第18回 海老原 周子(えびはら しゅうこ)さん
第18回 海老原 周子(えびはら しゅうこ)さん
インターン先:国際移住機関(IOM)フィンランド事務所
* 国連フォーラム幹事からのお断り: 国際移住機関(IOM)は国連機関ではありませんが、国連と一緒に仕事を行う機会の多い国際機関ということで、今回のインターン記を特別掲載することにいたしました。 その点ご理解いただけますようよろしくお願い申し上げます。
2007年1月から3月末までの期間、IOM(International Organization for Migration)国際移住機関のフィンランド事務所でインターンをしておりました海老原 周子と申します。IOM(国際移住機関)は、世界的な人の移動(移住)の問題を専門に扱う国際機関です。紛争や自然災害後の復興支援や人身売買対策から移民政策まで、幅広い分野を取り扱っています。国連機関(UN Organization)ではありませんが、国際機関(International Organization)として国連機関と密接に関わっており、移民の受け入れのみならず、国内避難民 (Internally Displaced Person)や緊急支援、復興支援の分野において活動を展開していますので、少しでも参考になればと思い投稿させて頂きました。ホームページ→http://iomjapan.org/iom/index.cfm
■1■ インターン獲得までの経緯
民間企業からの転職が決まり、次の職場に移るまでに3ヶ月間のブランクがあったので、かねてからボランティアとしてコミュニティーベースで活動していた移民の受入問題に関して、より大きな枠組みで実務的な経験をつみたいと考えていました。そんな矢先、IOM駐日事務所でイベントのお手伝いをする機会があり、職員の方に自分の関心を話したところ、社会統合(Integration)プロジェクトを行っているIOMヘルシンキ事務所を紹介して頂く事ができました。そこで、レジュメとカバーレターを送付し、幸運にも一ヶ月程度でインターン受け入れが決定しました。面接もなく短期間で決まったのは、レジュメとカバーレターでインターンに対する目的意識だけに留まらず、自分がどのようなContributionが出来るか明確に織り込まれていた点を評価した、とのコメントを受けました。提出資料は、ありがたくも事前に国連機関に勤務経験のある先輩に目を通してもらっていたので、そのおかげが大きかったと思います。また、IOM駐日事務所に推薦して頂けたので、その点も考慮されたのだと思います。
■2■ 活動内容
主な担当業務は3つ。一つは、3年間の包括的プログラムであるCulture Orientation Programmeの内部評価です。フィンランドは年間750人の難民受入を行っています。このCulture Orientation Programmeとは、新たな生活を始める難民に対して、フィンランドに移住する前に政治・経済・文化といった基礎的な知識から教育・仕事・住居・福祉サービスなどの実生活に必要な情報を提供し、新生活ではどのような困難に直面するのか、どういったカルチャ-ショックを経験するのだろうか、という問題を考えるワークショップを行うプログラムです。このCulture Orientation Trainingを通じて、新天地での生活に対する不安を取り除くだけでなく、現実的な側面を考えさせることで、新しい生活で難民の新しい生活における自主性を養うことを目的としています。2007年はプログラムの最終年度ということもあり、内部評価を行うにはちょうど良いタイミングでした。私の仕事は、1)内部評価プランを形成、2)その内部評価調査を実行し、3)集められた情報を分析、4)その結果を通じて次のプロジェクト提案を行うというものでした。指導官(Supervisor)の指導を受けながら、IOMが組織として保持している評価ガイドライン(Evaluation Guideline)を参考に、Orientationのカリキュラム構成や教材といった内容そのものの側面と、Orientationが移民の生活どのように役立ったのか、という効果の二つの側面から、現段階での目標達成度を調査しました。内容評価では、Orientation後に回収した難民からのコメントやカリキュラム構成を分析しました。効果の評価では、フィンランドで生活を始めた難民やソーシャルワーカー(社会福祉事業員)といった関係者へのインタビューを行いました。フィンランドにおける移民の受け入れサービスは非常に整っており、そういった整備された制度がない日本と比べると非常に参考になる一方で、市民レベルでの活動が少なく、移民がなかなかコミュニティーの一員として実感しにくい現状があるとの話を聞き、この点、市民ベースでの活動に頼っている日本と逆の状況にある印象を受けました。この他、難民と直接対面し、自治体が提供している無料語学講座などの公的サービス視察したり、人とのネットワークやサービス提供をどのように実施するかなど、非常に多くのことを吸収しました。ここでは書ききれないので割愛させて頂く経験に関してはIOMのHPにインターン体験記が掲載されておりますので、ご参照くだされば幸いです。http://iomjapan.org/japan/jp_report_008.cfm
二つ目は、2月にタイで実施するCulture Orientation の準備です。今回は350人受け入れ、というかなり大規模なものだったので、労働省や自治体のソーシャルワーカーなどの関連団体との連絡調整やオリエンテーションで使用する資料作成などを担当しました。実務レベルで移民の受け入れにおけるソーシャルワーカーや自治体、国との一連の連携体制の下、その作業をスタッフと一緒に協力してこなしていくのは非常に刺激的な経験でした。
三つ目は、2007年の夏に『移民と開発』のテーマで会議が開催されるのですが、そこで地域代表(Regional Representative)が発表するレポートの草稿を準備しました。私の専門は東アジアの国際政治と韓国の地域研究だったので、このテーマはあまり得意分野ではありませんでした。 しかし、大学では幅広く知識を身につけようと、開発援助の授業やアフリカの地域論等を受講したり、また、民族対立に興味があった事から、紛争後の復興支援や平和構築関連のセミナーや勉強会に頻繁に参加していた時期があり、そのおかげでなんとか業務をこなすことができました。 この経験を通して、仕事においては必ずしも自分の得意分野ばかりを担当出来るとは限りらないので、普段から幅広く色々なことを学び続ける姿勢が重要だと痛感しました。
■3■ 生活・準備など
航空運賃、生活費、交通費、全額自己負担でした。 物価の高い北欧ということもあり、退職金はほぼ全て消えましたが、それに見合う収穫を得ることができたと思います。その他、準備としては、IOM本部とフィンランド地域事務所や関連団体のホームページで組織体系、事業内容、最近の傾向を事前に把握し、3ヶ月の間に自分がどんなことを学びたくて、何をしたいか、という活動計画を描いておきました。3ヶ月という短い期間だったにも関わらず、充実したインターンを過ごすことが出来たのは、そのお陰だったと感じています。
■4■ その後と将来の展望
インターン終了後は、国際交流基金という海外での文化・芸術交流や海外における日本語教育を行っている機関で働いています。移民から文化交流というと関連がないように聞こえるかもしれませんが、民族や文化といったバックグラウンドの異なる人たちの間は摩擦が起こりやすく、例えばそれは人種差別や偏見、移民排除や民族紛争の元となることが多くあります。 私の問題意識は、そういった摩擦や考え方の違いを乗り越えて、お互い共存するためにはどうすれば良いのか、というものでした。 先日「映画と国連」に関する国連フォーラムのメール上での投稿がありましたが、文化というものを一つの切り口として国際貢献を行う事ができないだろうか、文化の持つ手段としての力をもう少し活用していけないだろうか、と最近考えています。その中でも移民の持っている食・衣・生活の知恵などの『文化』を手段の一つとして活用しながら多文化共生の実現や国内に留まらず異文化理解などの国際交流の実現に取り組んでいきたいと思っています。音楽や絵画などの芸術に留まらず食文化やファッションなど、色々な人が共有し享受できる、そういった魅力が文化にはあると思います。異文化に適応するためには、自分自身の適応しようという自主性と周りのちょっとした理解が重要な要素だと感じています。逆からみると異文化を受容するためには、自分自身の寛容な気持ちと異文化をプラスとして受け入れることのできる機会が必要だと感じています。そういった相互理解の過程(2Way Process)を醸成できる、そういう場なり機会を文化というものを通じて提供したいです。最終的には、様々な人が自分の育ってきた環境や価値観が絶対ではないということに気づき、「違い」を享受できる、そんな機会を提供できる仕事がしたいと思っています。
■5■ 経験の感想・アドバイス
職場環境としての国際機関に自分が適応するかを見極める、という点でもインターンは非常に有効に活用できると思います。IOMのフィンランド事務所では、フィンランド、ドイツ、パナマ、アフガニスタン、ソマリア、スリランカ、カナダ、デンマークなど等、同じ国籍の人を探すのが難しいぐらい様々な国籍の人が働いていました。私の場合は、中学時代をインターナショナルスクールで過ごし、多文化な環境が向いていると思っている一方で、果たして仕事においてもそれは同じかどうかを見極めたいというのもインターンの目標の一つでした。この点に関しては、地域代表(Regional Representative)から、"You seem to fit very well in the multi-cultural environment" (「あなたは多文化環境における適応性が高いね」) とお墨付のコメントを頂くことができました。
とりとめのない体験記になりましたが、この体験記が少しでも参考になれば幸いです。また、この場を借りて、これまでの道のりを支えてくださった大学の先輩、忙しい中、時間を割いて添削やコメントをくれた先輩、色んなお話を聞かせてくださった様々の方に感謝します。
2007年7月22日掲載