第66回 吉田 朱里(よしだ あかり)さん
(Head of Officeと一緒に。)
第66回 吉田 朱里(よしだ あかり)さん
リーズ大学院 教育開発学 修士課程修了
インターン先:UNESCOダッカ事務所 教育部署
インターン期間:2015年10月~12月(3か月間)
■はじめに■
昨年12月をもって、リーズ大学院教育開発学専攻修士課程を修了致しました、吉田朱里と申します。2015年10月から12月まで約3ヶ月間、ユネスコ・ダッカ事務所の教育部署にてインターンを行いました。
■インターンシップ派遣までのプロセス■
インターンの機会は、ネットワークを利用して得ることができました。渡英する前から、可能であればノンフォーマル教育(NFE)やリテラシーの分野の国際機関でインターンをしたいと考えていました。しかし、1年間という短い留学期間でインターンシップに時間を割くのが難しいことや、またどの国際機関に応募すべきかなど迷うことが多々あり、気づけば大学院生活も後半に差し掛かってしまっていました。そんな中、以前より大変お世話になっていた教育開発・識字のJICA専門家の方より、「NFEで長年のキャリアをお持ちのリテラシーの専門家がダッカ事務所にいらっしゃる」と紹介頂き、ユネスコのホームページ上の公募からCV・志望動機・推薦状・大学院での成績証明書やエッセイなどを提出し、メールなどでの連絡を経て、応募から約4ヶ月後に正式に採用となりました。
■インターンシップの内容■
バングラデシュは、Education for All(EFA)やミレニアム国際開発目標の達成に向けて、主に初等教育の分野で就学率97.7%を達成するなど、飛躍的な進歩を遂げてきました。しかしながら、どの国にも共通して見られるように、成人識字の分野では識字率は依然として低く、同国では現在も4割以上の人々が非識字者であるとされています[1]。そのような状況下で、バングラデシュは2006年よりCapacity Building for Education For All(CapEFA) プログラム[2]の“priority countries”の1つとされており、同イニシアチブの下、ユネスコ・ダッカ事務所の教育部署は、公教育の“二流”と見られがちなNFE修了者にも、そこで習得した技術や知識を公的に認めるとするエクイバレンシー制度の試験的施行(パイロッティング)・導入や、学習者の年齢や背景の多様性、それぞれの習熟度の違いなどにより難しいとされるNFEの運営とモニタリングシステムの確立など、NFE制度の充実に向けて業務に当たっています。
ユネスコのインターンでは大きく分けて3つの業務に携わらせて頂きました。1つ目はCapEFAプログラムに関する業務で、パートナーNGOの作成した、ユネスコがサポートするプロジェクトの報告書の校正です。バングラデシュは「援助の実験場」と呼ばれ、BRACやDhaka Ahsania Missionなどの国内NGOや、Save the ChildrenやCAREなどの国際NGOなど1500以上のNGOが、特に政府の手が届きにくい農村地域で開発の重要な一翼を担っていると言われています。しかしながら、数多くのNGOが貧困者の状況改善に向けて様々な素晴らしい取り組みをしている一方で、NGOから提出された報告書は必ずしも論理的一貫性があるとは言えず、せっかく良いプロジェクトを行っていても、プロジェクトの理論的根拠、プログラム開始終了前後での地域住民の生活の変化やインパクト、これから達成すべき課題やプロジェクトを継続していく必要性などが見えにくいのが現状でした。本来であれば、実際にNFEのプロジェクトの現場を訪問して見聞を深めたかったのですが、2015年10月に起こったISによるイタリア人・日本人殺害の事件により国連の移動可能範囲が制限されていました。そのため、オフィス内でこれまでの報告書を参考にしながら、2つのNFEプロジェクトの外部環境や内部環境を強み (Strengths)、弱み (Weaknesses)、機会 (Opportunities)、脅威 (Threats) の4つにわけて分析を行い(SWOT分析)、現地で業務に当たるNGOの職員の方々とスカイプやメールでのやりとりを重ねて報告書改訂の業務に当たりました。非常に時間が限られた中での業務でしたが、最終的にプロジェクトは次のフェーズへと繋がり,予算もつくことが決まりました。
2つ目は、オフィス内での「その他」の業務として、ユネスコ・ダッカのウェブサイトの教育ページのアップデートや、政府や様々な関係機関・パートナーとのワークショップの書記として報告書作成や一部進行役などを行いました。今回のインターンシップに参加するまで社会人経験がなかったため、会議の報告書の書き方や要点のまとめ方など未熟な点ばかりでしたが、ナショナルスタッフの方々の万全の協力体制の下、20ページ程度のものを計3部作成することが出来ました。また、スタッフやパートナーそれぞれが多忙な中で、ミーティングを開くためにいかにしてアポイントをとり仕事を進めていくか、会議では自分の意図を通すだけで無く場をファシリテーションしていき、結果物をどのようにして所長に報告するかなど、日々の業務を通じて、様々なことを学ぶことが出来ました。
3つ目として、上司の計らいで、バングラデシュのNGO、Dhaka Ahsania Mission(DAM)が主催した”Organizing and Managing Literate Environment”のサブリージョナルワークショップでは、5日間にわたり議事録係として参加させて頂くことができました。5日間朝から夕方までの会議を通して、同分野における自身の知見をさらに深めると同時に、自身が学んできたことを発信したり、南アジア各国の政府レベルや民間レベルからの参加者の方々ともネットワークを築くことが出来、大変貴重な機会となりました。同ワークショップについては後日報告書をまとめ、DAM側と何度も打合せを重ねてできあがった物を、最終的に会議の成果物として、UNESCOパリ本部へ提出させて頂きました。バングラデシュを去る直前の駆け足での業務でしたが、DAMの主催者の方々にも、「とても良い報告書を短期間で仕上げてくれた。本当にありがとう。」と言っていただけ、現地での忘れられない思い出の1つとなりました。
(DAM主催のワークショップにてファシリテーターと上司と一緒に。)
■その後と将来の展望■
まず修士課程ですが、昨年9月上旬に修士論文を提出し、論文審査期間の間にインターンシップを行いました。こちらは11月末に無事論文が審査を通過したとの連絡が入り、12月をもって無事に修士課程を修了致しました。また、これまでのJICAやUNESCOといった開発機関でのインターンシップの経験から、草の根に長期にわたり関わりたいと思い、青年海外協力隊の秋募集に応募し、第一希望の要請に合格をいただきました。現在は、地元の小学校で南アジア出身の児童の学習支援員として勤務しながら、今後の進路を模索中です。その後の事も見据えながら、様々な経験を重ね実力を積み、近い将来ユネスコに戻ってきたいと強く思います。
■資金確保・生活・準備等■
資金確保・生活
国連でのインターン全般に共通することですが、移動費や滞在費などインターンに係る資金は全て自己負担となるため、航空費や滞在費など全てまとめると相当な額になりました。一方で、今回ダッカ滞在では、前半はユネスコの割引を適応してくれたゲストハウス、後半はJICAの専門家のお宅にお邪魔させて頂きながらの滞在で、食事は毎日オフィスで現地職員の方々と一緒に頂くといった様々な形でご配慮頂き、資金をかなり節約することができました。また、行動規制がある中、週末なども自由に行動できない状況でしたが、上司が「今後のためにも、様々な人と交流しましょう」と温かいご配慮を下さり、毎週のように週末に連れ出して下さり、お陰でJICAの専門家や他の国際機関の職員など、教育開発以外の分野に従事する方々とも交流させて頂き、様々な人の開発観に触れることが出来たと同時に、自身の将来の選択の道も広がりました。また、週末には何度もナショナルスタッフの方のお宅に招いて頂き、現地の暮らしを体験しながら、大学時代に学んだベンガル語を使って、子どもから大人まで皆さんの自国の発展に対する想いなどを聞くことが出来、開発とは何かということを改めて深く考えさせられました。
(職員の方のご実家に呼んで頂いた時に)
準備
ユネスコ・ダッカに派遣される直前の1ヶ月は、締切に向けての修士論文の執筆や、JICA本部の人間開発部基礎教育課第2チームでインターンをさせて頂いていたので、かなり駆け足の準備でしたが、結果として2つの機関の支援のあり方の違いを深く学び、JICAのインターンで得た知見をユネスコのインターンシップでも活かすことが出来ました。双方のインターンシップを通してお世話になった方々には、バングラデシュ渡航前後も様々に支援を頂き、非常に励みになりました。
■その感想、アドバイス等■
高校時代から漠然と「国際機関で途上国の人々のために働きたい」と思い、教育開発の分野で自身の専門性を身につけながらも、実際の活動現場はどうやって辿り着けば良いかわからないベールで覆われた世界のように感じていました。そのような場で、今回インターンとして業務に当たらせて頂いた日々は毎日が刺激的で、他の職員の方々と何気ない会話も全てが学びでたくさんでした。インターンシップを通して、今まで机上で学んできたNFEの知識を実社会とより関連づけることができたのはもちろんですが、以下3つの点で成長できたと感じています。
“何のために”を常に意識して考える力
プロジェクトのプロポーサルや報告書を分析していく中で、プロジェクトの指標等が「報告のため」だけのものとして使われていたり、コミュニティや地元政府の人々に対して行ったワークショップが開催することそれ自体を成果として書かれたりすることが非常に多いという印象を受けました。しかし、指標とは報告のための単なる判断材料ではなく、次に活かすことに意義があるということだと学びました。そして、ワークショップ等のアウトプットは開催そのものだけを成果とするのではなく、その場での学びを住民がいかにして自分たちの文脈で捉え、考え、実践に移していくかどうか、ということが大事であると強く実感することが出来ました。
分析力「咀嚼して飲み込み、そして書き出す」
3ヶ月のインターンシップの中で、上司に頂いた忘れられない言葉があります。時間的制約の中でプロジェクト報告書の校正を終えなければならないときに、私が提出した資料について言われた、「これは、与えられた情報の要素をそのままつないだだけ。与えられた情報から成果は何かを考える際にすべきことは、要素をまとめてつなぐだけではなく、咀嚼して、飲み込み、そして書き出すということ。」という言葉です。その言葉に自分の力不足を非常に痛感させられ、その場では「力不足ですみません」と涙をこらえるので精一杯でした。しかし、所長への提出が翌日まで迫っていたにもかかわらず、上司が「かなり難しい作業というのはわかっていますが、一晩でやってくれますか?」と一任してくださり、徹夜で書き上げた物を後日評価してくださった事が、とても嬉しく、結果として次のフェーズに繋げられたと聞いたときは、少しでも貢献できたことが嬉しくて、その夜は久しぶりに嬉し涙が出ました。
問い続ける力
「『何のためにこれをやっているのか』に答えられないとブレがある。」こちらも上司に言われた、これからもずっと大切にしたい言葉の1つです。どんな分野であれ、常に裨益者の生活の質の向上を目指すことが必要なのは当然ですが、NFEの分野は、制度や施設としてのコミュニティ教育センター(CLC)や,学校教育と対立させてのNFEの優位性を主張するという議論が多いのも実情です。そこから一歩踏み越えて、個人の生活の質向上や、地域発展のためにNFEの意義や担うべき役割を問い続けていくことの重要性を実感しました。これは識字教育についても言えることで、成人識字の分野では識字自体の習得が目標とされがちですが「何を学ぶか」ではなく「何に向けての学びか」ということ、そしてその識字能力を学習者がいかに維持・活用していくか、それに向けて、いかにしてさらなる支援ができるかということを、どんな活動やプロジェクトを行う時であれ、チームとしても個人としても、初心を忘れずに、常に問い続けていかなければと強く思いました。自身の狭い視野を広げて下さった上司には、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
大学院へストレートで進学したため、今回のインターンシップに応募するにあたって、職務経験がないことが何よりの不安でした。会議の議事録やプロジェクトプロポーサルの書き方、パートナーとの関わり方などいろんな事を一から丁寧に指導していただき、インターン生である前に一人のスタッフとして、プロポーサルのチェックや相談なども行ってくれたスタッフの方々のおかげで、自信を持って業務にあたることができました。他のインターンの方々もお書きになっている通り、応募条件を満たしてないから応募できないと思う前に、思い切って挑戦してみることも大事だと思います。インターンシップを終えてバングラデシュを去る際に、今度はインターン生ではなく、一人の職員としてバングラデシュに帰ってきたいと新たな決意をすることができました。この体験記が、これからインターンシップを行ってみたいと思う方々にとって少しでも参考になれば幸いです。最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
- [1] 識字率の計測法については様々な議論がありますが、ここではUNESCOの統計に基づいたものを表記させて頂きます(参考:http://www.uis.unesco.org/DataCentre/Pages/country-profile.aspx?code=BGD®ioncode=40535 )
- [2] CapEFAとは、EFA達成に向けて資金面での支援はもちろんだが、その資金を運営していく政府やパートナー機関の能力を向上させていくことも重要だとする前提のもと、持続可能な教育改善を目指し、2003年より行われてきたユネスコ、政府や民間機関が協働で国の教育改善を支援していくプログラムを指します(参考:http://www.unesco.org/new/en/capefa)
2016年10月16日掲載
ウェブ掲載:三浦舟樹