第26回 池田 直史(いけだ なおふみ)さん

とてもお世話になった通訳たち。彼らもほとんどが難民。

第26回 池田 直史(いけだ なおふみ)さん

コロンビア大学 国際公共政策大学院(SIPA)
インターン先:UNHCR イエメン事務所 

私は現在、アメリカのコロンビア大学の国際公共政策大学院(SIPA)の2年生で、人権を専攻しています。この夏、5月中旬から8月下旬までのおよそ3カ月半、イエメンの首都のサナアにあるUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)のプロテクションユニット(保護)でインターンシップを行いました。

■インターンシップの応募と獲得まで■

もともと、この大学院で勉強している動機も将来、難民の保護や支援の仕事に携わりたいということだったので、1年目が終わった後の夏休みは、是非、難民を支援している国際機関やNGOでインターンシップをしたいと考えていました。 また、私はこれまでボランティア活動を除いて、海外の実際の現場で働いた経験がなかったので、是非どこかのフィールドオフィスでインターンをしたいと思っていました。

インターンシップの応募は大学院1年目の冬ごろから考えていて、まずUNHCRに応募しようと思い、知り合いの邦人の職員の方に相談してみました。そのころ、ちょうど私は1か月ほどの冬休みを利用して、中東のイエメンにアラビア語の研修に行く予定があり、たまたまその職員の方の昔の上司がイエメンのUNHCRで副代表をされているということで、ご紹介頂きました。そして、現地で実際にオフィスを訪問して、お話を伺い、夏休みにぜひ戻ってきてインターンシップをしたい旨も伝えました。

そのほか、その職員の方を通して、中東のいくつかの国のUNHCRに応募したり、ジュネーブの本部にも応募したりしてみましたが、やはり反応がしっかりあったのは実際に訪問したイエメンのオフィスからでした。基本的にはカントリーオフィスでのインターンの採用は本部ではなく、そのオフィスで決めているようなので、そのオフィスに直接知り合いがいると意外にすんなり決まるものだなと感じました。もちろん、イエメンのオフィスとしても私のことを一度会って知っていたので、採用しやすかったのではないかと思います。

UNHCRサナア事務所。ちなみに、建物は旧在イエメン日本大使館。

■インターンシップの内容■

イエメンはアラビア半島の南西の端にある国で、海を挟んでアフリカの角と呼ばれるソマリアやエチオピアが目と鼻の先にあります。そのため、ソマリアの紛争やエチオピア政府の弾圧を逃れてきた難民、そのほか、よりよい生活を求めて、ほかの中東やヨーロッパの国を目指す経済移民が入り混じって、イエメンに流入してきています(この状況をMixed Migrationと呼んでいます)。私がオフィスに到着して数日後に、そのMixed Migrationへの対策を話し合うイエメンやその周辺国、国際機関やNGOなどの関係者が集まる国際会議がサナアで開かれました。私も到着初日から落ち着く間もなく、会議の配布資料の作成を手伝ったり、会議中の受け付けや各分会での議事録取りの手伝いをしたりしました。

そして、その会議が終わったあと、ようやく通常のインターンの仕事が始まりました。具体的に私のインターンシップの内容を説明する前に、簡単にイエメンの難民情勢について少しお話したいと思います。先ほども述べたように、イエメンに渡ってくる難民は圧倒的にソマリア難民が多く、全体の90%以上と言われています。そのほか、エチオピア難民やイラク難民、また数はあまり多くありませんが、エリトリア難民、スーダン難民、パレスチナ難民などもいます。イエメンは中東では数少ない難民条約の加盟国ですが、難民に関する国内法がまだないため、今のところ、政府ではなくUNHCRが庇護申請者に対して難民認定審査を行っています。

私はサナアのオフィスで、その審査を行ったり、政府当局にこう留されている難民や庇護申請者の釈放を働き掛けたり、難民の保護を担当するプロテクションユニットに所属していました。まず、オフィスの方からお願いされた最初の仕事は、難民がUNHCRに対して、さまざまなサービスを要望する手紙やリクエストフォームを読んで、各担当者に振り分けるというものでした。正直なところ、かなりの数の要望が1日で寄せられ、オフィスもかなり忙しい状況で、私がお願いされた時には読まれずにそのままになっていた手紙やリクエストもかなり多くありました。もちろん、要望も新たに生まれた子どもを自分のファィルに加えたいなどという事務的なものから、金銭に関するものや医療の支援を求めるもの、オフィスへの不満などなど、ありとあらえるものがありました。もちろん、全てのリクエストに対処できたという訳ではありませんが、私がインターンを終えるころにはほとんど読まれていないリクエストはなくなり、これはかなりオフィスから感謝されました。

私が担当した中で最も大きな仕事は、そうしたリクエストのうち、イエメン国内で安全上の問題を抱える難民に対して行うカウンセリングでした。寄せられてくる手紙の中で、深刻そうなものから順に本人に連絡して、オフィスに来てもらいインタビューを行います。ほとんど、こうした問題を訴えてくるのはエチオピア難民かイラク難民でした。エチオピア難民は政府から弾圧を受けて国を追われて来ていますが、イエメンでもエチオピア大使館のスパイに追われていて、殺されるかもしれないとか、強制送還されるかもしれないといったものが多く見られました。イラク難民はイエメンのアルカイーダ系の組織に今でも脅されているとか、現在イエメン政府が北部のシーア派の部族と内戦のような状態になっているため、シーア派のイラク人はイエメン政府からこう留されたり、脅されたりしているということもよくあるようです。また、イエメンは非常にイスラム教が強い国なので、キリスト教徒の難民の場合、イスラム教への改宗を強要されたりする場合もあるようです。ただ、もちろん、こうした難民の訴えは嘘を付いているとまでは言いませんが、かなり誇張されていたり、あいまいだったりする場合も多いので、インタビューを行って情報を細かく聞いて、どの程度深刻か判断します。もちろん、深刻な場合はイエメン以外の第三国への再定住を検討するために、担当のスタッフに対応をお願いします。ただ、再定住はかなり限られた機会ではあるので、UNHCRがこうした難民の問題にすぐに対応できない場合もあるのが現実ではないかと思いました。

そのほか、イエメン当局に拘束されている難民や庇護申請者の調査と対応にも少し関わらせてもらいました。窃盗や暴行・傷害などの犯罪でこう留されている場合も多くありますが、庇護申請者で滞在許可がないとか難民認定を無視されて、不法滞在としてこう留されているケースなどもあります。こうした場合、UNHCRが釈放するよう当局に働きかけます。実際に、何度かイエメンの刑務所や拘置所を訪れ、どのような難民や庇護申請者がいるのか調査も行いました。驚いたのは日本で弁護士がこう留されている人に接見を行うように隔離された別室で話を聞くのではなく、こちらが収容者であふれ返っている拘置所の中に入って行って、色々な収容者に囲まれながらも難民や庇護申請者を見つけて、調査を行うということでした。これはある意味、かなり貴重な経験ではなかったかなと思います。

■経験の感想■

最も良い経験にもなり、印象に残っているのは、やはり安全上の問題を抱える難民へのカウンセリングです。この仕事を通して、UNHCRの役割の重要性を認識するとともに、限界も強く感じました。こうした難民とインタビューすると、必ず言われることがあります。「俺たちは安全上の問題があって警察に行っても、難民なので相手にされないかワイロを要求されるだけだ。だから、頼れるのはUNHCRだけなんだ。だから、ここに相談に来ているんだ」。確かに、彼らが言うように、イエメン当局の難民への対応は決して良いものではなく、安全上の問題があっても、警察が守ってくれたり、捜査してくれたりするケースは非常にまれです。それゆえ、難民にはUNHCRしか頼るものがないということは痛感しました。

しかし一方で、UNHCRができることも限られているのが現実です。たとえ、難民がイエメン国内で襲われようとも、UNHCRは国家ではないですし、警察ではないので、事件を捜査したり、直接難民を守ったりすることは難しいと思います。こうした難民の保護をイエメン政府に働きかけるか、最悪の場合、イエメンから第三国に定住させ、保護するということはできます。しかし、第三国定住は限られていますし、難民のあった被害が非常にあいまいな場合はUNHCRが現時点では何もできない場合も多くあります。それでも、難民としてはそういった治安上の問題に多かれ少なかれ恐怖を感じているのは事実だと思います。しかし、こちらから「あなたの言っている問題が現実に起こるか現時点ではかなり不明確なので、現時点ではUNHCRとしては行動を起こせない」と説明すると、決まって難民から「では、本当にそう言った事件が起こって、俺の死体がここに運ばれてきたら、お前はそれでやっと何かするのか」と詰め寄られます。難民は自分たちの母国で迫害を受け、逃れてきた人たちなので、ちょっとしたことでも恐怖に感じるのはとても良く理解できます。しかし、だからと言って彼らの訴えが非常にあいまいな場合は何もできないのが現状ですし、警察力を持たないUNHCRが彼らを直接に保護することも難しいのが現実です。こうした意味では、UNHCRの限界も感じましたし、当事国政府の協力が不可欠であり、それを働き掛けていくしかないのかなと感じました。

そのほか、イエメンでは難民の間でも明らかに格差があるのに驚きました。特に、イラク難民とエチオピア難民やソマリア難民の間の格差は目に見て明らかなものがありました。イラク人はもともと教育水準が高く、イエメンにいても医者だったり学校の先生だったりと比較的裕福な人も多くいます。一方で、エチオピア難民とソマリア難民の多くは教育水準が低く、多くは相当低い給料で道路清掃や家政婦などの仕事に就いており、仕事に就けない人も多くいます。また、シーア派のイラク人を除いて(理由は上記のインターンシップの内容参照)、イエメン当局や一般の市民も、イラク人に対して同じアラブ人ということで比較的好意的なのに対し、アフリカからの難民には根強い差別と偏見があると思います。

また、再定住に関しても現在世界の注目はイラクに集まっているため、再定住先である西欧諸国はイラク難民をかなり積極的に受け入れています。このため、イエメンのイラク難民も特にイエメン国内で問題がなくても(特にイラクで米軍などに協力していた場合)比較的簡単にアメリカなどに再定住するケースも多くあります。しかし、イエメンに10年以上いるエチオピア難民やソマリア難民から見れば、何も問題がないような裕福なイラク難民が1年もかからず再定住するのを見れば、不公平に感じるのは当然だと思います。もちろん、再定住の受け入れの最終的な決定は受け入れ国の権利であり、UNHCRもある程度その方針に従わざるを得ないとは思いますが、本当に問題がある難民を多く受け入れるよう、もっと強く働きかける必要はあると思います。

世界難民デーでのソマリア難民の催し(文中の難民とは具体的な関係はありません)

■現地での生活と資金■\

イエメンは非常に敬虔なイスラム教の国です。女性は頭の先から足首まですっぽりと覆うアバヤと呼ばれる黒い服を着て、目の部分しか出していません。もちろん、公の場での男女の接触は厳禁です。また、イエメンは石油などの資源に乏しいため、中東諸国の中では最貧国にあたり、決して物質的に豊かな国ではありません。しかし、逆に言うと、昔ながらのアラブの生活や習慣がまだ残っていて、ドバイなどでは味わえない本当のアラブが味わえるかもしれません。かつては「幸福のアラビア」とも呼ばれたそうで、人も本当に純粋で素朴で、一般的には外国人に対しても非常に好意的です。イエメンというと、多くの人が危なそうなイメージを抱くのではないかと思います。確かに、部族の力が強く、中央政府の力があまり及ばない地域やテロの危険性はあると思います。ただ、首都のサナアにいる限りでは、ほとんど危険は感じませんでした。夜でも現在私が住んでいるニューヨークに比べれば、断然サナアの方が安心して歩けました。もちろん、それでも何が起こるか分からない国ではあると思うので、十分に注意はするように心掛けました。

また、資金に関しては、ほかの国連機関でのインターンでも同じだと思いますが、基本的には無給なので、自費になります。私の場合は自分の大学院から500ドルあまり旅行資金として補助が出ましたが、いろいろとインターンシップ用の奨学金などもあるようなので、探してみるのも一つの手かなと思います。イエメンは中東では物価はかなり安い方だと思いますが、それでも月に1000ドル程度は必要でした。特に、家はやはり外国人だと家賃がどうしても高くなるようです。

■その後と将来の展望■

このインターンを通してUNHCRの全てを知ったわけではありませんが、その重要性や面白さだけではく、限界も感じることができました。それでも、やはり大学院を卒業したあとは是非もう一度、UNHCRで働いてみたいと強く感じています。難民は、受け入れ国では政府当局やその国の市民たちからもあまり歓迎されていないことも多く、UNHCRを頼みの綱にしています。そうした中でのUNHCRの仕事に大きな魅力とやりがいを強く感じました。また、私がインタビューした難民の中でも、私がもっと経験を積んでいれば、もっとより良い保護ができた難民もいたと思います。だから、今はもっと知識と経験を積んで、少しでも厳しい環境で生きている難民を助けることができればと思っています。どのような契約形態で、どのタイミングになるのかはまだ分かりませんが、必ずもう一度、UNHCRで働くことができればいいなと思います。

集合写真

■ これからインターンを希望する方へのメッセージ■

まず、インターンの獲得についてですが、国連の特にカントリーオフィスの場合はそのオフィスに直接の知り合いがいれば、ずっと簡単に獲得できると思います。それは、別にコネがものを言っているというよりは、非常に忙しい中で働いている人たちに、誰かよく知らない人からインターンの応募があっても、なかなか検討する時間がなかったり、後回しにされてしまったりするからではないでしょうか。逆に、知っている人であれば、向こうも採用しやすく、話が進みやすいのではないかと思います。ただ、それでも向こうが大変忙しい時期だと、インターンの採用の手続きはどうしても後回しにされ、音信不通になりがちです。しかし、あきらめずに連絡を取った方が良いと思います。迷惑だったかもしれませんが、私も一時期向こうから連絡がなくて、こちらからオフィスに直接電話をして、話を進めました。

また、インターンに行った後ですが、こちらのやりたいこととオフィスの側がやってもらいたいことをいかにうまくマッチさせるかが大切です。あまりやりたいことしかやらないというのもいかがなものですし、向こうから言われたことしかできないというのもせっかくの経験を無駄にしかねません。私の経験から言えば、まず相手の要望してくることを確実にこなし、オフィスの中で信頼を得ることが重要だと思います。信頼があれば、次にこちらから何かやりたいと言った時に、ではやらせてみようということになると思います。とにかく、数カ月しかない貴重な経験ですので、何ごとにも積極的に取り組んで下さい。

2008年10月10日掲載