第61回 鈴木 涼子(すずき りょうこ)さん
第61回 鈴木 涼子(すずき りょうこ)さん
サセックス大学 大学院 国際教育開発学 修士課程修了
インターン先:UNESCOバンコク事務所アジア太平洋地域教育支局・教育政策課
インターン期間:2014年9月~2015年3月(6か月間)
■はじめに■
イギリスの大学院に1年間留学し、修士論文を提出した後に、国際教育開発分野での実務経験を積むために、ユネスコのバンコク事務所で6か月間のインターンシップをさせて頂きました。これから国連機関でインターンシップを検討されている方々に、少しでも私の経験を参考にしていただけましたら幸いです。
■インターンシップの応募と獲得までのプロセス■
大学4年時に参加した日本ユニセフ協会主催のミャンマーでのスタディーツアーで、途上国の教育の現場を目の当たりにし、その開発に携わりたいと考えるようになりました。その後、社会人を8年ほど経験し、大学院に進学しました。大学院では国際教育開発学を専攻し、開発途上国や難民、少数民族を多く抱える国における教育政策やカリキュラム開発について研究をしました。大学院入学前には、国際問題を扱うシンクタンクでの研究助手や外務省在外公館派遣員などで職務経験を積みましたが、国際開発分野での経験が全くなかったので、自分の研究分野での経験を積み、将来のキャリアに役立たせたいと思い、ユネスコのバンコク事務所のインターンシップに応募しました。
私の場合は、修士論文の執筆をしていた7月に、ユネスコ・バンコク事務所の教育政策課(Education Policy and Reform Unit: EPRユニット)がウェブサイトで公募していたインターンシップに応募したことからプロセスが始まりました。この公募を知るきっかけになったのは、国連機関に勤務されている方にキャリア相談をした際に、ユネスコでのインターンシップに興味があることを伝えたところ、ユネスコ・バンコク事務所の知り合いの方に連絡を取ってくださり、インターンシップ公募の情報を教えていただいたことでした。そのポストはEPRユニットに属している、アジア・太平洋地域における教育の質に関する研究やワークショップを担当しているチームをサポートするというもので、採用情報で記載されていた業務内容から、これまでの社会人経験や大学院で習得した知識を活かしながら、国連機関の視点から、自分の興味のある地域における教育開発に関する多くのことを学ぶことができると確信し、応募することを決めました。論文の追い込みの時期に応募書類(応募用紙、履歴書、レポートのサンプル、カバーレター)を準備することはかなり大変でしたが、応募用紙やカバーレターだけでなく、履歴書にもそのポストで役立つような職務経験や大学院での研究を細かく入れ込むようにして、いかに自分がそのチームの求めている人材に近いのかをしっかり伝えられるような書類を作成するようにしました。
応募書類を提出して約10日後、担当者より書類選考に通ったので、30分のSkypeインタビューをしたいというメールを頂きました。そのメールでは、約23時間後にインタビューを行うことが提案されており、インタビューのための準備時間があまりに少なかったので動揺し、最初はスケジュールの再調整をお願いすることも考えましたが、これも自分の力が試されているのではないかと思い直し、提示された日時でインタビューを受けることにしました。インタビューの準備にあたっては、キャリア相談をしていた方や国連機関でインターンシップを経験された方にアドバイスをいただき、自己紹介、志望動機、大学院での研究内容、自分の強み・弱み、自分はそのポジションで何ができるのか、どのくらいやる気があるのか等、想定される質問に対する自分の回答を準備し、スムースに応えられるようにしていました。また、ビデオの有無、どちらにでも対応できるようにし、Skypeのコールを取り、30分のインタビューを行い、コールを切るという、実際の流れを掴むような練習もしました。
当日のインタビューは自分が配属されるチームの2人(そのうちの一人がチームのリーダーで、自分の直属の上司となる)とほかのチームの1人の合計3人により行われました。私の場合はビデオコールで始まりましたが、途中でインターネット環境が悪くなり、音声のみに切り替えて行われたので、表情が見えない分、明るく活発なイメージを与えられるような話し方を心掛けました。「これまでの仕事でリサーチの経験はあるのか」、「教育のアセスメント(Assessment)についての専門的知識を持ち合わせているのか」など、自分がチーム内で即戦力になるかどうかに関する質問もあり、これらは想定外でしたが、具体的な例を交えながら熱意だけでも伝わるように正直に答えました。また、「上司の意見に全く同意できない場合、どのようにその状況を乗り越えるか」というような、実際に起こりうる状況での自分の意見を問われたことも印象的でした。インタビューの中では、なぜ「ユネスコ」でインターンシップをしたいのか、どうして「バンコク事務所」でなくてはならないのか、ということをしっかりと伝えるようにもしました。さらに、いかに早くインターンシップを始め、長期間できるかも選考のポイントのように感じられたので、それに応じることができることを伝え、どうしてもそのポストに就きたいという強い意欲を見せるようにもしました。そして、最終選考の結果はインタビューの1週間後に、インターンシップ開始日および期間のオファーとともにメールで伝えられました。
■インターンシップの内容・感想■
私の所属したチームはプログラム・スペシャリスト(チームリーダー)、3名のプログラムオフィサー、私の5名で、アメリカ、イギリス、インド、フランス、香港、モンゴル、日本という文化的背景に多様性のある、とてもユニークなメンバーで構成されていました。インターンシップ期間中に、チームリーダーが諸事情で長期休暇に入った時期もあり、私の場合は、プログラムオフィサーと相談をしながら、それぞれが担当する案件を一緒に取り組む形で、さまざまな経験をさせていただきました。
(1)ワークショップの企画・運営
チームがアジア・太平洋地域におけるアセスメント・試験の改善に従事する政府・教育関係者のキャパシティビルディングに力を入れていることもあり、チーム主催のワークショップの企画・運営に携わる機会を多く得ました。その中でもアジア・太平洋諸国の教育関係者を招いた5日間のキャパシティビルディング・ワークショップの運営に2回ほど関わることができ、2度目のワークショップでは自分一人でアイスブレイクのセッションを各日で担当させていただいたことはとても良い経験になりました。主な仕事としては、ワークショップ当日の運営のほか、関連資料の作成や準備、参加者アンケートの作成・データ収集・レポート作成などを担当しました。ワークショップの運営や関連資料の作成においては、チームでミーティングを行いながら進めていくというプロセスでしたが、当初は自分の意見をうまく伝えることができず、とても苦労をしました。また、大勢の参加者を相手にアクティビティを進めた経験もほとんどなかったので、臨機応変にアクティビティを動かしていくことの難しさも学び、日頃から英語で自分の考えなどを即座にまとめ、わかりやすく発言していくことの大切さを実感しました。
ASEAN諸国の中学生・教師を対象にしたワークショップにて
アジア太平洋諸国の教育関係者を対象にしたワークショップでのアイスブレイクの様子
(2)ニュースレターの記事の執筆
EPRユニットでは月に一度、ニュースレターを発行しており、それぞれのチームが持ち回りで記事を書いています。私も、インターンシップ期間中、チーム主催のワークショップに関連する記事執筆の機会を2度、与えていただきました。1本目はワークショップに参加されていた3人のファシリテーターのメールインタビューをもとに記事を書くというものでした。着任して1週間も経っておらず、チームの活動を熟知していなかった上に、英語でこのような記事を書くことも初めてだったので、かなり悪戦苦闘しました。2本目は自分の離任直前にあったワークショップの概要についての記事でしたが、どの情報をどれだけ伝えるかを考えながらの執筆は、1度目の記事よりも自分でまとめる力が試され、とても良い勉強になりました。英語での執筆に苦手意識もあり、毎回休日を返上しての執筆でしたが、ほかのメンバーと同じ仕事を任せていただけたことを嬉しくも感じながら取り組むことができました。チームメンバーが原稿の英語や内容をしっかりチェックしてくださり、真っ赤に修正されたものを見るたびに自分の力不足に落ち込むことはありましたが、この業務も貴重な経験となりました。
(3)リサーチアシスタント業務
インターンシップ期間中は、リサーチアシスタントとしての仕事も多く経験させていただきました。主に、チームリーダーの出席する国際会議のためのプレゼンテーション資料の作成や、チームメンバーが行おうとしているリサーチのための予備調査(デスクリサーチ)、プロジェクト資料の翻訳などを行いました。その中でも最も時間を割いたものは、アジア・太平洋諸国のアセスメント・試験の実施状況のデータベース作成でした。いろいろな機関の報告書やウェブサイト等を参考にし、それぞれの国のデータをわかりやすい形でまとめることはとても根気のいる作業でしたが、完成したものをチームメンバーがさまざまな場面で活用しているのを見ると、少しでもチームに役に立つ仕事ができたのではないかと思います。そのほかに、時間のある時にはほかのチームのレポート作成のアシスタントもさせていただき、自分のチームの専門以外のことを学ぶ機会も得るようにしました。
ワークショップを終えてチームメンバーと共に
■その後と将来の展望■
インターンシップを終えた後はすぐに日本に戻り、今は国連大学サステイナビリティ高等研究所の持続可能な開発のための教育プログラムのプログラムアソシエイトとして働いています。主な業務はプログラムのロジサポートです。バンコクでの業務とはかなり異なりますが、国際教育開発分野という同じ分野で、ユネスコとは違った視点から教育を考え、学ぶ機会を得ることができ、良い経験をさせていただいています。特に、国際機関や政府機関ではなく、アジア・太平洋地域の高等教育機関のネットワークを通じての持続可能な開発のための教育の促進に携わることができていることは新鮮です。また、入所して4か月後にマレーシアのコタキナバルにプログラムの視察で出張に行かせていただいた際には、違法移民のための学校への視察や現地学校の教師との対談を通して、大学院で研究していたことと実際の現場を比較する貴重な機会も得ることができました。今後はこの国際教育開発の分野で、どんなバックグラウンドの子どもたちも公正に教育を受けられるような支援に貢献していけるように、キャリアを築いていきたいと考えています。
■おわりに■
国連機関でのインターンシップは無給なものが多く、その期間の生活費や渡航費等の負担を考えると躊躇してしまうこともあるかと思います。しかし、実際に国連機関がどのように機能し、自分にはどんな働き方ができるのか、自分とその機関の相性がよいのかなど、自分の肌で感じることができ、今後のキャリアを考える上でとても役立つ経験になります。私の場合は公募での採用でしたが、大学院の教授などのネットワークを通して個別で採用されているインターンの方も多かったので、個別での採用の機会を探すこともお勧めします。
また、自分の興味の持っている分野において、情熱を持って仕事に臨んでいる方々と知り合い、その方々の経験から多くのことを学ぶ機会を得られることもインターンシップの醍醐味ではないかと思います。オフィス内だけでなく、積極的に外にも出ていき、自分の目でいろいろなものを見、人に出会い、多くのことを吸収し、充実した時間を過ごしていただければと思います。
2016年5月8日掲載
ウェブ掲載:三浦舟樹