第39回 岡崎 詩織(おかざき しおり)さん
第39回 岡崎 詩織(おかざき しおり)さん
コロンビア大学 国際公共政策大学院・ジャーナリズム大学院
インターン先:国連事務局ニューヨーク本部 広報局
インターン期間:2009年6月から7月(2ヶ月間)
米国コロンビア大学の国際公共政策大学院とジャーナリズム大学院の修士課程に在籍しています、岡崎詩織です。大学院の夏休み中の2ヶ月間、国連事務局ニューヨーク本部の広報局でインターンをさせていただきました。
■インターンシップの応募と獲得まで■
国連本部でインターンを募集していることは以前から知っていました。UNDPコソボ事務所でインターンをさせていただいたこともあり、フィールドの現場を垣間見た後、今度は本部を見てみたいと思いました。大規模な国連組織の中枢で、国同士の会合がどのように行なわれ、どのように決断がなされていくかを見たかったのです。
夏のインターンシップの締め切りである1月中旬に、国連本部のウェブサイトから直接応募しました。希望する部署は既に広報局と決めていましたので、これまでの広報の経験と関連付けて、自分が何をしたいかだけでなく、どのように国連本部に貢献できるかということも明記しました。また、国連など応募者の多い機関は、 まずキーワード検索で選考を始めると聞いたことがありましたので、 public information, public affairs, communicate, disseminateなど、公的機関の広報で頻繁に使われる言葉を含めることも心がけました。
3月初頭に広報局のポストをくださるとのお返事をいただきました。ジャーナリズム大学院に在籍しているためか、配属はMedia Accreditation and Liaison Unit (MALU)という部署になりました。もともとニューヨークの学校に通っていましたので、滞在する場所の手配をする必要はなく、春学期が終わった後、そのままインターンを始めました。
■インターンシップの内容■
数ある広報局の部署の中でも、MALUが最もジャーナリストに接する機会の多い部署だと思います。写真撮影であれビデオ撮影であれ、カメラを使ってジャーナリストの方々が取材をされる際には、必ずMALUが付き添うからです。MALUの仕事は、その名の通り、メディアの方々のAccreditation(認定)とリエゾンです。認定、つまりジャーナリストの方々が国連に入るために必要なバッジの申請などは、主にユニット・チーフが担当していました。私は、他4名のスタッフの方々と共に、メディア・リエゾンをお手伝いしました。
MALUオフィスのサイン
MALUでは毎朝、その日の取材の予定表が配られ、誰が何を担当するかが決められました。インターンである私も、ほかのスタッフと同様の扱いでその表に組み込んでいただきました。交代制のシステムを取りましたので、日によって仕事内容が変わりましたが、主に3つの仕事がありました。まず、国連本部のビルの中で撮影をするブロードキャスト・ジャーナリストの方々の付き添いをしました。セキュリティー上の理由で、ツアー客が多いロビーでない限り、ニュース番組からドキュメンタリーまで、すべての撮影には、MALUが事前に許可を下します。これに伴い、撮影が行なわれている間、広報局と記されたバッジをしている私たちが付き添うことで、その許可が下りていることを警備員の方々に示す必要がありました。実は、私たち国連本部のインターンは全員、本部のツアーに参加することが推奨されていたのですが(チケットを1枚、無料でいただきました)、私の場合は、その必要がなくなりました。撮影の付き添いで、国連総会と安全保障理事会(安保理)会議場のフロアや席、国旗が立ち並ぶ廊下や窓辺、外の噴水や庭など、敷地内のあらゆる場所を探索することができたからです。
また、これに関連し、国連総会や安保理などの会議の際は、撮影を希望するメディアの方々を上の階にあるブースにご案内しました。ブースといえば、通訳者のためのものが知られていますが、メディア用のブースは通常、その隣や1つ上の階などにあり、きれいな映像が撮れるように、ガラスがない状態になっています。ここにフォト・ジャーナリストやブロードキャスト・ジャーナリストをご案内し、どの国がどの順で発言するかを記載したスピーカーズ・リストと呼ばれる紙をお渡ししていました。
3つ目の仕事としては、国連側が主催する記者会見に付き添いました。例えば、各国代表者がパン・ギムン事務総長に面会した際の写真撮影、各国大使による国連総会後の記者会見、国連のスポークスパーソンによる毎日恒例のお昼のブリーフィングなどがあります。これらに出席し、参加者全員が「プレス」と書かれたバッジを持っているか確認し、撮影をされていた際には、どこのメディアなのか(政府代表部の専属カメラマンの方もいらっしゃいました)を記録しました。プレス・ブリーフィングなど比較的楽な仕事は私1人で、パン事務総長を含む会談などの大きな仕事は正規職員と2人で、といった違いはありましたが、基本的にはインターンだからという分け隔てはなく、いろいろな責任を任せていただいたことを、大変ありがたく思います。
■経験の感想■
インターンをしていた当時は、国際機関の広報とジャーナリズムという二つの道の間で迷っていましたので、その両方を同時に見られたことはとても良い経験になりました。
まず、メディアの方々の付き添いで、さまざまな会議やイベントに立ち会うことができました。ダルフールにおける難民保護の活動をしている女優のミア・ファローやハイチ担当特別大使に任命されたビル・クリントン元米国大統領のお話を聞く機会もありました。6月末に行なわれた世界金融経済危機に関する会議の際には、最初に発言したエクアドルのラファエル・コレア大統領が、発言の制限時間を大幅に超過して話されたのですが、心打たれる内容であったと評判になり、広報局のスタッフ内で原稿が回覧されました。会議と並行して数人の経済学者による会談がオフレコで行なわれた時も、ドキュメンタリーの撮影の付き添いで、特別に数分だけ立ち会うことができました。南米やヨーロッパなど、各地から来た彼らが小さな個室で静かに話す様子を見て、世界でも有数の頭脳が一堂に会していることに感動を覚えました。
この経済危機に関する会議は3日間の予定が5日にまで延びたのですが、その理由の1つとしては、やはり6月末に起きたホンジュラスの軍事クーデターがありました。国外追放となったマヌエル・セラヤ大統領が、国際社会へのアピールのため、すぐに国連総会でスピーチをすることになり、経済危機の会議が一旦中断されたのです。セラヤ大統領の熱い演説、ニカラグア人であるミゲル・デスコト・ブロックマン議長の温かい出迎え、国連総会の総立ちの喝采なども、大変印象に残るものでした。クーデターのニュースを見た翌日にはセラヤ大統領の演説を生で聞くことができ、そのスピーチがまたニュースとなっていく…国連も報道も、歴史が形づくられていく過程の最前線にある、とこのとき再認識しました。
安保理会議場
また、撮影現場に立ち会うことにより、ニュース番組におけるジャーナリストのインタビューの仕方やドキュメンタリー監督のこだわりなどを垣間見ることができました。映像に入らないように少し離れて立ちますので、なかなか音声は聞こえないのですが、国際刑事裁判所(ICC)のシニアの方、南アフリカの厚生大臣、パラオの代表発言者など、さまざまな方のインタビューに立ち会いました。何度も同じシーンを撮り直し、少し曇ると撮影を中断し、晴れた途端に「今すぐ撮影しますので来てください」とMALUオフィスに私たちを呼びに来る映画監督からも、たくさんのものを学びました。
国連本部の特派員の方々とは特に顔を合わせる機会が多くありました。記者会見前やぶらさがりのときなど、プレスの方々のお時間が余ったときにはご挨拶することもあり、ジャーナリズムに興味があることをお話しすると、いろいろと将来のアドバイスをくださる方、照明や音声のコツをその場で教えて下さる方もいました。日本人ジャーナリストの方々とお話しする機会もありました。6月中旬に北朝鮮制裁決議が採択されたのですが、その際には、たくさんの日本人記者の方がいらっしゃいました。なかなか確定しなかった採決の日取りが決まるまで、何日間も安保理会議場の前で待っていらっしゃった日本のメディアの方々からは、他国のジャーナリストの方々に比べても大変なお仕事である様子が窺われました。
ほかのインターンとの交流も大変充実していました。初日には終日オリエンテーションがありましたし、国連でのキャリアを考える人たちのための説明会もありました。この夏は270人のインターンがおり、なかなか全員とは話せませんでしたが、政治や経済を勉強する人以外にも、建築、通訳、航空学などあらゆる分野を専門とする大学院生が、フィジーやスワジランド含め76ヶ国から来ている事実には驚きました。広報局のインターンだけで26人おり、これも、国連に関する新聞記事の切り抜きや、ロビーの展示の管理、外部からのメールの対応など、さまざまな職種があることが分かりました。私がお昼のプレス・ブリーフィングに立ち会うことが多かったせいか、「会議の中継でよくテレビに写っている人」と広報局のほかのインターンに認識され、楽しそうな仕事内容だと言ってもらえたことはうれしく思いました。
■その後と将来の展望■
今回のインターンシップは、私の大学院生活において、1年目の国際関係学、2年目のジャーナリズムという二つの修士課程をうまく連携させてくれました。授業で国連について勉強し、UNDPコソボ事務所でインターンをさせていただいた後、その膨大な組織の中心に少しでも足を踏み入れられたことを嬉しく思います。直接誰かの役に立つことが難しい、という意味では、本部はフィールドほど充実した仕事内容ではないかもしれません。その反面、各国のリーダーが集い、歴史を形成していくさまを見るのは、とても興味深いと思います。
インターンシップを終えた後はジャーナリズムを勉強していますが、学問を通しても取材の大変さを知り、プロの方々への尊敬の念を新たにしました。インターン当時は疑問に思っていた写真撮影のタイミング、ビデオカメラのアングルや動きなども今では少し分かるようになり、各国メディアの相違点なども、今振り返ると更に面白く感じます。
現在、卒業後の道はまだ決まっていませんが、このインターンの経験により、ニューヨークでの学生生活は更に充実したものとなりました。今後どのような分野に進むにせよ、ここで見聞きしたことや出会えた人のことは、ずっと心に残ると確信しています。
■ これからインターンを希望する方へのメッセージ ■
国連は大変大きな組織で、どこでインターンをしても全てを見ることはできませんが、可能であれば、フィールドと本部の両方を見ることが理想的かと思います。1つだけインターンをするなら、普段と全く違った経験ができるフィールドの方がよいと思いますが、そのフィールドでの状況やプログラム実施の結果がどのように本部に伝わっているのかを見るのも大変興味深いと思います。
また、国連本部においては、仕事がとても分散されているので、担当となったポストでは物足りなく感じる場合もあるかもしれません。私も、デスクワークが全くないことや、自分の背景や個性をあまり使うことのできない仕事内容を残念に思うこともありました。しかしこれは、今はいろいろと吸収する場である、と考え方を変えることによって解決できました。これはインターンだけでなく、始めたばかりの仕事など、あらゆる場において、環境に適応するコツとなるかもしれません。すばらしい出会いの可能性もたくさんありますし、ぜひ、国連本部でのインターンを考慮されることをお勧めします。
2010年9月23日掲載
担当:桐谷、清野
ウェブ掲載:柴土