第70回 崎元 大志(さきもと たいし)さん
第70回 崎元 大志(さきもと たいし)さん
ロンドン大学教育研究所(UCL IOE) 教育・国際開発学 修士課程修了
インターン先:国連開発計画(UNDP)駐日代表事務所
インターン期間:2015年12月~2016年3月(3ヶ月半)
■インターンシップ応募から採用まで■
私が、このインターンシップ募集について最初に知ったのはJICAの「PARTNER」を通じてでした。募集広告(2015年8月下旬開始のインターン)を見たのは7月頃でしたが、その時はまだロンドンで大学院へ通っていました。国際機関で働きたいという希望を以前から持っており、そのために修士課程に進学したという経緯もあったため、すぐに応募することに決めました。ただ、ロンドンで暮らしていたため、すぐに東京オフィスでインターンを始めるというのは難点もありました。
応募に際して、1次選考用の応募書類はメールで提出しました。その数週間後に、2次選考についての連絡がありました。2次選考は筆記試験と面接による選考でした。筆記試験は開発に関連する英文記事を日本語に訳すものでした。トピックはインドネシアのパーム油農民に関する新たな取り組みであったと記憶しています。面接は、東京の事務所と電話を繋いでの面接でした。面接官は4名でしたが、Skype面接と違ってお互いの顔は見えません。日本語に加え、英語での質問、回答もありました。試験の数日後に連絡があり、試験自体は合格をいただけたのですが、すぐに帰国してインターンを開始することが難しいことから、8月採用は1度見送りとなりました。代わりにロスター登録というお話をいただき、次回インターン応募の時は試験免除となるリストに登録もらいました。11月に再度インターンが募集され、試験免除で採用されました。
国連開発計画(UNDP)駐日代表事務所のインターンはフルタイムとパートタイムがありますが、私はフルタイムを希望しました。フルタイムの方が採用されやすいと考えたのと同時に、その方が私自身もたくさんの事を学べると考えたためです。実際にインターンが始まってからは、月曜から金曜まで9:30~17:30(13:00~14:00昼休み)の勤務が基本でした。ただ、就職試験や面接など重要な用事がある際には、半日勤務など柔軟に調整してもらいました。
このインターンに応募する際、(当時は)大学院生であることが応募条件に入っていたため、修士課程はアドバンテージにならないと考えました。私の場合、専攻が国際開発であったため、その部分をアピールしました。また、採用にあたって英語力が求められていたため、イギリスの大学院に在籍していることも強くアピールしました。その他にアピールしたことは「やる気」です。自分がどれだけ強くインターンを希望しているかについてアピールしました。これは、11月に再度募集が出た時の話ですが、どうしてもインターンをやりたかったので、(多忙な職員の方々に迷惑だったかもしれませんが)採用担当の方に「ロスターからの採用をお願いします」という電話を繰り返しかけることで、やる気をアピールしました。
■インターンシップの業務内容■
インターン先では、広報ユニットで勤務しました。近年日本はUNDPへの拠出金において、最大のドナー国あり重要な役割を果たしている国のひとつです[1]。それ故に、広報は拠出された資金をUNDPがどのように使用しているのか、日本の人々に伝えるとても大切な役割です
日常業務としては毎朝「ニュースクリップ」という、1日の新聞、ウェブニュース、雑誌などをチェックし、UNDPや開発に関わる出来事が日本でどのように報道されているかを確認する業務があります。新聞は朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、日経新聞、Japan Timesはもちろん、その他業界専門紙や地方紙なども含まれます。時期によっては集中して取り上げられるトピックがあり、私のインターン時期では「COP21」、「人間開発報告書2015」、「TICAD Ⅵ」などのトピックがたくさん報道されました。UNDP駐日代表事務所の開催したイベントや記者会見で、自分自身も会場で業務補佐をしたものが報道されていることもありました。このニュースクリップ業務を通して、開発分野において何がどのように報道されているのか毎日確認できたことはとても勉強になりました。
私がインターンを開始したのは、ちょうど「人間開発報告書2015」の発表直後でした[2]。人間開発報告書2015は、2015年12月に公式発表され、日本でも「日本の豊かさ20位」と多くのメディアが報道していたので、記憶に残っている方も多いかもしれません。インターン期間中、この報告書の英語原文から日本語版への翻訳校閲業務を補佐しました。翻訳業者が日本語に翻訳した原稿を、英語原文と照らし合わせながら、おかしな言い回しや齟齬がないかを確認していきます。2015年の報告書は『人間開発のための仕事』という副題が付けられており、そのタイトル通り世界の様々な「仕事」について書かれています。「仕事」と一言で言っても種類や形式なども多種多様で、世界の各地に存在する「仕事」の課題や、「ディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)」の提起など、報告書を読み進めながらいろんな考えを提供してもらい非常に勉強になりました。
写真:人間開発報告書2015
UNDPが開催するイベントにも同行しました。インターン期間中では、2016年1月20日のTICAD Ⅵに向けてのシンポジウム「アフリカの包括的な開発の促進:若者と女性エンパワーメントの経済学」[3]と、3月14日の「人間開発報告書2015『人間開発のための仕事』刊行記念シンポジウム」[4]が共にJICAとの共催で開かれました。UNDPの広報活動として重要なこれらのイベントでは、準備時に配布資料の校閲や印刷・発送、当日は会場の運営や設営・撤収を補佐しました。
写真:TICAD VIに向けてのシンポジウム
(C) Yukiko Abe/UNDP Tokyo
インターン業務の中でも、特に印象に残っているのが記者会見に同行した時のことです。普段、記者会見をテレビで見る事はあっても、実際その場に行くというのはあまり出来ない経験だったと感じます。多くの記者が集まる中で、海外からいらっしゃるスピーカーの会見準備を補佐し、その場に立ちあえることで大変勉強になりました。2016年1月にはモルディブ国連常駐調整官兼UNDP常駐代表の記者会見がありました[5]。そこではモルディブの抱えている問題・課題、それに対して国連、UNDPとしてどのように取り組んでいるかなど、たくさんの事を学ぶ事ができました。
その他にも、広報業務補佐として様々な業務があります。来客時の打ち合わせ資料の準備、会議室の座席を整えて室温の調整、お水の用意なども日常業務として行いました。また、オフィスの入っている国連大学ビル入口の受付スペースには一般の方向けに広報物を置いていますが、その管理補佐や日々の補充も行いました。月末には広報に関連する統計をまとめます。例えば、1ヶ月間でイベントや講演会を何度開催し何人が参加したか、マスメディアに対してのアプローチ数、FacebookやTwitterへの投稿件数やその1ヶ月間の「いいね!」や「Follower」の増加数なども集計します。こういった広報に関わるいろんな業務を行いました。
■他の国際機関とのつながり■
UNDP駐日代表事務所は国連大学ビル(表参道駅から徒歩5分)の中に入っています。同じフロアには国連児童基金(UNICEF)、国連広報センター(UNIC)、国連工業開発機関(UNIDO)、国際労働機関(ILO)が、また他の階にも国連大学(UNU)や国連世界食糧計画(WFP)など、様々な国際機関の事務所が入っています。インターン期間中、UNICとは1度記者会見で一緒に業務を行う機会がありました。業務以外でも、他機関の職員やインターン生と一緒に食事させていただくなど、交流をもてるチャンスもありました。特に各機関のインターン同士では、集まって昼食を食べる機会を積極的に持とうと話していたため、そのような機会は結構たくさんありました。このように、国際機関職員の方や、国際機関に関心を抱いている学生同士のネットワークを築けたこと、意見や情報を交換できたことはインターンで得られたアドバンテージだと思います。
写真:UNICのインターン生と
■インターンシップの感想■
(1)感想
インターン期間の3ヶ月半は、あっという間に過ぎ去ったというのが正直な感想です。初めて体験する事や分からない事などと向き合いながら、時の流れを忘れるほど一生懸命になれたことで、とても充実した時間を過ごす事ができました。私はインターン前まで開発に関する職務経験がありませんでした。開発に関わる仕事がしたいと思い、大学院で開発について学んできましたが、それが国際機関ではどのように活かされるのかを肌で感じられるとても良い機会でした。
インターンでは広報業務に就いていた事から、UNDPについてまた駐日代表事務所について、包括的に知識や情報を得られたことが非常に良かったと感じています。駐日代表事務所の中でも、いろんな役割・機能があり、それぞれの業務を各スタッフが担っています。例えば、日本政府の各省庁と話し合いや交渉をする仕事、民間企業や市民社会との連携を進める仕事、各種講演会での講師(講演対象が一般市民なのか、有識者なのか、学生なのか、また講演テーマによって各担当職員が登壇)など様々です。これら多種多様な活動に、すべて直接は携わらないにしても、広報インターンとして、それらの活動情報を聞き取り、同時にその一つひとつの活動意義を考えながらインターンをできたことが大変ためになりました。また私自身今後もいくつかの組織や機関に属して開発関連の仕事をしていきますが、インターンを通して学んだことは今後の自分の仕事においてフル活用していきたいと考えています。
日本は経済的に発達しており、UNDPが開発援助を行うフィールド対象国ではありませんが、一方でドナーとしては非常に大きな役割を果たしています。だからこそ、UNDPがどのような活動をしているのか、日本国内に発信する広報の重要性を改めて実感しました。インターンは、庶務的な業務がたくさんある中で、国際機関がどのように活動しているのか、どのような役割を果たしているのかを学ぶ絶好のチャンスです。またインターンを始める前は、「開発」というと途上国のカントリーオフィス(国事務所)の印象が強く、先進国にあるオフィスの役割がなかなかイメージできませんでしたが、東京でのインターンを通して現場だけではなくバックオフィスが果たす役割の重要性についても肌で感じることができました。
今回のインターンでは、普通なら(まして学生では)なかなか出来ないようなことをたくさん経験できました。国連機関の運営側として日々の実務に従事できたこと、イベントや記者会見の業務を補佐できたこと、国連機関職員と一緒に仕事をし、また直に話ができたことなどです。インターン先で職員の方に伺った話はとても勉強になることばかりでした。UNDPに勤務する前までの経歴や、何故、またどのようにして国連職員を目指したのかなどもお聞かせいただきました。個人的にもこれからの進路のこと、国連の仕事や試験対策などにも相談に乗ってもらい、本当に貴重なお話、アドバイスをいただきました。
写真:UNDP駐日代表とインターン仲間
(C) Yukiko Abe/UNDP Tokyo
■資金確保、生活など■
インターンシップは無給であること、また東京に家族や親戚がいないことから、東京で生活するために検討すべき課題(資金確保や居住地など)もありました。収入を得るためには、インターン終業後の時間や土日を利用してアルバイトをしていました。また、東京ではアパートなどを借りるのに結構なお金が必要となります。そこで、友人伝いにシェアハウスを紹介してもらい、家賃が安く、家電なども備わっているところに暮らしていました。数ヶ月だけ東京に住むという私にとっては、とても有難い選択肢でした。
■インターンシップ後と将来の展望■
2016年3月末までUNDPでインターンに従事した後、幸いなことに、開発途上国で開発に関わる仕事に就くことができました。4月からは在カンボジア日本国大使館で草の根・人間の安全保障無償資金協力外部委嘱員として勤務しています。外部委嘱員は4名いて、分野ごとに業務を分担しています。私は教育分野を担当しており、学校建設を中心とする草の根・人間の安全保障無償資金協力の調査、モニタリング、フォローアップを行っています。私にとって開発途上国で働くのは初めてですが、まずはカンボジアでたくさんの学びと経験を積み、その先も開発業界において活躍できるような人材となれるよう努めております。
今回、UNDPでのインターン経験を通して、将来は国際機関で働きたい気持ちが高まりました。特に、現場に近い開発途上国のカントリーオフィスで開発に関わる仕事をすることに強く魅かれており、それを目標として自分自身の知識、技術、経験、ネットワークを築いていきます。
■おわりに■
「国際機関はどのようなことをやっている組織なのか?」、「活動についてあまり具体的なことをイメージしにくい」といったコメントを、インターン中、またインターンが終わってから、友人などからもらうことが結構あります。私自身もインターンを始めるまで業務についてあまり具体的なイメージが無く、しかし一方でどのようなことをしているのか非常に関心がありました。UNDPに限らず、国際機関のインターンは日本国内外でたくさん募集されています。インターンに関心のある方はそういった情報にアンテナを張るようにすると良いと思います。各種メーリングリストに登録してみること、ウェブサイトやSNSをこまめにチェックすることでそういった情報は簡単に得ることができます。
また自分の興味関心のあるイベントや講演会には積極的に参加してみることを勧めます。ちなみに、私はインターンが決まる1ヶ月程前に、国連大学ビルで開かれたイベントの懇親会に参加した際、私の先輩にあたるUNDPの元インターン生に偶然お会いし話を伺う機会がありました。講演会などに積極的に参加することで、知識やネットワークを広げていくことはとても有効だと思います。
- [1] http://www.jp.undp.org/content/tokyo/ja/home/partnerships_initiatives/contribution/
- [2] http://www.jp.undp.org/content/tokyo/ja/home/library/human_development/human_development1/hdr_2015.html
- [3] http://www.jp.undp.org/content/tokyo/ja/home/presscenter/articles/2016/01/21/ticad.html
- [4] ]http://www.jp.undp.org/content/tokyo/ja/home/presscenter/articles/2016/03/14/hdr1.html
- [5] https://www.facebook.com/UndpTokyo/posts/1005418936184079
2017年4月9日掲載
ウェブ掲載:三浦舟樹