第27回 丸山 隼人(まるやま はやと)さん
第27回 丸山 隼人(まるやま はやと)さん
ハイメ1世大学(スペイン) 平和・紛争・開発学修士課程2年
インターン先:UNDP(国連開発計画)東ティモール事務所
時期:2008年7月~9月
このたびユニセフ東ティモール事務所所長の久木田純さんより「国連でインターン」に当方のインターン経験を投稿してみてはどうかとのお誘いを頂き、筆を執らさせて頂きました。インターンの内容や応募方法等は人によってかなり異なるかと思いますが、当方の経験がこれからインターンをしてみたいと考えていらっしゃる皆様にとって少しでも参考になれば大変うれしく思います。
■インターンシップの応募と獲得まで■
実際の応募と獲得プロセスに関しましては、まず3月頃学部生時代より公私にわたりお世話になっている教授にUNDP東ティモール事務所にてインターンをしたいという相談をし、教授の知人であるUNMIT(United Nations Integrated Mission in Timor-Leste:国連東ティモール統合ミッション)の職員の方に教授を通じて連絡を入れて頂きました。同時に当方からも直接履歴書及び志望動機書を送付しました。それからすぐにその職員の方からUNDP東ティモール事務所の職員の方に連絡を入れて頂き、おふたりから全面的なバックアップをして頂いた結果、希望通り貧困削減・環境ユニットでのインターンを受け入れて頂ける運びとなりました。その後は直接貧困削減・環境ユニットのスタッフの方とメールでのやりとりを重ね、必要書類を送付し、業務内容の詳細等を決めていきました。また、ユニットのスタッフの方にお願いし、事前に目を通しておいたほうが良い書類や情報等を送付して頂き、それらを読み込んでおきました。
■インターンシップの内容■
貧困削減・環境ユニットにおいて、プログラムオフィサーのアシスタントとして主に以下2つのプロジェクト業務に携り、加えてその他様々な実務を経験させて頂きました。
(1) INFUSE(Inclusive Finance for Under-Served Economy)プロジェクト
2008年9月より本格的に始動したUNCDF(United Nations Capital Development Fund:国連資本開発基金)との共同プロジェクトです。プロジェクトの簡単な概要は、貧困層の人々が融資や貯蓄、そして起業等の機会を増やすことが出来るようにa)マイクロファイナンスを促進させるための戦略や政策を政府に提言、b)プロジェクトに関わるNGOやマイクロファイナンス機関及び銀行等の金融機関をサポート、c)関連するビジネスインフラ(監査法人等)の整備、となっています。私がインターンとして最初に行ったのがこのINFUSEの立ち上げ業務のサポートでした。
まずはプロジェクトの内容を早急に理解するため、週末も費やし、関連するすべての資料の読み込みを始めました。その後プロジェクトスタッフを公募するための業務内容指示書(以下、TOR:Terms of Referenceと記述)を作成しました。過去に作成されたTORや人事部門から渡されたサンプルを参考にし、プロジェクトに必要な4つのポスト(National Project Officer、Administrative and Financial Assistant、Information and Communication Technology Officer、Driver)のTORを作成しました。完成後担当のプログラムオフィサーに多少修正をしてもらい、その後これらのTORが新聞の広告欄に掲載されたときは小さな達成感とちょっとした感動を味わうことが出来ました。また、TOR作成業務を通じて、INFUSEにどういったスタッフが必要なのか、そしてそれぞれのスタッフがこのプロジェクトにおいて具体的にどのような役割を担うのかを理解することが出来ました。加えて、その後のスタッフの採用面接にもオブザーバーとして参加させてもらい、国際機関での面接方法や選定基準等を垣間見ることができました。
(2)ラクロ川灌漑修復プロジェクト
同プロジェクトのサポートは当初のインターン業務には含まれていなかったのですが、担当していたプログラムオフィサーが2週間出張となったため、上司に頼みその間のプロジェクトのサポートをさせてもらうことになりました。その後このプログラムオフィサーが急遽退職することになり、インターン終了までの間このプロジェクトを担当することになりました。組織にとっては痛手でしょうが、正直自分にとっては幸運以外の何ものでもなく、プログラムオフィサーの実務を思う存分経験出来た刺激溢れる時間となりました。プログラムオフィサー(もどき?)として、このプロジェクトの立ち上げ業務全般に携りました。これはUNDPにおいてプロジェクトがどのように形成されていくのかという全体の流れを理解するうえで大変貴重な経験となりました。以下が主な仕事内容です。
(コンサルタント及び工事請負業者の公募・選定)
まずは政府の灌漑部門、国内外の灌漑専門家やNGOなどと会合を重ね、灌漑修復において実績があり信頼のおけるコンサルタント及び請負業者を探すための情報収集を行いました。選定作業の際には評価のための書類や選定結果の報告書等の作成もしましたが、公募・選定に先立ち事前にある程度の企業情報を集めておくことはプロジェクトを成功に導くために必要だと感じました。UNDPとしては当然国内企業と人材のエンパワーメント、そして雇用促進や経済効果のためにも国内限定での公募も考えていましたが、事前の情報収集の結果、灌漑修復事業においては選定基準を満たせそうな国内コンサルタントが存在する可能性は低いということになり、公募は海外・国内コンサルタント双方を対象に行われました。無理をして国内コンサルタントを採用し結果再度灌漑が壊れてしまったという結果になってしまっては元も子もありませんが、いつまでも海外の企業や人材に頼っていては現地に落ちるお金も限られてしまうでしょうし国内の建設技術面での進展も遅いものとなってしまうと感じました。これは非常に難しい問題だと思います。現在東ティモール政府も国連もCapacity Development分野に重点を置いていて、またインフラ復旧やメンテナンスの需要は引き続き存在するであろうということを考慮すると、東ティモール国内のインフラ関係コンサルタントや工事請負業者の育成をサポートするようなプログラムがあっても面白いのではないかと思います。
(Work Plan(活動計画)及びProcurement Plan(調達計画)の作成)
政府関係者や専門家等との協議結果や過去の資料、そしてインフラ関連プロジェクトの経験があるプログラムオフィサーからのアドバイス等を総合し、プロジェクトのWork Plan(活動計画)を作成しました。たとえば、「8月1週目までにドナーからの資金を確保する」、「7月4週目から8月2週までにコンサルタントの選定を終了する」、「10月1週目から工事を開始し12月中旬までに完了する」といった具合にプロジェクトに関連するすべての工程の計画を立てていきます。ラクロ川の灌漑修復工事は雨季に入るまでに完了させなければならない(もし雨季までに工事が完了せず豪雨等起こった場合、灌漑の損傷が拡大する恐れがある)ため、事前にスケジュールを緻密に計画することは重要でした。同時にProcurement Plan(調達計画)も作成しました。これはプロジェクトにどのような人材&資材&機材がどのくらいの量・額必要になるのかを記入するもので、プログラムオフィサーや人事部門のスタッフからアドバイスをもらいながら作成しました。
(プロジェクト現場調査)
灌漑専門家や政府関係者、コンサルタントと同行し、ラクロ川灌漑の現地調査を3回実施しました。損傷を受けた箇所がどのような状態になっているのか、灌漑が再び壊れず持続可能に使用されるためにはどのような修復方法がベストなのか、これらは直接現場に足を運び、専門家や住民等様々な意見を聞くことで初めてイメージ出来るものであると感じました。
(3)その他
副所長や上司の配慮により他にも様々な業務に携ることが出来ました。主なものを挙げますと、a)COMPASIS(Community Mobilization for Poverty Alleviation and Social Inclusion in Service Delivery:貧困の克服及び社会への参加を促進するためのコミュニティ統合・活性化プログラム)の立ち上げ業務サポート、b)AIM(Access Improvement to Markets in the Eastern Region:東部地域の農村部から市場へのアクセスを向上させるために、5つの橋を建設するプログラム)のサポート及び現場視察、c)ラクロ川灌漑修復プロジェクトなど自分が関与するプロジェクトの会合への出席及びそれらの議事録や報告書の作成、d)DSRSG(the Deputy Special Representative of the Secretary-General:事務総長副特別代表)が必要なデータの収集や所長用のトーキングポイントの作成、e)日本の学生さん達のUNDP訪問に際しての受け入れ準備のサポート及び彼らのUNDPプロジェクト現場への研修旅行への同行、などでした。あとは様々な会合やワークショップに極力参加しました。それ以外の時間は、自身の研究のために、貧困削減ユニットで現在実施中および過去に実施されたプロジェクトの資料等に目を通したりしていました。
■その後と将来の展望■
インターン終了後大学院に戻り、来年2月まで授業に参加、その後出来るだけ早く論文を完成させたいと思っています。卒業後の進路はまだ決まっていませんが、東ティモールのオエクシ(西ティモール側にある東ティモールの飛び地で経済的に最も貧しい地域のひとつ)の貧農の家に生まれ、そして国内が紛争で混乱するなか勉学と経験を積み重ね、ついにはUNDPで働く機会をつかんだ東ティモール人スタッフの熱い話を聞いたことなどによって、自分自身気合を入れなおすことが出来ました。
■資金確保、生活、準備等■
私の大学院では夏期休暇時のインターンは必修ではなくそれに対するサポートも無かったため、すべて自費で社会人時代に貯めた貯金を切り崩してインターンを実施しました。東ティモールは途上国にしては物価が高くかなりの貯金が消えていきましたが、費やした資金以上の収穫は間違いなくあったと信じています。基本的にはホテル住まいでしたが、後半は休暇中の上司の家に居候させて頂いたり、また食事(やお酒)をたびたび邦人国連職員や援助関係者の方々にご馳走になったりと、様々な人々のご好意により本当に恵まれた生活を送ることが出来ました。
■その他感想・アドバイス等■
私はインターンをするにあたり、初日から強く意識しておいたことがあります。それは「インターンだという意識を捨てる」ということです。勿論短期のインターンでは出来ることは限られていると思いますが、そうすることによって、常に「一新人国連職員としてこの事務所に派遣されてきた」、という意識を持ってどんな仕事に対しても積極性、自主性、そして責任感を持って取り組めたと思います。同時に「数ヶ月しかいない」、ということを認識しておくことも主に以下2つの理由で大切だと思います。ひとつは、そうすることで一日一日を、そしてその瞬間瞬間を大切に過ごし、そのときの仕事に一生懸命取り組めます。もうひとつは、それを認識することで、自分が仕事をするにあたりどのような行動をとればいいのか自ずと分かってくるのではないでしょうか。もし自分がいくつものプロジェクトを抱えた多忙な職員で短期間のインターンを指導する立場だったら、手取り足取り仕事を教えるでしょうか?幸い僕は親切に仕事を教えてくださる職員の方々とお会いすることが出来ましたが、教えたところですぐにいなくなってしまう短期間のインターンに皆が親切に教えてくれるとは限りません。しかし逆にインターンという立場をフルに活かすことも出来ると思います。私は「短い滞在期間だから現場に行くときは絶対声をかけてね!」と隣の部にいるスタッフにまで伝えておきました。その甲斐あってか2ヶ月という短期間に計6回フィールドに行くことが出来ました。
あとは何かしらの社会人経験があるとスムーズに職場環境に適応でき、インターンで出来る仕事の幅も広がるかもしれません。社会人時代に仕事に対する基本的な姿勢を身につけたため、比較的すんなり中に入れた、そしてある程度の仕事を任せてもらえたということがあると思います。また事前に途上国の生活を旅や出張等を通じて経験しておくことも、インターン(特に途上国でのインターンを考えられている場合)成功のための鍵だと思います。私は学部生時代の夏休みに数ヶ月間途上国を旅し、出会った現地の人々の家にホームステイしたり、また社会人時代も冬のアラスカの僻地や蟹工船に出張・滞在していた経験があったので、紛争後国とはいえ東ティモールでの生活は全く苦にはならず、仕事(と遊び少々)に集中することができたと思います。
■最後に■
私は今回のインターンを通じて、人との関わりそして人のつながりの大切さを改めて認識しました。つまり、周囲の人に本当に恵まれたことがインターンの何よりの成功要因でした。それがなければ今回のインターンのポジションを得られなかったでしょうし、東ティモールに行ってからも仕事内外で多くの苦労をしていたことだろうと思います。特に、東ティモールでこの国の平和と安定のために尽力されている日本人の方々と交流させて頂いたことはインターン経験以上の財産だと思っています。お世話になった方々が多すぎてひとりひとりのお名前を書けず申し訳ありませんが、この場を借りて再度御礼申しあげます。みなさま本当にありがとうございました!
2008年12月3日掲載
担当:澁谷
ウェブ掲載:稲垣