第80回 宮本 健太(みやもと けんた)さん
第80回 宮本 健太(みやもと けんた)さん
神戸大学 国際協力研究科 博士前期課程修了
インターン先: UNICEFヨルダン事務所
インターン期間: 2018年10月-2019年1月(4ヵ月)
■インターンシップ応募から獲得まで■
都内の大学卒業後、大学院に進学し、教育経済・教育開発を専門に勉強していました。大学院在学中には、国連大学のアフリカでのグローバル人材育成事業(Global Leadership Training Programme in Africa: GLTP)というプログラムでウガンダに2度渡航し、1度目はウガンダにあるマケレレ大学で、2度目はウガンダ教育・スポーツ省でインターンシップを行いました。インターンシップでは、 緊急時の教育に興味があったため、ウガンダ北部の南スーダン難民居住地を訪問し、ウガンダにおける南スーダン難民の教育の現状や、教員のモチベーションについての調査研究を実施しました。
以前から大学院在学中にインターンシップ等を通じて実務的な経験を得たいと考えていたため、就職活動が終わった2018年5月頃から、教授から紹介をいただいたり、公募されているポジションに応募したり、希望するオフィスの職員の方に直接履歴書(CV)と熱意をメールで送付する等でインターンシップの機会を獲得しようと試みました。分野や機関についてはあまり狭めようとはせずに、教育開発に関連した経験を積めるポジションを幅広く受けていました。最終的に、自分の関心に近い業務ができそうなUNICEFヨルダン事務所からオファーをいただくことが出来たため、すぐに受諾の返信をし、正式にインターン獲得に至りました。
選考プロセスについて、UNICEFヨルダン事務所の場合は、2017年の12月にUNICEFのHPで公募されていたポジションに応募し、2018年の8月末にメールで連絡がありました。その後Skypeでの面接を経て、約2週間後にオファーを受け取りました。
■インターンシップの業務内容■
UNICEFヨルダン事務所では、社会的保護(Social Protection)セクションのHajati現金給付プログラム(Hajati Cash Transfer Programme:以下、Hajati)を実施するチームに配属されました。Hajatiは、基礎教育の就学を向上させ、退学を減少させることを目的とした教育に特化した現金給付プログラムです(Hajatiはアラビア語でMy Needsという意味があります)。このプログラムには現金の給付と、開発のためのコミュニケーション(Communication for Development: C4D)の2つの活動があり、現金もしくはC4Dのみの支援を受け取る家庭と、その両方を受け取る家庭がありました。C4Dは主に、保護者に対して、子どもを学校に送る動機付けをさせるSMSメッセージを送付するという活動です。また、このプログラムで支援していた家庭の多くはシリア難民(約93%)で、ほかヨルダン人の貧困層(約5%)、イラクやパレスチナ等からの難民(約2%)でした。私はこのHajatiに関連して、主に以下の4つの業務に従事しました。
(1)対象となる受益者の絞り込み
Hajatiは、子ども達の年齢や住所等のある一定の条件を満たした家庭を対象にしています。Hajatiチームでは、Hajati開始時の調査(ベースライン調査)で支援対象となっている家庭が、新たな年度においてもその条件を満たしているかどうか、再確認を行うための調査を実施していました。UNICEFヨルダン事務所は、データ収集を専門的に行う会社に業務委託をし、電話での聞き取り調査や、実際に家庭を訪問して対面での聞き取り調査を実施していました。私は、その調査会社との連絡・調整を一任されました。調査開始前には、UNICEFが必要としている情報を正確に収集するためにはどういった質問票が必要になるのかについて会社の担当者と議論し、調査開始後にはデータ収集会社から収集したデータを受け取り、実際に実施されたインタビューに問題がないかの確認を行いました。また、収集したデータを基に、支給対象となる世帯や各世帯の支給額等のデータをまとめました。そのデータは銀行に送付され、対象の家庭それぞれに指定された額の現金が支給されました。
(2)Communication for Development(C4D)コンポーネントの実施
C4Dは、各家庭が子どもたちを学校に行かせるよう働きかけを行います。UNICEFの基準で、一定期間の間に子どもの欠席日数が基準となる日数を超えた場合、その家庭にSMSメッセージを送っていました。私は、各家庭の子ども達の学校出席データを分析し、そしてSMSメッセージを送付する対象家庭の把握作業に取り組みました。
(3)Hajati実施状況のモニタリング
Hajatiの実施状況をUNICEF内部向けに可視化するためのダッシュボード・レポートを作成しました。レポートにはHajatiの支援を受けている家庭の情報(国籍・障がいを持った児童の割合・非公式テント居住地に住む人々の割合等)、子ども達が学校に出席できている日数、各月にHajatiを受給した家庭の数やUNICEFが支給した合計金額、C4DによってSMSメッセージを送った家庭数とメッセージ数、Hajatiへの資金提供状況(必要額とレポート作成時点で充当されていた額)を図やイラストで分かりやすくレポートにまとめました。また、自分がインターン後にヨルダンを去ってからもこのレポートがアップデート可能にするため、データのソースや、最新のデータを得る方法をまとめたマニュアルを作成しました。
(4)インパクト評価の実施
UNICEFヨルダン事務所はイタリアのフィレンツェにあるユニセフ・イノチェンティ研究所(UNICEF Office of Research – Innocenti)と協働でHajatiのインパクト評価を実施していました。Hajatiにおける現金支給とC4Dのそれぞれの活動が、児童の就学にどれほどの因果的効果をもたらすのかについて調査・分析するため、必要な情報を研究所にアップデートしました。例えば(1)で述べた調査の結果や、各家庭の子ども達の出席日数、また現金支給の状況等のデータの分析や整理を行い、それらの情報は研究所の専門家に送付されました。
写真は同僚の皆さんと共にブロックチェーンについて学んでいるところ
■準備、資金、生活等■
準備に関しては、オファーを得てから2週間ほどで渡航しなければならなかったので、とても慌ただしくなってしまいました。オファーをいただいた際に「何か部屋探し等でサポートが必要であればおっしゃってください」とメールをいただいておりましたが、時間が限られていたため、滞在先は渡航前にAirBnBで予約して確保しました。
資金については、本ポストは有給であったこと、UNICEFから渡航費の補助が出たこと、また文部科学省から、海外でのインターンシップに利用可能である給付型の奨学金を得ていたため、困ることはあまりありませんでした。
また、ヨルダンでの生活は基本的にとても快適でした。偶然、同時期に日本ユニセフ協会を通じて派遣されていたインターンの方や、日本の一部の大学が派遣している国連ユースボランティアの方がいたので、アンマン市内・ペトラ遺跡の観光等もその方達と楽しむことができました。また、UNICEFヨルダン事務所には計画・モニタリング・評価セクションや教育セクション、ユースセクションに日本人職員がいらっしゃり、色々なお話を伺うことができました。皆さん本当に経験豊富で、尊敬できる方達ばかりでとても勉強になりました。
■インターンシップから学んだこと■
UNICEFヨルダン事務所での4ヶ月は、以下の理由から本当に恵まれたインターンシップとなりました。
自分の興味である「緊急時の教育」に関連する国連機関の実際の業務に従事することができた。
以前ウガンダの南スーダン難民居住地での調査を実施した経験があったが、その経験を生かして、別の地域で発生している大きな難民危機に関連する業務に従事・学ぶことができた。またウガンダでの南スーダン難民への支援と、ヨルダンでのシリア難民への支援のオペレーションを比較する良い機会となった。
国際開発の分野で注目を浴びている「現金給付」「インパクト評価」に関連する業務に従事する経験を得ることができた。
アズラック難民キャンプにおいて
そして、このインターンシップを通じて「これから自分が何をもっと学ばなければならないか」学ぶことができました。上司に恵まれ多くのチャンスを与えられましたが、自分の未熟さのために、チームに貢献しきれなかった部分も多くあると思います。英語力を含むコミュニケーション能力をもっと高めたいほか、EXCELはまだ良いとしてもSTATAやSPSS等の統計分析ソフトへの精通を含め、データ分析のスキルに関してももっと磨かなければならないと感じています。また、マルチタスクをうまくこなす能力も自分にはまだまだ欠けていると感じました。インターンと同時に修士論文を書いていたこと、インターン期間中にジュネーブにあるユネスコ国際教育局(UNESCO International Bureau of Education: UNESCO IBE)で開催されたシンポジウムにおいて上述のウガンダの南スーダン難民居住地での調査結果を発表することとなったこと等、インターンの業務の以外でも想定以上に忙しくなってしまい、うまくマネジメント出来なかったことがありました。
精神的に強くならないといけないとも感じています。やはり国際機関の仕事は大変で、タフでなければ務まらないのではないかと思います。例えば上記(1)の業務での調査において、亡くなった子どもや児童婚をした子ども達がいるという結果が出るたびに1人で少し落ち込んでいました。一方、上司達も感じるものはあったと思いますが、そのような素振りは見せず、業務に集中していたように思います。その点で大きな自分との差があり、彼らははるかにプロフェッショナルであると思います。ウガンダの南スーダン難民居住地においても悲惨な状況を目の当たりにして思うことが多くあったのですが、そうした経験や感情を自分の中でポジティブに「もっと頑張ろう」とうまくモチベーションに変えて、業務に繋げられるようにしたいです。
■その後と将来の展望■
UNICEFでの勤務を終えて帰国後は、JICAの人間開発部において短期間の契約で勤務していました。また、修士課程修了後は開発コンサルティング会社に入社しました。教育や平和構築等を含むソフト分野をリードしている会社であるため、業務を通じて自分の専門分野・スキルを磨く機会が多くあるのではないかと期待しています。
■その他感想・アドバイス等■
自分はインターンシップのポジションの獲得には難航してしまいましたが、結果的に非常に恵まれた環境で働くことができ、とても幸運でした。もしもUNICEFでのインターンシップをご希望でこの記事を読んでくださった方がいらっしゃるとすれば、ぜひ日本ユニセフ協会の海外インターンの現地事務所派遣事業に応募されることをお勧めします。UNICEFの空席公募であると選考に時間がかかってしまうのと、また公募されているポジションは倍率が数百倍になってしまう(かつ世界の名だたる大学院の学生達と競争しなければなりません)一方、ユニセフ協会のプログラムは日本人のみでの競争で倍率は近年2-3倍です。自分は応募できませんでしたが、これを活用しないのはもったいないです。
また、自分はうまくいかなかったのですが大学院の先生等に推薦していただくのも一つの手です。そして、個人的にメールを出すのも有効な手段であると思います。同じメールを何人もの方にランダムで送ってしまうのはあまりよくありませんが、希望のオフィスがどういった業務を実施しているのか、それを踏まえて自分がどういった仕事をしたいのか、また自分がどういった経験を持っていてどう貢献できるのか等について熱意を込めて書けば、チャンスはあるかもしれません。
もしも国連で将来的に仕事を探す場合、またその後生き残らなければならない場合、そういったプログラム等を通じてではなく自分で空席に応募していかなければならないので、練習の意味も含めて公募に応募してみるべきであるとも思います。またオフィスによるかもしれませんが、インターンを(お金を出してでも)採用したい部署から公募されているポジションと、外部から「インターンを受け入れてくれませんか?」とお願いされて新たに作られるポジションでは業務の量や質等が異なる可能性は高いと思います。
最後にはなりましたが、このインターンシップは多くの方に支えられたからこそ有意義な活動を行い、無事に終えられたものだと思います。UNICEFヨルダン事務所で自分と関わった全ての職員、常日頃からアドバイスをいただいていた大学院の教授、奨学金の支給に関わっていただいた全ての方達、推薦書が必要な際に快く引き受けてくださった以前のインターン先であるセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの上司、サポートしてくれた家族・親戚や友人、全ての方にこの場を借りてお礼の言葉を伝えさせていただきます。本当にありがとうございました。
末筆ではありますが、お読みいただきありがとうございました。この記事がこれから国連機関でのインターンを探される方のお役に立てると光栄です。インターン中に気がついたことなのですが、国際協力の世界はとても狭いです。きっとこの記事を読んでいただいた方とも今後どこかお会いする機会もあるかもしれませんね。