第60回 谷口 雄大(たにぐち ゆうた)さん

インターン先にて

第60回 谷口 雄大(たにぐち ゆうた)さん

筑波大学医学群医学類4年 
インターン先:世界保健機関(WHO)本部、免疫形成、ワクチン及び生物学部門(Department of Immunization, Vaccines, and Biologicals: IVB)
インターン期間:2015年7~8月(2ヶ月)

インターンシップの応募と獲得まで

高校生の頃から「将来国際保健の分野で活躍したい」という夢があり、大学に入学してからは、積極的に短期留学や研修に参加していました。具体的には、大学のプログラムでアラビア語や文化を学びにヨルダンに行ったり、国際NGOのIFMSA(国際医学生連盟)の制度を利用してガーナに短期の研究留学をしたりしました。2014年に国連フォーラムのミャンマー・スタディ・プログラムに参加したのも有意義な経験でした。

一口に国際保健と言っても様々なアプローチがある中で、重要なアクターの1つである国連機関、特に世界保健機関(WHO)がどのように取り組んでいるのか、組織の中から見てみたいという強い思いが、かねてからありました。

大学2年時、医学系国際交流サークルの先輩がWHO本部でインターンシップをし、その方経由でWHO職員の方をメールで紹介していただきました。WHOで働くことに興味があることを伝えると、「今後受け入れ可能な機会があればインターンとして受け入れましょう」と返事をいただきました。

しかし、WHOのウェブサイト上にインターンシップの公募に対する倍率は高いと書かれており[1]、また私自身も大学の授業との兼ね合いから、長期休暇を利用して渡航することを希望していたため、実際に受け入れてもらえる機会はなかなか訪れませんでした。それでも粘り強く交渉を続けた結果、ようやく大学4年生の春になって、ずっと連絡を取り合っていたWHO職員の同僚の元で7月~8月に6週間インターンシップをさせてもらえることが決まりました。

連絡を取り始めて1年半経ってやっと受け入れてもらえた理由としては、受け入れ側のスケジュールやインターンを受け入れる枠などの都合ももちろんあったと思いますが、メールや履歴書を通してこれまでの海外経験やWHOインターンに対する意欲を積極的にアピールしたことも結果に繋がったのではと感じています。

■インターンシップの内容■

(1) 仕事内容について

私の仕事は、免疫形成、ワクチン及び生物学部門(Immunization, Vaccines, and Biologicals: IVB)という部署で、「エボラワクチンの使用に関する政策提言作成の業務の手伝い」をするというものでした。

2014年初頭に始まったエボラウイルス病(エボラ出血熱)の流行は西アフリカの3か国(ギニア、リベリア、シエラレオネ)を中心に、2015年末までに1万人以上が亡くなる事態となりました[2]。私がインターンとしてWHOにいた2015年7月当時、世界中でエボラウイルス病に対するワクチンの研究、開発が進められており[3]、同時にWHOはエボラワクチンの使用についての政策提言の策定を進めていました。具体的には戦略諮問専門家グループ(Strategic Advisory Group of Experts on Immunization: SAGE)というWHO事務局長の諮問グループがあり[4]、そのSAGEの元に設置されたワーキンググループ(SAGE WG)が、エボラウイルス病の疫学データやワクチンの試験結果に基づき、どのタイプのエボラワクチンをどういった対象にどのような戦略で接種するのが最適かを議論していました[5]。

このワーキンググループのメンバーはエボラウイルス病に関わる様々な分野の専門家で構成されているのですが、ウイルス学や免疫学、疫学の専門家に加え、医療法や医療倫理の専門家、文化人類学者もメンバーとして加わっていたことが印象的でした。そして、このワーキンググループの事務局を務めていたWHOの職員が私の直属の上司であり、このWGの会議に関する資料の作成や事前調整をすることがインターンとしての私の仕事でした。

ちょうど私がWHOにいる最後の週にSAGEワーキングループの会議が予定されていたため、会議準備を5週間かけて手伝い、実際にその会議に参加して帰ってくるというスケジュールでした。エボラウイルス病やワクチンの臨床試験に関する先行研究をレビューして会議で使われる資料を作成したり、会議の参加予定者にメールしたりといった作業をすると共に、上司が出席する様々なミーティングに同行させてもらい、会議のアジェンダ作りからタイムスケジュールの調整といったロジスティクス関係の業務にも携わりました。SAGEワーキンググループ会議の当日は、白熱した議論を目の当たりにし、WHO本部での1つの会議が作りあげられていく様子と組織としての政策提言が形作られていく様子を、まさに現場で目にすることができました。
 
(2) Intern Boardについて

私がインターンをしていた頃、WHO本部には世界中から集まった200名以上のインターンがいました。WHOには1年中インターンがいますが、7~8月は大学の休暇にあたるため、特にインターンが多い時期でした。

WHOインターンは、常時メンバーが入れ替わりながら大きなグループを構成しており、毎日のように勉強会、遊びや飲み、スポーツ、小旅行といったイベントを開催していました。こうしたイベントを企画する中心的な役割を担っていたのがIntern Boardと呼ばれる委員会で、委員長を中心に、勉強会担当、スポーツ担当、ウェブ担当など、10数名のインターンから成っていました[6]。

これらの役職は、興味のあるインターンが随時空きポストに着任するというシステムだったので(ただし委員長はIntern Boardメンバーによる投票制)、私もちょうどポストがあいていた住居担当(Housing coordinator)に就きました。ジュネーヴでは慢性的に住居が不足しており、これからWHOでのインターンを始めるという人達にとって部屋探しは大変な作業の1つです。住居担当の仕事はそういった人達に対し、空き物件やルームメイト募集の情報を提供することでした。

Intern BoardのメンバーはWHOインターンの中でも特に積極的で、アイデアと熱意の持ち主だったので、次の企画について話し合う週1回のIntern Boardミーティングは毎回議論が白熱しました。WHO職員を招くランチタイムのレクチャーからWHO本部ビル屋上でのワイン会まで様々なイベントがありどれも面白かったのですが、中でもWHOインターンがマーガレット・チャンWHO事務局長を囲んで質疑応答する“Intern Meeting with the Director General”という企画は、まさにWHO本部でのインターンならではの貴重な経験でした。

WHOでのインターンシップでは、世界中から集まったたくさんのインターンと出会うことが出来ました。グローバルヘルスを志す意欲あふれるインターン仲間と毎日のようにディスカッションし、また週末にスイスを共に旅したことは、インターンとしての仕事と同じくらい、私にとってかけがえのない思い出となりました。インターンシップに行かれた際はぜひ積極的にそうした活動に参加されると良いと思います。

“Intern Meeting with the DG” にてマーガレット・チャン事務局長と

■資金確保、生活、準備等■

ジュネーヴは物価が高く、WHOの資料によればインターンの生活費は1か月1800~2000フラン(約21~23万円)です[7]。またこれとは別に家賃が月600~1200フランかかります[8]。しかもWHOインターンは無給であり、私もすべての費用を自己負担しました。

飛行機については、エールフランスが12歳~24歳の若者を対象に発売している「ユースフェア航空券」を利用しました。年齢、滞在日数等の条件を満たせば割安であり、今回私の場合は往復でちょうど10万円でした。

現地では外食や惣菜をなるべく控え、夕食はスーパーで食材を買い、自炊をするようにしていました。昼食は、お金を節約するためにお弁当を作ってきているインターン仲間もいましたが、私はそこまでする余力がなく、またWHOの食堂の料理が美味しかったので食堂を利用していました。ちなみに食堂では、WHOインターンは職員や来訪者と比べて数フランの割引を受けることができました。

■その後と将来の展望■

今回のインターンシップの最大の収穫は、これまでただの憧れに過ぎなかった「WHOで働く」ということについて、より具体的なイメージを得られたことではないかと思います。たくさんのWHO職員と話し、会議に出席し、インターンとして働いたことで、WHOでの会議の進め方や意思決定の方法、WHO職員の日々の生活からキャリアプランに至るまで、一部ではありますが、その現場を実際に五感で感じることができました。

国際保健と一口に言っても様々なアプローチ(臨床、研究、行政など)がある中で、自分はどういったアプローチから地球規模の健康問題の解決に取り組んでいきたいのか考える上で、この経験が非常に貴重な糧となることは間違いありません。

医師としての医学知識や臨床経験、さらに研究能力を身につけた上で、地球規模の健康問題の解決のためのより良いシステム作りに貢献していきたいと思っています。

■その他感想・アドバイス■

WHOで出会ったインターンの大半は大学院生や社会人であり、資格も経験も学部4年生の私より豊富でした。実務能力を期待され即戦力として採用されているインターンも大勢おり、資格や経験がないことは不利に働くことはあっても、有利には働くことはないと感じました。

それでも今回インターンシップを獲得できたことには3つの理由があると思っています。まず、こつこつと自己研鑽に励むこと、第二にしっかり自己アピールをすること、第三に人との出会い、つながりを大切にすることです。

インターンシップをするのは早ければ早いほど良いというものではないとは思いますが、もし学部生の間にWHOインターンを目指すのであれば、まず経験が少ないなりに色々な事に挑戦し、日々自己研鑽に励むことが欠かせないと思います。その上で自分の目標やその実現に向けたこれまでの取り組みを積極的にアピールし、「この人は若いし経験もないが、熱意はあるし面白そうだから、ポテンシャルに期待して採ってみるか」と思ってもらうのが重要だと思います。

そして何よりも、頼りになる先生や先輩、家族、友人、はたまた名刺交換しただけの知り合いに至るまで、あらゆる人との出会い、つながりを大切にして下さい。たくさんの人の助けと支えなくして、私のWHOでの充実したインターンシップはありえませんでした。

この体験記が、これからWHOでのインターンシップをされる方、目指している方の参考に少しでもなれば幸いです。

  • [1] WHO, “Employment, WHO internships” http://www.who.int/employment/internship/interns/en/index.html
  • [2] WHO, “Ebola Situation Report - 30 December 2015” http://apps.who.int/ebola/ebola-situation-reports
  • [3] WHO, “Ebola vaccines, therapies, and diagnostics” http://www.who.int/medicines/emp_ebola_q_as/en/
  • [4] WHO, “Strategic Advisory Group of Experts (SAGE) on Immunization” http://www.who.int/immunization/policy/sage/en/
  • [5] WHO, “SAGE Working Group on Ebola Vaccines and Vaccination” http://www.who.int/immunization/policy/sage/sage_wg_ebola_nov14/en/
  • [6] “WHO Interns” http://whointernboard.wix.com/whointerns
  • [7] WHO, “WHO Internship - Frequently Asked Questions” http://www.who.int/employment/internship/internFAQ/en/
  • [8] “WHO Interns, Budget and Expenses” http://whointernboard.wix.com/whointerns#!budgetting/c12w0

2016年4月4日掲載
ウェブ掲載:三浦舟樹