Delivering as One」と題する報告書を前事務総長に提出した。

久木田:功刀さんは、一貫性パネル報告書が書かれた背景をどのように分析されていますか。

功刀:一貫性パネル報告書は、前事務総長であるコフィ・アナンの置き土産と呼ばれており、行財政問題および国連の効率性を課題として取り上げています。

そもそも一貫性パネルがこの報告書を出した背景には、先進国の北欧、西欧、カナダやアメリカからのプレッシャーがあると思います。これらの国々は昔から、特にアメリカが中心となって、国連をもっと縮小するよう要求しています。日本もこのヨーロッパ・北米諸国にやや近い立場を取っています。こうした先進国の思惑に押されて、アナン前事務総長は専門家を集め提言をまとめてもらいました。

ただ、任期も終わりに近かったため、アナン前事務総長は報告書の勧告に意見を表明することは控えたようです。しかし開発についてはUNDP(国連開発計画)に主要な役割を委ねるなど、課題を残していきました。加盟国や国連機関がこの報告書を受けてそれぞれどのように対応するかということも後進に引き継がれました。

久木田 純(くきた・じゅん)
福岡県生まれ。1978年、西南学院大学文学部外国語学科英語専攻卒。九州大学大学院教育心理学修士。大学院博士課程在籍中にJPOに合格、UNICEF駐モルディブ事務所に赴任。UNICEF東京、ナミビア、バングラデシュ事務所に勤務した後、2002年よりユニセフ・ニューヨーク本部の事業資金部上級事業資金担当官。

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久木田:実はこの報告書が出されたとき、事務総長の包括的な見解を一部では期待していたのですが、結局コフィ・アナンからは出されませんでした。既に新しい事務総長が決まっている段階で、あまり言及するのは良くないという考えがあったと思います。具体的な意見を言わずにこの問題を先送りしたことで、コフィ・アナンは「次の事務総長に任せる」という姿勢を表明したのだと思います。功刀さんは、一貫性パネルはいくつかの問題を積み残したとお考えだそうですが、具体的にはそれはどのような問題で、報告書にはどのような限界があると思われますか。

功刀: 第一はパネルの基本的アプローチに関する問題です。人々の安全への脅威と世界に格差をばら撒くグローバル化の挑戦に対抗し、持続的平和と開発を推進するためには、政府・国家に加え、NGO、企業、議会、自治体、マスメディアなどグローバル・ガバナンスの新しいアクターの社会的責任とパートナーシップが益々重要となってきました。このため国連は10年程前から、市民社会と企業との協働を求め、多様な関係者の参画にも開かれた機構に変容しようとしています。ブトロス・ガリの「民主化への課題」(An Agenda for Democratization, New York: United Nations, 1996) とコフィ・アナンの「グローバル・コンパクト」 (The Global Compact, 2000)はパートナーシップを求めた重要なイニシアチブでした。

ところでこのようなパートナーシップが大きな効果をあげ、大きな影響力を持つのは国連の現場での活動においてであり、現場で国連システムの機関が当事国政府、NGO、企業、自治体、二国間援助機関、世界銀行(以下、世銀)、地域開発銀行などとどのように協働作業を最も効果的に進めていくのかがいまや重要な課題となっているのです。

一貫性パネルはこの趨勢の意義に注目せず、事業活動の効率化を単に国連諸機関と当事国政府の行財政の管理・運営の問題に還元してしまっているのです。近年来、国連システム内では数多くの関係者参加による多角主義的機構、たとえばGlobal Environment Facility (GEF、地球環境ファシリティ)、Global Biodiversity Forum (世界生物多様性フォーラム)、Global Water Partnership (世界水パートナーシップ)、Global Fund (グローバル・ファンド/世界基金(世界エイズ・結核・マラリア対策基金))、Global Alliance for Vaccines and Immunization (GAVI、ワクチンと予防接種のための世界同盟)などが発展してきましたが、この注目すべき傾向は、国連の実体そのものが政府間国際機構からさまざまな関係者が形成する協働的パートナーシップ共同体に進化・変容する兆しともいえるわけで、この視点からの展望が全く欠けているのは一貫性パネルの第一の限界です。いいかえれば、もはや新時代にそぐわない国家中心的(State-centric)アプローチに終始しているのです。

第二に、開発、人道援助、環境の三つの分野のうち開発分野への偏重が問題だと思います。ミレニアム開発目標(MDGs)達成が重要な関心事であることはうなずけます。しかし、人道と環境の分野では包括的な分析が出来ていないのです。環境が特に弱いですね。地球温暖化で大騒ぎになっているというのに、あたかもそれには気付いていないかのようです。それから人道援助についても、今までの豊富な経験をもっと統合させて報告書を作成しても良かったのではないでしょうか。また、最近特に重要視されている安全保障や平和構築の問題を完全に外しておいて三つの分野だけを議論するというのも物足りないですね。もともと国連は平和と安全保障のために中心的な役割を果たすというのが大きな目的であったわけですが、それとの密接な関係を取り上げずに、三つの分野、特に開発分野に焦点が集中してしまった。これでは国連の使命を十分に果たすことにはつながらないと思います。開発分野を重視するとしても、人権など他の分野との関連も十分に考え議論しなければ、限られた効果しか生み出さないでしょう。国連改革は、もっと広範な分野にわたって包括的に考えていかなければならないと思うのです。

さらに言えば、報告書に書かれている、カントリー・オーナーシップつまり現場と当事者の意向を重視するという方針はとても大事なことです。しかしこれは、世銀、IMFの構造調整政策への牽制として、1980年代からOECDで強調された「政策対話」と「カントリー・オーナーシップ」とわだちを共にするものであり、特に目新しい指摘ではありません。一貫性については、「人間の安全保障」「能力強化」「ジェンダー主流化」「人道主義」などの基本原則にのっとり、国連システムのすべての機関がすべての国で一貫性を持って支援を行うことは重要ですが、このことは事業活動を一体化することを必ずしも必要としない。不自然な一体化は緊急な活動を遅らせ、時には効率性にもマイナスになるおそれがあると思います。

久木田:カントリー・オーナーシップについてですが、この一貫性パネル報告書は具体的にどのような点が弱いと思われますか。

功刀:カントリー・オーナーシップは、国単位でみた考え方です。しかし国連は、国のためではなく、人々の福利を目指すべきです。そして国連は、大国のためにあるのではなく、中小国、特に国連を本当に必要とする小国のため、また、一国の中でも経済・社会の格差、特に貧困にあえぐ人々のために働くべきです。今、国連はそういった原点に帰るべきであるにもかかわらず、カントリー・オーナーシップを進めると、特定の国の政府の要望に従うことになってしまうという懸念があります。多くの国の政府は、必ずしも貧しい人々の代表となっているわけではないし、汚職まみれの政府もあるという現実を考えると、カントリー・オーナーシップといいながら、現地の人々や国民を必ずしも代表しているとは限らない政府の主導という意味でガバメント・オーナーシップになってしまうのではないか。地元のコミュニティ、NGO、今まで現地で活動してきた国連機関など、さまざまな利害関係者に政策立案にも参画する機会を与えることにより、現地の要望をしっかり汲み上げる仕組みを作り上げる必要があると思います。

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また、最近では企業の役割も変わってきています。企業の社会的責任(CSR: Corporate Social Responsibility)という概念(*語句説明1)は1970年代に生まれたものですが、今日では企業にも単なるコンプライアンス(法令遵守)を超えた社会的責任があるのだという認識は世界的に広がっています。この潮流にのって、国連も企業とうまく連携していくべきであると思います。企業、NGO、地域などいろいろな関係者をうまく国連の活動に組み込んでいけば、ガバメント・オーナーシップではなく、本当の意味でのカントリー・オーナーシップが実現し、国連の活動を本当に必要としている人たちのニーズにあった活動ができるのではないでしょうか。この視点が報告書には欠けていると思います。

久木田:この報告書が出てから半年ほどが経過しましたが、今までの進展をどう評価されているでしょうか。

功刀:新しい事務総長の潘基文(パン・ギムン)が4月はじめにこの報告書の提案を支持する表明を出してから、総会で1日半の議論がなされ、その後ミギロ副事務総長を中心に政治的協議が続いている段階です。したがってまだ進展を評価するには時期尚早なのではないでしょうか。

久木田:国連活動にはさまざまな関係者がいますが、ご指摘のように報告書には一部のアクターのアジェンダが色濃く反映されています。にもかかわらず、すでに8か国で報告書のタイトルでもある「Delivering as One(一貫性を持った支援)」が試験的に始まっています。「一貫性を持った支援」と一言で言っても、その内容はまだはっきりしておらず、国によって内容も一様ではありません。でも試行は実質的にどんどん進んでいる。このように、報告書の提案について議論がまだまだ十分なされていないのに、現実には試験的な取り組みがすでに始まっている、この点はどうお考えになりますか。

功刀:やり方が少し間違っていると思いますね。一貫性を持った支援をしなくてはならない、また現地が大事だ、ということだけは分かっていますが、それ以外何も具体的に決まっていないのに、現地で一つのプログラム・フレームワークによって事業活動を実施しろというのはおかしい。現地での試行錯誤は、きちんとした議論をもとに選択肢を含むシナリオが作られ、現地に即した方策が求められるべきでした。ところでパイロット国には、何か動機付けがあったのでしょうか。

久木田:なにかしらの動機付けはあったと思います。被援助国の政府によっては、早くパイロットを行いたいと表明していたところもあります。パイロット国側にとっては、国連との窓口がひとつになるのであれば国連との関係が簡単になって良いと思っていたところもあるようですし、かなり多くの資金が来るかもしれないという期待があったかもしれません。けれども、実際にはパイロット国が選ばれた背景には先進国側での政治的な駆け引きもかなりあったのでしょうし、必ずしも動機が強い国が選ばれたわけではありません。結果として期待していたほどには「Delivering as One」が上手く進んでいない国もあるという話を聞きます。このパイロットについては、今年から始めて徐々にパイロット国を増やしていき、いずれはすべての国で実施するというのが現在の計画です。現在の段階を、学習段階と位置づければよいのですが、既成事実をつくってしまおうという狙いを感じる人もいるのではないかと思います。

功刀:一貫性を持った支援の試行には、もともとシナリオのようなものもなく、内容がかなりお粗末に感じられますね。現地の人々のためといいながら、結局中央政府のいいなりになってしまうのではないか、ということを危惧しています。

それからもう一つ、現地において、他の援助機関(二国間援助機関、世銀、IMF、地域開発銀行など)との協力の方向性があまり見えてきていないですね。しかし、国連以外の援助供与機関の協働なくして、効率性と有効性のある支援の実現は非現実的なのではないでしょうか。そもそも、一つの国に一つの予算(one country, one budget)というのは無理だというのが私の意見です。各国連機関の使命が変更・縮小されてしまうおそれがありますし、常駐調整官に予算を分配する権限を与えることは、各機関の資金調達への動機付けを削いでしまうことになるのではないでしょうか。私は、むしろ、各機関がそれぞれの個性と使命を活かしながら主体的に支援をしていくことのほうが、各機関の持っている長所を活かすためにはいいのではないかと思います。各機関には、長年の経験にもとづいた知識、地域に根ざしたネットワーク、専門性があります。それなのに、常駐調整官を擁するUNDPと現地の中央政府が管理者となり予算を握ってしまうと、そうした長所が活かされなくなるのではないでしょうか。

久木田:国連職員の間でも、One UN(一つの国連)とDelivering as One(一貫性を持った支援)というのは違うという議論があります。One UNは、国連を一つにまとめるという考えです。一方Delivering as One というのは、国連諸機関は一つではないというのがまず前提にあり、一つではないからこそお互い調整して“一つのように”一貫性を持って支援しようという考えです。実際、この後者の考えに基づいて、各機関の長所、ブランド、アイデンティティなどを維持していこうという動きがあります。功刀さんがおっしゃったような問題をどの国連機関も認識し、危機感を持っています。

久木田:国連の一貫性を高めるための議論の際、UNDPの役割が注目されています。UNDPはDelivering as Oneにあっては管理的な立場にあります。これは、ある国において国連諸機関を代表する常駐調整官(Resident Coordinator: RC)は管理上同時にUNDPの常駐代表(Resident Representative: RR)も兼任するという今の国連常駐調整官システムの延長でもあります。RCはUNFPA(国連人口基金)、UNICEF(国連児童基金)、WFP(国連世界食糧計画)、UNDPなど国連の多くの機関から選ばれています。けれども、(そのRCを擁する)UNDPという機関が国連諸機関を代表しているわけではありません。ですから、RCとしての役割と、UNDPがその国で行うプログラムの管理責任者としてのRRの役割を混同してはいけない。ましてやUNDPのためにRCの権限や役割を使ってはならない。二つの役割は防火扉(Firewall)ではっきり分けておかなくてはいけない、という議論があります。この点に関して先生はどうお考えですか。

功刀:私は、一人の人間がResident Coordinator とResident Representativeの両方ができるとは思いませんね。非常に難しいと思います。両者の役割、立場をうまく使い分けられるかというのが鍵になるでしょう。

久木田:そうですね。パイロット・プロジェクトを進めていく中で、UNDPが行動規範を決めていくことになるでしょう。しかし、私も先生に同感でして、一人の人間が二つの帽子を使いこなすのは難しいでしょうね。実際には、各RCの個人的な資質によって大きく違うと聞いています。

功刀:UNDPの役割が大きくなっているという点で言うと、過去数年間でUNDPは資金が随分増えましたね。これは信託基金が増えたからでしょうね。

久木田:信託基金は、イギリス政府や北欧政府など、開発に対する同じような考え方をもっている援助供与国同士が進めてきた新しい資金源の形です。大きなものではイラク信託基金がありますが、他にもスーダン、コンゴ民主共和国(DRC)、ネパールなどに対する複数の援助供与国による信託基金ができました。そこで、UNDPのなかにMDTF(Multi-Donor Trust Fund)Officeというユニットを新たにつくって管理しています。ただ、それがすべてUNDPの勘定にはいっているので、見かけ上UNDPの資金が非常に大きくなったようにみえます。しかし、これは援助国から預かっている基金であって、実際には他の機関がその多くを受け取り実施するわけで、UNDPの資金が増えたわけではありません。他機関にしてみれば、今まではドナーから直接もらっていた資金が、今ではUNDP内の信託基金経由でもらうことになったので、形式上はUNDPからの収入として扱われています。UNICEFなどもこのような基金から資金を受けることがあります。こうした基金の例としては他にもUNOCHA(国連人道問題調整事務所)の管理するCERF (Central Emergency Response Fund)、平和構築基金(Peace Building Fund) などがあります。

一方、ゲイツ基金やグローバル・ファンドなど、民間の基金もできています。UNDPもこれらから資金を得ることがあり、その場合は各国連機関に資金を流す(“pass-through”する)役目を負うことになります。この市民社会の参加により、かなり巨大なお金が動き出しています。いままでの国連の資金を考えると、従来の二国間供与でもらっていたお金のほかに、信託資金のお金、それも世界的規模の信託資金と国ごとのMDTFを通したお金などが出てきたことになります。このように、国連の資金調達の形式が最近変わってきている。しかも、市民社会からも巨大な資金源ができている。このような流れは、これからの国連のあり方にどう影響を与えると思われますか。

功刀:ジャクソン報告(*語句説明2)で想定されたように、UNDPは数量的にはcentral funding agencyという形にある程度近づいているわけですね。1969年に出されたこの報告書は国連の支援のやり方を変えることを模索した報告ですが、提案した方向には実際進まなかったんです。各機関が、それぞれ自分達の専門分野と優先課題を持ち、それを売り込むことによって資金調達をしてきたからこそ、UNICEF、WFP、UNFPAなどの機関は成功したんだと思います。

久木田:そうですね。あり方が大分変わってきていますね。今の方向としては、ジャクソン報告書で当時提案されたアイデアに戻る、つまり、多くの資金が集まってくれば、central funding agencyのようなものを作るのもいいのではないか、という考えも強くなってきています。資金調達を一括して行うやり方と国連機関がそれぞれに独自にやるやり方、こういった異なる考えが混在しているというのが現状です。

田瀬:ジェフリー・サックス教授が実施しているミレニアム・ビレッジ(*語句説明3)というプロジェクトがあります。人間の安全保障基金からも9百万ドルほど資金をだしているのですが、これはUNDPがコロンビア大学Earth Instituteと一緒に実施しているものです。UNDP内にミレニアム・ビレッジという部署があり、ジョージ・ソロスが60億円ほど資金をだしたんですね。加盟国の資金と民間の資金を混ぜて使っている一つの例です。資金調達と管理にも、いろいろな援助の仕方があるんですね。

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田瀬和夫(たせ かずお)
1967年生まれ。東大工学部卒、同経済学部中退、ニューヨーク大学法学院客員研究員。1991年度外務公務員I種試験合格、92年外務省に入省し、国連政策課(92年-93年)、人権難民課(95年-97年)、国際報道課(97年-99年)、アフリカ二課(99年-2000年)、国連行政課(2000年-2001年)、国連日本政府代表部一等書記官を歴任。2001年より2年間は、緒方貞子氏の補佐官として「人間の安全保障委員会」事務局勤務。2004年9月より国際連合事務局・人道調整部・人間の安全保障ユニットに出向。2005年11月外務省を退職、同月より人間の安全保障ユニット課長。外務省での専門語学は英語、河野洋平外務大臣、田中真紀子外務大臣等の通訳を務めた。

久木田:UNDPの役割や国連機関の資金調達の話から一貫性パネルの話に戻します。功刀さんは国連と市民社会との関係構築を提案しておられますが、市民社会との協力はどう進めていけばいいのでしょうか。また、功刀さんは国連でも勤めてこられた一方で、現在では市民社会側の視点をお持ちですが、市民社会の側からみた国連は、どうですか。

功刀:一貫性パネルの中では、市民社会との関わりについてはほとんど触れられていません。企業との関係についての言及もほとんどないですね。ミレニアム・プラス・ファイブの総会の成果文書には多少入っているんですけどね(注:paras. 22, 24, 172-175 of 2005 World Summit Outcome, A/RES/60/1, dated 24 October 2005)。行財政問題や資金調達などを重要視し議論しようとしながら、民間企業や市民社会に触れていないというのはあまりにも不完全だと思います。ですから、自分達の役割が求められていない市民社会の側は、この一貫性パネル報告書に対して消極的な評価をしています。企業についても、グローバル・ファンドに貢献したり、財団の形で開発援助や感染症対策支援を行うようになってきています。これは、発展途上国での活動で利益を得る企業が、営利活動の一方で社会的責任も果たしているということを社会に示さなければいけないからです。また、この国連フォーラムで佐藤安信さん、水田愼一さんから提案されたように(下記リンク参照)、広義の平和構築への企業の責任ある協力も広く求められています。それなのにこれらについて報告書では触れられていない。

今後の流れとしては国連のフィールドにおける活動は、こうした多様なアクターが協力しあい、相乗効果を生む協働関係を築き上げる必要があるでしょう。そうしなければ、先ほども指摘したように結果的にはカントリー・オーナーシップがガバメント・オーナーシップになってしまうおそれがあるのです。

先週ニューヨークで、創立20周年を迎えた国連システム学術評議会 (Academic Council on the UN System)の年次総会が開かれましたが、私の参加したパネルディスカッション “Business, Civil Society and the Popular Legitimacy of the UN”では、国連を多様な利害当事者 (multi-stakeholders)の参加に開かれたものとすることが国連強化改革の必要条件とされました。また、地球公共財供給のために、国連がすべての主要アクターの協働を促進するリーダーシップの重要性が強調されました。

そういう面から見ると、現在のように、政府中心の考えが国連本部の一部でもまかりとおっていたり、国連外交官の考えが自国の政府中心にまわっていたりすると、さまざまなアクターが参加できる土壌が育たないんですね。それではどうしたらいいのか。簡単な解決策はないのですが、市民社会からの働きかけがもっとなければならないし、企業も協力していかなければなりません。そうした国連と市民社会や企業との関係性をどうやって求めていくかということになるでしょう。

久木田:さまざまなアクターが効果的に協力するあり方の例として、私が大変感心していることがあります。一貫性パネルの背景にもある動きなんですが、ウットスタイン・グループ(Utstein Group)(*語句説明4)というのがあります。1990年代の終わりごろに4人の女性の開発大臣がヨーロッパ(英国、オランダ、ノルウェー、ドイツ)に出現し、この4人がノルウェーのウットスタイン・アベイというところで一緒に開発のアジェンダを話し合い、貧困撲滅のためにどのようなアプローチをすればいいのかを模索するグループを結成した。一般にはよく知られていませんが、これがその後の開発アジェンダの設定に隠然たる影響をもつことになった、ウットスタイン・グループです。

このグループは、同じような考えを持っている他の北欧諸国とともにグループをつくり、まず、援助効果や援助アプローチなどの基本的な概念を整理して、誰も反対できないような論理と開発援助の理念を展開し、それを非常に戦略的に、そして持続的に、国連各機関の理事会などで訴えました。また、フィールド・レベルでも援助国や他の関係者を巻き込んで仲間を増やしていきました。さらには、OECDや世銀においても強力に一貫して開発の議題を提言し続けました。

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私は、論理だけで一方的に進むアプローチは現実から乖離し危険だと思いますが、ウットスタイン・グループのように一貫性を持ったアプローチを実施すれば、感心するほど大きな変化を生み出すことのできるのも事実だと思います。このグループの活動は実際、ここ10年ほどのMDGs、ミレニアム・プラス・ファイブ、Simplification and Harmonizationと援助効果の議論、パリ宣言など、現在の開発の課題の方向性を決める際に大きな影響を与えました。市民社会も、このグループぐらい論理的、持続的、戦略的なアプローチが必要なのではないかと思います。そのためには、かなり力を持った人たちが集まらないといけないと思いますので大変かもしれませんが、しかし必要なことです。

功刀:その通りですね。私がカンボジアの人道援助の際現地に行って深く感じたことは、国連その他の国際機関がどれほどまでに現地で働く国際NGOの人々の専門的知見と献身的努力に頼っているかということです。しかし、NGOの人々は、それぞれが強い個性を持っていますし、さまざまな考え方を持っています。そのため、なかなかNGO同士がお互いに協力しあうことが難しいんです。NGOの意見をまとめることは、とても大変です。しかし一旦まとまると、ネットワークの威力は見事な成果を挙げます。最近の例としては国際刑事裁判所設立、対人地雷禁止キャンペーン、累積債務に取り組むジュビリー2000、エイズ治療と紛争ダイアモンドに関するキャンペーン、広範なインパクトを及ぼしたG-CAPキャンペーン(日本では「ほっとけない世界のまずしさ」キャンペーン)などがあります。

田瀬:外務省時代の経験からいいますと、市民社会との付き合い方で政府側が考えるのは、どこまでNGOの活動に正当性を与えるのか、発言に重みをもたせるのか、ということだと思います。例えば環境NGOには過激な意見を持つところもあるし、NGOは決して一枚岩ではない。ですから、有権者への説明責任を持つ外交官などの意識は、NGO側と差があると思います。今久木田さんが挙げられたウットスタイン・グループは、うまく政府が関与してさまざまな利害関係者を連合体としてまとめ、その意見に正当性を与えることができた。国際社会に影響力のある声を築くことができた例だと思います。

久木田:おそらく市民社会も一つの声を持つことが必要なのではないでしょうか。国連とNGOは相互補完的にあるべきです。また、相乗効果(シナジー)が生み出せる関係であることが望ましいですね。そういった関係を市民社会側と結べるように、国連はもっと協力していくべきだと思います。この議論が、この一貫性パネル報告書というこれからの国連の方向性を議論している報告書の中に出てこなかったということは、ある意味で国連が国連中心主義から抜けきれていないことの現れなのではないでしょうか。しかも、現在の国連は加盟国政府中心ですから、国連中心主義イコール加盟国中心主義の報告書に仕上がってしまったのでしょう。

功刀:まったくその通りですね。NGOなど市民社会の役割は、今まであまりにも援助プロジェクト実施の場面に限られてきていました。しかし、これからはもっとアドボカシー(政策提言)に力を入れ、国連の政策議論の場に食い込んでいくべきです。アドボカシー活動の歴史を振り返ると、人権分野から始まり、環境分野に広がり、それから今やっと開発の分野でのアドボカシーが盛んになってきています。つまり、開発の分野でのNGOのアドボカシーはまだ少し遅れているんです。どうしたらいいのかは分かりませんが、ひとつ確かに言えることは、世界を変えるんだという意識でやるのであれば、もう少しNGO側が提言内容の理論武装を強くしていかなくてはいけないということですね。

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久木田:NGOとして意見を一つにまとめあげたり、ネットワークを構築したりしていくということが非常に大事ですね。

功刀:そうですね。ただ、地球的課題というものにはいろいろな種類の問題が混ざっていて、それぞれが複雑に関わりあっており、かならずしも一つ一つの課題に分けられるというものではないのです。だからこそ、NGOがそれぞれに専門分野をもちつつ、共通のビジョンに向って協力して共同歩調をとれば、影響力が出るのだと思います。しかし現実には、違う専門分野と考え方を持ったNGO同士がなかなか協力して地球的課題全体を扱うことができない。ソーシャル・フォーラムのようにただ集まって話し合っているだけで組織力がないのは無意味です。私は、NGOというのは、専門性とともに新しいネットワーク型組織力がなくてはいけないと思います。一致団結して、しつこいぐらいに持続的に行動し続けないといけない。この一貫性パネル報告書についても、自分達市民社会が考慮に入っていないということははっきり分かっているのですから、それをきちんと指摘し、市民社会との協力を国連改革のひとつの軸にするように国連に要求していけばいいと思います。もっとNGO同士の調整や、要求を通すための理論武装などが必要でしょう。グローバル・ガバナンスの新たな主要な担い手であるNGOと、世界経済を動かしている民間企業の二つのアクターと協力してこそ、真の国連改革が実現するのではないかと思います。

久木田:日本の外交が国連に対してどうあるべきなのか。日本の国連政策の問題点は何でしょうか。そしてどう変わっていく必要があるとお考えでしょうか。

功刀:ここ数年来、日本の外交には中長期的、大局的視野が欠け、大国意識と米国追随に過ぎると評されていますが、このことは日本の国連政策に如実に現れています。安保理常任理入りに対する異常固着的こだわり、憲章違反の米英両国主導によるイラク攻撃への全面的支持などはその例です。「国際社会において名誉ある地位を占めたい」と欲するならば、先見性のある形で自国の利益を再定義し、地球社会の公益を日本の国益に組み込む基本的姿勢が必要であり、また国連の運営に対する具体的知的貢献と平和協力の実績がなければならないのです。イラク、パレスチナ、イランを含む中近東問題は国連の復権と日本外交の旧弊脱却の好機ですが、それを指向する提案を日本政府から期待できるでしょうか。

安保理常任理入りの動機としては、軍事大国に牛耳られ、あるいは軍事大国の利害調整の場と化し、本来の平和機能を果せないでいる安保理の中に、世界の平和と軍縮を求める勢力を結集し、安保理の脱軍事的平和機能を推進することを目的とすべきだと思います。このような政策目標を公表し、着々と平和協力の実績を収めれば、日本は世界から歓迎されて常任理事国入りする道につながるでしょう。

最近米国「新帝国主義」への傾斜が懸念されましたが、パックス・アメリカーナは始まって間もなく終焉の兆しを既に見せています。軍事力に依拠した一極優位の体制は今後の世界にはありえないでしょう。米国がリーダーとしての役割を立派に果すためには、世界の警察官であるだけでは十分でない。その経済力、情報力と政治文化の普遍的価値を、地球社会の安寧と将来世代の公正のために役立たせようとする器量が必要です。そして英国や日本は、米国の一国主義的行動に同調したり追随したりすることは、米国がその資質にふさわしいリーダーシップを発揮することを阻害する結果となることを認識すべきなのです。

国連は政府間機構であるため、市民社会は各国政府の国連政策を変えるように働きかける必要があります。実はスウェーデンで明日から市民社会が国際機関に対してどのように働きかけていけばいいのかを話し合う会議が開催されます(注:Civil Society and Accountable Global Governance. Workshop at the School of Global Studies, Gothenburg University, 13-15 June 2007)。すでに市民社会からの働きかけは始まっていますが、それがどのようにしたら効果的に、グローバル・ガバナンスの鍵を握る国際機関のアカウンタビリティ(説明責任および結果責任)と正統性の推進につながるのかなどについて話し合うことになっています。久木田さんと田瀬さんから今日伺った貴重な情報やご意見もふまえ、明日からの会議にのぞみたいと思います。

【語句説明】

  1. 企業の社会的責任(CSR)
    持続可能な社会を達成するためには、行政や非営利団体のみならず、企業も経済活動だけでなく社会や環境などに責任をもった活動をするべきという考えから成立した概念。日本でも、環境などへの取組みを積極的におこなう企業が増えているほか、社会的責任を考慮にいれた観点から企業を評価しようとする動きが活発化しており、現在の経済と企業活動を考える上で重要な役割を果たしている。
    参考 :http://www.csrjapan.jp/csr/what/index.html
    コフィ・アナン前事務総長が1999年ダボスで提唱し、2000年から開始した国連グローバル・コンパクトはグローバル化時代の企業のCSRを促すものであり、現在、世界の約4,000企業(日本の60企業を含む)が参加している。
    参考 :http://www.unglobalcompact.org (英語)
  1. ジャクソン報告書
    正式名Study of the Capacity of the UN Development System、1969年に発表された。国連機構と運営等における各種の問題点の徹底的分析と、抜本的改革案の提案を内容としている。国別に国連組織全体による開発援助を組み込む手法など、現在の国連改革につながる重要な提案をおこなっている。
    参考 :http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/1970/s44-2-4-4.htm
  2. ミレニアム・ビレッジ・プロジェクト
    国連開発計画(UNDP)とコロンビア大学Earth Instituteが2年間にわたって実施するプロジェクト。ガーナ、ケニア、マラウイ、マリ、ナイジェリア、セネガル、タンザニアおよびウガンダのアフリカ8か国における9つの農村において、成果の評価を重視しつつボトムアップによる農村開発を進め、貧困からの脱却、ひいてはMDGsの達成を図ることを目的としている。
    参考 :http://210.163.22.165/mofaj/press/release/18/rls_0216b.html
    http://www.earth.columbia.edu/millenniumvillages/bg.php (英語)
    http://www.unmillenniumproject.org/index.htm (英語)
  3. ウットスタイン・グループ(Utstein Group)
    1999年7月に、ドイツ、オランダ、ノルウェー、英国の4カ国の開発大臣がノルウェーにあるUtstein Abbeyで会合を開いたことを契機に設立されたグループ。発足地の名称を取ってUtstein Groupと呼ばれている。債務削減などの議題において、開発に関する議論を推し進めていくことを目的としている。特に、紛争マネジメントや貿易に関する政策などに対して国際社会が一貫性をもって取り組むこと、ドナー国が援助を協調しながら行うこと、多国間援助のシステムを強固なものにすること、被援助国とのパートナーシップ、ODAの増額などに重点をおいている。
    参考 :http://www.u4.no/projects/utstein/utsteinprinciples.cfm (英語)
    【その他参考リンク】 
    ICU・COE/ICRA 共同研究ウェブサイト http://subsite.icu.ac.jp/coe/icra/
    国連フォーラム 私の提言 第二回 佐藤 安信・水田 愼一「日本発で平和構築への企業の取り組みを推進しよう」 http://www.unforum.org/teigen/2.html

(写真) 田瀬和夫、国連事務局OCHAにて人間の安全保障を担当。幹事会・コーディネーター
2007年8月9日掲載